記憶にある初めての父との想い出
僕にとっての父と言う存在は
ある意味アルコール依存症の叔父だった。
本当の父は月に1度ご飯に連れて行ってくれて
僕にお小遣いをくれる優しいおじさん
という存在だった。
幼稚園の年長になったばかり
あれは五歳になった頃だった。
いつもは外で会う父が珍しく家に来てくれて
僕と1時間ほど遊んだ後にお小遣いとして
百円をくれた。
僕はとっさにそれを口の中に隠した。
何故なら父はお小遣いをくれた後
決まって上着を着直しては
「じゃあまたな」と
帰って行ってしまうからだ。
僕は口の中にお金を含んだまま
「百円玉なくなってん」と
嘘をついた。
父は少し困ったような優しい笑顔になり
「じゃ一緒に探そか」と
言ってくれた。
僕はもう少し父と一緒に居られると思い
嬉しくて勢い良くベッドの上から飛び降りた。
なんとその瞬間に口に隠していた百円を
間違って飲み込んでしまった。
父は慌てて母を呼び三人で救急病院へと
向かった。
レントゲンを撮り手術しなくても
出てくるでしょうと言うお医者さんの言葉に
安心した僕達は3人でそのまま一緒に帰宅した。
その日初めて父は家に泊まってくれた。
僕ははしゃいでしまいなかなか寝付けなかった。
それでもやがて疲れて寝てしまうと
背中に父の大きな温もりを感じた。
とても安心したのを今でも覚えている。
明け方になり目を覚ますと
もうすでに父は居なくなっていた。
僕はとても寂しくなってひたすら泣いた。
母はそんな僕を優しく抱き締めながら
母もまた静かに泣いていた。
親子3人で一緒に眠った最初で最後の想い出だ。