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7-17

今年中に完結を迎えられるのか、今更ですが心配になってきました。

あと一か月か……


※22/11/30 誤字脱字修正

 ウルと名乗った青髪の少女。

 当然ながら俺は彼女の事を知らないし、一佳が彼女らしき人物について語った記憶もない。

 だがどうやら。こいつは一佳の顔見知りであり、なんなら強く慕っているらしい。

 背景はさっぱりわからんが、もしかしたらカタリナよりはマシな感情を、一佳に抱いているのかもしれない。


 まぁ、そんなの知ったこっちゃないが。


 敵として向かってくるなら倒すまで。

 後々の障害になるようなら殺すまで。

 一佳の邪魔になるなら確殺するまで。

 誰が相手であろうと、俺の行動指針が変わることは無い。この場でやることは変わらない。


「殴られるのと、斬られるの。どちらがいいですか?」

「どちらもごめん被る」

「では両方で」


 言うが早いが、ウルの懐から水が出てきて形を成す。なるほど、水で形を作るのなら殴るも斬るも自由自在なわけだ。……こいつと話が合わないのはもう置いておく。


「――――っと、あれ? お取込み中?」

「……あの子は、確か、」

「先行け。詳しい話は後だ。とりあえずこいつをボコしてから追う。いいよな、別に?」

「はい。まぁ別に3人そろっても構いませんが」


 戦闘になる前のタイミングで、入須と比奈坂が追いつく。2人からしたら状況は分からないだろうが、説明をしている暇もないので先へ促す。幸いにしてウルも乗ってくれた。


「いや、私たちだけ行っても厳しいかも。斉藤さんと相性悪いし」

「唯一勝機があるのが橘さんです。ここで待たせてもらいます」

「では3人まとめてということで」


 そう言って。ウルは懐から瓶を取り出した。そしてそれを床に叩きつけて割る。

 飛び散った中から出てきたのは、水溶性のなにか。

 透明な水。だがすぐに人型に形を成す。なるほど、追加か。


「影鬼みたいだな」

『……あんなのと一緒にしないでください』











■ 妹が大切で何が悪い ■











 大して嬉しくないことではあるが。

 一つの成長結果として、この世界に来てから相手の力量を判断する目は養われたと思う。

 だからシグレやラヴィア、ライオットみたいな相手とは、まともにやり合っても勝ち目は薄いと判断できるし、逆にネムやターニャなら俺の方が優勢と判断できる。言っちゃ悪いが、比奈坂辺りなら不調状態の今ですら圧倒できるだろう。


 じゃあこいつ(ウル)は?


「「チッ!」」


 一合。拳と拳が打ち合わさる。互いに漏れ出た舌打ち。それはとどのつまり、癪だが互角だったという事。一撃で決めるべくして放った拳が、互角だったという事。


「「ッ!!」」


 二手。ウルが俺の次手より一瞬早く水流を放射。ホースから噴射する様な勢い。

 それを俺は蹴りで防ぐ。本来であればそのまま追撃に移る様に繰り出した蹴りだが、一瞬とは言え動きが遅れたせいで水流を防ぐ形になる。ミリアの魔力操作のおかげで、水流と言えども押し戻されるようことは無いが……


「「チィッ!!!」」


 三撃。水は形を選ばない。先ほどまで一本の水流だったのが、突如三本に分かれる。いずれも俺を抉るように、回り込む形で襲い来る。

 それを、魔力の放出で霧散する。

 ドンピシャのタイミングでのミリアの魔力操作。幾ら形を変えようとも水は水。物理法則を無視した動きをさせるのなら、魔力を帯びるしかない。ならば同程度の魔力をぶつけて消し飛ばせば、水流はただの水に戻る。後は重力に引かれて落ちるだけだ。


「小癪なッ!」

「言ってろ……ッ!」


 四散。霧散後の隙をつき、2体の水人形が襲ってくるが、いずれも一撃の元に消し飛ばす。ある程度は自動では動くものの、耐久性や操作性は落ちるらしい。何の苦もなく消し飛ばして、束の間の空白。

 一息を静かに入れて、思う。これは、マズイ。


「……余計な抵抗をしなければすぐに終わるのに」

「そっくりそのまま返すよ」


 どうやら相手も同じことを考えていたらしい。冷静な口調ながら、幾分か増した憎悪を含んだ言葉が吐き出される。小柄で可愛らしい外見に反して、随分とまぁ敵意と殺意に満ち溢れた眼なことだ。それが余すことなく俺に向けられている。

 楽に倒せる、とは思っていなかった。ライオット程ではないにしろ、そこらの雑魚とは一線を画す強さなのは、一目見て分かった。とは言え正直な感想を言えば、雑な言い方にはなるが、予想外に強い。不調や疲労なんて言い訳を除いたとしても、さっさと倒すというような舐めた態度では、負けかねないくらいに強い。


「ったく、嫌になるね。一難去ってまた一難かよ」


 コンディションは間違いなく相手の方が上だ。単純な身体能力は俺が上だが、魔力でカバーできるので優劣はつけられない。力も速度も魔力で幾らでも補える。そして肝心な魔力量は、今現在の話で言えば相手の方が上。……困った事に、単純な事実だけで評するのなら、俺がウルを上回る要素は無い。残念ながら、無い。


「では、諦めますか?」

「まさか。なんでそうなる」

「ふぅん」


 だが今までの経験で言えば、そもそもの話万全の状態で戦えること自体が皆無だ。ジャックと黒騎士みたく疲労困憊の上に連戦だったり、シグレとライオットみたく格上を同時に相手しなければならなかったりと、いつだって不公平で不平等なのがデフォルトなのだ。今更嘆く事もない。

 ……さて、冒頭の話に戻ろう。

 Q.こいつに勝てるか?


「さっさと倒れて下さい。あなたはあくまでも前座です」

「だからそっくり返すよ。こっちはイーリスをぶっ殺さなきゃならないんだ。お前如きに無駄に構ってられん」


 A.


「フラフラのボロボロ。満身創痍で私に勝てると」

「そのつもりだが?」

「夢物語ですね。度が過ぎます」

「その満身創痍相手に決められない程度の力量でドヤ顔しないでくれ。反応に困る」


 圧勝は厳しい。


「殺すわけにはいきませんから。手加減です」

「死にかけたら回復してくれんじゃないの?」

「死にかけたら、でしょう」

「あっそ。時間がない癖に殺すつもりではかかってこないのか」


 でももう大体の力量は分かった。


「……口は回るようですね」

「話を始めたのはお前だろ? 自分から仕掛けておいてそんな顔するなよ」

「……やはりあなたとは分かり合えません」

「分かり合う努力をしてくれるのは嬉しいが、俺らはそんな仲か?」


 勝つことは、


「俺たちは殺し合いをしている、だろう。個人の想いを抜きにして」

「……」

「一つ、言ってやる」


 難しくは、


「一佳に出会う前に、俺は「見つけた!!!」ッ!?」











 人生は想定外の連続、とは誰の言葉だったか。

 もしかしたら誰の言葉でもないかもしれない。或いはありふれた言葉だから、誰もが一度は口にした事があるのかもしれない。

 ……いや待て、そんなことはどうでもよくて。


「お兄ちゃん! やっと見つけた!」

「見つけたわぁ……ちょぉっと、疲れたかしら……」


 突如として目前に現われた、見覚えのある黒い穴。そこから出てきた2人を見て、思わず俺は全ての動作を止めてしまった。無様で無防備。間違いなくこの殺し合いの場では選択してはならない行動。

 だけどそう頭で分かっていても、目前の光景に俺の身体は完全に硬直してしまっていた。一切の信号を脳が身体に向けて送り出すことが出来なくなっていた。

 一佳と、ラヴィア。

 合流して早々に逸れてしまった2人が、目の前にいる。あの黒々とした穴から出て来て、いる。


「え、あ、い、いち、いちか?」

「そうだよ!」

「え、あれ、え、ラヴィア?」

「そうよぉ……」

「え、あ、へ?」


 想定外だ。間違いなく。どうしようもなく。いや、嬉しくない訳では決してないんだけど。

 混乱に止まった身体。こんなところで止まってはいられない。分かっていても、動かない。脳からの信号がちゃんと伝達されない。金縛りにあったみたいに身体が全く動かない。


「いったい! どこで! 何をしていたの! 心配したんだから!」


 がしっ。助走をつけて抱き着いてくる一佳。そりゃ一佳からすれば、突然いなくなったのは俺なんだから、心配に声も荒げるよな。その言葉の通りだと思う。

 ぴくり。漸くここで指先が反応した。反応と言うよりは、抱き着かれて驚いた事による反射的な動作ではあったが、それでも指先は動いてくれた。一佳を受け止めるべく動いてくれた。


「あ、ああ。すまん。無事だったか」

「無事だよ! あとそれはお兄ちゃんの方でしょ! もう!」


 どすどすどす。腹部に3発拳を入れられる。力が乗っていないし、なにより殴り慣れていない。柔らかい拳だ。痛い筈がない……けど痛い。……分かっている。そんなつまらない冗談で茶化す内容じゃない。……心配を、かけてしまった。


「すまない。……良かった、一佳も無事で」

「……もぉ」

「ラヴィアもありがとう。世話を掛けた」

「別にいいわよぉ、これくらぁい。でもまぁ? あとでしっかり返してもらうけどぉ? ……それとぉ、状況の説明よろしくねぇ」


 言って、ラヴィアはこの場にいる全員に1人ずつ指をさした。入須、比奈坂、そしてウル。……そう、ウルも。

 ぎゅっと。一佳を抱きしめたまま、ウルを見る。彼女は間の抜けたような顔をしたまま固まっている。俺と同じく突然の状況に混乱したという事だろうか。

 ……ウルの事は置いておき、状況は悪い。

 と言うのも、俺はカタリナの時と同じように、一佳と出会う前にウルを殺すつもりだったのだ。そしてその死体は、一佳の眼に触れぬ様に秘密裏に処理をする。余計な精神的な負担を、一佳に負わせないために。

 だがその前に、一佳と合流をしてしまった。


「イチカ、様……」


 そして俺が何かをする前に、ウルが先に口を開く。ただただ茫然と、零れ落とすかのように、妹の名前を呼ぶ。当然反応する一佳。……目論見は、失敗に終わった。


「……ウル? もしかして、ウル?」

「はい……お久しぶりです」


 ウルは思ったよりも冷静な返答をした。先ほどまでの激情は、いったん収まっている。

 だがいつ爆発するかも分からない。それこそカタリナの様に。……過保護と思われようが、あの女が発したような口汚い罵詈雑言を、一佳に聞かせてしまうのはよろしくはない。

 だから。反射的に俺は前に出た。一佳を庇うように、前に。後ろに隠すように、前に。


「ッ!」


 突然の地震……いや、違う。周囲に落ちていた水だ。それが突如隆起する。俺も、一佳も、ラヴィアも巻き込んで。まるで覆うように一気に膨れ上がる。―――間違いなく、ウルの攻撃。

 だがその水は、すぐに霧散した。霧散して周囲に飛び散った。


「――――効かないよ」


 同時に、ウルの周囲に浮いていた水も弾け飛ぶ。

 俺が何かをしたわけではない。或いはラヴィアが何かをしたわけでもない。勿論ウルが自ら解除したわけでもない。それは硬直した彼女の表情から、言葉にされずとも窺い知れる。

 何かをする事が出来るとすれば――――


「ッ! そんなの――――」


 事実を確認する前に。ウルが次手を繰り出す。こぶし大の、幾つもの水の弾。それが一斉に俺たちに向かって来る。


「だから、効かないよ」


 だがそれも俺たちの元に届く前に全て消える。まるで見えない壁に邪魔をされるかのように、水滴一つとして届かない。


「これならッ!」

「効かないし、そもそも届かないよ。分かっているでしょ、ウル」


 今度は一点を穿つかのように、凝縮された水流が飛んでくる。狙いは俺。だがそれも同じように、見えない壁にぶつかって消える。水がそもそも消失する。地面に落ちる事無く、虚空へ飲み込まれるようにして消える。

 いったい何が? きっとウルはそう思った事だろう。呆然とした表情からは、明らかにこの状況を想定していないことが分かる。

 するりと。一佳が俺の背後から出てくる。制止しようと伸ばした手を掻い潜って、一佳は前に出た。


「水宝玉に、水連弾。それと最初のは水牢かな? どれも一緒に編み出した奴だよね」

「……ええ」

「なら、分かるよね。……私にそれらは効かない事」


 ピッ。一佳が振り払うように腕を真横に振る。それだけで足元に落ちていた残りの水も、ウルの後ろにいた水の人形も、次手にと備えていたであろう水の弾も、全てが消え去った。まるで最初からなかったかのように、何一つとして残らなかった。

 

「――――まだっ!」


 パンッ! 勢いよくウルは両手を叩き合わせた。するとその両手から水が溢れ出てくる。その水はあっという間に彼女の両手はおろか、両腕を包み込む。そして渦を巻くかのように、不規則な波を立たせる。……言葉にされずともわかる。流麗とも言えるような迅速さで為したということは、これは所謂彼女の奥の手というやつだろう。


「一佳、下が――――」

「大丈夫だよ」


 中距離を制され、遠距離と言えるほどの距離を取れないなら、取れる手は近距離戦……或いは接近戦となる。それは自明の理だ。

 ならば、一佳じゃ分が悪いだろう。そう思い下がらせようとするが、返って来たのは思いもよらないほどに力強い言葉だった。


「大丈夫」

「そうねぇ……うん、大丈夫だと思うわぁ」


 繰り返し同じ言葉を口にする一佳。それに賛同するラヴィア。


「妹ちゃん、すっごい伸びたものねぇ……お兄ちゃんとしては心配かもしれないけど、あの手くらいなら任せても大丈夫よぉ」


 けらけらけら。いつもと変わらぬ調子。子供の喧嘩を見守るかのような気軽さのラヴィアの言葉。ラヴィアはよく一佳の訓練の相手をしてくれたからそう思うのだろう……いやいやいや、そうかもしれないがそう言う問題じゃない。


「ダーリンは知っているでよ? 妹ちゃんが、すっごい努力していた事」


 それはまぁ確かに事実だ。一佳は……お世辞にも戦う事が得意とは言えない。身を護る術には長けていたが、攻勢に出るのは苦手。いや、そもそもとして向いていないのだ。まぁ人を殴ることに慣れるなんて、そう言う職業で無ければただのロクデナシでしかないのだから、向いてない方がいいに決まっているのだが。


「大丈夫よぉ、おにーさん♡」

「そうだよ、お兄ちゃん」


 こんな状況だと言うのに。

 一佳は笑った。満面の笑顔だった。一切の憂いを消し飛ばすかのような、そんな笑顔だった。……心配しているこっちが馬鹿らしくなるくらいに。


「うだうだとぉ!」


 そんな場を読まない俺たちに業を煮やしたのだろう。

 ウルは怒声と共に、一直線に距離を詰めに来た。その拳の向かう先は、当然真向いの一佳。


「近接ならッ!」


 そう言って振りかぶられた拳。手甲のように腕全体を護る水。波立っているそれは、そのまま彼女の激情を表しているかのようで。




「だから、効かないよ。……ごめんね」




 だけど。その決死の覚悟も空しく。

 一佳に触れることはおろか、彼女の元に辿り着く事も、そもそも届く位置に辿り着く事も出来ずに。

 結果としてウルは負けた。

 あれほどまでに滾っていた全てを無に帰すような、それはどうしようもない一つの決着だった。

 

 


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