7-1
一か月ぶりの投稿。
これが最終章です。
結構強引かもしれないけど、色々と詰め込みまくって終わる予定です。
最終審判ってのは話を聞く限りでは、ダンジョンを舞台にしたチーム戦の殺し合いだ。
どちらかが全滅したら終わり。シンプルで分かりやすく、それ故に悪辣。
どのような理由があろうとも、相手を殺さなければならないのだから。
とはいえ。
今更人殺しに躊躇う程、俺は腑抜けるつもりじゃない。
もう何人もの死を看取り、或いはこの手で奪ってきた。
そのどれもに理由があるにせよ、理由を楯にして己の行為を正当化するつもりはない。
だからこそ、今回も。
俺は相手の命を奪う事を躊躇うつもりはない。
……そう、例え、それが、
「……また、会いましたね」
「……ああ」
仮に……仮に、
「イチカは、元気ですか?」
その人が、妹の関係者で、
「……ああ。まぁ、なんとかな」
多大な信頼を置かれている人で、
「アンタも、無事だったんだな」
「無事……まぁ、そうとも言えますね」
俺が彼女に出会うための手引きをしてくれた人物であろうと、
「お久しぶりです、お兄さん」
「久しぶりだな、ヴァネッサさん」
そして。
一度は助けた命であろうと。
「どうぞ……私の命は、彼女の為にあります」
俺は……迷うつもりは、無い。
■ 妹が大切で何が悪い ■
――――1時間前。
最終審判、当日。
時間が過ぎるのは早いモノだって思う。年を取れば尚更だ。
「準備はいいな」
訊くような発言だが、語調は断定に近い。
発言主はシュヴァルグラン。相も変わらず、ニタニタと楽しそうに顔を歪ませている。
「ああ、出来ているよ」
ムカつくが反応するだけ負けなので、俺は溜息交じりで返す。そして背後で待つ仲間たちに視線を向ける。1カ月と言う短い期間で集められた、最大限の戦力。
「こっちの参加者は7人だ。俺と一佳。それにアリアとラヴィアと黒騎士、シグレ。んで、ユウゼン」
「え、ちょっと待て。僕かよ」
「人員が足りないんだ。言ったろ」
俺に名前を呼ばれて、ユウゼン――高野遊仙――は驚いたように自分自身を指さした。いや、でもなぁ、そう言われてもナァ、なんて。……白々しい仕草つきで。
俺だって本音を言えばネムかターニャの力を借りたかったさ。だが2人とも、黒騎士とイーリスによる怪我の影響から回復しきれておらず、本調子にはほど遠いのだ。
だから俺は、コイツに協力を要請した。
ユウゼン。本名は高野遊仙。俺と同じ稀人で、ただジャックと同じく魔族側でこの世界に来た、元人間。
そして魔人軍の第一位。
もう一度言おう。魔人軍の、第一位。
「お前の力が必要だ」
「いや、まぁ、手を貸すけどさぁ」
……まぁ俺からすれば生意気な高校生なんだが。嫌そうな言葉とは裏腹に、頷く様子は選ばれて嬉しいって感情が隠し切れていないし、コイツ自身が望んだ展開なのだろう。溜息を吐きたくなるが……まぁ、戦力として数えられる以上は、とりあえずどうこう口煩くするつもりはない。理由はどうあれ、一位の力を借りれるならそれの越したことは無いのだから。
今更煮え切らない態度を取り始めたので、背を押してやる。仕方ないと言いたげにユウゼンは頷いた。何の芝居だ。うぜぇ。
「ふっ、話には聞いていたが……まさか我が軍の一位の力を借りるとはな。どういう手を使ったんだか」
「ん? あぁ、誠心誠意お願いをした」
とぼけた回答に思われるかもしれないが、嘘は言っていない。と言うか割と本当にそうなのだ。
詳細に説明をするのならば、
①ラヴィアに力を貸してくれそうな実力者を訊く
②ユウゼンを紹介してもらう
③誠心誠意お願いをする
……以上なのだ。
「なんか侮辱された気がするんだけど」
「今のやり取りの間に何でそう捉えられる事があるんだよ」
侮辱も何も無い。事実だけしか俺は言っていない。
確かに最初はユウゼンも嫌がっていた。だが、コイツは結果として、俺の説得に乗ってくれたのだ。力を貸してくれる手はずを取り付けたのだ。俺の交渉が実を結んだ、それだけなのだ。
『……ちゃんと約束は守れよ。最新のモン●ンとかスマ●ラを買えよ。買って送ってくれよ。あとこの事は内緒な。誰にも言うなよ』
……本人の意志を尊重して、交渉内容は言わないが。まさかコイツが小さな、それこそゲームソフトが入る程度の穴ならばこの世界と地球を繋げる穴を作ることができ、無事に俺たちが戻れた暁には最新のゲームや雑誌を渡すことで、力を貸してくれるなんて。
まぁ……言えるわけないよなぁ。
「まぁよい。貴様らが死力を振り絞り、困難に打ち勝つところを見せてくれればな」
なんかシュヴァルグランには交渉内容を知られている気がするけど、深くは問い詰めまい。問い詰めたところで利は無いし。
シュヴァルグランは1人納得すると、俺たちの目の前に黒々とした楕円形の闇を創り上げた。……ラヴィアが創り上げるそれの、何倍も大きな楕円形。
「さぁ、入れ。楽しみにしているぞ」
「ほざけ」
コイツの言う通りにするのは癪だが、言う通りにしないと帰る手立てがないので、仕方なく乗る。
振り返り、一佳に手を出す。
「行こう」
「うん」
手をつなぐ理由? そんなの、中に入った時にバラバラにならないために決まっているだろう。
……だがその手を、寄りにもよって空気も読まずに馬鹿が先に取る。
「ほな、行こかぁ」
「ちょっ、テメェ!」
呆気にとられる俺をものともせず。
シグレはそのまま俺を抱えるようにして、止まる事無く一跳びで穴の中に入る。
……あぁ、畜生。コイツが己の快不快でしか行動しようとしないイカレ女だったって事、完全に忘れていた。
視界の先では、一佳やアリアを始めとする皆が、呆気に取られた表情を見せていた。あの黒騎士ですら呆然としていたくらいだ。
で。
これが1時間前の話。
ステージに入る前の、俺たちの話だ。
■
「で、どこだよ。ここ」
最終審判が開かれるステージ。即ち、螺旋回廊に入る。
だがそこは、俺が思い描いていた場所と大きく異なっていた。
「どこの建物だよ。ったく」
装飾も何も無い、西洋風の建物。
そこが俺が降り立った場所だ。
「シグレ、いねぇし」
そう言えばランダムで参加者は配置されるんだったか。忘れていた設定を思い出す。とすると、一佳と手を繋いでいても結果的にはダメだったわけだ。
ステージはダンジョンの様なものと言っていた。俺の経験と照らし合わせるならマノ郊外で入ったダンジョンだが、それと同じなら内部は進むごとに変わっていくのだろう。
「……ま、なら」
取る手段は一つしかないよな。
スキル・人探し。
初めてスキルを知覚したカルベの街。ケントでの成長。マノのダンジョンでの進化。
始まりから今日に至るまで、要所要所でこのスキルには頼りっぱなしだ。
想像するのは……
「まずは一佳だな」
すぅっと。光が俺の前に現れる。導くように、俺だけにしか見えない道が現れる。
人を指し示すのは難しいと辞典は言っていたが、何度も使った事で、そして実際に会えたことで、大分能力は成長してくれた。頭痛を始めとする不調も、全く感じない。
『いやぁ、すごい便利な能力ですねぇ』
「見るの初めてだったか?」
『まぁ、そうですね』
どうやらミリアには俺が見ている光景と同じものが見えるらしい。彼女が魔力と混ざり合っているからだろうか。何にせよ、説明不要なのは煩わしくなくて助かる。
「先に一佳と合流する。手を貸してくれ」
『はいさ!』
威勢のいい声。同時に魔力が脚に回る。俺の意思を汲み、滞りなく流れている。
『さ、ガンガン走ってくださいね!』
「恩に着るよ!」
ひと踏み。固い床が捲り上がるかのような、それぐらいに力を込めて、踏む。そして蹴る。光の指し示す方へ、最短経路を進むが如く、走る。
――――その動きを止めるかのように、突如目の前に火柱が立った。
「見つけたぞ」
一瞬。本当に一瞬だけ、淡い空想を抱いた。
すぐにかき消した。
だってその炎を。生み出す手段を、アリアはもう持ち合わせていないのだから。
「しつけぇな、テメェも」
まぁ、ちょうどいいか。
後半の想いは口にしない。する必要はない。だってこれは、俺のただのエゴだから。
「国賊如きに名乗りたくも無いが、人としての礼儀だ名乗ってやる。カタリナ・クロエ・ヴァンハイムだ」
名乗らなくても知ってるわ、裏切り者。一佳を裏切ったクソ女。
燃える様な赤髪。射殺さんばかりに眇められた、怜悧な双眸。そして炎を纏った大剣。
対峙するのはこれで三回目か? シグレ程じゃないが、コイツともそれなりに因縁があるらしい。
「久しぶりだな。どーも、国賊です」
まともに応対する気はないので、口上は流す様に。ただ構えた拳は、アイツを粉砕すべく魔力を纏う。
本当にちょうどいい。精神的にはまだ傷ついている一佳に、こんな爆弾は引き合わせられない。
一佳と出会う前に、ここでぶっ潰す。
一佳はコイツの顛末なんて、何も知る必要は無いんだ。
「会いたかったぞ。貴様らをこの手にかける事を、どれだけ待ち望んだか」
「そりゃ結構。だけどもう少し建設的に生きる事を俺はお勧めするよ。ま、無駄だろうけど」
「良く分かっているじゃないか」
カタリナは笑った。だがその表情に充分過ぎる程の怒りが込められている。笑顔の裏には敵意が潜むとは誰の言葉だったか。よほど恨まれているらしい。
「貴様も、あの裏切り者も、その仲間も。全員我が剣で殺してやる」
「欲張りだな。生きるのが大変そうだ」
「ほざけ」
カタリナは剣に纏わせた炎を、猛狂わせるかのように、巨大化させる。最早一本の剣に非ず、これだと炎の竜巻だ。
「燃やし尽くしてやるさ」
「宣言どーも」
言うが早く、カタリナは剣を振るった。炎の渦が、俺を飲み込む様に襲い来る。
それを影に中に入り対比する。影鬼の効果。シグレの時と同じだ。炎のおかげで影が強く伸び、隠れるには困らない。
『どうするんですか?』
影の中でミリアが語り掛けてくる。意思の確認。即ち、逃げるか、或いは、
「殺すさ」
もう一つの選択肢を、躊躇い無く選ぶ。一佳の旧友だろうと関係ない。彼女は今は敵で、一佳に害を向けるただの悪だ。容赦する要素はどこにも無い。
「出るぞ、サポート頼む」
『はい!』
時間をかける意味もない。かければかける程、此方には不利になる。だって騒ぎを聞きつけ、一佳が来てしまうかもしれないのだから。
だからこいつは、時間を掛けずに殺す。一佳に見られる前に殺す。殺した上で、死体すらも残しはしない。
「なっ!?」
影から押し出される。ミリアの力で。カタリナの目前に押し出される。
俺を殺したと思っていたのだろう。突然目の前に現れた俺に驚き、一瞬だがカタリナの身体が硬直する。それからすぐに迎撃するべく右手が動くが、
「遅ぇよ」
剣を振り切られる前に、俺の拳がカタリナを殴り抜く。端正な顔立ち。驚きから瞬時に殺意へと変わった、憎悪に満ちた眼差し。食い縛られた歯。一瞬だが視界に映った彼女のそんな顔を、躊躇い無く殴り抜く。
本来であれば、人の顔は殴るに適していない。少しでもズレれば歯や骨など、固い場所に当たることで、逆に拳を傷つけてしまうから。だからボクシングの時は、己の拳を守るためにもグローブを着用するし、俺は此処に来た当初はグローブ代わりにネクタイを巻いていたくらいだ。
勿論、今は必要ない。だってミリアが魔力でサポートしてくれるから。だから俺は思いっきり、己の拳を心配せず、相手の顔面を殴り抜くことができる。
ごきっ、とか。めしゃっ、とか。
確かに相手の骨が砕ける感触を感じる。
「ガッ!」
停滞は一瞬。極限まで引き延ばされた感覚の中。俺の拳に捉えられたカタリナの顔が、不細工に歪む。
殴り抜かれた彼女は、衝撃に耐えきることも出来ず、そのまま壁に激突するまで吹き飛んだ。
「まだ終わんねーよ」
がはっ、と。苦し気に彼女は息を吐いた、恐らくは折れたのだろう。歯のような白いモノと、血が一緒に出てくる。
その顔面に、蹴り。
勢いをつけたドロップキック。
女性だから? 傷ついた相手だから?
そんなの関係無い。
殺すと決めたのに、手を緩めてどうする。
靴越しに、さらにカタリナの骨が折れるのを感じる。
「まだだ」
とん。着地は軽やかに。だが追撃には、存分に力を乗せる。
着地した左足を起点に。魔力を乗せた右足を、もう一発。
カタリナの顔面は血塗れだ。あれほど殺意を滾らせていた双眸は、俯き何も見えない。
もしかしたらすでに頭蓋骨が割れて、致命傷を喰らっているかもしれない。そうでなくとも、脳の機能を停止させるには充分過ぎるダメージを追っているかもしれない。
だがそんなかもしれないを判断するには、早計過ぎる。
ぐちゃっ、と。骨が折れるのではなく、肉が潰れる感覚。
魔力をブーストし、もう一発。項垂れた頭に踵落とし。
ごきっ、と。骨が折れる感覚を、靴越しに感じた。
同時に。力なく、彼女の手が剣を離した。
「ふっ!」
もう一発。
ぐちゃっ。
嫌な感触。
だが意志は緩めない。
十中八九既に戦闘不能、或いは死んでいるかもしれないが、
「っ!」
もう一発。
ずちゅっ、と。蹴り入れた足が、思ったよりも埋まる。カタリナの顔面に埋まる。
『キョウヘイさん、もう……』
「……ああ、そうだな」
引き抜いた足の先。陥没した顔面。端正な顔立ちは見る影もない。
壁に埋まる様に。カタリナの首から上は不自然な様子で、動きを止めていた。医者でなくとも分かる。彼女は、もう、
「恨んでくれて構わねーよ」
彼女の剣をとる。魔力を込めれば、勝手に剣が炎を纏う。なるほど、自動発動するらしい。
その剣を、炎を纏ったまま、カタリナだったものの腹部に突き刺す。血が噴き出るが、炎に飲み込まれて地面に落ちる前に消え失せた。
「じゃあな。……まぁ、初期の頃は一佳を助けてくれたらしいし、それは感謝する」
ひときわ強く。魔力を込めれば。
あっという間にカタリナは炎に飲み込まれた。
後に残ったのは、影も形も無い、ただの骨の集合体。
これで、あとは、6人だ。
■
一佳から聞いた話だが。
元々一佳は、彼女の友人と一緒に行動していたらしい。
だがその友人が別の人と行動をしてしまい。一人残された一佳を守るようにパーティーを組んだのが、ターニャやカタリナ、ヴァネッサだったらしい。
『私たちは皆イチカに助けられたんだ』
ターニャはそう言っていた。だからこそ、カタリナの裏切りは許せないとも。そう言っていた。
『カタリナはもう戻らないよ。アイツは、もう私たちが知っているカタリナじゃない』
イチカは信じられないだろうけど。そう言って、病室でターニャは笑った。
『もしもアイツが参加していたら、殺すのは私がしたかったけど、今の状況じゃダメそうだね。……ゴメンナサイ、お兄さんにお願いをします』
嫌な汚れ役。きっとターニャはそう思ったのだろう。かつての仲間を手にかけるなんて、どんな事情があろうとやりたくは無いに決まっている。
それでもターニャはやろうとした。一佳をこれ以上傷つけるくらいならと。……尤も、当日までに体調は戻らなかったから、俺が代わりにする事になったが。
「……ま、とりあえずは。これで1人はオッケーだな」
『キョウヘイさん……』
「何心配そうな声出してんだ。へーきだよ」
一佳の敵は殺す。もうなりふり構っていられ状況じゃないんだ。今更怖気づいてしまう馬鹿がどこに居るって話だ。
カタリナは殺した。これであと6人。向こう側が誰を選んでいるかは知らないが、カタリナと同程度であればそこまでは苦労しないだろう。
問題があるとすれば、ライオット。そしてイーリス自身の真意だ。
「行くぞ。サポート頼む」
『はい……――――ッ!?』
気が付いたのは、ほぼ同時だった。
カタリナの死体に背を向けた一瞬。その一瞬で、別の誰かが現れる。
背後に突如として現れた気配。その気配に思わず振り返りと同時に拳を向け――――
「……逝きましたか、カタリナ」
その拳を、思わず止める。止めてしまう。
鮮やかな金色の長髪。人目を惹くくらいには綺麗な顔立ち。カタリナとは異なり、柔和な印象を与える眼。
知っている。俺は知っている。彼女が何者であるかを。彼女が何者で、カタリナとどんな関係なのか。
俺は、知っている。
「……また、会いましたね」
「……ああ」
彼女はゆっくりと立ち上がった。柔和な瞳。そこに隠しきれない疲労を乗せている。
「イチカは、元気ですか?」
「……ああ。まぁ、なんとかな」
愛おしそうに紡がれた名前。それだけで、彼女はカタリナとは違い、ターニャと同じように一佳の身を案じてくれていた事が分かる。
「アンタも、無事だったんだな」
「無事……まぁ、そうとも言えますね」
皮肉だよ。今更、ここで。まさか再開するなんて。誰が想像できるか。
彼女は微笑みを象ったまま、ゆっくりと頭を下げた。
「お久しぶりです、お兄さん」
「久しぶりだな、ヴァネッサさん」
ヴァネッサ・ランバート。
かつて屍人の森で救出し、一佳と会うための手引きをしてくれた恩人。
そんな彼女が、そこにはいた。




