再起
彼女と一晩を過ごした後
僕はいつもの様に限りなく普段の感じで
バイバイをした。
時間は夜の10時30分を回ったところ
まだまだ時間はある
と言うよりその時の僕には
有り余った時間しか無かった。
僕は当時三ノ宮駅前にあった公園のような
小さな場所に足を向けた。
いつもなら彼女との名残を感じつつ
電車の窓から
流れ行く街並みをぼんやりと眺めている頃だ。
でもどうしても家に帰る気にはなれなかった。
もうなんの目的も失ってしまった場所に
そうこうしているうちに電車も無くなり
僕はその公園のベンチで一晩を明かした。
次の日の朝
誰に関心を向けられることもなく
昼過ぎまでボーッとして銭湯に行き
さっぱりした後、夙川まで歩いて行った。
その日は夙川のほとりのベンチで
もう一晩過ごすことにした。
そして尼崎まで歩いて
そこから彼女の家に電話を掛けた。
電話に出てすぐに発せられた言葉は
「お母さん心配してはるから、家に帰って」
だった。
所持金もそんなに無かったし
死ねなかったからもう死のうと言う目的さえ
失っていた僕は促されるまま
阪神尼崎駅から電車に乗り家に帰った。
夕方4時過ぎ何故か扉は開いていた。
自分の部屋に入ると高校時代の友達が4人居た。
「おい河野!何しててん!
おばちゃんめっちゃ心配しててんぞ!」
いつもみんなより先に口を開くつーちんが
笑顔混じりにやや大きな声で僕に言った。
もう一人の友達が母を呼びに下まで行った。
階段を掛け上がる音が聞こえ母が現れた。
「あぁー良かった!生きてた!」
あそこまで崩れ落ちて
安心した表情を見せる母を見たのは
それが産まれて初めてだった。
「今からみんなで警察に
電話するとこやってんぞ!何しててん!?」
相変わらずの笑顔は崩さずつーちんが言った。
「いやー三ノ宮で寝ててん」
「なんやそれ?!」
強ばっていた他の友達もようやく笑顔になった。
僕はふざけた感じでごめんと言い
母はみんなにようやく晴れた顔で
「久し振りにおばちゃんの店でご飯食べ」
と言うと一気に皆のテンションが上がった。
僕はその日友達と他愛もない話を語らいながら
このまま母の世話になり続けるのも
良くないし心配も掛けたくない。
明日から働こうと誓った。
と同時にまだ一緒に住んでいた
知恵遅れの伯母の夜中の徘徊を
見張る役目も始めた。
少しだけ母の役に立てるかもしれない
社会に入れるかもしれないと
気持ちだけが逸っていたのを記憶している。




