第16話 キャプテンの告白②
そうして呆然としていると、護はハッと思い出したように俺に視線を戻して、
「それもあってさ」と神妙な面持ちで続けた。「お前にキツく当たってたところもあると思う。そのことも話したくて、ここまで連れ出したんだ」
まだ動揺が残る頭ではそのセリフを理解できなくて、俺は「は?」と惚けることしかできなかった。
香月のことが好きだ、なんて話をされたあとで、いきなり違う話題にされても……ついていけるわけがない。
しかし、そんな俺をあっさり置いていき、「小六んときさ」と護は独り言のように語り始めた。
「お前がチーム抜けて……俺、無理やりにでもお前を戻そうとしただろ。キャプテンだ、ていう使命感みたいなものもあって、俺がなんとかしなきゃ、て気張ってたんだよな。まだ子供だったし、がむしゃらに行動していれば全部なんとかなるものだ、て信じてた時期でさ」
嘲笑交じりに言って、護は思いつめた表情で視線を落とした。
「物心ついたときから一緒にホッケーやってて……お前がどれほどホッケーが好きか、分かってるつもりだったから。そんな奴がそう簡単に辞めるはずない、て思って、しつこく電話したんだ。そんときは、それがお前のためになると思った。無理やりにでもリンクに戻せば、お前もまたやる気になるだろう、て」
思い出話――というには重々しい口調で語られるそれはまるで懺悔のようで。あまりに真剣で、切実で。胸に迫ってくるような語りに、いつのまにか、俺は平静を取り戻して、聞き入っていた。
ガードレールの向こうでは、たまに乗用車が通り過ぎ、排気ガスを振りまいて去っていく。そうして、いったい何台通り過ぎてからだろう、護はずっと胸につかえていたものを慎重に吐き出すかのようにゆっくりため息ついて、
「でも、違うよな」と口元を歪め、力なく笑って俺を見つめてきた。「そんだけ好きなものを辞めなきゃいけないような理由があった――てことだったんだよな。家庭の事情とか、人間関係とか……さ。中学になってから、俺もいろいろあって、そういうことも考えられるようになって……後悔したんだ。俺の考えを押し付けて、追い詰めるようなやり方したんじゃないか、て。別にホッケーやってなくても、友達として付き合いは続けられたはずなのに。俺がしつこく電話したせいで、そういうこともできなくさせて……結局、チームに戻りづらくさせたのは俺だったんじゃないか、てずっと気になってた」
青天の霹靂、とでも言えばいいんだろうか。天と地がひっくり返るような。
俺が覚えている護は、電話越しに『戻って来い』て怒鳴りつけてきた、厳しくも頼もしいキャプテンで。そのあとの護のことなんて知らなかったし……たぶん、考えようともしてなかった。まさか、護があの電話を気に病んでいたなんて、思いもしなかった。
言葉も出ずに愕然とする俺に、護はバツが悪そうに視線を泳がせ、「あと」と弱々しく付け足す。
「香月が……お前のこと、庇ってたから。ちょっと嫉妬もあって、ムキになってた……てのも、あとで自覚して。最低だったな、て……」
「庇ってた?」
ふいに出て来た香月の名前に、つい反応していた。
護は「ああ……」と何やら躊躇ってから、
「チームの中で、なんで陸太は練習来ないんだ、ていう話になると、あいつ、あからさまに無理やり話変えててさ。庇ってんなーてすぐに分かって……悔しいっつーか、やっぱ、羨ましかったんだよな」
観念して罪を白状でもするように。ぎこちなく笑いながら、開き直ったように清々しく言った護に、何も言えなかった。
知らないことばかり、どんどんと出て来て。整理しきれない情報と感情が溢れかえって、頭がもうパンクしそうだった。
護が香月を好きだったことも知らなかったし、香月が俺を庇ってくれてたことも知らなかった。カブちゃんが俺のことを心配してくれてたことも、護が俺とのことで思い悩んでいたことも。絢瀬がクラブの子たちに陰口叩かれて、俺の言葉に励まされたことも、俺と話せなかったことを悔やんでいたことも。何も知らないまま、ずっと一人で塞ぎこんでた。傍で支えてくれてた親友が女だということも知らずに……。
全然、見えてなかった。いや――きっと、見ようとしてなかったんだ。悪い方へとばかり目を向けて。




