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第12話 覚悟を新たに

 合コンの最中に失神したらごめんな! ――開き直ってそう言ってやったら、さすがにそれは困ると思ったのか、遊佐は呆れ顔で条件を出してきた。結局のところ、人数さえ合えばいいから、あと一人男を見つければ見逃してくれる、と。

 そんなわけで。俺は家に帰るなり、すぐに電話をかけた。


『どうしたの、陸太?』


 ベッドにごろんと横になって待っていると、数回コール音が鳴って、そんな爽やかな声が聞こえてきた。

 なんだろう、この安心感。遊佐と違って、なんの裏も感じさせない声にホッとするわ。


「カヅキ。いきなり、ごめんけどさ……今週の土曜って空いてたりする?」

『土曜……』


 ぼんやりつぶやいてから、電話の向こうでハッとする気配があった。しばらく、妙な間があってから、カヅキは『ごめん』と沈んだ声で言った。


『ちょっと用事が……あの、友達の手伝い、ていうか……』

「まじかー……」


 まあ、沈黙があったときに気づいてたけど。いつも遊びに誘うと、カヅキは食い気味に乗ってくるもんな。間があるときってのは、断るときくらいなもんだ。


『ごめん。どうしても、て言われて断れなくて……』

「いや、いいよ、そんな必死に弁解しなくても。俺がいきなり誘ったんだからさ。先約優先で」

『何か大事な用事だった?』

「え――」


 大事……て言えば、大事か。一大事だな。俺はふっと鼻で笑って、「それがさ、聞いてくれよ」と切り出した。


「クラスの奴にさ……」

『カヅキ、だれだれ?』


 言いかけた言葉をとっさに切った。

 外にいるのだろう、街の喧騒に混じって、電話の向こうから聞き慣れない声がした。やけに通る高い声――女の子の声だった。


『あ……友達。すぐ行くから先に行ってて』


 慌てたようにカヅキはその声に答えた。俺と話す時とはまた違う、柔らかなトーンで……。

 なぜか、胸の奥がぞわっとざわめいた。


『ごめん、陸太。えっと……それで、クラスのやつがどうしたの?』

「あ……」


 今の誰? て……言いそうになって、とっさにその言葉を飲み込んだ。すごい親しげだったけど、もしかして、カノジョとか? ――ふと、そう思ったら、言い知れない焦燥感に襲われた。

 聞きたいような、聞きたくないような。好奇心より先に押し寄せてくる不安。

 そういえば……と今更、気づく。俺……カヅキの女関係とか全然知らねぇ。俺が《《こんなん》》だから、カヅキとそんな話になることもなかったし、聞こうと思ったこともなかった。

 でも……そうだよな。カヅキは俺に付き合っててくれてただけで別に女が苦手なわけじゃなくて、ふつーに……女に興味はあって、恋愛もするんだよな。俺と一緒にいないときは、女の子と遊んだりデートだってするわけで……。イケメンだし、性格もいいし、スポーツもできる。逆ナンされるほどだ。学校でもさぞやモテてるんだろう。カノジョがいて当然っつーか……いないほうがおかしいくらいだ。


『陸太? どうかした?』


 ――ああ、バカだ、俺。

 いつから、カヅキを自分と同じだって錯覚してたんだろう。俺はカヅキを自分のトラウマに巻き込んでただけなのに。逆ナンだって、カヅキが断ってくれるのを当たり前だと思って、黙って待ってた。もしかしたら、カヅキはオネーサンたちと遊びたかったかもしれないのに。それを確認することだってしてこなかった。

 ずっとカヅキに気を遣わせて、それに甘えてきたんだ。――で、また、カヅキに頼って逃げようとしてた。昨日、女性恐怖症を治したい、てカヅキに相談しておいて。

 これじゃダメだ、と俺は唇を噛み締めた。いい加減、本気で治さねぇと……。いつまでも、カヅキに甘えてていいわけじゃない。


「いや、なんでもない」胸に詰まっていた息をふうっと吐き出し、俺は天井を睨みつけた。「土曜のことは、マジで気にしないでいいから。自分で……なんとかする」


 と、口ではそう言いつつも……土曜の夜、布団にくるまりながらカヅキに電話して、合コンでの恐怖体験を訴える自分の姿がありありと思い浮かんで、苦笑してしまった。

 情けないが……今すぐにカヅキを頼らず独り立ち――とは行きそうにない。けどまあ、ゆっくり行こう。慣らしていくしかない。まずは、合コン。とりあえず、誰か一人とでも目を合わせられたら上出来だ。

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