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書馬「フフフフ、フハハ! 読者が物語の進展を欲しがった……ここが物語の出発点にふさわしい……見せてやるぞ、イウキ! オレの本気をな!」
読武藤「何をする気だ、書馬ぁ!」
書馬「ここから一気に情報を放出する。俺のスピードについて来れるかな、凡骨ども!」
読武藤「まて、書馬、あまり高速でいくつもの情報を出すと、読者はついてこられない!」
書馬「フ~ン、心配はいらん、私にはフィールドの広さが見えているからな、召喚できる情報の数には上限がある、ならば精査し、不要なカードは斬り捨て、的確かつ最短距離で目的につながる情報運びをするのみ!」
読武藤「来るっ!」
書馬「まずは『主人公の休日』! のんびりと街中を散策する主人公を描写! 続いて『モブヒロインとの絡み』により、酒場のかわいいお姉ちゃんから誘惑される、さらには『街中でケンカに巻き込まれる』により主人公の強さを一般人と対比描写!」
読武藤「バラバラだ……まったくバラバラな情報が並んでいるだけじゃないか!」
書馬「焦るなイウキ、これらの情報を後々つなげるために、俺は『小さな違和感』を場に出しておく。例えば街中を歩いているとき、例えばセクシー美女に迫られたとき、例えばケンカの時、読者に『こいつ、なんだか普通の人と違うぞ』と思わせる小さな描写を入れておくのだ!」
読武藤「なるほど、つまりすべてのシーンを違和感を持たせるという同一の目的で並べる、これにより時系列通りに物語を続けても目的は一つだから物語がぶれなくなる!」
書馬「こういうタイミングでむやみに無意味なシーンを挿入して伏線だと粋がる輩がおるが、フ~ン、オレに言わせれば愚の骨頂、なぜなら伏線はその効果が明らかにならないというだけであって、カードが伏せられていることは読者から丸見えなのだからな。もっとも……オレほどの作者ともなると、読者に気づかれないうちに伏線を置くなど、お手の物だがな」
読武藤「ああっ、いつの間にかフィールドに伏せカードが!」
書馬「この情報のオープンは後程……まずは『小さな違和感』の情報に対し『その理由』を付与、これらすべてを融合して『主人公の過去を知る幼馴染』をサブヒロインとして召喚する!」
読武藤「このタイミングでサブヒロインの登場だと!?」
書馬「出でよ、『貧乳ヤンデレ魔導士』! 読者に最大出力でダイレクトアタックだ!」
読武藤「うわぁぁぁぁああああああ! くそっ、ヒロインの登場により、『小さな違和感』の理由が、『いずれ明かされる謎』としてフィールドに固定されやがった……期待大だぜ!」
書馬「小節終わりだ!」
読武藤「ならばこちらからはこれだ! 速攻魔法『君の名は』! これにより作者は読者にサブヒロインの素性を明かさねばならなくなる!」
書馬「それに抗する策はすでに、我がデッキの中に組み込まれているわ! デッキから『後でのお楽しみ♡』を特殊召喚、このダメージを無効にする!」
読武藤「ならば『サブヒロインはかわいくなくっちゃね』! 作者は読者の期待に応えて、サブヒロインをかわいらしく描写しなくてはならない!」
書馬「無駄だ! デッキから『外見より中身で勝負☆』を特殊召喚、この効果により折に触れてサブヒロインの魅力が小出しにされる! 貴様らがこの少女をかわいらしいと思い始めるのは物語の中盤を過ぎてからだ!」
読武藤「デッキからの召喚ばかりじゃないか、ズルいぞ、書馬!」
書馬「フハハハハ! 主催者権限だ! このように読者が期待する事項などデッキに組み込んでおけばすぐに直接描写する必要はなし! もっと効果的なタイミングで、最も効果的な形で情報を切れば良い!」
読武藤「つまり、サブヒロインのかわいらしさを楽しむには先を読むしかない、主人公の人生を知るにも先を読むしかないと、そういうことか……おまけにフィールドに伏せられたカード、それもオープンになるタイミングを待たなくては、中身が明らかにならない!」
書馬「これが長編の力だ! 昔、こんな言葉を残した偉人がいてな、戦いとは二手三手先を読んでするものだと……つまりは今現在の状況のみを構築するのではなく、長丁場を戦い抜くために情報が配置されたものをプロットというのだ!」
読武藤「くっそぅ……書馬、俺の負けだ。『続きを書け』するぜ!」
書馬「それでいい、イウキ……ならばオレは、この物語を思うままに書きつつけよう……永遠にオレのターンだ! 見たか凡骨ども! 読者に次を期待させるべくプロットを構築し、最も効果的なタイミングで最も効果的な手札を切り、最強のコンボ攻撃を完成させる、これが執筆だ! そのためには自分が抱えるお素敵アイディアの真価を見極めろ! そして不要ならばクズカとして斬り捨て、必要ならば新たな情報を錬成しろ! それこそが小説だっ!」