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目覚めるゴリラ



 チンチンチンチン♪チーンチーン♪目覚まし時計が飛び跳ねた。

すぐさま、黒い毛ボーボーのがっちりした真っ黒の握り拳が降ってきてガツンと目覚まし時計の息の根を止めた。

  


「ムわぁあああああああああああああああああん、アン、ア、アン」



 けたたましく鳴り響く咆哮と共に大きく伸びをし、目を覚ましたゴリラ。

彼は元気よくベッドから飛び起きると、窓から外の様子をじっと見つめた。

電線柱に仲良くとまって毛づくろいをしている鳩の集団を、つぶらな黒い瞳でただただじっと見つめた。



 13秒くらい経っただろうか、彼はいきなり窓を全開にすると高らかに叫んだ。



「ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!ああん、あん、あん・・・・・・」

ハト達がちりちりバラバラに飛んでいく。



 特に意味はなかった、彼は体の中に無限に湧いてくる有り余る程のエネルギーを持て余していた。



 

 突然! 勢いよく部屋のドアが開いた。ババンッ!

茶レンズのサングラスに、片耳だけのシルバーリングピアス、茶髪オールバックで派手な柄シャツのいかにもチンピラな格好をしたおじさんがタバコを加え、ドア枠にもたれかかって立っている。片方の腕は後ろに回し何かを隠し持っているようだ。


「サトシおはよう!おまえ今日から高校生だな!」

 


「ウホウホッ!達郎おじさ


「ほれっ」

達郎おじさんはサトシの話を最後まで聞かずにバナナの房を投げつけた。



いきなりで少し驚いたが上手くキャッチするサトシ。


「朝ごはんだ、食え」


「ウホ!」



 サトシはバナナを房からちぎって皮ごとむしゃむしゃ食べた。

ちぎっては食べ、ちぎっては食べ……


「ん、んんっおいしい、ん、んっく」



美味しそうに食べるサトシの姿を見て達郎おじさんの口の端が少し上がった。





 鶴田達郎(つるた たつろう)、現在三十六歳。



 あれは9年前の嵐の日のこと――


「うひゃー、スゲー雨だな。パンツの中までびっちょ、びっちょだ」


 達郎(27)はバイト帰りに河川敷を単車で走っていた。 「う”ぅ~玉が冷えてちぢむゾ」

 その途中、横目にダンボール箱が置かれていることに気がづいた。

一度は通り過ぎたものの、ちょっと気にかかった達郎は戻ってきて単車を止めると、河川敷を降りた。


 ダンボール箱の中を覗くと黒いもじゃもじゃの赤ちゃんの様なものが頭を両手で(おお)い隠してうずくまりプルプル震えていた。


「うわキモっ。」


 達郎は(あご)に手を当て、黒いもじゃもじゃを数秒見つめていたが




「無理だわ。」


と吐き捨てその場を立ち去ろうとした。 その時!


キュゥゥゥゥ


黒いもじゃもじゃから弱々しくも可愛らしいお腹の音が鳴った。




「はぁ……

   しょうがねえなあ、クソが。」


達郎は(だる)そうにしながらもダンボール箱の所に戻ると、そのまま箱ごとだき抱えて家に持って帰った。




 部屋につき、びしょ濡れの毛もじゃもじゃの生物をタオルでごしごし拭いてやって、やっとこれが何なのか気づいた達郎。


「ゴリラだ!」



 ゴリラの赤ん坊は凄く衰弱していた。体を拭いてあげてもプルプル震えは止まらず目はずっとつぶったままだ。


 達郎は、ゴリラを人間の赤ちゃんの様にタオルで包んで抱き抱え


座卓に置いてあったバナナを片手で取ると、歯で器用に皮を剥きゴリラの鼻に近づけた。



「おいゴリラ、バナナだぞ、好きだろ?食べろ。」


 うんともすんとも言わないゴリラ。


「ダメか……」


 肩を落とす達郎。




「そうだ!赤ん坊と言ったらあれだな。」


 達郎は台所へ向かい冷蔵庫から牛乳を取り出してきて、パックのまま注ぎ口をゴリラの口に近づける。しかし全く飲もうとしない。



「どうしたゴリラ!しっかりしろ!飲め!飲んだら元気になるぞ。ほら!」


 熱血風に励ます達郎、気持ちばかりが焦り牛乳パックを傾けすぎた――


 バシャン


顔にぶちまけた


 鼻に牛乳が入ったゴリラが苦しそうに咳き込む。




「あ、ごめん。」


 椅子の背もたれに掛けてあったタオルを慌ててとり、顔を拭いてあげる。




「あ~あ、俺の服も牛乳まみれ、びっちょびっちょじゃねえか。 クソが」



 ゴリラをいったんソファに置き、ぱぱっと服を脱ぎ捨てトランクス一丁になり、再び抱っこして温める。




「お手上げだ、その道のプロに頼もう。」




 達郎は目をつむったままのゴリラを抱いたまま床に座り、ソファーにもたれかかると、傍にあった脱ぎ捨てたズボンのポケットをごそごそしてスマホを取り出した、



「えっと……近くの動物病院は……っと。」



スマホ画面を険しい表情で見つめ検索する。






 その時だった、




 チュッ……チュッ……




達郎の頬がぱっと桜色に色づく。



  チュパ……チュパ……



「あっ……」




達郎は思わず恥ずかしい声を漏らした。





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