プロローグ:彼女が最期に願ったことは
約16秒後、私の電脳は焼き切れもう二度と起動できなくなるだろう。
だがもしも、壊れた身体に何かを残せるのなら私は『彼』との記録を残したい。
そんな――アンドロイドらしからぬ願いを抱き、私は彼との記録を時系列順に並べ保存することにした。
人間が残す『日誌』のようなものである。
我ながら何故そんな馬鹿げたことをと思う。
そもそも思うことすらおかしいのかもしれない。だって私は人の部分を19%しか持たない、『人』より『物』に近いアンドロイドなのだ。
アンドロイド――特に私のような、人の部分が少ない物には心がない。
それを哀れんだ人間たちが、慰めにと与えた『心』を擬似的に再現する機能が働いているだけの空っぽな存在が私だ。
人を真似るようにプログラムされたが故に思考し、人間を愛おしみ、守るように設計されていはいるが、その全ては本物には遠く及ばない。
そんな私が、何かを残したいと思うなんてあまりに滑稽だと言える。
でもそんな滑稽な私を、愛してくれた人がいた。
それを嬉しく思う偽物の心が、最後の時を使って『日誌』を残すようにと命じた。
だから電脳が焼き切れる前に、可能な限り私はこの日誌を綴ることにする。
始まりは夏、そして私に恋をもたらしたきっかけは一冊の漫画だった。