Decrescent Moon 〜RPGのバッドエンドを表現する練習 その1 〜
この作品は、作者の勝手な独自設定(但し、良くありそうな)によるRPG(架空)をプレイして、バッドエンドにたどり着いた時を想定してキャラで妄想する?作品です(改稿)。
本編は、真ん中辺り ######### からです。
実際にはこのRPGは存在しません、ご了承ください。
RPGのあらすじ
突発的な革命で、ソニア国の王は王妃と共に城の近郊で暗殺された。
その裏には王の一番の側近で大賢者と讃えられたヒュードラ師がいたと判明して民衆は戸惑う。革命に呼応するかのように隣国エシュロン国の正規軍が攻めこんできて、平和であったソニア国は一気に瓦解した。
多くの貴族達は、友好国である島国ローゼンに我先にと逃亡した。逃げる手段を持たない一般市民、地方の農民達は抵抗するすべもなかった。また民の反乱を防止するためなのか、それまでより税を軽減する等のヒュードラ師の新たな支配をそのまま受け入れたとも言える。
王政は、このまま途絶えるのか。
ローゼンに遊学中であった皇子については無事とも殺されたとも伝わる等情報は錯綜した。また、国内の修道院では妹にあたる皇女がひそかに育てられているとの噂が元々あったために厳重に捜索されたらしい。が、噂の真偽は結局明らかにならず、各地では落ち着きを取り戻しつつあり、ヒュードラ師の支配の下のつかの間の平和を甘受するようになっていた。
ただ、その年は気候的には厳しい年であった。特に南の辺境の村では作物もわずかにしか収穫出来ない有り様だった。しかも、その村では国からの援助はあてには出来なかった。その村では国の大半の国民と人種、宗教は明らかに違っていたからだった。
王政の頃は、多種多様な種族の分布を自然なものと認められて独自の文化も尊重されていたのだが、一神教の最高の長老職にあるヒュードラ師から明らかに冷遇されていき、ついには中央から、蛮族の村と呼ばれるようになっていた。
もともと農耕を中心としたことで生計を立てていたが、それも厳しく最近では近郊の森で狩などを始め、糊口を凌いでいた。武器を上手に扱えるように仕込んだのは、かつての王の近衛騎士団にいた若手数名だった。彼らとヒュードラの弟子の魔術師セロンは、革命時にこの村に逃げこんでいたのである。
そして革命より一年半が過ぎた頃、隣国エシュロンの国境付近(北方)まで探りにいったセロンから驚くべき状況が明かされる。その近辺の村ではまた異なる種族が異なる宗教を信奉して中央になびかなかったのだが、ヒュードラ師とエシュロン国の一部の術師がその村から反抗的な元気な若者を捕らえて
『善悪などを一切考慮しない殺戮の超人』に変質させる術が施されているらしい。
もはや、見かけ上の平和を尊重して、逡巡しているべきではない。魔術師セロンと近衛騎士団の生き残り数名[聖騎士ユリウス、炎騎士アドルフ、蒼騎士ヴィクトール]は、南の辺境、蛮族の村にて反乱軍を結成した。また、その村にて若き才能を見い出し、その者(主人公)を盛り立てて勝ち目のない戦いを始めたのであった。
RPGの概要
主人公=プレイヤーである。名前、性別、生まれ月を自由選択。職業は経験値と取得アイテムで選択していく。
目的=自身のレベルを最高値に上げる、職業の選択の幅を広げる。シナリオを最後までプレイする。シナリオの重要分岐点の選択によって多少の結果が変更されるが、皇子、皇女等重要人物を救出する。隣国エシュロンを撃退、ヒュードラ師に勝利、ラスボスに勝利。
エンディング=マルチエンディング形式
最良ーー皇子、皇女の救出成功。皇子を戴冠させ、さらに重要人物を救出、育成して皇子と結婚させる、王政復古パターン
良ーー王政復古パターンの亜種。皇女と男主人公(皇子と女主人公)の結婚等のシナリオを含む
良ではないーーNo Good Endingsのいくつかのパターン
そのNo Good Endingsのいくつかのパターンを考えて、『月』の様々な表情をテーマに短編形式で書く習作です。
今回は、女主人公と騎士ユリウスの物語です。
Decrescent Moon(下弦の月)
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ほぼ、夜通し、王侯会議が行われていたと聖騎士ユリウスは、私に言った。
戦いの中心となった、新王の近衛騎士団団長を拝命する予定のユリウスですら、ようやく会議の末席に連なることの出来る大国ソニア。
革命、反乱を経てようやく平和を取り戻しつつある。
「力及ばずで申し訳ない、…」
ソニア国は、もともと生粋のゴラス族の国である。輝ける金髪、蒼い瞳、立派な体躯と強靭な精神力を誇る高潔な人種。まさにそのお手本のようなユリウスが、偏見など一切持たずに蛮族の娘の私を導いてくれていた。その立派な騎士が今、心から私に頭を下げてくれている。
「いえ、私は『辺境の村をも未来永劫、尊重する』と決定してくださった新王に心から感謝しております。新たに赴く地はさらに過酷な運命のもと、なんとか暮らしている人たちがいるということなら、私もそこでお役に立てればと思います」
感情を抑えて上手に言えただろうか。
「・・・このような別れが来るとは・・貴女こそがこの戦の功労者なのに」と、ユリウスはなおも言う。
私は、ただ黙って窓越しの細い月が痩せて傾いているのを眺めていた・・・。この地で見る月は・・・これが最後かもしれない。
あなたのそばで・・・あなたの深くて優しい声を聞くことができるのも・・。
「・・・やはり・・・私は再度、新王に進言しよう・・・!
あなたは実力があるが、決してソニア国を、新王をないがしろにしようとするはずはないのだ。身を捧げ、心から平和を望んで戦いの中心となって戦っていたのに。
もしも王に判っていただけなければ・・・構わぬ、私も国を後にする!」
ユリウスの、いつもとは違う声に私は・・・ようやく、気持ちが定まった。
ここ数日の気持ちのわだかまりも、何だか晴れた気がする。
私は、努めて明るく振り向いた。
「あら、それはダメよ!・・・だって、貴方にはこれから騎士団長としての役目があるのよ?」
騎士ユリウスは、明らかにとまどったようだ。私が泣いていると思い込んでいたのかもしれない・・・。
「・・・意外と明るいのだな…?…いや、・・・あなたが・・かなりつらい思いをしているだろうと・・・いや、ともかく・・平和になってからというもの・・・」
あなたは、まっすぐな瞳で私を見つめながら、私を傷つけまいと言葉を選び、選びすぎて困ったような表情を見せる。
あなたはずっと優しかった・・と、私はあらためて思う。いろいろな噂を聞いて、陰ながら心を砕いて私のことを心配してくれていたに違いない・・。
———皇子と側近の貴族たち・・・はまだ、良かった・・・少なくとも戦いの後半では身をもって戦争を体験してきたのだから。
しかし、戦乱を避けて国から離れていた貴族たちは、悲惨な戦争の傷跡から、ことさら目をそむけたがっているようだった。
「あれが、その・・・先の・・・反乱軍のリーダーですってよ」
「おお、怖ろしい・・・・あの腕や手には・・洗っても洗っても、今でも滅ぼされた者の血の痕が浮かぶのですって」
「あのようにしていると・・ただ、普通の女性に見えますでしょう?でも・・・とても言えないような殺戮を・・ね、きっと精神が普通ではないのですわ・・・」
「しっ・・・。どのような仕返しがあるか分かりませんですぞ」
「殺すのがお好きで、弓もお上手と聞きましてよ。それなら、今度は野鳥を獲ってきていただけばいかがかしら?
戦争のせいで、最近ではおいしい鳥のパイを料理人に作らせようにも・・ねぇ・・・なかなか手に入りませんもの、ねぇ」
哄笑が、嘲りが、陰で表で、そっと、あるいは聞こえよがしに囁かれていた。
セロンにたしなめられるまでもなく、私は全部無視していた。
どうせ、すぐにおいしい料理やご領地のこと、お化粧やドレスの話をすれば、反乱軍や私のことなど忘れてしまう人たち、・・血まみれの怪我人、瀕死の者の目を覗き込んだこともない人たち・・。
腹を立てる気にもなれず、次は何を言い出すのだろうかしら位に私は思っていたのだ。
私が本当につらいのは・・・あなたが私を誉めてくれなかった時の・・・あなたの表情、あなたの言葉だけだった。それから・・・叶わない思いを隠していなければならないことの…。
ふいに、ユリウスが私を抱き寄せる。ちょっと唐突で、急をつかれて・・・私は呼吸もできない。
「・・・ああ、あなたを壊してしまいそうだな、私は」
と、自分の強い力になかば呆れたように苦笑して、すぐに力を緩めてくれる。
あなたの心臓の鼓動を感じながら、以前からの私の想いが、私を酔わせようとしている。
柔らかな瞳で私を見つめて抱き寄せてくれるユリウス…。
私はあなたに体重を預けて安心しきった表情で瞳を閉じる・・。
それから・・それから・・?
・・私は、私でなくなってしまうの?
・・・そんな気持ちがして・・・私はとても怖くなる・・。
このまま、あなたの腕の中にいたい…!
嫌なことを全て忘れてしまいたい…!
苦しんでいる人たちの存在を忘れて、神のご加護で授かった力を封印してしまいたい…!
そして、ずっとあなたを愛し、あなたのためにお化粧してドレスを着て・・あなたの立場を考えて国の中央で社交的に振る舞い、無意味に微笑んで・・・血なまぐさいことを避けて可愛い声をたてて・・・。貴族の皆様達の真似をして生きていく…?
想像しただけで、目眩がしてしまう・・・。
あなたを愛してしまったと気づいた時から、私は自分が弱くなってしまうのを感じていた。
あなたの腕を感じていないと立っていられない『女』になるのは、やっぱりいやで・・・。
そして・・・『男』としてのあなたを考えるのが、怖い。
そんなことをうまく説明できなくて・・・今の私はただ震えて・・身を固くしているだけ・・。
あなたの手はさっきから、私の髪をただ優しくなでている。
そして、囁いてくれる。
「戦いが終わったら、きっといつか…って言っていただろう…?」
私は、涙が出そうになるのを我慢して・・・それからちょっとあなたの力に抗うようにして、窓の外の・・月を見上げる。
「美しい・・・三日月だね」
耳元で声が響くのが、何だかくすぐったい。
恋の虜になった乙女の弓のように、しなやかにたわむ月の形。
でも、三日月は・・・その美しい姿を輝かせながら、多くの暗い影の部分を隠しているだけなんだと・・今の私は知っている。
私は、あなたに自分の暗い影の部分を見せることなんて・・とても出来ない。
だってあなたは、私の騎士であると同時に私の聖域だったから・・・。
頬をすべってきたあなたの指が、私の涙の粒に触れて・・驚いたようにそこで停まる。
そして、紳士的に力を緩めてくれるあなたの優しさが本当は少し悲しいのだけれど、私は旅立つことに決めた。
今日の三日月は欠けていき・・もうすぐ、新月(闇月)になる下弦の月。
希望が膨らんでいく三日月ではなくて、少し残念。
もしもひとつだけ、願いが叶うとしたら・・・。
願わくは、月の光のない闇の中でも、あなたの・・静かな白銀色の輝きを思い出せますように。
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主人公=女性。弓兵、のちに剣と槍。防御魔法
ユリウス=聖騎士、序盤から用意されているキャラ。剣、回復魔法→レベル上げ、アイテムで職業変更可能
皇子救出成功、王政復古パターンであるものの、皇女や重要人物の救出を失敗すると出るバッドエンド。ぶっちゃけ国外追放、島流し、但し、主人公死亡していないため、今後の展開も多々考えられる希望あり。