第13話 お土産
え――とぽかんとしていると、
「いきなり、口挟んでごめんね。でも、ずっとそこで深刻そうに話してるから……気になっちゃって」おずおずと言いながら、小鶴さんはこちらに歩み寄ってきて香月をちらりと見やった。「立てないなら……とりあえず、先生呼んできて、保健室に運んでもらう……とか? ここに座り込んでても危ないし」
言われて、ハッとする。そういえば、俺たち、ずっと歩道に座り込んでた……!?
つい、話に夢中でうっかりしていた。そりゃ、いつまでも路傍に座って話し込んでたら心配になるよな!?
「あ、いや……今、話してたのはそういうんじゃなくて……!」
「大丈夫です。心配させてしまって、ごめんなさい」
慌てる俺とは対照的にいたって落ち着いたその声に振り返ると、香月が立ち上がるところだった。スクールバッグを肩に提げ、手には白い紙袋。何事もなかったかのように微笑を浮かべ、「お気遣い、ありがとうございます」と軽く頭を下げる様は凛々しく逞しい。
そんな姿をぼうっと見上げて、やっぱり香月だなあ、と思う。
さすが、というか。相変わらず、というか。どこも変わった様子はないように見える。
でも、さっきは……。
私、陸太に――と言いかけた声が耳から離れない。苦しげで、切なげで、今にも泣き出しそうで……思い出すだけで胸が抉られるような『弱さ』を感じさせた。
あの続きを今すぐにでも問い質したいような、永遠にはぐらかしていたいような……焦りと不安が胸の奥で渦巻いている。
でも、とりあえずは……と俺も腰を上げ、
「場所、変えるか。ここで話してたら邪魔だし」
「うん……そうだね」
さらに言えば、歩道で座談会なんてもってのほかだ――と心の中で自戒をこめて付け加え、小鶴さんに振り返る。
「驚かせてごめんね、小鶴さん。また、明日」
うん、またね〜! ――てのんびりとした声が返ってくるかと思いきや、小鶴さんは「え?」となぜか訝しそうに顔をしかめ、俺たちを見比べるようにした。
なんだ、その反応は? と気を取られていると、
「あ、そうだ」と思い出したように言う声が隣からして、「これ、陸太へのお土産だったんだけど……ごめんね、落としちゃった。中身、大丈夫かな?」
「お土産?」
ハッとして振り返れば、香月が白い紙袋の中をごそごそと何やらいじっていた。
ああ、そういえば……旅行先でお土産を何か買ってきてくれる、てLIMEで言ってたな。
そっか。あの紙袋の中身は俺への土産だったのか。
旅行先は確か、四国だったよな。何がいいか、て聞かれて、任せる、て言ったんだけど。四国と言えば……なんだ? 八十八ヶ所巡り……?
「よかった、箱も凹んでないし……大丈夫そう」
しばらく紙袋の中を検分してから、香月はホッとしたように微笑んだ。
「お土産……壊れるようなもんなのか?」
「んーん」と香月は視線を上げ、ひょいっと紙袋を胸のところまで持ち上げて見せる。「愛媛の銘菓。タルトだよ」
「タルト?」なんだっけ? と思い浮かべる。「ああ……パイみたいなやつ?」
「ロールケーキみたいなやつ」
「ロールケーキみたいなやつ? タルト……じゃねえの?」
「タルトっていうロールケーキ。陸太、甘いの苦手だけど、和菓子は好きでしょ」
「ああ……って、和菓子なの!? ロールケーキなんだろ?」
「て、ちょっと待って……!?」
謎の愛媛銘菓について話し込む俺たちの横で、突然、我慢ならない、とでも言いたげに小鶴さんが取り乱した声を上げ、
「二人って……知り合いなの!?」
その戸惑いいっぱいの問いに、思わず、「あ」と間の抜けた声が漏れた。