暗がりの起床:1日目夜
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僕が目を覚ますと、そこは耳が痛くなるほどの静寂と真っ暗闇に包まれていた。
まるで自分に目というものがあるのかということさえ、疑ってしまうほどの闇がそこには広がっていた。
とにかく黒、というものでなく、
ただ何もない、というような闇だ。
何もかも吸い込まれて消えてしまいそうなその闇を見ているうちに、まるで自分が世界で一人ぼっちでいるかのように思えてきた。
思わず自分の体を抱きしめようとして、僕は腕が思うように持ち上がらないことに気づいた。あと、頭がインフルエンザにでもかかった時くらいぼうっとすることにも。A型のやつ。
それはともかく、せめて上半身を起こそうとあがき始めた。
暗闇で時間の感覚が微妙だけども、だいたい5分くらいあがいてみてわかったことがある。
・僕は仰向けで寝転がされていた
・縛られているわけではない
・頭はぼうっとするけど熱っぽくはない
・腕は痺れていただけ
・思ってたほど暗くなかった
良いことばかり分かったけど、その中でもここが自分の体さえ見えないほど暗いわけではない、っていうのが一番うれしい。
体がもし動かせなかったとしても人っていうのは、見て自分が置かれている状況を把握できないのが一番怖いんじゃないかって、僕は思う。
そうして小さな喜びに浸っていた僕は、ようやく次の段階に進むことが出来た。
「ここは、……..どこ、だろう……..?」
かすれながらも声が出せたことに少なからず安堵を覚えつつ、僕はそろそろと膝をついて立ち上がった。
すると、
ガゴン!!!
と、勢いよく頭をぶつけた!!
天井がこんなにも近いとは……。目の前が真っ白になり僕は、
「ぐげぇぇっつ!!」
「っがあぁぁぁっ!!!!!」
何かを踏んづけて、後ろ向きにまた勢いよくずっこけた。踏んづけられたカエルみたいにあえぎながら(実際にそんなもの見たことはないけども)、案外大理石みたいで冷たかった床を転げまわる。
「もし?もしや、澪様ですか?この中に…いらっしゃるのですか」
そんな時、どこからか少しくぐもった声が聞こえてきた。知っている声だ。
「…お市さん?どこにいるの?」
と、布擦れの音と共に、急に目もくらむ光が僕を照らした。
取りも直さず、這うようにして光の下へ出ると、そこは海外のファンタジー映画でありそうな豪華な内装の食堂…食堂でいいか、だった。
そして、見知った顔が見えて―――
「ったあっ!」
「おぎゅょうっ!!」
ぶん殴られた。顔を。グーで。
そして僕は、気を失った。
最後に目に入ったのは、心配そうに僕へ手を伸ばす僕の彼女、市さんと、
顔を真っ赤にして歯を食いしばり、右手を握りしめている岬の姿だった。