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第4話 護

「え……」


 ぎくりとして、思わず、足が止まった。


「たしか、『ラブリデイ』の話だったよね? それで、なんで絢瀬さんの話に……」

「なんでもない!」


 ばっと振り返り、俺は思わず上擦った声で叫んでいた。


「なんとなく……思い出したっていうか……」


 自分でも顔がひきつっているのがよく分かる。

 言えるわけがない。絢瀬が初恋の相手だなんて言われたあとで、その絢瀬と一緒に『ラブリデイ』でダブルデートとかしてるなんて……恥ずかしすぎて言えねぇ!


「ふぅん……」と香月は怪訝そうに眉を顰めてから、ハッとした。「あ、そういえば――!」

「そういえば……なに!?」

「モナちゃんって、高瀬モナだったよね。絢瀬セナと名前似てるよね」


 謎が解けたと言わんばかりに晴れやかな笑みを浮かべる香月に、俺は「あ、本当だ」とうっかり賛同してしまった。


「って、偶然だぞ!? 全然関係ないからな!?」


 言われるまで気づかなかった。てか、考えたこともなかった。

 どうしてくれるんだ。こじつけにもほどがある。これでモナちゃんの名前も変に意識してしまうじゃないか。

 もうダメだ。絶対に絢瀬のことは香月には言えない。初恋相手(と思われている子)と名前似てるキャラクター選んだ上、その本人と一緒にプレイしてるとか……怪しすぎるだろ。もう危ない人だよ。下心どころじゃない、ストーキングを疑るレベルだ……。もし、遊佐がそんなことしてたら俺も引く。

 

「なーんか……怪しい」と、香月は目を眇め、俺をジトッと見てきた。「陸太、何か隠してる」

「え……!?」


 まずい。バレバレだよ。

 さすが、十年の付き合い……て、いや。これだけ慌ててたら嘘ついていることなんて、今、すれ違った人でも分かるか。これ以上、ごまかせる自信はない。さらなる墓穴を掘る前に――と、俺は「そんなことより」と多少演技じみていようが構わず、強引に話題を変えた。


「護――護と連絡取ってる!?」

「護……?」

「高校入ってから再会した、て前言ってただろ。連絡先とか交換しなかったのかな、て……」

「ああ……」不思議そうに目をぱちくりとさせながらも、香月はぼんやり思い出すように相槌打った。「そう……去年、駅でばったり会ったんだ。でも、少し話して、すぐ私が乗る電車が来ちゃったから連絡先を交換してる暇もなくて……」

「駅で?」

「護、ウチの学校の近くにある男子高に通ってるらしくて、使ってる駅は同じみたい。それ以来、一度も見かけたことないけど……」

「男子高……か」


 護らしいな……なんて、四年も会ってないのに思ってしまった。

 キャプテンらしく、謹厳実直。ちょっと頑固なとこもあったが、責任感が強くて、面倒見のいい奴で。男子高で応援団長でもやってる姿がしっくりくる。

 あのころと、あんま変わってないのかな――なんて思ったら、照れ臭いやら、懐かしいやら、なんだかホッとしてしまった。


「でも……なんで?」


 きょとんとして訊かれ、俺は「あ、いや……」と気恥ずかしくなって苦笑した。


「謝りたくて……」


 ぽつりと答えると、香月はしばらくぽかんとしてから「そっか」とふっと微笑んだ。


「じゃあ、今度一緒に護の学校に殴り込みにでも行こうか」

「なんで殴り込むんだよ?」

「男同士は拳で語り合ったほうが早い――んじゃないの?」

「どこで学んだんだ、昭和か? 普通に会話したほうが早いだろ」

「そっか。そうだね」


 香月はといえば……子供のときから、物静かで落ち着いて、『冷静沈着』なんて言葉がよく似合う奴だった。そんな香月をエースとして護は信頼していた。それが、今や――。


「きっと、陸太に会えたら護も喜ぶよ」


 そう言って、いたずらっぽく笑う香月はまるで子供みたいで。嬉しそうなその姿に、つい俺も頰が緩んだ。

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