組伏せた右手
彼女と付き合いが始まって半年が過ぎた。
順調だった。
だいたい週に2度ほど会って遊んでは
夜の10時ぐらいに自転車で2人乗りして
彼女の家まで送って行った。
会えない時は家の電話で30分程
これから先どうするとか他愛ない話をして
毎日を楽しく過ごしていた。
友人たちは若干付き合いの悪くなった僕に
あからさまな態度は無かったが
少し距離を置いているようにも感じていた。
しばらくはただの同居人と化していた
叔父だったがそれは突然起こった。
ある晩いつもより30分程遅くなって
慌てて彼女を送ろうと部屋を出た瞬間
叔父が居間から怒鳴りながら飛び出してきた。
「てめー!いつまで人ん家に居やがるんだ!」
そう言うといきなり玄関先に並べてあった
スリッパを手に取り彼女を思い切り叩いた。
僕は瞬間的な怒りに任せて
叔父を力の限り殴り付けた。
叔父は2階へと続く階段に倒れ
少しの間を置いて
「やりやがったな!てめー!」
とわめき散らして
台所へと走り包丁を持って戻ってきた。
僕はここで刺されたらヤバいと思い
叔父が身構える前に右手を掴み
腹を蹴り上げて倒すと
叔父の右手を思い切り捻りあげ
なんとか包丁を奪い去った。
唖然として固まったままの彼女に
下の店に行っておかん呼んできてと頼むと
彼女は慌てて扉を後にした。
叔父は観念して大人しくなったが
繰り返し呟くように
「やりやがったなてめー絶対ゆるさんからな」
と何度も繰り返していた。
僕はあれだけ恐怖の存在だった叔父が
僕にねじ伏せられている現実に
少しの安堵と何故か悲しい気持ちになった。
でもずっとずっと言ってやろうと
思っていた言葉を叔父にぶつけた。
「いつまでお母さんにばっかり働かせて
ええ大人が世話になってんねん!
はよ家から出て行って働け!」
僕は力の限り叫んだ。
ちょうどその時彼女に連れられた母が
僕たちの姿と転がった包丁を見て
「あんたら何してんの!
もうあんたいい加減ほんまに出て行って!」
と叔父に向かって語尾を荒く怒鳴った。
叔父はいつもの威勢は感じられず
力無く僕に向かって
「てめーには世話になっとれへんわ!」
と言うと自室へと逃げるように入って行った。
高校2年のもうすぐ彼女の誕生日が近づく
5月の終わりの事だった。




