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第3話 アドバイス

「いや……いやいや。怒ってるって、なんで……?」


 全く、心当たりがない。


「知らねぇよ。お前、何かしたんだろ」

「何かって……なんだよ?」

「俺に聞くなよ」


 遊佐は吐き捨てるように言って、面倒そうに頭をかいた。


「思い当たることは無ぇの? 何か怒らせるようなこと言わなかったか?」

「別に……怒らせるようなことは何も。――たぶん」

「たぶん、てなんだよ? 記憶喪失かよ」

「いや」と口ごもった。「香月が俺に怒るなんて想像もつかなくて。何を言ったら香月が怒るのかも見当もつかねぇんだよ」

「お前……まじでそんなレベルなの。菜乃ちゃんが、香月ちゃんのこと『過保護すぎ』って言ってた意味が分かったわ」


 呆れ返ったようにため息つくと、「知―らね」と遊佐はすっかり興味を失った様子で身を翻した。


「悩め、悩め。今まで散々、香月ちゃんに甘えてきたツケだ。利子つけて返せ」


 それを言われると……悔しいが、何も言い返せない。

 勝ち誇ったように言う遊佐の口調は腹立たしいが、良薬は口に苦し――だ。その言葉は有難い友人からの助言として、苛立ちとともにぐっと飲み込むことにして、


「じゃあ……」と遊佐の後ろについて歩きながら、俺はスマホを取り出した。「とりあえず、香月に理由聞いて謝るわ」

「早まるな!」


 急にばっと振り返り、遊佐は鬼気迫る勢いで声を上げた。


「なに怒ってんの? ――なんて聞いてみろ! 火にニトログリセリンを放り込むようなもんだぞ!」

「な……なんだよ、それ? だって、聞かなきゃ分からないだろ」

「女の子の『なんでもない』は、『察しろ』てことなんだよ!」

「はあ? 察しろ、て何を……」

「知るか! それが分かれば、俺は今頃モテモテだよ」


 なんなんだ、この遊佐のテンションは? 急に火がついたように勢いづいて、力の入った声には熱意さえ感じられるのに、その表情には悲壮感が漂って……。

 いきなり情緒不安定になった遊佐を怪しむように横目で見ながら、俺はスマホを持ち上げた。


「よく分かんねぇけど……じゃあ、とりあえず、謝ってみて――」

「『じゃあ、とりあえず』はやめろ!」と今にも泣きそうな声で遊佐は叫んだ。「理由も分からず謝ってみろ。何に謝ってんの? て背筋が凍るような一文が送られてきて終わりだ」

「なんなんだよ、さっきから。やけに……リアルだな」


 その瞬間、遊佐はハッとしてばつが悪そうに渋面を浮かべた。

 なるほど……と心の中で呟く。――実体験か。

 確か、一年のときに同じクラスだった河合さんと夏休みの間だけ付き合ってたはず。夏休み前に「彼女ができた!」とウキウキだった遊佐が、新学期明けたら、悟りを開いたような顔つきで現れて、別れたんだな、と悟ったっけ。

 価値観の違いってやつだな、とか澄まし顔で言ってたけど……そうか。そうやって別れたのか。


「おい……なんだ、その憐れむような目は!?」

「いや、別に」と、俺はたっぷりと憐れみをもって微笑んだ。「なんか……大変なんだな、と思って。俺はやっぱモナちゃんがいいわ」

「出たよ、『モナちゃん』! 引くわー。まだ、お前はそんなこと……」


 勢いつけて、いつもみたいに罵ってくるかと思いきや――「あれ」と遊佐はふいに真顔になった。


「なんで、()()、そんなこと言ってんの?」と独り言みたいに言って、遊佐はまじまじと俺を見てきた。「お前……香月ちゃんは?」

「香月がなんだよ?」

「香月ちゃんと、これからどう――」


 珍しく神妙な面持ちで遊佐が何かを言いかけた、そのときだった。

 持っていたスマホが震え、ハッとして見れば、そこにはLIMEの通知が来ていて――。


「お」と遊佐がどこかホッとしような声を出した。「噂をすれば……香月ちゃんか?」

「――いや」


 画面に表示されていた名前だけで全てを悟り、俺はメッセージも開けずにスマホをポケットにしまった。


「ダブルデート、行ってくるわ」

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