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書馬「さて、こうして執筆が始まったわけだが、作者は常に読者に対して先手を打つ側である。しかもこのデュエル、最初の手札をデッキの中から自由に選ぶことができるのだ。ならば何を最初に仕掛けるのか……」
読武藤「何をグズグズしている! 早く読ませろ!」
書馬「焦るなイウキ、作者にとってプロローグというのは特に狭きもの……ここに物語の全てを書きこむことなどできない。というのに、読者に物語に対する予備知識を与えねばならん。そこで多くの作者がこうするだろう……『世界の説明』!」
読武藤「かかったな書馬ぁ! それは多くの作者がやらかすミス! お前がそのカードを出したせいでプロローグが説明だらけになり、読者の興味をそぐ。悪手だゼ!」
書馬「誰がこれで終わりだといった? 俺はまだ小節終了をコールしてないぞ」
読武藤「なにぃ!」
書馬「ここにメイン情報、『主人公の登場』を攻撃表示で出す! これにより『世界の説明』はフィールドカードへと変化! さらにここに『主人公となる冒険者』を出す! これにより『壮大なフィールドを冒険するための主人公登場』というコンボが完成する! さあ、ターンエンドだ!」
読武藤「くっ、これがお前のプロローグか……」
書馬「さあ、お前のターンだぞ、イウキ?」
読武藤「俺のターン、ドロー! 書馬ぁ、俺の感想はこれだぜ。『登場人物は他にいないんですか!』。さらに『ヒロイン登場への期待感』を場に出し、ターンエンドだぜ!」
書馬「甘いぞイウキ! 読者がその感想を出すことはすでに計算済み! 俺はここでメインヒロインを出す! 出でよ、『青眼の白髪姫』!」
読武藤「なにぃ、いきなりメインヒロインだと!」
書馬「フ~ン、ハーレムに頼りたい愚民どもはここでサブヒロインから登場させることもあるだろう、悪い手ではない。だが、この書馬様は違うのだ! オレの主人公は一途! かつヒロインは青い目をした白髪美しい少女! これこそが我が性癖! 己の物語に己の性癖を練り込まずにどうしようというのだ!」
読武藤「く、性癖だけで俺たち読者を動かせると思うなよ!」
書馬「そうだ、忘れていたな……デュエルの時にカードのフレーバーテキストを読み上げるがごとく、そのカードに関する情報はその場ですべて読者に提示しなくてはならない! 俺はブルーアイズに『空から降ってきた少女』の効果を付与! フレーバーテキスト通りに『空から毎秒50キロの速度で落下してきた彼女が主人公の目の前に大きなクレーターを作り出す』を細かに描写! 読者に一切の隠し事はせずに、『隕石レベルの衝撃に耐える謎の美少女』を構築! ターンエンドだ!」
読武藤「くそっ、ヒロインの存在が気になって仕方ない。『彼女はニンゲンなのですか』を攻撃表示で出し、ターンエンド! さあ、答えろ、書馬!」
書馬「速攻魔法『それは内緒です』を手札より発動!」
読武藤「内緒……つまりヒロインの過去という情報や、ヒロインの正体という情報の一部を見せるわけだな」
書馬「愚かな……情報の一部だけを見せるデュエルなど存在しない。ヒロインの過去という情報を出したら、そのフレーバーテキストに至るまですべてを読者に提示せねばならないのだ! よってここに置くのは純然たる『秘密』!」
読武藤「純然たる秘密だと……?」
書馬「それを俺はここで、『主人公の質問をはぐらかす』というやり取りで表現、これによりデッキにあるヒロインの過去に関する設定はすべて、『それは内緒です』を『これが正体です』に進化させるためのマナカードに変わる!」
読武藤「なるほど、しかるべきタイミングでマナカードを積み、ヒロインを進化させるのか!」
書馬「さて、これで俺は章の終了を宣言する」
読武藤「待て書馬! それは小節の終了とはどう違うんだ!」
書馬「そうか、お前は読者だったな、良かろう、説明してやろう、文章とは段落→小節→章というの順番で情報が大きくまとめられる、そういった原則があるのだ!」
読武藤「情報をまとめるだと……? さっぱりわからん」
書馬「ふ~ん、まずは段落、これはいまオープンしている情報よりもさらに小さなまとまりだ。例えば描写の一節であったり、会話の区切りであったり、そうしたミニマムなパーツだと思えばいい。ここにある『青目の白髪姫』は、外見描写という段落、主人公との会話による性格構築という段落、そうした段落の組み合わせでできている。他のカードも同様、段落の寄せ集めによって作られた小節だ」
読武藤「じゃあ、章とは?」
書馬「こうした小節が集まって出来上がるコンボ……つまり読者に与える攻撃の内容だ。俺はここまでのカードをもとに『青目白髪の謎を抱えたかわいらしい少女が空から降ってくるという出会い』というコンボを構築、これで読者の心にダイレクトアタックだ!」
読武藤「う、おわああああああ! くっ、このヒロインの正体が気になって仕方ないぜ……」
書馬「章の終了と同時に、新たな情報を並べるためにフィールドはいったん初期化される、しかし場に残すカードを、作者は宣言できる!」
読武藤「待て、書馬ぁ、それはズルじゃないのか?」
書馬「ズル? フフフ、ちがうな、主催者権限というやつだ!」
読武藤「汚いぞ、書馬ぁ!」
書馬「汚くなどない! 勝てばいいのだ! まずはここまでの展開を墓地に送る! そして『青目の白髪姫』は手札に!」
読武藤「ちょっと待て、書馬ぁ!」
書馬「ん?」
読武藤「戻しちゃうの?」
書馬「なんだ、場に置いたままにしてほしいのか?」
読武藤「そうではなく、場に置いておくのが普通じゃないのか! メインヒロインなんだから!」
書馬「たとえメインヒロインといえど、主人公に対してはサブキャラ、何度でも召喚すればいいだけの話であって、場に出しておく必要などない。むしろ逆に主人公のカード、これは場から除外することはできない!」
読武藤「なるほど、主人公はいつでも使えるようにフィールドに置いておくんだな」
書馬「これだから……読むことしかしてこなかった凡骨は……」
読武藤「違うのか?」
書馬「使うためではない、主人公は常に物語に対して効果を及ぼす故、除外『できない』のだ!」
読武藤「た、確かに……主人公が除外されたら、物語は負けだぜ!」
書馬「世の凡骨作者どもよ、心して聞くがいい! たとえ主人公が登場しないシーンがあったとて、そこに主人公が影響を及ぼさぬことなどないのだ! 例えば敵の策略を描いたとて、その策略は主人公を陥れるためのもの! お風呂でうふふきゃっきゃなバブル女子会を描いたとて話題は主人公のコト……主人公は姿は見せずとも常に物語の中に存在しなくてはならぬのだ! さあ、章を閉めて、俺のターンはエンドだ、イウキ!」
読武藤「くっ、何か……何か作者のメンタルを削る一言を探さねば……俺のターン、ドロー!」
書馬「……さあこい、イウキ」
読武藤「これだ……『展開が遅いですね』を攻撃表示で召喚! さらに『いつ物語が始まるんですか』を装備! ダイレクトアタックだ!」
書馬「うう、ぐあっ!」
読馬「どうだ、書馬! 読者の言葉は伏して聞かねばならない、それが作者だろう!」
書馬「フフフフフフ……フハハハハハハ……フーハッハッハッハッハー!」
読武藤「な……ど、どうしたんだ、書馬?」
書馬「それで貴様はターンエンド、だな?」
読武藤「ああ」
書馬「待っていたぞこの時を! 俺のターン、ドルゥオオオオオオオオオオオ!」