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7-16

描写する予定だったのに描写出来なかったものが多い……!

一か月も何を入れて、何を入れないか悩んでいました。遅くなってゴメンナサイ。

 逃げる事も隠れる事も出来ないのなら、先んじて打って出るしかない。

 それは冷静に考えてみれば、追い込まれたが故の自殺行為的な思考なのかもしれない。だがまだ目覚めたことに気が付かれていないであろうという、それくらいの事しか俺たちにはアドバンテージが無いのだ。ならばそれを最大限に生かすことが、現状を打破できる最も可能性の高い手の筈。

 だから出る。会ってしまえば終わりだと言われても、それ以外の方法はないのだから。


「先に言っておきますが、私に戦闘面での期待はしないでください」


 比奈坂は戦闘できない旨を婉曲に発言した。

 だが別に、それは意外な事でも何でもない。


「ああ、分かっている。戦闘力云々の前に、チカに反抗できないんだろ?」

「まぁ、その……癪ですが、その通りです」

「なら、情報だけ教えてくれ。比奈坂の確執抜きにしても、俺にとってアイツは倒さなきゃならん相手なんだ」


 比奈坂に助けられた事、借りを作っている事だけではなく。

 隷属の術を掛けられた。その解除をするためにも、そして諸々の憂いをここで断ち切るためにも、チカは殺す。今更怖気づくわけもない。


「さて……じゃあ、比奈坂。チカはどっちの方面に行っているか分かるか?」

「新しい屍人の様子を見に行っているから、多分下の階の方かと」

「ふぅん……成程。やはり、あのネクロマンサーの事か」


 ライオットは知っているのだろうか。意味ありげなセリフに視線を向ければ、何故か得意顔でこちらに視線を返してくる。


「あの身体を用意したのはイーリスではなくネクロマンサーだった。なら、場所は分かる。大方あの意気地なしの説得に駆り出されたのだろうね」

「意気地なし?」

「会えばわかるよ。気に入らないくらいの、意気地なしだよ」


 随分な言い方だ。その誰かとは何かがあったのだろう。知りたいとも思わないけど。


「……なんでもいいさ。場所分かっているなら、速攻で潰しに行く。異論は?」

「無いよ」

「同じく」

「……任せました」











■ 妹が大切で何が悪い ■











 結論から言えば。俺たちが向かった先にチカはいなかった。

 案内された扉の先。そこには誰もおらず、或いはチカの行先の手がかりになるようなものもなかった。

 あったのは、夥しいほどの実験痕。

 詳細な描写は伏せるが……そこには悍ましいと言えるほどの痕があった。痕しかなかった。


「魔力も感じない。完全にもぬけの殻だね」


 ライオットは一切の躊躇もなく、横たわる数々の痕を踏みつぶして室内を捜索して、溜息と共にそう結論付けた。


「本当にどこにもいないね。……イルファニアも、その他の実験体も、何もない」


 入須は考え込む様に言葉を紡いだ。俺たちへ聞かせると言うよりは、己の記憶と照合作業を行うような、独り言のような言葉。


「……」


 案内した張本人である比奈坂は何も発言しない。と言っても、それは別に彼女が裏切ったと言う訳でも無ければ、何もしていないと言う訳でもない。

 彼女は一つの死体の前で、身動ぎ一つせずただ立っている。

 部屋に入ってから、ずっと。

 知り合い、なのだろうか。


「隠し扉、ないよな」

「さぁ、ね。そこまでは分からないよ。イーリスなら知っているんじゃないか?」

「私がイーリスに乗っ取られている間、何度もこの部屋には来たけど、隠し部屋みたいなのは無かったと思うよ」


 まぁチカも易々と手の内を晒しはしないだろうし、仮に隠し扉があったとしてもバレるような造りにはするまい。前回は手の内を簡単に晒して俺たちに負けたわけだし。

 とするとチカを探すには、あとは人探しのスキルを使うくらいしか手が思いつかないが……


『ダメ、みたいですね』


 落胆を隠さないミリアの声。彼女の言う通り、チカを思い浮かべて発動したはずの人探しのスキルは、見事に不発に終わった。光の導も、或いはその他の何かも、何も現れはしない。

 一佳やアリアの時と違って発動しないのは、俺がチカの事を良く知らないだろうか、或いは彼女が対抗策を持っているのだろうか……いや、不発の原因を考えても仕方がないか。


「他に行くとすれば、どこになる?」

「……大広間、でしょうか」


 比奈坂の言葉に、きっと俺は分かりやすいくらいに顔を歪めたと思う。

 と言うのも、こう言う状況での大広間と言う単語に、俺はいい思い出が全くないからだ。

 例えばケントの貴族用邸宅で黒騎士やジャックと対峙したり。例えばダンジョン内でシグレに遭遇したり。例えば禁足地の盗賊団アジトで瘴気から逃げたり。例えばイーリス聖教国総本山にてシグレと殺し合ったり。例えばシュヴァルグランに嵌められたり。例えばアルマ王国でシグレと殺し合ったり。……本当にいい思い出がねぇな。しかも半分はシグレの影がちらついていやがる。アイツ、疫病神かな?


「ま、行くしかないか。だろう? キョウヘイ」

「まぁ、な。行くしかないわな」


 ライオットの言葉に同意する。行くしかない。それは正しいのだ。

 例え行く先に敵が待ち構えていようとも、手ぐすねを引いていようとも。

 行くしか他に手立ては無いのだから。


「スタンスは変えねぇ。先手を打ってぶっ潰す。チカの件に手間取ってられないんだ、とっとと終わらすぞ。イーリスをぶっ殺さんとならんからな」


 チカは強い。言葉では易々と倒せるような響きを用いたが、実際には片手間で倒せる相手じゃない。それは対峙した身だからこそ分かる。

 前回はアイツが油断と慢心、そしてまだ殺し合いになれていなかったから、早々に片を付けられた。首の骨を折って戦闘不能まで追い込むことができた。

 だが今度は、アイツは油断も慢心もしないだろう。そしてネクロマンサーとして持ちうるあらゆる手を使って俺を潰しに来るだろう。

 だからこそ。何度も言うが、気付かれていない内に先手を打ってぶち殺す。あるかどうかも分からない隠し扉を探したり、何かしらの痕跡を見つけようとするなど、無駄な時間を費やすわけには行かない。

 ……つまり、


「いくぞ、比奈坂」


 未だにとある死体の前で動かぬ彼女に声をかける。

 その死体が誰のものかなんて分からない。

 その死体と彼女との関連性なんて分からない。

 その死体が何故死体となったかなんて分からない。

 ただ。今はその死体に関わっている時間も惜しいから。

 俺は無理矢理に、比奈坂の意識を俺に向けさせる。


「とっととチカを殺しに行くぞ」











 あの死体は、比奈坂と同じ境遇の子だったらしい。

 名前はミッチー。

 チカにそう呼ばれていただけで、本名は不明との事。

 比奈坂よりも先にチカに使役されていて、チカの一番のお気に入りの屍人。


「お気に入りなのに殺した、或いは殺されたわけか」


 俺の言葉に比奈坂は頷いた。

 ミッチー。クラスはデビルサマナー。レアクラスな上に有能なこともあり、大半の時間を一緒に過ごすくらいにお気に入りだったらしい。それこそ、寝食を共にするくらいに、ずっと。

 だが、死んでいた。

 生者としてだけではなく、屍人としても彼女は死んでいた。

 主だった外傷はなく、或いは戦闘痕も、抵抗の痕すらも無く。

 死んでいた。


「自分の意思で死んだって事はあるのか?」

「ネクロマンサーに使役された屍人は、自分の意思だけじゃ死ねないよ。裏切りとかにあったのかもね」

『イリスさんの言う通りです。まぁ、隷属ですからね』


 入須の言葉をミリアが肯定する。確かに勝手に死なれたら隷属の意味が無いし当然だろう。

 だとすると……チカが殺した?


「……チカが能力だけ奪い取った、てことかもな」


 思い出すのは、あの禁足地でのネムとチカの会話。

 ネムの部下が殺され、その能力がチカに使役された旨の発言。

 真偽はともかくとして、チカは自分の支配下に置いた屍人の能力を使う事が出来る可能性が高い。


「キョウヘイ達への対抗策として、か」

「推測でしかないけど、多分な」

「愚かだね。その他の有象無象はともかくとして、シグレがそれくらいで止まると思っているのなら、その想像力の狭さ自体が罪だ。速やかに皆死ぬべきだね」

「相変わらず気持ち悪いじゃん」

「君から殺そうか?」

「ダッサ。本当に殺したければ先に手を出すよね」

「止めろ馬鹿共」


 こんな状況だと言うのに、入須とライオットは相変わらずの仲の悪さである。もう慣れたけど。


「デビルサマナーって名だけを聞くと、魔物とか魔族も支配できるんかな」

「うーん、実力次第ってところじゃないかな。まぁ今のチカさんなら低級の魔族までの支配は出来るかもね」

「じゃあラヴィアたちは平気か」

「支配はね。でも魔族や魔物への特攻能力が付くから、戦闘能力は大幅に上がるよ」

「鉢合わせれば無事では済まないと」

「橘さん側の魔族の実力次第だけどね」


 まぁそうだよな。そこは戦ってみないと分からない。と言うかそもそも俺が先にぶち殺しておけば戦うまでもないから問題もおきない。余計な事を考える必要もなくなる。


「とりあえず広間へ急ごう。……もう起きた事を感づかれているのかもしれないけどな」


 多分だが。チカは誰のことも信用も信頼もしない。先ほど捨て置かれた一番のお気に入りであるという屍人だってそうだが、そもそもアイツは敵と断じたら迷いなく殺しに来るタイプだ。そこに情が生じることはない。

 だとすれば、口では比奈坂を監視に付けると言って置きながら、別に監視できる何かを準備していても何も不思議ではない。寧ろそうされていると考えた方が良い。支配を上手く逃れている比奈坂ごと、俺たちを殺して改めて支配下に置く。それくらいはするだろう。

 なら隠れても仕方がない。


「ライオット、先行して暴れてくれ。幾らでも魔力を持って行って構わない」

「元よりそのつもりだよ」


 頼もしい事だ。言うが早いが、ライオットは自身の背丈ほどの大剣を軽々と担ぎ直し、神速と言って差し支えない勢いで先を行く。本当に頼もしい事だ。


「……アレを先行させて本当に大丈夫?」

「イカレ野郎だが実力は折り紙付きだろ。チカ単体なら圧倒できる」

「いやまぁ……そーかもしれないけどー……」


 歯切れの悪い入須の言葉。何か気にかかるのだろうか?


「アイツって橘さんの魔力で動いているけど、くくりとしては亡霊なの。だから、多分デビルサマナーからすれば格好の得物と言うか、使役対象と言うか」

「……相性最悪ってことかよ!」


 そう言う事は先に言ってくれ! 悪態を吐きたくなるのを飲み込み、慌ててライオットの後を追う。もしも入須の言葉が正しければ、貴重な戦力を無駄に失いかねないわけだ。

 階段を駆け上がり、魔力の残滓を辿る。俺の魔力で動いているから、追う事は容易い。ただ今から追い付くことは絶望的なわけで、


「~~~っ、ミリア!」

『はいっ!』


 魔力を加速に使う。入須も比奈坂も一旦置いて、全速力でライオットの元へ。幸いにして今いる場所の造りは一本道なので、迷いはしない。もう目前には開け放たれた扉。


「カバー、頼む!」

『突っ込んで下さい!』


 言うが早く、俺の身体を薄く覆う影鬼。チカに見つかったら終わりとは比奈坂の言葉。これでどこまで回避できるかは分からないが、それでもやらないよりはマシだろう。

 覆い終わると同時に、広間へ。

 飛び込んだ先には、


「――――ガッ!?」

「やはり、来ましたか」


 誰かを視認、するよりも先に顎に衝撃。ぐるりと回る視界。思わずたたらを踏めば、追撃の黒い影。


「ッ!」

「……ふぅん」


 咄嗟に掲げた左腕は容易く弾かれる。僅かに軌道を逸らすことしか出来ず、そのまま肩に重たい一撃。その衝撃に逆らわずに一回転するようにして、少しでもダメージが蓄積しないよう、逃すことを試みる。


「――――づっ!」


 が、間髪入れずに再び衝撃。逃すことはできず、わき腹に一撃。耐えることは諦めて、そのまま弾き飛ばされることを選択。無様に転がったその視界の端で、追撃に移ろうとする――――いや、移った小柄な人影を確認する。

 カウンターを狙うなら……今しかないっ!


「っ!?」

「ッ!」


 左手一本で無理矢理体を起こす。僅かに回復した大量をつぎ込み、飛び掛かって来た相手に、身を起こした勢いをそのままにカウンターの蹴りを見舞う。狙いは勿論、一撃で戦闘不能に追い込むべく頭部、或いは首。

 だが……ポイントをずらされた!

 予想していた衝撃よりも幾分か柔らかく、そして鈍い感覚。骨を蹴り砕いた感覚ではない。恐らくは胴体や四肢。肉体に衝撃を吸われる。


「チィィィッ!」


 漏れ出た悪態。蹴りの勢いのままに体勢を立て直せば、予想通り同じタイミングで身体を起こした相手。……当然死んでもいないし、深手を負った様子でもない。

 青髪の、ネムやミリアと同程度の小柄な女の子。

 全力のカウンターのつもりだったが、どうやら大した痛手も受けていないらしい。……流石にちょっとショックだ。


「……キョウヘイ・タチバナ。貴方が聖女様の兄を騙る俗物ですね?」


 疑問の体の言葉だが、語調は殆ど断定だ。完全に決めにかかっていやがる。そして内容的にもどうやらカタリナと同じイーリス教の関係者ってところのようだ。


「部分的にNo。本物の兄だ」

「そうですか」

「っ! ……ったく」


 真偽のほどはどうでもいいらしい。言葉と同時に何かを投げつけられる。頭部を狙った暗器のような投擲物。それを首を捻って避ければ、その一瞬で距離を詰めに来られる。

 蹴り。その小柄な体躯からは到底想像もできないような威圧感と共に、引き続き頭部を狙い澄ました鋭利で重い一振り。

 だがこれもブラフ。次の手を隠す撒き餌。

 本当の本命は……


「なるほど……隊長では太刀打ちできないのも納得です」


 魔力の塊。俺が蹴りを止める事を前提に、接触した箇所を支点にして空中で体勢を捻り、真正面から塊をぶつけられる。

 その衝撃に合わせて、後方へ飛び退く。魔力の塊は受け止めるのではなく軌道をずらして対処する。最小限の力で最大限の効果を得なくては、とてもではないがこの相手は斃せない。


「……っとうに、よくもまぁ次から次へと」


 呆れを隠すなんて、そんな器用な真似は出来ない。愚痴に一つでも吐かなきゃやってられない。

 青髪のチビ。出会った記憶は無いが、発言から察するにどうやら面識があるようで。

 我ながら随分と恨みつらみを買っているようだ。


「……まぁ、ぶっ殺せばいいか」

「聖女様の兄とは思えぬ粗暴さですね。やはり偽物ですか」

「好き勝手言っていろ。アンタと言いカタリナと言い、不意打ち食らわしてくるような相手に払う礼儀なんて持ち合わせてないんだよ」

「あの程度も防げない相手であれば対話以前の問題でしょう」

「肉体言語が過ぎるぞ。これじゃあどっちが粗暴か分からんな」

「聖女様を攫って国を壊滅させた身分でありながら粗暴ではないと?」

「そこは否定するつもりはない。どうあれ結果だけ見ればそう捉えられても仕方ないからな」

「鬼神のせいにしないのですか? 意外と物分かりが良いのですね」

「ほざいてろ。客観的に判断するならって話だ。有象無象の意見なんか、俺からすればどうでもいい」


 ぱんぱんぱん。会話を紡ぎ、服の汚れを払いながら息を整える。どういう了見かは分からないが、話しに乗ってくれるのなら利用するまで。乱れた息を、ゆっくりと平常に戻す。


「と言うか、先に俺の連れが此処を通ったと思うんだが。アイツはどうした?」

「大剣を担いだ金髪の少年ですか。彼なら素通りさせました。別にどうでも良い人なので」

「どうでもいいか……じゃあ俺も素通りさせてくれないか?」

「それは無理です。私の目的は最初からあなたですから」


 まぁそうだろうなぁ。でなきゃ初手から襲ってくる訳がない。

 一佳の事を話しに出すあたり、多分教会関係者だろうし……俺への復讐が目的ってところだろうか。


「……念のため確認するが、その目的とやらは後回しにする事は可能か?」

「いえ、許しません」

「可能不可能じゃなく許さない、か。どんだけ恨まれているんだ、俺は」

「いえ、別にあなたに恨みはありません」

「あ゛? ……じゃあ義務で俺を殺すってか」

「いえ、そういうわけでもありません」

「はぁ?」


 いきなり話が見えなくなった。俺に対しての恨みつらみで動いているんじゃないのか? 一佳を連れ去った事とか、結果的に聖教国が壊滅した事とか。


「ところでですが、聖女様は元気ですか?」


 ……余計に訳が分からん! 何故此処で一佳が元気かどうかが出るんだ!?


「……こんな殺し合いに巻き込まれて元気だと思うか?」

「この状況で元気なわけが無いでしょう。聖女様は心お優しい方です。あなたのような心を失くした野蛮な人間と一緒にしないで下さい」

「……おいおい、ちょっと待ってくれ。言葉通じているよなぁ? 質問の意図がさっぱりなんだが」

「今お元気が無い事など分かり切っています。心苦しい思いをされているのでしょう。辛い思いをたくさんされているのでしょう。……私は聖女様がイーリス聖教国を離れた後の事を聞いているんです」

「……なら最初からそう言ってくれねぇかなぁ!?」

「言ったでしょう」

「言ってねぇ! ……ねぇ、よな?」


 ダメだ、混乱してきた。ミリアは肯定してくれるが、それとこの青髪のチビとの意思疎通が図れるかは別問題だ。

 というかアレだ。この疲労感。なんというか、ライオットと会話している時と同じような感じがしてきた。正論が通じないところとか、自分本位なところとか。こいつもなんかアレと同類な気がする。


「……気にはしていた。抱え込んだことを放り投げていなくなる事をな」

「そうですか。ふぅん。……でも捨てたんですね」

「……あ゛?」


 ピリッ、と。空気が変わる。より鋭利に。より怜悧に。

 それからチビは、どこに隠し持っていたのか、自身の背丈よりも大きな大槌を構える。狙いは、勿論俺に向けて。


「あなたを死なない程度にボコします」

「……またいきなり随分な脅しで。ま、そりゃ聞けない相談だけどな」

「拒否権はありません。ボコした上で、聖女様を引きずり出します」

「拒否権云々の前にコミュニケーション能力を磨いてくれねぇかなぁ……」


 軽口を叩くのはイイが……厄介な相手だな、これは。今までの雑魚とは違って隙は全く見えない。ライオットやサイ程とは言わないが、アイツらに準ずる実力はあるだろう。チカを倒しに行く前に、また面倒な事に巻き込まれたってわけか。

 相手に呼応するように、俺も拳を構える。さて、右腕が使えない状況でどれだけ相手取る事が出来るか……


「安心してください。死にかけても、回復させますから」


 全く安心できない言葉である。つまりはぶっ殺す直前まではボコる気満々ってわけだ、このクソガキ。


「嫌なこった。……せいぜいテメェが死なない様に気を付けろよ」

「抵抗するつもりなんですね。構いません、お好きなように。……それと、私の名前はあんたでもテメェでもありません」

「じゃあなんだよ。だったら名乗れよ」

「私の名前はウル。あんたでもテメェでもあれでもこれでもそれでもウルファでもない。聖女様に賜った、大切な名前です」

「あっそ。どーでもいい。這いつくばらせてやるからさっさとかかってこい、チビ」

「……ボコす」



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