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魔法と英知の探求者 ~異世界からはじまる哲学冒険~  作者: ナポ
第1章 〜「正義」について〜
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第4話 〜「異世界」について〜

第1章 〜「正義」について〜



太陽が輝かしく燃え盛る午後の昼間。

眩しい日の光が降りかかる先は、大地を覆うように広がる深緑の森。

無数の葉は空を覆うように生え茂り、天から刺す光を弱々しいものに変えて地面へと落としている。

そんなほのかな明かりを見せるだけのうす暗い、湿った地面の上を歩く、二人の人間の姿があった。


一人は海底の景色を写したような濃紺のローブ……長らく修繕もされていないのか、所々に裂け目の入った使用感あるローブを見にまとっている。

そのローブと一体となったフードの奥に隠れている顔を見てみると、銀色の髪に赤い瞳を持った男の姿がそこにある。

髪はしなやかに生え揃い、目は力をそこに秘めて開かれている…… それらを一目見るだけで、その男がまだ若々しい青年であることがわかる。

もう一人は女性のようだが、一体なんとも、この世界のどの地方でも見られないような奇抜な衣装を見にまとっている。

胸に付けられた赤いリボンを見ると上流貴族の令嬢かとも思われるが、貴族がまとうにしてはあまりにも短いスカートが、膝の上でひらりと舞っている。

そのスカートの有様は貴族の間に流れる常識からは大きく外れている、かといって平民がするような身なりでもない。言うまでもなく騎士や魔導師の身なりでもない。


この世界……エルギアの世界の常識に当てはめて彼女の服装のことを考えても奇妙な印象しか出てこないのは当然だ。

なぜなら、彼女はエルギアの人間ではないのだから。

彼女の名は碧海智子あおみともこ、異世界に存在する日本という国から時空を超えて転移してきた少女だ。

なぜ、なんのために彼女が突然エルギアにやってきたのか、それは今のところ不明である。


その彼女を先導するように前を歩くローブの青年の名はウルス・アルセン、「世界を記す一族」イゼルの血を受け継ぐ者である。

その一族の使命を全うするため、エルギア全土を渡り歩く旅をしていた彼だったが、偶然にも智子の転移に巡り合うことでその旅の向かう先は大きく変わることとなった。

「世界を記す」という漠然としていた旅の目的は、今や「時空を駆け抜ける魔法の習得」という確たる形を持ったものとなったのだ。

その目的は、一つは智子を元の世界に送り返すため、もう一つは自身も異世界に行きかつての育て親に会うためである。

その魔法の習得の仕方はまだ欠片もわからない。

そもそも時空転移が本当に魔法なのかさえ確実には言えない。

目標もそこに至る道もはっきりと見えない、ひどく心もとない旅である。

ともかく、そんな手探りで進む男女二人の若々しい旅が、今始まったのだ。










森の中に響く小鳥のさえずりに、少女の吐息のようなものが混じりだした。


「ゼエ…ゼエ…ハァー…ハァー…」


「……アオミさあ」


「…んー?」


「もしかしてだけどさ」


「…なに?」


「…もう疲れた?」


「……」


森の中に小鳥の鳴き声のみがしばらく響いた。


「まだ5クリードも歩いてないのにそんな息上げてたら、いつまで経っても森抜けられないよ」


「5クリードって…メートルに直すとどれくらい?」


「1クリードがほぼ1キロメートルと半分かな」


「つまり5クリードで7キロ半…7キロ半?」


登下校するにも遊びに行くにも電車を使って生きてきた私は、7キロがどれほどの距離なのかをはっきり理解することができなかった。


「7キロって多分、結構長いよね…」


だってこんなに疲れ果ててるし。


「そんなことないと思うけど…」


「7キロってどれくらいの長さだっけ?」


「アオミにわかりやすく言うと…確か君の国の皇帝の城の一周の距離が5キロだったから、皇居一周と半分くらいだね」


「いや私皇居の周り一周したことないからよくわからない…」


「運動好きな日本人はよくあそこを走るって聞いたことあるのに」


「いや、私別に皇居ランナーじゃないから」


「じゃもっとわかりやすく言うと… …智子って学校まで電車で通ってた?」


「うん」


「電車にはいつもどれくらいの時間乗ってた?」


「えーと、大体10分くらい」


「じゃあアオミの家から学校までの距離がちょうど7キロ半くらいだよ」


「えー!? そんなに長いの???」


揺れる電車の中から見える窓の外の過ぎ行く景色、あそこに見える光景を全て歩き切らないといけないと思うとその長さが足に伝わってくる。


「そんなに歩いてればそりゃあ疲れるよー…」


「いや、実際はそれすら歩いてないよ」


「へ?」


「僕は『まだ5クリードも歩いてないのに』って言ったんだよ? 実際に歩いてるのはその7割くらい。だから僕たちがキャンプを出てここまで歩いてきた距離はまだ5キロ程度、君の登校路にもまだ及んでないよ」


「嘘っ!? こんなに歩いてるのに家から学校までの距離にも満たないなんて…… ちなみに今日はあとどれくらい歩くの?」


「この森を抜けた先にあるロイヘムって村まで歩く予定だから、そこまではあと20キロかな」


「に、ニジュッキロ…」


今まで歩いてきた距離の4倍、この時点ですでに足が悲鳴をあげているのに、さらにそんな途方もない距離を歩くなんてとてもじゃないけど無理。

私はその場で腰を落として足を前に放り投げた。


「ちょっとアオミ!?」


「もう無理…歩けない…ちょっとでいいから休ませてぇ……」


「しょうがないなあ… じゃあすぐ休憩にするからもう少しだけ歩いて、ここは木が密集していて危ない」


「何が危ないの?」


「もし獣が近づいてても、木に隠されて見つけにくいでしょ?」


「確かに…さすが経験者は違うわ」


「わかったなら早く立って、地面の広がってるところが見つかったらそこにマットを敷くから」


「……わかりましたー」


私は抑揚のない声でウルスに答えて重い腰を持ち上げた。

膝が潰されているかのように痛い、けど今はなんとか持ちこたえるしかない。

これが旅というものなのかな。

私は華々しいファンタジー物語の裏に隠された泥臭い日常の苦痛を、今まざまざと体験しているのであった。







「あーつかれた!!」


地面に敷かれたボロ布のマットの上に倒れこむようにして身を落とす。

今まで蓄積されていた疲労を全て地面に押し付けるように、身体中の体重をマットへと預けた。


「アオミ、はい水」


傍に腰を落ち着けたウルスが木製の水筒の蓋に水を注ぎ、私に渡した。


「ありがとー」


上半身だけを起こしてそれを受け取ると、遠慮なくそれを飲み干した。

足の痛みに気をとられるあまり気にかけていなかった喉の渇きが、水を口に含むとともに意識されると同時に、水が喉を通る瞬間に消え失せた。

人工的な要素を何も関与させていない天然の真水、本物の無色透明さを露わにしたその水は、水道水とは比べものにならないほど美味しくて、潤いがあった。


「んー! おいしい!」


「元気になったようで何よりだよ」


「本当に生き返った気がする! この水って魔力が込められていたりするの?」


「いや、さっきキャンプしてたとこの近くを流れてた川から汲んだだけの、ただの水だよ」


「へえ〜、異世界の水っておいしんだね」


「異世界というかここの水が特別綺麗なだけかな、このエリエルの森には王国を流れる川の源泉があるからね。都市部に行くと川の水より井戸水が主流だけど、井戸から出た水は結構濁ってるよ、土が混ざってることもあるし」


「やっぱ異世界でも都会の水は不味いものなんだ」


「でも、これからの旅ではそんな汚い水を飲む方が多いからね。こんな綺麗な真水を飲めるのなんて今くらいだし、今のうちに味わっておいた方がいいかもよ」


「ヴエッ!? まさかこれからは泥水飲むの!?」


「さすがに泥水ほど汚くはないけど……少なくとも向こうの世界で普段飲んでたような水はそうそう飲めないとは思うべきだね、水道水が恋しくなるかもよ」


「ああ、始まったばかりの旅がもう辛くなってきた… この世界厳しすぎるよ…」


「あっちの世界の生活環境が恵まれすぎてるだけだよ、まあそのうち慣れるって」


「異世界に転生する小説にはこんな泥臭くて汚い描写なんてなかったのに…やっぱ現実はそんな甘くないかあ」


「あーなんか流行ってたね、そういう小説。僕も向こうにいたとき読んだことある」


「えっ、ウルスもああいうの呼んでたの!? 」


「うんまあ、日本語の力をつけるためにも小説はたくさん呼んでたし、ネット小説もちらほらと」


「へー… なんかちょっと親近感湧いたかも…」


「異世界もの?ていうジャンルなのかな、ああいう作品って異世界に転生するとアオミみたいに動揺するよりはむしろ喜ぶ主人公が多いけど、僕からしたらそれが不思議でしょうがなかったんだよね」


「どうして?」


「だってさ、1億人もの人間が昼夜渡り歩いてて、その膨大な人口を統括する一つの政府が存在していて、その国の人たちがネットなんていうよく解らないもので場所を隔てながら繋がっていてさ、そのネットに数えきれないほどの創作物が毎日投稿され続けてて、そこに上げられた作品を自由に見ることができて批評することもできて、しかもそれが一つの国の中だけじゃなく世界中から参加者が現れてきてさ……すごくない?」


「な、何がそんなにすごいのか私にはイマイチわからないけど……」


「いやいや、どう考えてもすごいでしょ! 僕にはこんなことが当たり前のように行われていたあの世界の方こそよっぽど奇妙なものに感じられるし、今考えても意味がわからない世界だよ。でも転生した主人公は大体がそれを無視して異世界を……向こうと比べたら何もないと言ってもいいようなこんな未発達な世界を新鮮な面持ちで眺めているんだもの、僕にはあべこべにしか思えなくてさ」


「それはウルスがこの世界で育ってきたからそう思うんじゃない?」


「まあそうなのかもしれないけどさ…でもあの世界はこことは比較にならないくらい日々その姿を変えていたよね? 僕があの世界に行ってからここに戻されるまでの間の8年の中ですら、スマートフォンなんてものが生まれてそれが爆発的に広まって……それによって暮らしが全く変わってしまったんだから、いかにあの世界の進化が速いものなのかが分かるよ。なにせこっちに戻ってくるまでの8年間、この世界に変わったことなんて遠い国の王様が病気で死んだことくらいしかないんだもの。向こうの世界の1日の変化が、この世界では10年かけてやっと現れる変化と同じといっても過言ではないくらい、差があるじゃないか」


「う、うん」


「…だから、あの世界の人たちだって毎日毎日その姿を変えて現れてくる世界を日々驚きの気持ちで見るのが、僕からすればもっともなことなんだ。でも、向こうの世界にいたときに、僕の周りでそんな気持ちで生きてる人を見かけたことは一度もなかった。僕からすれば驚くことすら疲れてついていけない激動の世界を、みんながみんな何も代わり映えのないもの…まるで石ころでも見るかのように見つめていることが…なんなら見つめてさえいない人もいることがとても不思議でね。なんで昨日とは全然違う今日の世界を無視して、むしろ僕からすれば遥かに刺激の少ない異世界を新鮮な目つきで見ているのか、理解できなかったんだ」


「うーん…言われてみれば確かにそうかもしれないけど… そんなに日本って刺激的なとこかなあ?」


「僕にとっては凄い刺激的なところだったよ、この世界と比べたらもちろん、あっちの世界の他の国と比べてもかなり面白い国な方なんじゃないかな」


「そうなのかなぁ、全然思ったこともなかったけど…やっぱり生まれ育った文化が違うからウルスがそう感じてるだけな気がする」


「日本人は謙虚な人が多かったけど、アオミもその御多分に漏れず謙虚な考え方をしてるんだね」


「え、うんまあ…」


「でも実際その意見は正しいのかもしれない」


「というと?」


「君の世界ってのは「変わるのが当たり前な世界」だ。だから毎日世界の姿が変化してもそれは何の変哲もない出来事であって、考慮するには当たらないことになる」


「うん」


「でも僕の世界は「変わらないのが当たり前な世界」だ。だから生まれてから死ぬまでずっと一つの村で、ずっと畑作業に従事することに何の違和感も覚えない人がほとんどだ。なぜなら未来永劫何も変わることがないのがこの世界の姿だからだ。少なくともここ人々はそう考えている」


「そうなんだ」


「だから、「変わる世界」に生まれ育った君は、日々の世界の変化を見ても何も感じない。けど、「変わらない世界」に生まれ育った僕は、君のいた世界が日毎に変わっていく光景を見ていつも驚いてばかりだった。結局、生まれの違いで考え方が変わっているだけなのかもね」


「なるほどなるほど…確かに」


む、難しい… 急に難しい話が始まってしまった。

…でも、ちょっと面白いかも。


「こう考えると、逆に君たちが僕のいるような変わりばえのない世界に新鮮さを感じる理由がわかるかもね」


「えーと…あー、確かに! 私は「変わる世界」の人だから、ファンタジーの世界みたいな文明が未発達の「変わらない世界」のことを面白く感じるってことだよね?」


「そういうこと」


「結局隣の芝は…何ちゃらっていうことなのね」


「「青く見える」、ね」


「うっ…異世界人なのに私より日本語力高いなんて…」


「向こうで辞書を見て必死に勉強してたからね。あの世界のものは何でも知りたかったから、そのためにも言葉を覚えることは不可欠だったんだ」


「そうなんだ、偉いなあ…」


国語のテストで80点取れて喜んでいた私の姿を思い出して、少し反省した。


「まあ、だからこれから歩いていく中、僕にとっては何ともないような光景に出会ったとしても、君は大驚きするようなこともあるかもしれないね」


「ウルスと出会って初っ端に見せつけられた魔法がまさにそれだよ…」


飛んでくる木の枝に恐れおののいて地面に屈み込んだ時のあの光景、今でも鮮明に脳裏に思い出される。


「ああ確かに、アオミ凄いビックリして目伏せてたもんねー」


ケタケタ笑いながらウルスは言った。

私は少し腹が立って


「そりゃいきなり謎の格好した男が現れてあんなもの見せられたら誰だって驚くよ!」


「ハハ、ゴメンゴメン、驚かすつもりはなかったんだ」


「もう…ウルスが日本にいたときもきっといきなり魔法見せられてビックリした人がいるんだろうなあ……アレ? でもそんなことしたらニュースになるはずなのに、考えてみればそんな話聞いたことないわ?」


私はふと思い当たった疑問に目を丸くする。

ウルスは日本に来ていたはずで、それなら魔法を使える彼の存在は当然ニュースになるはず、でも私は彼の話など向こうで聞いたこともなかった。

なぜ? 

考えられる理由としては、彼が転移した時代が私がここに来るよりも後だったから。

そうすれば私が彼のニュースを耳にすることがなかった理由もハッキリとする。

でも、ウルスはさっきの話で転移中にスマホが普及したって言っていた。だから、同じくスマホ世代の私とウルスが日本にいた期間は、ほぼ間違いなく重なっていることになる。

なのに、何で彼の存在を知らなかったんだろう?

ウルスが目立つのを恐れて魔法を使わなかったから?

気になる、一応聞いてみよう。


「ウルスは、日本にいた時は魔法を使わなかったの?」


「うん」


「あ、そうなんだ」


非常にあっさりとした答えに、私は返す言葉もない。


「……それは目立つのが嫌だったから?」


「いや、違うよ。使いたくても使えなかったんだ」


「そうなの?」


「うん。どんなに呪文を詠唱しても、頭の中で念じても何も起きなかったんだ」


「何でだろう……こう、魔素みたいなのが私の世界にはないからなのかな」


「そう!それ!! 何で知ってるの!?」


ウルスが驚いた顔をして叫んだ。

ただの戯言たわごとのつもりで言った一言に、まさかこんな反応をされるとは思わなかったので私も戸惑ってしまった。


「え…いや適当に言ってみただけなんだけど…」


「すごいな、その通りだよ。魔法は空気中に広がっている「魔素」を使わないと発動できないんだけど、それが向こうの世界には全くなかったから発動しようにもできなかったんだ」


「まるでファンタジー物の小説みたい…」


「ああ、小説の影響で偶然にも言い当てられたってことか。ビックリしたよ」


「魔法は魔素を使って発動する…じゃあさっき木の枝を浮かしてたのも、その魔素ってのを使ってたってこと?」


「そうだよ」


「私たちがいるこの場所にも、魔素は広がっているの?」


「うん、広がってる。こんな森の奥どころか洞窟の奥にだって魔素は漂っているし、海の中にも魔素は存在している。さっき魔素は「空気中」に広がっているって言ったけど、あれは厳密に言うと正しくなくて、正確にはこの星のあらゆる場所に魔素は存在しているんだ」


「へー……」


私はため息をつきながらウルスの話に耳を傾ける。

冷静になって考えると訳のわからない話をさっきからしているけど、私は混乱するというよりは、ここが本当にファンタジーの世界だということを思い知らされて一種の感動すら感じていた。

全く違う世界に、私は飛んで来てしまった。

改めてそう実感させられた。


「あ! それって私たちが魔法を使えなかったのは向こうに魔素がないからってことだよね?」


「そうだけど、どうしてそんな嬉しそうな顔をしているの?」


「それならさ、魔素が漂っているこの世界に来た今なら私も魔法が使えるかもしれないってこと?」


私は目を輝かせながら言った。

あらゆるものを破壊し、あらゆる生命を癒し、そして時空すらも超越する力を持つ。

そんな、人間の空想が生み出した最大の力である魔法。

それまで空想でしかなかったものが一気に現実のものとして目の前に現れた今、もしかしたらそれを使うことができるかもしれないという思いが私の胸の内に湧いてきたのだ。

これまで特に特技という特技を持たずにいた私が、魔法という特技を超越した力を身につけることができるかもしれない。

そう思うと興奮せずにはいられなかった。


「それは多分無理だと思うよ」


バッサリ。

私の踊る思いは,ウルスの容赦ない一言で葬られた。


「ど、どうして?」


「それには理由があるんだけど…」


勿体振るように黙り込むウルス。


「…ちょっと難しい話になるからまた後で話すよ」


結局お預けにされてしまった。


「はぁー… 結局魔法は使えないのかー…」


「まあそう気を落とさないで。ホラ、そろそろ出発しよ」


ウルスはスクッと立ち上がって荷物を整理し始めた。

地面に広げられたマットも片付けられようとしていたので、私も渋々体を持ち上げた。

休む前よりは体は幾分か軽くなっているけど、やっぱりまだ足の疲れは完全には取れていない。

ここからまた長い間歩くのかあ……憂鬱。


「よし、あと20キロ頑張ろうか」


「残りの距離は言わないで……心が挫けそうになるから」


「それじゃ、行くよ」


ウルスは銀色の髪をたなびかせるようにして前へ進み始めた。

私も片手に握っていたスクールバッグに力を入れて、エイっと決意したように一歩を踏み出す。

そして湿った土を一歩、また一歩と踏みながらウルスの後をついていく。

異世界の森は、慣れない旅に戸惑う少女を静かに囲んでいた。

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