7-4
明けましておめでとうございました。
1月1日更新の筈が、思いっきり最終日までかかってしまいました…
本作を完結させることが、今年の目標です。
もう少しなので、皆様最後までお付き合いいただければ幸いです。
※22/02/01 誤字脱字修正
螺旋階段の頂点。
金網の足場。
吹き抜けになっている四隅。
ぶっ飛ばした敵は、哀れにもその四隅に吸い込まれるようにして消えて行った。
「あー……」
「あー……」
ぐっぱっ、ぐっぱっ。俺たちは示し合わせたかのように互いを見て、同じ言葉を発し、同じ動作をする。グーとパーを交互に象る右手と左手。目の前にはボケッとしたアホ面。多分同じような顔を俺もしているんだろうなぁ。何せ突然すぎたし。
「……死んだか?」
「飛べもしないかぎりは。多分」
加えて、落下時の速度の抵抗もある。例え飛ぶ手段を持っていたとしても、その抵抗に耐えなければならない。俺はそこら辺詳しくは無いけど、助かる見込みは低いと見ていいだろう。……勿論、確証は無いけど。
「下まで降りて確認した方がいいと思う?」
「万全を期すならそうした方がいいな」
遊仙の申し出にYesの意味を込めて返すが、コイツはめんどくさそうな顔を見せた。わざわざ行くまでも無いってことだろうか。だが確実に死んだのを確認することは間違っちゃいないだろう。
「ちょっとぉ? 男同士で見つめ合う前に、先にする事があるでしょう?」
そんな考えに割り込む様に、傍らから聞こえるラヴィアの声。言われて顔を向ければ、そこには呆れ顔のラヴィアと、
「さっきぶりだね、お兄ちゃん」
同じくらい呆れた様子の、一佳。
そんな一佳をあやす様に撫でながら、ラヴィアは不機嫌さを隠さずに口を開いた。
「ていうかぁ、私たちでこれで5人目よ。ダーリンも一位も、働かなさすぎじゃない?」
■ 妹が大切で何が悪い ■
一佳に会えたことや。一佳を守ってくれたであろうことや。
ラヴィア自身が無事であることとか。他の皆の状況とか。
言いたい事、訊きたい事。そんなのは幾らでもあったのに、今のラヴィアの一言でその殆どが吹き飛んだ。
「……今、なんて?」
「え? だからぁ、2人とも働かなさ過ぎじゃない? って」
「その前!」
我ながらベタな言葉選びだと思う。小説や漫画かって言いたいくらいにベタだ。
だけど。今のラヴィアの言葉が。
もしも万が一でも俺の聞き間違いだったら。或いは彼女の言い間違いだったら。
それを願って、もう一度、訊く。
「だからぁ……さっきので、5人目、って」
ラヴィアも俺の様子がおかしい事には気づいたのだろう。考えながら、それでもさっき言った事をもう一度口にしてくれる。
だがこれで。俺の聞き間違いでも、ラヴィアの言い間違いでもなくなったわけだ。
「遊仙」
「ああ、分かるよ。奇遇だね、七位。僕たちもこれで5人目だ」
つまりは。互いに5人目だったという事は、
「え、じゃあ、10人ってこと? じゃあこれでお終い?」
「……一佳。10人目じゃない。アイツで9人目だ」
まぁ……なんだ。いきなりの事で混乱もするだろう。数え間違いもするさ。それに10人か9人かの数の正誤は今は問題じゃない。
「7人の上限は越えているね」
勿論互いの申告が正しければだけど。そう遊仙は付け加えた。暗に数え間違いの選択肢を見せてくれる。
「俺単体で2人。遊仙との合流時にプラスで1人。此処に来るまでにさらに1人。今ぶっ飛ばしたので合計5人だ」
「僕は恭兵の言ってくれた通りだ。この手で確実に3人は殺したよ。あ、まぁ、今ぶっ飛ばしたのは殺し切ったとは言い切れないけど」
「私は妹ちゃんと会う前に1人。妹ちゃんを襲ってた2人を殺してぇ、それで3人。その後此処に来るまでに1人ねぇ」
「ラヴィアさんの言う通りだよ。私単体じゃ拘束が限界だから、止めは全部ラヴィアさんにやってもらったし」
「ふぅん。まぁ、数は合うよねぇ」
合計で9人。それは間違いない。仮にさっきの1人が生きていたとしても、上限を超える8人なのは変わらない。
「ルールに合わないわねぇ」
螺旋回廊における戦闘は、厳密なルールの下に執り行われるもの。そうされている。
それでもって、確か参加者については、
「参加人数は互いに7体とし、種族や年齢、性別は問わないものとする。確か、そう言っていたよな」
「そうだね。そこは間違いなく、魔王様も言っていたよ」
アイツが嘘を吐いていたってことか? ……嘘を吐く事に何かしらのメリットがあるようには思えないが……
「なぁ、遊仙。俺が殺した奴と、遊仙がさっき殺した奴。確かアレには隷属の紋様があったよな」
「あったけど……もしかして、隷属されているなら参加者としてカウントされないんじゃないかって事? その理解は無理があるよ」
「やっぱり難しいか。……なら、例えばの話だけど。ネクロマンサーが屍人を武器としてカウントしていたなら、参加者には数えられていないとか」
「あー……そこは……何とも言えないね。その可能性もあるかも」
武器の持ち込みは可。それもルールに定められていた事。言った通り、屍人を武器扱いにするのならルールの範疇内だ。……屁理屈だとは思うが。
その辺りは、或いはヴァネッサが目覚めてくれれば有益な情報が入るかもしれない。まだ彼女は俺の中で、うんともすんとも言わないから分からないけど。
「隷属……うーん、そこまでは見ていなかったわぁ。首を刎ねて、心臓を潰して、そうすれば大抵は死ぬから」
「ま、あれだけあっけない奴らなら、殺した後の事なんて気にも留めないしなぁ」
これはあくまでも仮説。何せ、参加者のルールに種族を問わない旨がある以上、屍人だって参加者にカウントされて然るべきなのだ。
「てか僕たちでこのペースなら、あの戦闘狂はとっくに7人以上は殺してそうだけどね」
「あぁ、鬼神の事……」
「あの子、黙っていれば可愛らしいのにねぇ」
「あのキチガイが上手い事やってくれりゃ万々歳だけどな」
全員が全員、大分言葉をマイルドにして、今はこの場にいない戦闘狂を思い浮かべる。
アイツの事だ。どーせ好き勝手暴れ回っているのは間違いない。宮下ならまだしも、アイツにはチームプレイなんてのは無理だし、そうしてくれる方が助かるのだけど。
「そう考えると、仮に恭兵の仮定が正しいとすれば、相当な数の屍人がいるわけだよねぇ」
「そうねぇ。始まってまだ3時間も経過していないのにこのペース。ちょっと多すぎるもの」
「沢山の数を相手にさせて、疲れさせるのが目的なのかな」
「かもな。7日間いっぱいに使ったっていいわけだし」
「……ちぇ、この程度なら1日かからずに終わると思ったのになぁ」
ハァ。盛大に遊仙は溜息を吐き出した。そして力なくその場に座り込んだ。
「別に2,3日程度なら良いんだけどさ。……暖かかくて柔らかいベッドで寝たい」
そりゃ俺だってそうだよ。
そう言いたかったけど、代わりに首根っこを掴んで無理矢理に立たせる。
「どこかで野営を作ろう。他の面々と合流するより先に、今の状況の整理と考えをまとめたい」
■
人間いつまでも動いていられるわけじゃない。必ず休息は必要だ。そんな事は生きていれば誰だって分かる事だし、今更学ぶ話でも無い。
だけどそれが分かっていても、限界まで身体を動かし切って倒れる事はままあることだ。
例え自分の身体と言えど、当人が考えている以上に疲弊しきっていたり、体力の限界値を見誤ることは、珍しい事じゃない。
「とりあえずこれでいいか」
野営をするに適した感じの場所に、一旦陣取る。どこかの遺跡を模したかのような、無数の石造りの廃墟。その一角に過ごしやすいように互いにスペースを作る。それから火を起こせば、とりあえずの簡易的なものだが、野営地の準備は完了だ。まぁ、慣れたものだと思う。
「中にあるものは、全部自由に使っていいってルールだったわよねぇ」
ラヴィアはそう言って、どこからか種を取り出して砂地に埋めた。そしてその上に水を撒き、魔力を込める。
途端に木が生え、果実が生った。
「え、どういうこと!?」
「ふふん、驚いたかしらぁ? 私が発明した、瞬間的に身を生らす木よぉ。試作段階につき、まだ名前は無いんだけどねぇ」
そう言ってラヴィアは生った実を4つもぎ取り、俺たちに投げて寄越した。
「本物のリンゴにしか見えない」
「いい反応ねぇ、イチカちゃん。当然だけど毒も無いし、味も栄養も本物と同じよ♡」
疑うつもりはないし、一口頂く。シャリッという音と一緒に、口内に甘みが強めのリンゴの味が広がった。……まぁ、本当に、本物にしか思えない味。
「わぁ、美味しい!」
「ふふっ、良い反応すわねぇ」
一佳の反応が大層お気に召したのだろう、嬉しそうにニヨニヨとラヴィアは笑った。
「ふーん、成長促進の術と、生命強化の複合かな」
「ご名答よぉ、第一位」
「デメリットは、長続きしない事かな」
「そこもご名答」
ハァ。一転して苦り切った表情でラヴィアは溜息を吐いた。遊仙の言う通りで、さっきまで青々とした葉が生い茂っていた筈の木は、目を離した一瞬の間に黄色へと色を変えていた。当然、実も無くなっている。
「無理矢理に成長させているから、当然枯れるのも早いわ。これでも最初期に比べれば大きく進歩した方なんだけどねぇ」
いやいや、大した発明だ。世界が違うから一概に比較はできないが、同じことが出来たら俺たちの世界じゃ世界的な賞を受賞できることは間違いない。
「ふふん、ウチの七位はすごいだろ」
何故か自慢するように遊仙はどや顔を決めた。真に賞賛されるべきはラヴィアであり、お前じゃないだろうと言いたいが、そこは言っても無駄なので適当に流す。
「食事関係は用意しとくって、こう言う事だったんですね」
「そうよぉ♡ 他にも用意しているからぁ、心配しなくていいからねぇ」
ウィンクと投げキッス。相変わらず絵になる事だ。内部ではミリアが「ケッ!」なんてしかめっ面で悪態を吐いている。……何と言うか、コイツ妙にラヴィアには当たりが強いんだよなぁ。
『気のせいですぅ、仕様ですぅ』
……人の思考にツッコミ入れなくていいから。
「あらぁ? どうしたの、ダーリン。もしかして舌に合わなかったかしらぁ?」
「ん? ……あ、違う違う! 考え事していただけだ」
顔を顰めていたことを気にしたのだろう。ラヴィアが心配そうに見てくる。ミリアと脳内会話をしていただけなのだ。
「ま、恭兵は気苦労しやすそうだよなぁ。なんか苦労性ってかさぁ」
「言ってろ」
「もう少し楽に生きてこーよ。余裕がないと思考って狭まるじゃん?」
どーんと行こうよ、どーんと。そう言って遊仙は地べたに寝っ転がる。より正確には、地べたに敷いた布の上に。
「確かになんか面倒な事になってはいるよ。相手側はルールの裏を突いてきてるみたいだしさぁ。でもそれにしたって、雑魚ばっかじゃん? 数は面倒だけど、正直あの程度が何百人いたとしても全く脅威には思わないよ」
「そうねぇ、そこは一位に同意するわぁ。ねぇ、イチカちゃん」
「うーん、私はそんなにどーんとは構えていられないと言うか……」
「一佳、無理すんな。お前は無理に戦わなくていいからな」
「うわぁ、こんな状況でそんなこと言える? これがシスコンかぁ」
「褒めても何もでねーよ」
「否定しないのかよ……」
兄が妹を守るのは当然だろう? 遊仙はしかめっ面を見せるが、俺は何も間違った事は言っていない。シスコンなんてのは褒め言葉でしかないさ。
■
腹が膨れれば、次に来るのは睡眠欲だ。それはどの生物でも、どんな時でも変わりはしない。
「ダーリン、交代よぉ」
「おう」
多分、この最終審判が始まってから半日近くは経ったと思う。
生物は寝ずには動けないから、絶対に睡眠は必要だ。そして今の状況で言えば、それは取れる時に取った方がいい。
そう言う事で俺たちは、交代制で寝る事にした。
勿論、魔法で事前に察せる様にはしているが、それを潜り抜けてくる輩がいないとも限らない。
だからこその、交代制。仲間が寝ている間、万が一を考えて、見張りを立てる。全員寝ているところに奇襲を掛けられ、一網打尽にされたら目も当てられないからだ。
「イチカちゃんの分もご苦労様。あとは私と一位が交代で見るから、ゆっくりしてねぇ」
「助かる、サンキュ」
「あらあら、そんな他人行儀なお礼なんていらないわぁ。私とダーリンの仲じゃない」
そう言ってラヴィアはウィンクをして見せた。相変わらず気持ちのいい奴である。こんな状況にも関わらず、速攻で就寝に入った一位とは大違いだ。
「ありがとう。いつかだけど、必ずこのお礼はする」
「律儀ねぇ。私は貴方の一番に慣れれば良いけど」
「それは承諾しかねる。一佳が一番だからな」
「ふふっ、その言葉で私が引き下がるとでも?」
蠱惑的な笑みだ。だが決して冗談では無いのだろう。その眼の奥の真意を読み取れないほど、経験が無いわけじゃないし、空気を読めない訳でもない。……まぁここまで好意をストレートにぶつけられるのは初めてだが。
ざわりと魔力が波立つのを感じるが、もう慣れた事なのでそちらは無視する。
「……寝てくる。必ず、生き残ろう」
「そうね。ま、大丈夫よ」
「ああ……トイレ行ってくる」
「はーい」
ラヴィアに声をかけ、トイレへ。と言っても、別の部屋まで移動する訳じゃない。寝床に選んだ廃墟群から、少し離れた場所へ。直線距離にして、50mも離れてないのではないだろうか。
「キョウヘイさん」
「ああ。で、どうだ?」
まぁ実際にはトイレをするわけじゃないけど。
仲間からの視線が切れた事を察したのだろう。ミリアが実体化すると、小声で呼びかけてくる。
用件は一つしかない。
「大分時間がかかりましたが、適合はしています。私との住分けもばっちり! あとは目覚めるのを待つだけですね」
誰が、なんて。今更言うまでもない。
ヴァネッサ。
数時間前に飲み込んだ、貴重な情報源の事だ。
「目覚めるだけ、か。アイツが何処まで知っているか次第だが、程度の差はあれど有利にはなるだろうからな。早く目覚めてほしいもんだ」
「そうですねぇ。……まぁ、一先ず目先の事を解決しなきゃいけませんもんね」
ミリアが含みを持たすような言葉を紡ぐが、いまいち意図が読めない。何を言いたいのだろうかと視線を向けると、盛大に溜息を吐き出された。
「先に言っときますけど、2番の座は譲りませんよ。あの人にも、この人にも」
「?」
「鈍感もそこまで行くと何と言うか……」
「一佳が1番、アリアが2番。悪いがミリアは3番目だ」
そう言って頭を撫でる。少し乱暴に。
一瞬呆けた様子のミリアだったが、俺の手から逃れる様に抵抗すると、顔を真っ赤にして見上げてきた。
「え、ええと、その、」
「気付いてないと思ったか? 舐めんな、そこらのガキじゃないんだ」
こちとら20後半となった社会人である。一端の色恋沙汰だって経験済みだ。ラヴィアの事もそうだが、ミリアから向けられてくる感情くらい、分からないわけが無い。
「お前の事は好ましいと思う。けど、順番は――――」
「あ、いえ! い、いいです! 分かりましたから!」
ぎゅぅっ、と。ミリアは俺の腰に抱き着くと、そのまま顔をうずめた。その頭に再び手を当て、今度は優しく撫でる。
「……気付いていたんですね」
「まぁな」
「3番目かぁ。……アリアさんの次で2番目かと思ったのに」
「言った通りだ。シスコンなめんな」
一佳は大切な存在だ。間違いなく。それを遊仙のように、気持ち悪いと言われればそれまででしかないが、俺は変えるつもりは毛頭も無い。
アリアの様に愛している人が出来てもこれなのだから、これは多分死んでも変わらないだろう。
「アリアさんも苦労しますね」
「そこは飲んでもらうさ」
「飲めなかった場合は?」
「その時に考える」
……思えば以前の彼女も、それで別れたのかもしれない。愛されている実感が無い、と彼女は言っていたが、それが一佳を優先していた事に起因している可能性は無くは無いだろう。
だが最早、そこは変えられないのだ。今更どうしようもない。
「ふぅん、そうですか。いつか刺されても知らないですよ」
「刺されるかぁ。それは否定できないな」
女性関係では無く、別の意味で。自分が犯してきた罪の事で。それで、いつかは報いを受けるだろう。色々と一佳を探すときに、無茶をして、傷つけて回ったのだ。
覚えていろと言われた。殺してやると言われた。必ず同じ目に遭わせると言われた。
血まみれの顔で、憎悪を隠さず、真っすぐに俺を射抜いて。
ミリアは俺が別の事を考えている事に気が付いたのだろう。こてん、と。可愛らしく首を傾げた。
「……こっちの話だよ」
そう言って、ごまかす様に頭を撫でる。彼らがどうなったかなんて知ったこっちゃないし、今この場でミリアに行っても仕方がないことだ。
「それより――――」
グワンッ!
今は寝よう。そう続けようとした言葉は、突然の揺れで無理矢理に閉ざされる。思わず膝を着いてしまう程の揺れ。そして俺の目前で、地面が隆起したと思うと、その中心部から黒いナニカが飛び出てきた。
「なんっ」
「キョウヘイさんっ!」
一歩。不格好な状態で、それでも後ろに下がろうとして。ゾクリと背筋を震わす怖気。
反射的に振り返れば、
「っ、こっちもかよ!」
すぐ背後でも、同じように隆起し、飛び出る黒いナニカ。……いや、背後だけじゃない。それは連なる様に四方八方から出て来て、
「影鬼っ!」
咄嗟にミリアが術を行使する。影鬼。撃退の為じゃない。身を守るためだ。
影鬼が俺を呑むのと、黒いナニカが降り注いだのは、全くの同時だった。




