プロローグ
「私……じゃ、ダメかな」
短い黒髪をさらりとなびかせ、カヅキはまるで王子様みたいな端正な顔立ちを今にも泣きそうに歪ませ、俺を切なげに見つめていた。
「どこでも、触っていいから」
頰を赤らめながら、カヅキは恥ずかしそうに言った。
どこでも……って――。言われて視線が向かうのは、そのほっそりとしつつも、柔らかなカーブを描く身体だ。
ひらひらと短いスカートが風に揺れて、カヅキの柔らかそうな太ももをチラつかせている。
倒錯的……とでも言えばいいのか。
カヅキがミニスカートを履いている様は、やはり違和感があって落ち着かなかった。
小学生のとき、同じアイスホッケークラブのチームメイトだったカヅキ。いかつい防具で華奢な体を覆い、ハーフみたいな小顔にフェイスマスクを被せ、リンクの上を颯爽と駆け抜け、勇ましくタックルかましていた。学区も違ったし、中学入ってからはお互いクラブを抜けて、接点は無くなったけど……それでも、たまに土日に遊んだりしてて……そのときだって、カヅキはTシャツにジーンズ姿。しかも、『俺』って言ってて……。
だから、ずっと――高二になった今の今まで、カヅキを男だと思っていたんだ。
「少しずつ触れていけば、慣れると思うんだ」カヅキはぱっちりとした目をキラキラ輝かせ、俺にぐっと顔を寄せてきた。「だから、手伝わせて。陸太の女性恐怖症、私が治してあげる」




