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7-12

7章開始時点での予定ではあと3話くらいで終わらすつもりでしたが、多分終わらない…

切実に計画性が欲しい。


※22/06/25 誤字脱字修正

『いないね』


 扉を開ける。

 だがその先には、誰もいない。

 シグレも、サイも、或いは他の皆も、敵すらも。


『2人とも先に進んだのでしょうか?』

『その可能性は高いね。しかし何故シグレはあの大バカ者と一緒に……よし、殺そう、アイツ』

「会話になってねぇんだよ」


 ライオットが落ち着いたおかげで、気分が幾分かはマシになった。が、コイツの存在自体がノイズと言うかマイナスと言うか、あの某育成対戦冒険ゲーム風に言うところの常時猛毒状態(精神に対して)みたいなものなので、ゴリッゴリに削られている。俺が。色々と。

 今だってミリアの言葉に対して続きを担ったようで、明後日の方向へ会話の内容を飛ばし、最終的には殺意をまき散らしている。そしてその余波を喰らうのは、まず最初に俺なのだ。脳みそに、心臓に、神経に、精神にダイレクトアタック。血反吐を吐きそうだ。


『今こうしている間にもシグレがあの阿呆の毒牙にかかっているかもしれない……急ぐぞ、キョウヘイ、アイツを殺そう』

「そんな簡単にシグレが殺されるかよ」

『そんな事当たり前だろう? だけどその陳腐な脳みそで考えてみたらどうだい。シグレに付きまとうあのハエのような存在を。うるさく付きまとう害虫の事を。あぁ……なんて可哀そうなことか! すぐにシグレの元に行かないと!』


 もわんもわんもわん。そんな擬音と共に脳裏に過るシグレの姿。なんか色々と光っているシグレと、その周りをブンブンと飛び回るハエ。ご丁寧にハエの顔の部分はサイになっている。どういう絵面だ、これ。

 何故かは分からないけど、珍妙なものを想像してしまい、吐き気を覚える。サイはともかくとして、キラキラ光るシグレとか何なんだよって話だ。


「……何だっていいさ。進むぞ」


 げんなりとした気分のまま、次の扉を開ける。

 この先に少しでもマシな状況が待っている事を願って。

 ……自分の意思が介在しない物事に祈るなんて、我ながら弱気なもんだよ。











■ 妹が大切で何が悪い ■











 今まで通ってきた部屋は、どこも一貫性が無かった。

 西洋風の部屋だったり、どこかの跡地だったり、闘技場だったり、金網だったり……

 とは言え、元々室内はランダムで入れ替わると聞いていたので、そこは気に留めるもんじゃない。ダンジョンみたいなもんなんだから、そこを気にしても意味は無いのだ。

 そう、ダンジョンみたいなもん。

 つまりは、逆に。あのマノのダンジョンと同じような事が起きても不思議じゃない訳で。


『ふぅん、これはまた珍妙な扉だね』


 興味深そうに、ライオットが発したその言葉。それに返事はおろか相槌も打つ事も無く、俺は目の前の3つの扉を見た。

 ……鉄製の、ボタンで開閉する扉。

 この世界ではまず見る事のない、扉。


『部屋の造りも大きく異なりますね。私たちよりも、キョウヘイさんの方が馴染み深かったりしますか?』


 ミリアの推測は大当たりだ。ミリアやライオットよりも、俺の方がこの扉には馴染み深い。元の世界では、ほぼ毎日どこかしらで必ず目ににしたし、なんなら使ってもいたから。

 返事の代わりに、傍のボタンを押す。

 エレベーター。

 同じ階に止まっていたので、すぐに真ん中の扉は開いた。


『ボタン一つで開閉する扉か。意匠からして、稀人の世界の代物ということかな』

「大当たりだよ。……何でこの場所に再現されているか分からないけど、コイツは俺の世界での代物だ」


 中を覗くが、特におかしな点は見られない。ボタンはこのエレベーターが、B2Fから12Fまで行けることを示している。

 一旦外に出て、他の2基も同じように見てみるが、造りは何も変わらない。


「こいつでこのボタンの示すところへ行ける。今俺たちが居るのはこの3ってところだから、あと13通りだな」


 細かい説明は今する事では無いので、端的に行先を選べる事だけを伝える。勝手に決めて後でとやかく言われないようにする為だ。……今のこの不調状態で、ライオットにまた気持ち悪い言葉の羅列を喰らったら、我慢できずにぶちぎれるかもしれん。色々と。


『ふぅん……これの役割は、移動するだけということか。それも駆動音から察するに上下に。便利なものだね。とすれば、この数字は階数か』

「まぁそんなもんだ。説明要らずで助かる」


 ライオットの理解力の速さに内心ではドン引きだが、それをなるたけ表面には出さずに流す。碌な説明をしていないのに、どうしてそこまで分かるんだよ。


『この道具一つで、君たち稀人の世界が如何に高い技術力を持っているかが良く分かる。そして君たちの世界には、本当に魔法と言う存在が無いのだな』

「御明察の通りで。まぁ魔法なんて便利なものがあったら、こんな発明は無かっただろうさ」

『それは分からないだろう。方向性や速度は異なれど、どの分野においても進化は必ずある。無いと決めつけるのは尚早じゃないか』


 ……珍しく含蓄のある言葉を聞いた気がする。もしかしてだけど、シグレさえ絡まなければ、割とこいつは常識人枠に入るのだろうか。思えばコイツがヘンテコな言動をする時は、決まってシグレに話題が及ぶ時だし。いやいや待て待てそんな簡単に絆されるな馬鹿野郎。


『だが、これで一つ納得がいったことがある』

「あ?」

『君や元のイーリス以外にも、何人か稀人に出会った事はあるが、皆一様に魔法と言う存在に並々ならぬ感情を向けていた。今思えば、あれは憧憬によるものだったのかもしれないね』

「憧憬? ……なんでだ?」

『君たちの世界に魔法は無かったのだろう? 存在しないモノに対して人が抱くのは、憧憬か恐怖だ。尤も、些か皆憧憬に偏り過ぎだとは思うけど』

「確かに魔法は存在していない。魔法なんてのは、俺たちにとってはフィクションとして、物語の世界に存在する言葉だ」

『だけどこの世界に魔法は実在する。……尚更合点がいったよ。知識として有しているだけだったのに、力として振るえるとなれば、それは飛びつきもするだろう』


 言われてみれば。俺が出会った面々は、皆魔法に関係するクラスだった。始まりのあの時だって、皆それぞれクラスは異なれど魔法関係だった。寧ろ魔法に関係しない自分は、奇異の眼で見られていた記憶がある。


『まぁ不合理の塊だとは思うけどね。扱った事のないものを急に十全に扱えると思い込むのは、ボクには自殺行為にしか思えない愚かさだよ』


 やれやれ。そう言いたげな口調。まぁコイツもシグレ程じゃないけど戦闘狂みたいなもんだしな。価値観は人それぞれとは言え、戦闘に重きを置いているコイツにとっては、言葉の通り不合理でしかないんだろう。


『その点君はまぁ最低限の基準はクリアできていると言ってもいい。地の力に沿って能力値を伸ばしている。実戦を意識した思考回路は、確かにそこらの有象無象とは異なる事を認めよう』

「はいはい。じゃあとりあえず4F行くぞ」


 ライオットの戯言は流して4Fのボタンを押す。話が脱線していたが、そもそも俺は次の行先を決めたいのだ。2人(と言うよりライオット)が特に案を出すつもりが無いのなら、俺は自分の行きたいところを選ぶだけだ。


「順々に上がって行くからな」


 上を選んだ理由はただ1つ。

 俺たちはこの階層に、落ちてきている。

 なら、一佳たちがいるであろう上の階層に向かうのは当然だろう?

 探し人のスキルが使えない今、こうやって地道に探すしかないんだからな。










 4Fに着いたが、内装はどこにでもあるビルの内部と言った感じだ。正面の壁には主な施設や営業所の名前がある。12F建てのこのビルでは、複数の会社が階数、或いは部屋を借りて活動しているのだろう。正直なところ、俺はまた洋風の館とか闘技場とか、そう言った全く別の階層に出ると思っていたので、この状況は意外だ。

 見て回ったところ、何処の部屋も変なところはない。

 誰かの気配はなく、形を真似だけの造りが連なり、何か特別なものもなく。

 そして外に面している窓は黒く塗りつぶされていて、外に出るにはエレベーターを使うしかない。

 そんな階層。


「……何も無し、か」


 給湯室だろうか。小さい部屋だが、冷蔵庫やポットや電子レンジのおいてある部屋。

 食べ物の一つでもないかと探してみたが、それらしいものは何も無い。

 蛇口を捻っても水が一滴も出ない徹底ぶりだ。


「形を真似ているだけ。どっかの誰かの記憶を、外面だけ投影しただけか」


 期待をしていたわけじゃないが、それでも無駄に終わると疲労をより強く感じてしまう。傍の椅子に腰掛けて天井を見上げれば、タイミングを見計らったかのように鳴るお腹。喉の渇きもかなり厳しい。


「次、進むしかないな」


 得る物が無いのに休んでも仕方がないし、何も特別なところがないのなら、これ以上この階にいても意味は無い。

 その旨を2人に伝える。2人とも特に反対意見は無く、短く承諾の言葉が返された。ならばと、足早にエレベーターまで戻り、


「……動いている?」


 移動階数の表示を見て、ボタンを押す前に警戒心を抱く。3基あるエレベーターは、どれもが動いている。右端と左端は回数は違えど上に、自分たちが乗って来た真ん中のは下に。

 そして止まったのは、右端から順に、11F、B1F、8F。


『自動で動くのかい? これ』

「動く場合もある。だけど、それは1Fに戻る場合だ。それ以外の階層に行くのなら、誰かしらの操作が必要だ」

『じゃあ3基とも、誰かしらが操作をしているって訳なんですね』


 その通りだ。味方か敵かは分からないが、このエレベーターから行ける範囲に、最低でも3人いるわけだ。

 好意的に考えれば、内2基はシグレとサイが使っているとも思えるが……


「近いのは、8Fだな」

『行くのかい?』

「行くしかないだろ」


 進むしかない。

 例え其処にいるのが誰であろうとも。

 俺には、進む他に道は無い。


「逃げても隠れても何も変わらん。行くさ」


 ルール通りなら時間は有限。それに手元のもので回復の見込みが立たぬ以上、留まっても意味は薄い。

 なら、体力が続く限り動くさ。


「8F。一番近くから行く」

『キョウヘイさんが良いのであれば私は気にしません』

『まぁ僕も異論はないよ。敵はさっさと殺すに限るしね』

「おう。じゃあ――――あ?」


 ボタンを押そうと。指を伸ばした、その直後。

 8Fにいたエレベーターが降りてくる。押す前に降りてくる。

 思わず――――そう、思わず。

 俺はエレベーターから距離を取った。考える前に身体が動いていた。

 そしてその行為の正しさを示すかのように、異変が形となって現れる。


「……寒い」


 寒気。怖気ではない。冬の日のような、寒さによる寒気。凍える様な寒気。先ほどまでは丁度良いどころか、若干暑いとすら感じていたのに。吐く息すら、白色に。

 紛れもない異変。

 そしてそこに思考を飛ばすよりも先に、答え合わせがやって来る。


 ピーン、ポーン。


 疑問に脳内が停止している間に、耳に届いたエレベーターの到着を告げる音。

 自覚と共に、より酷くなる寒さ。

 そして開く扉。

 吹き付ける寒風と共に、黒色の包帯のようなもので身を包んだ、見知らぬ相手が現れる。


「テメェは――――」


 まず間違いなく、味方ではない。

 直感、或いは本能でそう判断し、しかし情報を得るために口を開く。

 だが言葉が会話として成立する前に、常識外れの寒さが無理矢理に口を閉ざしにかかって来る。




「いることは分かった」




 一層下がる温度。




「アンタの事は、偶然だけど知っている」




 指先から温度が急激に奪われる。




「別に怨みも何も無い」




 寒さは、痛みに。




「でも、ただ、俺が死なないために」




 皮膚を通り越して、血液どころか骨の髄から凍るような。




「せめて、抵抗をしてくれるな」




 そんな。




「一瞬で終わる」




 ありえない。

 寒さ。











「――――っっっっざけんなっ!!!」


 振り絞り、怒号。そして回し蹴り。

 何故こんなにも寒いのか。コイツに原因があるのか。或いは他の何かなのか。イーリスの回し者なのか。

 その全てを除けて、敵と確信しての抵抗。

 だが俺の渾身の蹴りは、片腕で止められる。


「ッ! テメェ!」


 行儀よく、なんてするはずが無い。そもそも先ほどの口上の時点でコイツは敵である。此方が何かしら譲歩する必要性は一切ない。

 受け止められるのなら、もう一発。腕が動かないから蹴りが主体になるが、傷を負わせるならそちらの方が効率的である。

 だが俺の想いとは裏腹に、相手には全く勢いが届いていない。


「……諦めろ」


 再びの降伏要求。随分と上から見られたものである。

 だが言うだけの事はあり、俺の蹴りは全て器用にいなされるか防がれる。まるで動きを見透かしたかのような、気持ち悪いほどの防御技術。


「んな簡単に諦めてたまるかっ!!!」


 寒い。ただ寒い。

 そこには何の例えも比喩も出てこない。

 だが動かなければならない。

 動かなければ、冷えて倒れるだけ。


「テメェが死ねっ!!!」


 無理矢理に身体を動かす。疲労に寒さで動かしづらい事この上ないが、動かなければ死ぬ。抵抗しなければ死ぬ。今すぐに死ぬ。

 敵が目の前にいながら、それでも回し蹴りを選択したのは、遠心力を用いて少しでも威力を上げる為だ。普通に蹴るのではロクにダメージを与えられないと思ったからこその決断。

 だがその足は、簡単に受け止められる。


「もう抵抗をしないでくれ」


 抵抗しなきゃ死ぬだろうが!

 そう叫びたかったが、その体力すらも無い。開きかけた口を閉じ直し、受け止められた右足を起点に、無理矢理左蹴りをかます。

 ……だがそれも、不発に終わる。


「寒いだろう。……もう、眠れ」


 バランスを崩したことは分かった。視界が回って、見上げる形に。だがそれも白色に侵される。

 ふざけんな。そう口に出して己を奮い立たせたかったが、まるで自由が利かない。呪い返しを喰らった後のように、全く動かない。


「――――」


 口を開いた。

 だけど、音にはならなかった。

 それは俺が音を発せなくなったのか、それとも音を拾えなくなったのか、或いはその両方か。

 何も分からない。


「――――」


 何か言ってやがるな。

 眩んだ視界が一瞬だけ戻り、あの黒色の包帯の奴を映す。

 訳の分からない、だけど確実に敵であろう相手。


 だけど俺に分かったのは、それが全て。


 悪態を吐く事も。

 敵意をぶつける事も。

 身体を動かす事も。

 後悔を抱く事も。

 皆の事を考える事も

 一佳の無事を祈る事も。


 なにも叶わず。


 俺の意識は、白に奪われた。

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