7-9
最終投稿から1ヶ月以上空いてしまいました、申し訳ございません。
元々ここでは別にもう何体か新キャラクターが出てくる予定でしたが、詰め込み過ぎて訳が分からなくなったので書き直しをしました。当初の自分は、もう終わりが近いのに、これ以上風呂敷を広げてどうするつもりだったのか……
首を絞めて、落とす。
つまりは。気道を潰して、呼吸できない様にさせて、殺す。
完全に動かなくなったことを確認し、それでも尚締め続けて。
いい加減に左腕に力を込めるのも限界を迎えたところで。
そこで漸く、俺は腕の力を緩めた。
「あー……クソッ……」
ズルリと。緩慢な動きでライオットから離れる。足で立つのではなく、転がる様にして。右腕は未だ動く気配がない。
呪い返し。呪術の失敗による、ダメージのフィードバック。早い話が、人を呪わば穴二つってやつ。
さらに。込められるだけ込めた魔力に加えて、ライオットを殺すと言う、指向性を持った明確な殺意も加味して。
結果、今の俺の右腕は全く動かない状態になったってわけだ。
『右腕、ダメです。魔力も通りません』
「……そうか」
呪った分だけ、それが返って来る事になれば、より大きいダメージを受ける。ミリアからそうは言われていたが……これはかなりの痛手だ。片腕、しかも右腕が動かないのは、致命的と言い換えてもいい。
どうにか身体を反転させて、身体を起こす。重しを右腕に付けているような、そんな単純な話ではない。こんな簡単な動作すらも、酷く手間がかかる。
「ミリア、大丈夫か?」
『なんとか……』
実体化する元気は無いのだろう。疲労に満ちた声だけが脳内に響いた。俺の魔力が元になっているとはいえ、彼女には無茶をさせ過ぎた。
座り込んだ姿勢のまま、大きく息を吐き出す。右腕どころか、右半身全体に重りを付けているような感覚。意思でどうのこうのできる問題じゃない。このまま連戦するなんて無理な状況だ。
「シグレは……」
『分かりません。どこにも見えないです』
だがそんな泣き言を言っていられる状況じゃない。
連戦するのであれば、シグレと戦っているであろう腹黒さんになるが……完全に俺たちは2人を見失っていた。ライオットで精いっぱい過ぎた。2人の状況が全く分からなくなっていた。
と言っても、あの戦闘狂がそう易々と負けるとは思えないが……
「……3分だ。3分で息を整えて、シグレを探すぞ」
連戦が無理だからと言って、いつまでもこのままでいるわけには行かない。どうにかして彼女たちを探さなきゃいけない。
どこか遠くから届くネムの魔力。それを枯渇した身体に巡らせる。相性が良いとは彼女の弁だが、成程実際その通りで、巡る魔力は抵抗なく身体に染みわたって行った。後はこの魔力を動きに還元できれば問題無いが……いや、問題は無くしないといけないんだ。
ふぅ、と。疲労を溜息に乗せて吐き出す。
失敗を今後の動きに組み込める程、俺たちには余裕が無いのだ。
……と、そうだ。せっかくだ。ライオットの魔力を弾く機能を持った防具。あれを――――
「……全く。この程度で殺した気になられては困るよ」
■ 妹が大切で何が悪い ■
ライオットが立ち上がる。
俺の目の前で、ゆっくりと。しかし力強く、何の後遺症もなく。
それから首を振り、未だに座ったままの俺を見下ろす
「……不愉快だ。全く以って、不愉快だ」
そう言ってライオットは、自ら防具を外す。ガシャンと。重厚な音を立てて、防具は地面に叩きつけられる。
「悪いが、この身体は屍人だ。首を絞められたくらいでは死なない」
そりゃ悪い知らせだな。出かかった悪態。それを飲み込み、代わりにもう一回溜息。
「屍人か……そうか、そっちか。アンタは屍人にも憑りつけるのか」
身体が無いからティルを乗っ取った。ならば、屍人だって乗っ取れるだろう。
防具を脱ぎ捨てたライオットは、その筋肉質な身体を惜しげもなく披露している状態になった。先ほどの獣人さんは別格としても、服を着ていても分かるその筋肉は、成程流石は昔の英雄と言うところだろう。屍人とは思えないくらいだ。
「ああ、そうとも。君の言う通り、僕は剣に意思を残しているだけだったからね。屍人なんてものを利用する羽目になるのは屈辱的だが、こればかりは仕方がない」
「屍人は核を潰す、だったか? 迂闊だったな、てっきりティルのときと同じく適当な奴に取り憑いていると思っていたが……今回は俺のミスなわけだ」
「……試合と言う意味で言えば、僕は負けた。だけど、これは戦争だ。……卑怯とは言ってくれるな」
構えられた大剣。距離は殆ど無い。俺が何かしらのアクションを行うよりも先に、その一振りは俺の身体を両断できるだろう。言わば、詰みの状態だ。
ふぅ。溜息を吐き出しながら、ゆっくりと身体を立ち上がらせる。こんな状況だと言うのに、酷く身体が怠い。目前の死に対して意識が緩慢なのか、本当に身体が限界ギリギリなのか……前者であると祈りたいところだ。
「そのまま座っていれば首を刎ねるだけだったのだがな」
「よく言うぜ。そんなの望んでいないくせに」
なんとか両の足で立ち上がったがふらふらする。気を抜けば倒れそうだ。考えればここまでほぼ連戦状態だったし、呪い返し云々の前に、そもそもの話コンディションが良くない。
そんな細かいことは置いておき、そんな俺の状況に関してはライオットも重々承知をしているのだろう。立ち上がった俺に注意は払いつつも、その構えられた剣を振るわないあたりに、俺が碌な抵抗も出来ないことは見抜いているに違いない。
「で、本当の望みは何だ? しっかり俺の意思を折って、完全な勝利を収める事か?」
「良く分かっているじゃないか」
ニンマリ。満足そうにライオットは笑った。俺の答えに、大変満足して頂けたようだ。
要は潔く死を受け入れるんじゃなく、精々みっともなくとも最期まで足掻けという事である。趣味の悪い事だ。
「慢心、油断、余裕。そう言うものがあったことは否めない。そしてその結果については、確かに僕の負けだ」
「だから、今度こそ全力の本気で俺を叩きのめすと」
「その通りだ。せめてもの手向けに、肉片一つすら残さないことを約束する」
手向けって意味を辞書で調べて来いアホンダラ。悪態を吐きたい気分だ。無意味だからしないけど。
トントントン。左手で右腕を叩いてみる。全く感覚は無い。何となく振動を感じるだけだ。残念だが回復は見込めない。
「ふぅぅぅ……先に宣言する。カウンターで落とす」
右腕は使えない。体力も枯渇。ミリアのサポートも望めない。となれば、俺が取れる手は今の発言通りカウンターしかない。そしてそれは、ライオットも分かっている事だろう。
先手はくれてやる。そんな俺の意思を理解したのだろう。ライオットはその眼を細めた。
「では、その拳が届く前に、終わらそうか」
一跳びでライオットは俺から距離を取った。目算5m以上10m未満。それから考えるのも馬鹿らしくなるくらいの魔力が、ライオットから膨れ上がる。
「宣言してやろう。真っすぐに行って、その首を刎ねてやろう」
部位の指定。膨大な魔力を推進力として使用し、その勢いのままに俺の首を刎ねようと。俺がカウンターを合わせるよりも早くに。つまりはそう言う事だろう。
推測だが……タイミングは秒と言うレベルじゃない。文字通りの瞬間だろう。いや、瞬き一つをした瞬間に、首が胴体から離れているのかもしれない。そもそも拳を動かす暇どころか、反応ができるのかと言う話だ。
「……考えても無駄だな」
合わせられなかった時の事を考えても仕方がない。合わせられなかったら終わりだ。失敗した事を考えてどうするのか。
逆に考えろ。合わせりゃいいんだ。それで事は決着する。
簡単な事だろう? なぁ? 俺。
■
膨れ上がった魔力は、すぐに収まりを見せた。思えばそれは、俺に見せつける様な行為、パフォーマンスとしての行為が強かったのだろう。俺の意思を折る為の、そんなパフォーマンス。
だがそんなのは無駄な事だ。俺は諦めん。一佳と一緒に帰る。その為に負けるわけにもいかない。
だから。コイツがどれだけ強大であろうと。俺が折れることは、絶対にあり得ない。
「来いよ」
タイミング相手任せ。俺からは動かない。それでも、結果だけは絶対勝ち取ってやる。不退転の意志を込めて睨み付ける。
ライオットは一層笑みを濃くした。肉食獣が得物を見つけたかのような、獰猛な笑み。後は魔力を解放して、そのまま大剣を振るうだけ。分かりやすい事だ。
だが結論を言ってしまえば。
俺たちの意志は全く意味を無さなった。
「封じろ、『カーリィ』」
光が降り注ぐ。
光の矢が降り注ぐ。
それはライオットを囲うかのように、先ずは彼の四方に突き刺さった。それから俺たちを両断するかのように、丁度真ん中くらいに無数に降り注ぐ。
「っ、サイっ! 貴様ぁ!」
「全く……勝負に熱中するのがお前の生前からの悪癖だ」
突然の光の矢だが、ライオットはこれがなんなのかが分かっているのだろう。
様子見も含めて後退した俺とは異なり。まるで四方の矢から距離を取るかのように、彼は飛び退こうと跳躍をし、
「無駄だよ」
まるで見えない壁に阻まれたかのように、弾き飛ばされて元居た場所に着地する。目を凝らして見れば……何か、薄い膜のようなモノが見えなくもない。
「カーリィの矢は防壁に優れる。特に対魔物に対してな。全盛期程の力は残っていないが、それでも屍人の身に堕ちた今のお前を封じるくらいは訳の無い事だ」
「っ、このっ!」
「そして、これがイシュメアの矢だ。……効果は分かっているだろう?」
一矢。空間を切り裂くように、それは光の帯を残して、ライオットに突き刺さる。途端に光が、眩さが、その輝きが増し、ライオットの身体を飲み込んだ。
「……相変わらずキショイこと考えてるやっちゃ」
「シグレ」
「なんや、キョウヘイ。ボロボロやないか」
あからさまに溜息を吐くシグレ。失望したと言わんばかりの態度。余計なお世話だ。
「あの程度、キョウヘイなら一撃やろ」
「買いかぶり過ぎだ馬鹿。こちとらキチガイの相手は専門外なんだよ。つーか、アイツと戦ってたんじゃないのか?」
アイツ。言いながら、今さっき弓矢をライオットに向けて放った、民族衣装の腹黒さんに顎を向ける。アイツはイーリス側の筈の男だが……情報が多すぎて、正直全く状況が理解できていない。
「あいつ、ライオットの仲間じゃないのか?」
光が消えた後には、ライオットは再び地面に突っ伏していた。動く気配は見られない。倒した、とでもいうのだろうか。
「さてなぁ? アイツの事は昔からよぉ分からへん。イーリスに協力したり、裏切ったり、殺そうとしたり、忙しないやつや」
「仲間じゃないのか」
「知らん。どーでもええ」
毎度のことながら説明になっていない。が、何となく言わんとする事は分かる辺り、大分俺もコイツに慣れて来たらしい。いやな成長だ。
要は、目的は分からないけど、単純に敵と言えるような相手って訳ではないってことだ。恐らくそう言う事だろう、うん。
「これでアイツはお終いだ。動くことはもう無い」
シグレとの意味のない会話の間に、腹黒さんは事を済ませたのだろう。
腹黒さん。サイってライオットに呼ばれていたから、きっとそれが本名なのだろうけど、今時点では分からないので腹黒さんと呼ぶしかない。
人付きの良さそうなニコニコとした笑み。柔和な顔の造り。よく通る声量に、不思議と不快感を覚えない声色。高身長だが、本人の纏う空気からか、威圧的な感じは覚えない。
だがまぁ、なんというか……腹黒と呼ばれるのも分かる気がする。営業に従事していれば、コイツと似たような空気をもつ輩と出会う事なんて珍しくないからな。要は腹の中に色んなものを幾らでも抱えている奴ってことだ。
「相変わらずやな。訳の分からんヤツや」
「ハハッ、酷い言い方だな。何百年ぶりかという再会なのに」
「戦いに余計なもんを持ち込むヤツの気が知れへんだけや」
シグレは敵意を隠そうとしない。彼女にしては珍しい感情の表し方だと思う。
何せコイツはこれまで、人を斬るのに敵意を持ち合わせちゃいない。コイツにとって人を斬るのは呼吸と同義なのだ。敵意なんて持ち合わせる筈もない。
「変わらいないようで俺は嬉しいよ」
「そんな事、微塵も思って無いやろ」
「バレたか。ハハッ」
「ハンッ、隠す気も無い癖によぉ言うわ」
……本当に珍しい。シグレは見るからに不機嫌になっていく。それでいて刃を向けない辺り、単純な実力以外の何かが作用しているのだろうか。……正直に言って、訳が分からない。
思わず首を傾げたくなるが、その前に腹黒さんは柔和な笑みと共に俺に視線を向けた。
「そして君がキョウヘイ・タチバナか。災難だね」
「その発言から察するに、俺の事は知っているってことか」
「ああ。君は有名人だからね。イーリスから恨みつらみをよく聞いているよ。……そうだ、自己紹介が出来てないか。サイ・バルバザルだ。よろしく」
ニコニコ。笑顔で伸ばされた右手。握手。敵の筈だが随分と大胆な行為である。
戸惑っても仕方がないので、その右手を握り返す。
すると腹黒さんことサイは、驚きと共に笑みをより柔和な方に崩した。
「驚いた。まさか躊躇い無く手を重ねてくれるとはね」
「アンタが本当に敵なら、さっきの場面でライオットと一緒に始末できただろう。そうしないって事は、今は俺と敵対する意思はないんだろ」
「ハハッ、話が早いね。キョウヘイ、君とは良い会話が望めそうだ」
より朗らかな笑みを見せるサイと、その傍らでトンデモ無い顰め面を見せるシグレ。何とも対照的な反応な事だ。
「キョウヘイ、コイツは基本ロクでも無い奴やからな。味方と思わんときぃや」
「相変わらず酷いね。まだ根に持っているのかい?」
「言っとるやろ。死合いに余計なもんを持ってくる奴の気が知れへんって。それだけや」
「2人は昔からの仲ってことか」
「まぁね。付け加えるなら、殺し合った仲、かな」
「よぉ言うわ。悪趣味なやっちゃ」
「それはシグレも大概だろう……っと」
瞬間。鈍色の閃き。刀の刃。狙いは首。
咄嗟にサイはしゃがむことでそれを避ける。さらに手甲を以って、振り下ろされた刃を止める。
「……いきなりだな」
「ハッ、口だけは回る」
間違いない。シグレのヤツ、ぶちぎれている。まぁ元々沸点が低く、堪え性の無い奴だから、この程度の挑発には簡単に乗ってしまうのだ。
驚くべきは、そこよりもシグレのその一撃、及び追撃を防ぎ切った事に対してだろう。あの至近距離で、良く瞬時に動いたものである。
「今すぐその首切り落としてもええんやけど?」
「それは困る。さっきも言った通り、俺にも目的があるんだ」
「ハッ、イーリスの暗殺の話やろ。しつこい奴や」
「暗殺?」
「ああ、その通りだ。キョウヘイにとっても決して悪い話じゃ――――シグレ、待て、お前」
暗殺。今更その意味を問うまでもない言葉。
だが、それを、イーリスに? それも仲間であるはずのサイが?
「クッ、このっ」
「確かにアレはウチの知っているイーリスやない。裏切るのも好きにすればええ。せやけどさっきも言った通り、そもそもの裏切り者のアンタがこっちに助力を求めることはおかしいやろ」
「ふん、いつになく饒舌じゃないか。裏切りは好かないか」
「アンタが好かんだけや」
「待て待て待て。話を聞け。ッ、相変わらずの剛腕だな」
考え事をしている間に、目前では普通にサイが死にそうになっている。振り下ろされた刀が、そのままサイを両断せんと、ギリギリと力を込められている。このままなら手甲ごと力任せに叩き切られるだろう。……シグレにしては本当に珍しい、力任せの手段。
「シグレ。サイの話を聞かせてくれないか?」
「ああん?」
凄い顔である。顰め面というレベルじゃない。何と表現すれば分からないレベルの顔。それでも元となっている宮下の顔が可愛らしいからか、そこまでは損なわれていない。……どうでもいい情報だな。
「話を聞きたい。この状況を打破する取っ掛かりになるかもしれないからな」
「いいね。此処に来て初めて人間と話ができそうだ」
「死ぬか?」
「少なくとも宣告無しに刃を振るってくる、コミュニケーション能力不足の相手を人間と見做すことが無理があるだろ」
「ほぉ? じゃあ死ねや」
「自覚はあるのか……っと!」
遠慮なく振るわれる一撃。鈍色の輝き。それを間一髪避けて飛び退くサイ。間髪入れず追い立てるシグレ。そして視界の端で倒れ伏したままのライオット。
ゆっくりと腰を下ろし、天井を見上げる。あぁ、疲れた。連戦に次いだ連戦。最後に休んだのは、何時だったか。一佳たちは無事だろうか。アリアは何をしているだろうか。
そこまで考えていたら、ふっと視界が暗くなる。そして遠のく意識。
それが疲労の極地による意識の消失だと。
そう気が付いたのは、それから3時間が経過した後の事だ。
※名前だけ設定して、もう出てこないキャラ
ツルギ君
・本名は鶴木武。噂話を試したら本当に異世界に来れた! やったぜ! しかも可愛い聖女から敵を倒してほしいとお願いされた! 全力で力になるぜ! みたいな感じで簡単にイーリスの支配下に置かれた上に洗脳された。完全なやられ役。




