訪問者
その日はたしか日曜日だったと思う。
朝聞き慣れぬ人の挨拶をする声で目が覚めた。
ようやく幼稚園にも泣かずに
いけるようになった頃だった。
布団から眠い目を擦りながらその声の先が
する方へ目を配るとそこには見知らぬおじさんと
白髪のおばあさんが正座をしていた。
母は小学校の頃名古屋から大阪の芸者屋敷に
女将の跡取り候補としてもらわれてきた子
だったので本当の生家は名古屋にあった。
その二人はしばらく振りに会う
母の弟と姉だった。おじさんの方はとても優しい
雰囲気の人で一方おばあさんの方は
どこか落ち着きのない感じがした。
とても年老いた見た目だったのだが
後から聞くとその時はなんとまだ50歳を
過ぎたばかりだったそうだ。
はるばる大阪まで母を訪ねてきた訳は
実家で伯母の面倒が看る事が難しくなったので
なんとかこっちで看てくれないかとそのおじさんは
ばつが悪そうな顔で母に頭を下げていた。
伯母は幼い頃の事故によって
脳に障害が残ってしまい
小さな時からとても器量が良かったそうだが
ずっと嫁ぐ事もも働く事もも出来ずに人生の
半分を過ごしてきた人だ。
母や可愛がってくれた女中さんのように
大人は賢くて優しくて面倒をみてくれる人。
幼いながらもどこかそんな認識を持っていた僕は
心の隅にわずかな違和感を覚えながら
慣れない場所を不安そうに不思議そうに
キョロキョロと辺りを見回す伯母を見ていた。