7-15
月曜日に投稿予定でしたが、間違えて火曜日になっていました。
普通に気が付かず申し訳ございません……
※22/9/27 誤字脱字修正
仲間が増えた。
けど、それがこの状況を打開するとは限らない。
相変わらず俺は氷漬けで、外部からの助けが無いと復活は絶望的。
将来への投資は済んだがそれだけ。
少なくとも、俺はそう思っていた。
「あー、それと、一つ。運がいいのか悪いのか分からないけど、助かるかも」
さぁじゃあこれからどうしようか。そんなことを議論しようと思った矢先に、入須から意外な言葉が出てくる。……何とも不穏さが見え隠れする響きと共に。
「助かるかもって、どういう事だ?」
「えーとね。イーリス側に橘さんに執心している人が1人いるんだ。……その、まぁ、私が来れたのもその人のおかげでもあるって言うか」
随分とはっきりしない言い方だ。けど、はっきりされても困る気がする。何せ俺にご執心ときたら、シグレやカタリナみたいな大迷惑筆頭の奴らの顔が思い浮かぶからだ。
「なんというか、その、呉越同舟みたいなね。うん」
本当に歯切れの悪い言い方だ。というかまぁ予想はしていたけど、呉越って事は敵なわけか。
……話は変わるが、思えば此処にいる面々は、入須は仕方ないにしてもミリアもライオットも一度は敵対しているやつらだ。というか参加メンバー全体を見ても一佳とアリアくらいだ、最初から味方なのって。あとは遊仙くらいか。今更ながらにすげぇな。
「理由はどーでもいいさ。助かるんだな」
「あぁ、まぁ、うん」
「ならいいさ。元々選択肢ないんだ、贅沢は言えないだろ」
「まぁ……そうなんだけどね。もう進んじゃっているし、何なら確保されているし」
「確保?」
また不穏な言葉である。何が何やら。味方と言い切れるほどの純粋な仲間枠では無さそうということしかわからないが……
「先に言っといたからね。目覚めてから文句は無しだよ」
「イーリスに助けられている、ってわけじゃないよな?」
「断じて違うよ」
ならいいさ。さっきも言った通り、選択肢は無いんだから。
そうこうしている内に、皆の姿がうっすらと透け始める。世界も色彩をゆっくりと失っていく。
「目覚めが近い、ってことか」
「うーん、そうだね。まぁ、目が覚めるって一点だけなら悪いようにはならないよ、多分」
「キョウヘイさん、やっぱりこの人引き入れたの間違いですよ」
「本当の彼女がボクの知るイーリスなら、あくどい手は使えないんだけどね。まぁ或いは染まったのならとやかく言うまい」
「うっざ。2人ともうっざ」
最後の方で再び一触即発めいた空気になるのを無視して、目覚める事へ意識を集中させる。
さてはて、鬼が出るか蛇が出るか。
ま、なるようにしかならんわな。
■ 妹が大切で何が悪い ■
目覚めは唐突だ。
先ほどまでの内部での会話が霞むかのように。或いは遠い昔の出来事かの様に。
急浮上する意識に持っていかれる様に。夢が霧散していくように。
それまでの全てが置き去りにされる。
「……あ゛ー、おっも」
我ながら陳腐過ぎる第一声だと思う。
身体は勿論の事、意識も、魔力も、何もかもが全てが重い。
先ほどまでの内部でのゴタゴタとはえらい違いだ。
酷い目覚め。今までのどんな目覚めよりも比べ物にならないほどに。
四肢の機能を確認して、相変わらず動かない右腕に溜息を零し、辛うじて動く左腕を使って身を起こす。
ここまでで、多分たっぷり3分は使っている。
「ハァァァァ……さぁて……どこだ、ここ?」
わざわざ疑問を口にしたのは、意識内で疑問を終わらせないため。意識の中だけでの言葉なんて、簡単に消えてしまうから。
霞む思考、重い頭、鈍い働き、その全てに潰されない様に、疑問を己に強く意識づける。
それから状況を認識しようと周囲を見様として、
「……あ? 素っ裸じゃん」
遅れて気が付いた。服、何も着ていない。上着とかだけじゃく、靴下や下着も、何もかも。まっさらの真っ裸。生まれたての姿か……いや、解剖前の死体だな、これじゃ。
反射的に出てきた言葉は、実にこの状況にミスマッチで、呆れを通り越して笑いが込み上げてきそうだった。
「ったく……腹減った」
一度でもバカみたいな言葉を零せば、次に出てくる言葉もたかが知れているというもの。
立ち上がり、周囲を見渡して。此処が何の変哲もない部屋であることを確認し。
それから思ったのは、純然たる三大欲求の一つだった。
俺の言葉に呼応するように、腹が鳴く。主張するように、五月蠅いまでに、盛大に。……生きている、そして生きようとする証だ。
「起きたんですね」
驚きに声こそ上げはしなかったが、その存在に気が付いてはいなかった。というか驚く体力するなかったと言う方が正しいのかもしれない。
突然の聞き覚えのない声。
のっそりと、ゆっくりと。
声の方向に目を向ける。
そこにいたのは、当然ながら見知らぬ少女。
「君が助けてくれた……ってわけじゃなさそうだな」
驚く時間がもったいないので、疑問をそのままにぶつける。と言っても、後半は自己判断からの断定口調になったが。
ともすれば失礼に値する言葉かもしれないが、別に確証もなしに断じたわけじゃない。
仮に彼女が助けたのなら、もっと何かを言って来るだろう。もっと先に声をかけてくるだろう。もっと言葉に感情が乗るだろう。そしてわざわざ俺が落ち着くのを待ちはしまい。
加えて、俺の発言に対して何のアクションも見せない。無感情、無感動、無表情のまま。ともすればこの少女は、「生気の見られない」と言っても差し支えの無い様相だ。
「察しが良くて助かります。助けたのは、御主人様です」
「なるほど……じゃあ俺が目覚めた事を、これから君はその御主人様に報告しに行くわけか」
「いえ、行きません」
「は?」
思わず疑問に声が出る。でも仕方が無いだろう。幾ら何でも予想外の方向に急に舵を切られる。どういうことだと、脳内を瞬く間に疑問が席巻した。
「状況だけ説明します。今御主人様に会いに行けば、貴方は終わりです」
「おぉ……そりゃアレか? 殺されるってことか?」
入須は、呉越と言っていた。つまりは純粋な味方ではない、寧ろ敵である。
となれば。この場所が敵地の真っ只中であると。イーリス側の拠点、ないしその近くであるというのは、容易に想像は出来る。ならば俺が会いに行けば、ノコノコと敵が来るようなもんだから、イーリス側からすればぶっ殺しにかかりに来るだろう。御主人様とやらが何を目的として俺を氷漬けの状態から回収したかは分からないが、出て行って良いことにならないであろうことは理解できる。
「いえ、私たちの様に、永久的に奴隷にされます」
「は?」
……想定外の言葉が出てきた。何て? 奴隷? 何故?
「疑問は後で。まずは移動を」
いやいや待て待て説明してくれお願いだから最小限でも良いから。
そう言いたいが、それよりも先に少女は俺の手を握る。ぐるりと回る視界。
どさり、と。全く異なる感覚を背に感じ。先ほどの小部屋とはまた違う内装を見て。
どうやら俺は別の場所へワープしたらしいと。疑問よりも先に、そう察する。
「服はこれを。下着もシャツもスラックスも全部死体から剥いものですが、無いよりマシかと。洗っていますし」
「お、おお……」
「食事はこれを。パンと、回復薬。今はこれで我慢を」
「いや、まぁ、助かるけど……」
疑問はある。信じるべきかの迷いも当然ある。
だが、断ったところで状況が良くなるわけじゃ無いのは事実だ。
というかスラックスとワイシャツって……もしかしなくてもこの子も俺たちと同じ世界から来た子なのだろうか。
……疑問は一先ず置いておき、パンを回復薬で流し込む。味も風情も何のへったくれも無いが、今はこれでいい。
「状況分かんないんだけど、説明はしてくれるのか?」
「勿論。タダで助けたわけじゃないですから」
「見返りは当然求めるってことね」
まぁその方が分かりやすくて助かる。と言うか善意の無報酬で助けられる方が困る。
この子自体に何の見覚えも無いが、きっと入須の言っていた事に関係はしてくるのだろう。……一先ずはその見返りが何を指すかを知りたいところだ。
「サイトウチカ。ご主人様の名前。……聞き覚えはありますね?」
……いきなり核心来たな。パンの咀嚼を思わず中断する。いや、ヴァネッサの時に屍人だの隷属の話が出た時点で、何となく予想はしていた事だ。ただ、あまりにも急すぎてちょっと理解が追い付かないだけ。
斉藤千歌。同時期にこの世界に来た、同期の1人。そして俺の目的のために一度は殺した相手。大量の屍人のみならず、魔族すらも支配下に置いていたネクロマンサー。
イーリス聖教国に行く前の、あの禁則地で。確かに首の骨を折って殺したつもりだったが、どういうわけか殺し損ねていたらしい。
「御主人様はキョウヘイさんにご執心です。キョウヘイさんを助けたのも、奴隷にしたいから。そして御主人様の目論見は、既に半分は達成しています」
「……アイツって、確かネクロマンサーだっけ。奴隷にする目論見が達成されているってことは、もしかしてだけど、今の俺って屍人になってるってことか?」
「いえ。まだです。ただ蘇生をしただけ。貴方は生者です」
「……屍人じゃないんだな」
「はい。但し、すでに魂に隷属の術は刻まれています」
あぁ、なるほど。そりゃ最悪だ。疑問よりも先に納得を覚える。俺が無防備に寝ている間に、隷属の魔術を刻まれたと。それも魂に。人の承諾も得ずに。何て理不尽な。
「隷属の術が十全に機能するには、御主人様が目覚めた状態の貴方に会う必要があります」
「なるほど。だから会ったら終わりだと」
「はい。永久に奴隷となれば、もう戻ることはできません」
「彼女の言葉は本当です」。頭に響くミリアの声。なるほど、ミリアまでそう言うのであれば信じるべきだろう。呪術関係においては、一番彼女が詳しいのだから。
「キョウヘイさんは仮死状態でした。まだ魂が完全に抜けきっていない状態。だからこそ屍人ではなく生者として戻れたわけであり、完全に自由意思を剥奪される手前で留まっていられています」
「完全に死んでいたらアウトだったわけだ」
それこそ、カタリナに蘇生させられ、無理やり使役されていたヴァネッサのようになっていたかもしれないわけだ。寸でのところで回避できたことは幸運と思うべきなんだろう。
「完全に死んでいれば、物言うことを許されぬ、それでいて高性能の屍人となっていたでしょう。それはそれで御主人様の歪んだ欲望のはけ口にされていそうですが」
「心休まんねぇ話だな」
思わず零れる本音。理由は考えたくも無いが、チカは随分と俺にご執心らしい。カタリナと言い、さっきの仇討ちで人の命を狙ってきたやつと言い、復讐心に駆られたやつってのは執念深くて困る。
「まぁいいや。で、アンタの名前は? それで俺を助けた目的はなんだ?」
聞きたいことは聞けた。暗に時間が無いと言われている事も理解した。そして彼女が、味方かどうかは置いておいて、チカの事を快く思っていない事も把握した。
ならば次に聞く事は限られる。正体と、目的。
そんな俺の問いに、相変わらず無表情を貫いたまま、少女は口を開いた。
「私の名前はマリ。比奈坂マリ」
「目的は、御主人様を殺して自由になる事です」
■
比奈坂マリ。一佳と同い年の、16歳。
彼女も俺やチカと同じく、ゲームの世界に入れると言う噂話を試して、この世界に来た。
そしてなんの因果か、この世界に来てすぐ敵に襲われたのも一緒。
ただ一つ違ったのは。俺は逃げる事が出来たのに対して、彼女は瀕死の重傷を負い動けなかった事。
そして助かる為に、チカの手により不当な契約を結ばされてしまった事。
「私が他の皆と違い、完全に隷属していないのは、私のクラスがビーストテイマーだからです」
そう言う彼女の足元に、ちろちろとネズミが数匹駆け寄る。
「ビーストテイマーの固有スキルで、私は契約内容をこの子たちに分ける事が出来ました。だから影響が薄く済んでいます」
クラスの事はよく分からん。だが比奈坂曰く、ビーストテイマーのクラスは、猛獣を隷属させる以外にも、その猛獣をパワーアップさせたり、或いは自身にかかった異常を分散化させて軽減させることが出来るのだと言う。
分かりやすく捉えるのなら、チカのネクロマンサーの、生きている動物版ってところだろうか。そう言ったら多分ブチギレるだろうから言わないけど。
「なるほどね。比奈坂は隷属の影響を軽くすることはできても、大本であるチカへの反抗まではできない。だから俺を使ってチカをぶっ殺して自由になりたいわけだ」
「直接的な表現をするのであれば、仰る通りですね」
肯定。ただその顔には、不服と言わんばかりの感情がありありと見て取れる。……面倒な奴だな、もっと清廉潔白な言葉が好みってか? だが自由になりたいってことはそう言うことだろう。
「悪いな。言葉を正せるほど余裕が無いんだ」
「……いえ」
比奈坂の意図はともかく、現実問題として今の言葉の通り俺には余裕がない。
回復薬とパンで最悪の状況は脱したが、以前調子は悪いまま。
若干右腕の感覚が戻って来ただろうか、というレベルなのだ。これじゃチカへの相対も難しいだろう。
と言うかアイツが支配下に置いているであろう敵を考えると、俺とミリアとライオットと入須だけじゃ心許ない。
単体の実力が低かろうと、数の暴力で潰される可能性は大いにあるのだ。何せ禁足地の屍人の殆どを支配下に置くような奴なわけだし。
「ベストコンディションなんて口が裂けても言えないが、今の状態で頑張るしかないか」
天井を仰ぎながら零した言葉の、その力の無い事。その情けなさに自分のことながら涙が出そうだ。
「一つ一つ問題をクリアにしていきたい。チカは何時俺たちの事に気付くかは分かるか?」
「監視役に数匹置いていますので、あの部屋に近づいて来れば分かります。勿論足止め出来ないので、近づかれる=気づかれることになりますが」
「そうか。この部屋は最初の部屋からどれだけ離れている?」
「あまり離れていません。二部屋程、ですね」
そうか。そりゃ……逃げ場はないな。
出会ったらアウト。バレてもほぼアウト。逃げ場も隠れる場所もなく、人海戦術で捜索をされたらおしまい。
そんな中で、どうにかして俺がアイツに出会わない様に、そしてバレた時に対抗できるように手を考えないとならないが……
「なるようしかならんわ」
早々に策を考えることをあきらめる。元よりそこまで此方と頭の出来はよろしくないのだ。
重い腰を上げ、溜息を吐く。今更無傷無戦闘で助かるなんて、そんな都合の良い手を考えても仕方がない。
とすれば、
「ライオット、行けるな」
「いきなりご指名かい? 人使いが荒いね」
名指し、と同時に隆起する俺の影。そして現れるライオット。さっきまで見ていたのと同じ、金髪で小柄で生意気そうな野郎が出てくる。……癪だが、今俺が使役できる中で最も強力な手なんだ。サイへの対抗策として取っておきたかったが、そうも言ってはいられない。
「入須……はどうだ? いけるか?」
『雑魚屍人相手なら。これでも元聖女ですから』
「じゃあ出て来い。新人のお手並み拝見だ」
もう一体。隆起して現れる影。入須。疑わしさは残っているが、その好悪でえり好みをしている余裕は無い。今は猫の手だって必要だ。
「ミリアは俺のサポート。及び、こいつらへの魔力供給も頼む」
『さらっと難題押し付けますねぇ……』
「頼む」
『やりますよ! もう!』
ぶつくさと言葉を零しつつも働いてくれるミリア。相変わらず身体は重いが、さっきまでよりは幾分かスムーズに魔力が流れ始める。この分なら、2人を使役するのであれば、何とか可能だろう。
「……その、もしかしてですが」
「ああ、多分そのもしかしての通りだ」
比奈坂が信じられないとでも言いたげな視線を投げてくる。だが、
「待っていてもジリ貧なんだ。まだバレていない内に、先手を取って潰す。何か意見は?」
「無いね」
「まぁ、そうなるよね、って感じ」
ライオット、そして入須の返答。
それを聞いて、あからさまに比奈坂は顔を崩した。
失敗したとでも言いたげな、随分と失礼な顔だった。




