殺人依頼
殺人依頼
叔父が酒を飲まなくなって半年が経った。
もしかしたらこのままずっと優しい叔父かもと
どこかで期待していた。
ある日学校から帰宅すると
叔父は酒瓶を抱え居間に座っていた。
とても鋭い眼光で
何かを威嚇している様な表情だった。
僕は久方ぶりの恐怖におののいた。
ただ今回のアルコール中毒の症状は
今までと少し違って
ただ一日中飲み続けるだけで
一切暴力はふるってこなかった。
何日か経ったある晩の事
叔父が突然僕の部屋に入ってきた。
思わず身構える僕をよそに
叔父は僕の横に座ると
しばらく黙りこんで
どこか遠くを見続けていた。
そしておもむろに机の上にあったはさみを
僕に握らせた、すると
「これで中心を刺せ!」
といきなり怒鳴ってきた。それはまさに
鬼気迫る表情だった。
一体なんの事かわからず
でも何かしないとまた殴られると思い
恐る恐る
「なんの中心を刺すの?時計の中心でもいいの?」
と言いながら
置き時計の真ん中を手渡されたはさみで
つついてみた。
すると叔父は
「違う! 俺の中心だー」と
声を張り上げるとはさみを握らせた僕の手を
自分のみぞおちに持って来た。
そして
「ここを刺せー!」と叫んだ。
僕は
「いやや、ようせん…」と
泣きながら拒否した。
急に力の抜けた叔父の体は小さく震えていた。
叔父は涙しながら
「そうだわなぁお前には出来んわなぁ
お前は優しいからなぁお前には出来んわなぁ」と
繰り返しながら泣きつづけた。
僕は今でもその時の白く濁った叔父の涙を
ずっと忘れることが出来ない。




