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書馬「フハハハハ! よく来たな、オレは書馬瀬戸際! 書馬コーポレーションの社長だ! 今日はこのオレ自らが貴様ら凡骨に小説における上手な情報の使い方を見せてやる!」
読武藤「書馬くん!」
書馬「フ~ン、現れたな。あいつは読武藤言気、読んだ小説に何かひとこと言いたくて仕方ない読者代表だ。早速だがヨムトウイウキ、 デッキを持て! デュエルだ!」
読武藤「どうしてだい、書馬くん! 読者と作者は争うものじゃなくて分かり合うものだろう?」
書馬「甘いなヨムトウイウキ、作者と読者の関係は常に心理を読みあい、情報を制御してこそ成立する、まさにデュエル! さあ、貴様も読者ならば正々堂々と、感想でオレを殺してみろ!」
???「あきらめろ、相棒、やつはすでに戦う気しかない」
読武藤「もう一人のボク!」
???「ここは俺に任せろ」
書馬「何をごちゃごちゃ言っている?」
読武藤「……待たせたな、書馬」
書馬「ほう、貴様、『そちら』のイウキか、良かろう、かかって来い」
読武藤「俺の辛口感想、たっぷり食らうがいいゼ、行くぜ、デュエル!」
書馬「焦るなイウキ、今回はこれを見ている全国一千億人のために、チュートリアルとしてのデュエルだ! まずはプロット作成から始めるぞ!」
読武藤「いいだろう、付き合ってやるゼ!」
書馬「まずは物語のルールから説明しよう、フィールドオープン!」
読武藤「大げさなことを言うな! プレイマットを広げるだけだぜ!」
書馬「どちらでも同じこと、カードゲームにおいて一度にフィールドに展開できるカードの上限が決められているように、文章も一時に出せる情報の量に制限がある!」
読武藤「カードゲームならフィールドの広さ、文章なら文字数という目に見える形での制限だぜ!」
書馬「文章においては、このフィールド上に情報を並べて構築するワンターンが、その小節が意味する文意となる! つまり逆に言えば、文意を構築するために手持ちのカードの中から最適解を並べろということだ!」
読武藤「簡単だぜ!」
書馬「甘いな、イウキ、いうのは簡単だが、多くの作者たちは自分の手持ちカードをすべて使いたがるが故、フィールド上にすべてのカードを並べようとして失敗するのだ!」
読武藤「な、なんだって! そんなこと、不可能だ!」
書馬「ああ、不可能だ。なぜなら情報が脳内にあるうちは質量も空間的制限もないものであるのに対し、それを紙に書き二次元化することによって生まれる物理的制約というものを、凡骨たちはあまりにも考えなさすぎる!」
読武藤「そんな……どうすればいいんだ……」
書馬「フ~ン、まずはプロットを組むことだな」
読武藤「プロットなら書いているぜ! こうやって、エンディングまでの流れを綿密に……」
書馬「愚かな……それはただの進行表であってプロットなどではない」
読武藤「じゃあ、プロット表とは!」
書馬「やれやれ、プロットとはデッキだと、さっきから何度も言っているではないか……凡骨め」
読武藤「ならば教えてくれ、書馬! デッキの作り方を!」
書馬「良かろう、雷鳴のごとく響く我が言葉を聞くがいい。まず最初に用意するのは情報だ!」
読武藤「そのカードはどこで手に入るんだ!」
書馬「そんなもの、自分で作ればいい」
読馬「情報……つまり設定なら作っている! それじゃ足りないっていうのか!」
書馬「全然足りない。イウキ、貴様はデッキの枚数ギリギリのカードだけで、十分な戦略が組めるのか?」
読馬「無理だぜ! なぜならカードのパックにはクズカードや特定のモンスターに付与される特殊効果カードなんかもあって、デッキに入っていても無意味なカードが必ず混じるからだぜ!」
書馬「そのとぉりだ! だからこそ情報は自分の組みたいデッキより多く見積もらなくてはならない! 逆をいえばっ! 手元にどれほどの設定があろうとも、そのすべてがデッキに組み込めるわけではないということっ! これがわからぬやつはっ! 自分が考えたお素敵設定の全てを書きこもうとして物語の面白みを殺すっ! 例えばっ、このようなカード、これをイウキ、お前はどう見る?」
読馬「それはっ、『平和な食卓の風景』っ!」
書馬「たとえ物語の主人公といえど飯も食えばクソもするだろう。つまりこのカードは物語を構築した瞬間に主人公の食事の回数と同じだけ手元に発生する、いわばクズカード!」
読武藤「そんなことはないぜカクバ! どんなカードにも魂があるっ!」
書馬「甘いわ! 広さの決められたフィールドにスペースをとってまでクズカを置く意味とはっ! それを貴様に問おう!」
読武藤「くっ」
書馬「……とはいえ、貴様の言うことにも一理あるな。ならば、こうすればどうだ! まずはフィールドに『仲間の戦死』を置く!」
読武藤「な……まさかっ!」
書馬「次のシーンで『平和な食卓の風景』を出し! これに装備魔法『親友の好物』を付与! さらに魔法カード『主人公の涙』を場に出す!」
読武藤「こ……これはっ!」
書馬「気づいたようだな、イウキ……そうだっ! 平和な食卓の片隅で戦死した親友を思って涙を流す主人公のコンボっ! このコンボで読者の心にダイレクトアタック!」
読武藤「うわぁああああ! く、心が……心が痛むぜ!」
書馬「このように、情報とはそれ単体のみで使う物ではなく、組み合わせによって効果を発するもの、それ故にプロット作成とは、あまたある情報の中から最も効果的なものを選び出し、戦いに備えることを言うのだ!」
読武藤「な……なるほど……だが、そのためには設定だけじゃぁカードが足りないんじゃないのか?」
書馬「誰が情報として使えるのが設定のみだといった?」
読武藤「なにぃ!」
書馬「例えば作者の脳内にはシーンの切れ端や、キャラの掛け合い、果ては使いどころのわからない裏設定など、あまたの『情報』が眠っている。これらすべてが作者の胸先の計算一つでフィールドに置くべき情報……つまりカードとなるのだ!」
読武藤「なるほど確かに、そういうこぼれ話みたいなものって書くのが楽しいぜ!」
書馬「甘いわイウキ! 俺は、そういったものは『カード』の一枚にすぎぬと、そう言ったのだ!」
読武藤「なにぃ!?」
書馬「どれほどお素敵なアイディアであったとしてもそれは所詮カードの一枚! 必ずしもデッキ構築に貢献するとは限らない!」
読武藤「た、確かに。むしろレアカードであるほど、それを召喚するためのマナカードや、召喚までの場をつなぐカードや……戦略が必要となる」
書馬「特に長編物語とは長丁場のデュエル! ワンターンで雌雄を決することができるオレとは違って、凡骨どもは最終ターンまでを戦い抜くスタミナデッキが必要となるのだ!」
読武藤「奥が深いぜ……プロット作成っ!」
書馬「斬り捨てろ! 執着するな! どれほどお素敵アイディアであったとしても、それが物語のバランスを崩すようではクズカード! 冷酷に、無残に斬り捨てるが良い!」
読武藤「なるほど、わかってきたぜ、書馬ぁ!」
書馬「そしてイウキ、ここでお前を呼んだ意味が読者に明かされる」
読武藤「俺を呼んだ……意味だと?」
書馬「情報を厳選してプロット作成をし、こうしてプロットを組んだならば、誰と戦う?」
読武藤「読者と……だな」
書馬「その通り……わかっているじゃあないか」
読武藤「なるほど……じゃあ、手加減はしないぜ。査読開始!」
書馬「執筆開始!」






