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僕のうまれる少し前



これは僕のうまれる少し前


母が妻としてではなく一人の女として


生きると決めたきっかけの話だ。


昭和46年


父との関係がとうとう奥さんに


知られてしまった。


いくら芸者で妾とは言え不倫の関係


でも母の周りは父の事を


とても気に入っており


もし結婚出来るのならした方がいいと


相手方の離婚を前提とした


付き合いをしていこうという


意見でまとまった。


そして3日後


父の奥さんが車に積めるだけの


荷物を積んで母の元までやって来た。


「これ主人の服です、じゃよろしく頼みます」


と母に素っ気なく告げると


父と荷物を置いて走り去ってしまった。


そのままバタバタと一日が過ぎ


荷下ろしもまともに出来ぬまま


二人とも気疲れで眠ってしまったそうだ。


ふと夜中に母が目を覚ますと


隣りにいた父がいない


母は電気も点けず


鏡台に腰掛けている父を見つけた。


「何してんの?寝られへんの?」


母が聞くと


「当たり前や娘3人残して


家を出てきてんねやから気になるわ」と


母に言ったそうだ。


母は何も言わずそのまま床に就いた。


そして次の日の朝


母は部屋の中に積まれたまま


なだった荷物の片付けを始めた。


ダンボールを開けるとそこには


ワイシャツがぴっしりと畳まれ


そしてその間には一枚一枚


しわにならないようにきつく丸められた


新聞紙が順序よく並べられていた。


母はおもむろに受話器を取ると


奥さんに連絡を取った。


「すみません、私には奥さん程


立派に奥さん出来る自信がありません


荷物もきれい過ぎてよう出せません。


私はやっぱり一生、商売を続けていく


一人の女として生活していきます。


すみませんでした。」


そう告げると


寝ている父を起こし無理矢理


父と奥さんの


住む家へと送りだしたそうだ。


この話を聞いた後


僕はいろんな事を考えた。


母のその時の気持ちは本心だったのか


もし父の居る生活なら僕は


どうなっていただろうか


もしかしたら叔父は


名古屋から来なかったんじゃないだろうか


いろいろと考えたが


今こうして前を向いて暮らしているんだから


これでこのままでき良かったんだと


自分に無理矢理


結論をつけさせた。

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