奈落の底
人生のタイミングとは不思議なもので、
ロサンゼルス留学の試験の前日
忘れもしない夕方4時
その日午前中だけの授業を終え
いつもより早く帰宅した僕に
まるで早く取れと促すかの様なタイミングで
その電話は鳴った。
「はい、もしもし」
いつものようになるべく礼儀良い印象に
なるよう畏まった感じで出た僕に
より丁寧な言葉が返ってきた。
「もしもし?そちらに
河野アキテルさんって方居てはりますか?」
それは2年前に家を出た叔父の名前だった。
「はい、今は一緒に住んでいませんが
叔父です。」
僕の言葉に被せるように受話器の向こうから
少し荒ぶった声質になって
こう一気に捲し立てられた。
「あのーそのアキテルさんが
うちで借金してまして
もうその額が500万超えとるんですわ
はよ返してもらわんと」
「叔父の借金がなんでこっちに電話
掛かってくるんですか?」
僕は腹立たしく聞いた。
せっかく忘れてたいた存在を
「いやー関係ありますよ
そちらさんの健康保険証を見せて
借金されたんですから」
「え?!」
僕は咄嗟に母が普段保険証を閉まっている
引き出しを開けた。
無くなってる!!
どうやって盗んだのかは分からないが
叔父がうちの家から健康保険証を盗みだして
それを証明書代わりにヤミ金から
借金をしていたらしい。
半年前に100万ちょっと借りた金額が
その時点で500万を超えていた。
僕は母をすぐ呼び電話を代わった。
しばらくして母がとても申し訳なさそうに
言いづらそうに僕に口を開いた。
「たかよし、申し訳ない
留学諦めてくれへんか
お金返さんと家無くなるわ」
僕は何も言わず部屋に駆け上がり鍵を閉めた。
電気も消したまま夜になり
母が店に出ていった後
僕は母の部屋から時々夜中に母が飲んでいる
睡眠薬の箱を持ってきた。
中を確認すると12錠
僕はそれを飲み込むと
お茶で一気に流し込んだ。
もう全て何もかも無くなればいいと
僕自身も僕の未来も
しばらくすると意識が遠のいていくのが
わかった。そして感じた。
これでやっと叔父から全てから解放されると




