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6-EX

その頃のあの人は。

イーリス側の話。


次話も恭兵以外の別人物視点での話の予定です。

 その女が私の目の前に現れたのは、何となく肌寒さを覚える、とある日中だった。

 そいつはやけに芝居がかった口調で、世界の危機だの、異分子を倒さねばならないなんて言っていた。

 綺麗ごと。私が前の世界で何度も聞かされた、吐き気を覚える様な美辞麗句。大義名分だの公平性だの、自分たちの事しか考えていない勝手な言葉の羅列。その綺麗な笑顔の下では、どんな腹黒い事を考えている事やら。

 ――――力を貸してください。

 そいつは長々と言葉を並べた後、確かにそう言った。

 その言葉は。今まで聞き流していた羅列に比べたら、多少真実味は含まれていたと思う。

 だから、きっと。助けてほしい事だけは、本当の事なんだろう。

 ……まぁ、だからと言って。そんな簡単に力を貸す義理も無いし、優しいつもりも無いんだけど。

 と言うか、貸すほど暇じゃないんだけど。


 てことで。


 私は断るつもりだった。

 断って、それでも食い下がる様なら殺してしまおうと。

 そう思った。

 思っていた(・・)




「手を貸してください。――――斉藤千歌さん」




 九割九分固まっていた私の意思は、その女のまるで狙いすましたかのような一言に待ったを掛けられた。

 まず何故私の名前を知っているのか。此処に来て殆ど明かしていない私の名前を、それも下だけでなく、苗字までを何故知っているのか。

 そしてその発音のイントネーションが、この世界のそれではなく、前の世界のイントネーションなのか。日本人としてのイントネーションだったのか。

 それから私の名前を、チカ・サイトウではなく、斉藤千歌と、日本人であることを前提に呼ぶことができたのか。

 それに――――そもそもの話、こいつはどこで私の情報を聞いたのか。どうやって私の事を知ったのか。何故こいつは私の死兵を掻い潜り、私の居場所を正確に見つけることができたのか。

 湧き出た疑問の数々には、勿論答えなんて無い。全ては目の前の怪しげな女が生み出したものであり、こいつに訊かなきゃ解決は望めない。


「……アンタ、何者?」


 だから、癪ではあるけど。

 私はコイツに質問をぶつけた。

 にっこりと、変わることなく張り付けたような笑顔を浮かべたまま。

 そいつは言った。




「イーリス・アロイ・ローリエと申します」




 吹き抜ける風。

 たなびく栗色のロングヘア。

 そして不気味な形だけの笑顔。

 日中なのに少し肌寒さを感じる。

 そんな真昼の出来事だった。











 私は全く知らなかったけど、この世界ではいつの間にかに、最終審判ってのが行われる事になったらしい。

 そうイーリスは話していた。

 最終審判ってのは戦争みたいなもので、その結果次第でこの世界の命運も決まるとか何とか。つまりは、存続するか、或いは滅びるか。

 何て言うか……胡散臭い話だ、と私は思っている。だってありえないでしょ。そんな簡単に世界って滅びるものなの? 馬鹿らしくすら思える。

 だからイーリスの言葉を信用するつもりは無い。まぁそもそもの話、この世界がどうなろうとも私にとってはどうでもいいし。わざわざ真偽を問い正すつもりはない。

 私がすることはあくまでも、手を貸すだけ。

 より正確に言えば、兵を貸すだけ。

 戦争だか何だか知らないけど、そんな危険な場所にわざわざ出張るつもりはない。

 高みの見物をするつもりしかない。




「……ふん、随分と陰気臭い女だ」


 仲間を紹介したい。

 イーリスの言葉に、とりあえずは頷いて後を付いて行ったら、いきなり喧嘩を売られた。

 赤髪の女。

 椅子に座って、随分と偉そうにふんぞり返る様、高飛車そうな女。

 ……人をいきなり乏してくるとか、第一印象としては最悪だよね。この女、コミュニケーションという言葉を母親のお腹に忘れてきたのかな。


「教養の無い女が仲間とか聞いて無いんだけど」


 赤髪の女とは話したくないから、文句はイーリスにぶつける。……それに私の経験上、こういう言い方の方が、ああいう高慢ちきな相手には効くしね。


「……あぁ?」


 ほら。

 予想通り過ぎて、笑えてすらくる。

 顔を不満げに歪め、射殺さんばかりに睨んでくる。お手本のような反応だ。


「ネクロマンサー如きが大層な口を利く」

「ねぇ、イーリス。あなたの仲間に人はいないの?」


 この場にいる人物は、私とイーリスを除いて3人。

 1人が今の高慢ちきな赤髪の女。

 1人は何の反応も見せない人形のような青髪の女の子。

 1人は黒色の包帯で顔をミイラみたいに隠しているやつ。

 ……どいつもこいつも、性格に難がありそうな面々ばかりだ。


「別にアナタの仲間の基準なんかどうでもいいけど。私の力を借りたいのなら、せめて最低限、人として喋る事が出来る相手が欲しいんだけど」


 いや、ホント、切実に。

 それともナニコレ。私そんなに難しい要求をしているだろうか。

 ……そう言えば、あの時私の命を狙ってきたクソガキとかクソ女とかも問答無用で襲い掛かってきた記憶がある。この世界では強い=コミュ障なのかもしれない。


「よほど死にたいらしいな。貴様程度の代わりなど、幾らでも私が見繕ってこよう」


 あーあ、なんか切れてる。黙っていれば結構な美人さんだろうけど、性格で見事にマイナスだ。あれと仲良くやれる人がいるとしたら、それはもう聖人以外には務まらないだろう。少なくとも私には無理。


「アレの代わり程度なら、幾らでもいるわよ。あの程度で避ければ貸すわよ」


 売り言葉に買い言葉。思っていた以上にカチンと来ていたみたいで、返した言葉は強めの語調だった。

 でも決して出まかせで言っているわけじゃない。


「殺して良いよ、ツヴァイ」


 一緒に連れてきたアンデッドに命令をする。ツヴァイと名付けた、私の奴隷の1人。5人分のアンデッドを混合させて一つにした、合成アンデッド。

 赤髪の女。強いとは思う。迸る魔力も今まで見た中ではトップクラス。

 でも、私のアンデッドには敵わないね。


「はっ、屍人如きが調子にのるなっ!」

「叩きのめして。完膚なきまでにね」


 命令は一つ。イーリスが視界の端で頭を抱える仕草を見せるけど、そんなのどうでもいい。仲間だか何だか知らないけど、私のツヴァイ程度に勝てないなら、最終戦争とやらに出ても犬死するだけだしね。

 ツヴァイ。グレンやヒョウガとかの近接戦闘系のゴリラタイプのアンデッドを合成させた、近接戦闘特化型アンデッド。あの女も近接戦闘型みたいだし、力の差を見せつけるにはちょうどいいだろう。言い訳のしようもない具合に叩き潰す。




「静かにしてくれ」




 固まる。私のツヴァイが。

 あの赤髪の女も、それに加勢しようとした青髪の女の子も同じように。

 声の主は――――あの、顔を包帯で隠していたやつ。


「あまり暴れるな。割れるぞ」


 氷だ。私の目に映ったのは、氷で身体を固められた3人の姿。氷漬けって言葉は、まさしく目の前の光景の為にあるのだと思う。頭部を除いて氷に飲み込まれた3人の姿は、一種の芸術品かと思えてしまうほどだ。


「流石ですね、『氷眼』」


 氷眼。包帯男の名前。いや、二つ名かな。確か襲った旅人から学んだ情勢で、そんな名前の人がいると聞いた事がある。滅茶苦茶強いけど、滅多に人がいるところには来ないとか何とか。


「騒がれると頭に響く。静かにしてくれ」


 そう言って、氷眼は僅かにずらした包帯を元に戻す。すると、あっという間に氷が溶けて消える。凍てつく様な魔力も消え失せる。


「……チッ!」


 僅かな停滞の後。バツが悪そうに盛大な舌打ちを零して、赤髪は席に戻った。

 ダサい態度だ。勝てないと分かって、しかしその事実を受け入れられないが故の態度なんだろう。これでもかという程の高慢ちき女のテンプレートそのものの態度だ。いやホントダサい。


「ツヴァイ。良いよ、戻って」


 青髪の女の子も席に戻ったので、ツヴァイを呼び戻す。叩きのめして赤髪のプライドをへし折ろうと思ったけど、とんだ横やりが入ってしまった。……ま、それ以上の収穫があったから良いか。

 氷眼。

 ツヴァイの動きを止める程の、氷の魔法の使い手。

 まさか戦闘特化型のツヴァイの動きを止められるとは思ってもいなかった。

 ……彼の力が、欲しい。

 キョウヘイ君たちをぶち殺すのに、欲しい。


「顔合わせからこれとは、先が思いやられる。残りの3人も遠めに見ているだけようだしな」

「……返す言葉もありません。ただ、実力は皆一級品です」


 呆れた様子の氷眼。その言葉に、疲労をにじませた返答をするイーリス。どうやら此処にいる以外にも、まだ3人仲間がいるらしい。……仲間と言って良いのかは分かんないけど。


「ねぇ、イーリス。此処の3人と、残りの3人以外に仲間はいるの?」

「いえ、今は貴女を含めて7人。それだけです。本来であれば此処に『鬼神』や『聖女』、及びその仲間たちが居たはずなのですが……」


 鬼神は知ってる。最悪の殺人鬼だっけ。被害がヤバいらしい。

 聖女も知ってる。分け隔てなく誰でも治療する聖人だっけ。仲間たちのことは知らないけど、聖女の仲間ならいい人たちなんでしょ。多分。


「……あの裏切り者どもや犯罪者を、我々と同列に並べてもらいたくは無いがな」


 赤髪が呪詛の籠った言葉を吐いた。裏切り者に犯罪者。穏やかじゃない言葉だ。


「今は、敵でしょう」


 青髪の女の子も、赤髪に同調する。赤髪と違って、言葉になんら感情は含まれていないけど、語調自体は敵視していると言える。……しかもどちらかと言えば、ベクトルは聖女に向けての方が大きそう。


「何が――――」


 あったの。そう訊こうと思って。イーリスに視線を向ける。

 ――――全くの無表情。

 一瞬だけ。本当に一瞬だけど、彼女は能面の様な、全ての感情を取り除いた表情を浮かべた。

 それから仮面をかぶり直す様に、嫋やかな笑みを浮かべる。


「……ふぅん」


 どうやら事は、そう単純なものじゃなさそうね。

 最終戦争だか、世界の命運だか、皆の行く末だか。

 そんな障りの良い綺麗な言葉では片付けられない。

 寧ろもっとドロドロとした、酷く個人的な愛憎が混じるような。

 そんなものが根本にありそう。

 ま、そっちの方が理解はしやすそうだけど。











 赤髪の女の名前はカタリナ。

 青髪の女の子の名前はウルファ。

 氷眼は本名を言いたくないらしいので氷眼のまま。

 で、他の3名は出たがらず、顔合わせはこれでお終い。

 これを顔合わせと言って良いのかは疑問が残るけど、私もそこまで皆と仲良くしたいわけじゃないので、結果はこれで良しってことで。


 で、だ。


 話が終わったので帰ろうとしたところを、イーリスに呼び止められた。

 何でも別件で、しかも秘密裏に力を借りたいらしい。


「いいわよ」


 出会った当初よりも幾分かイーリスに興味が沸いていた事もあり、私は二つ返事で了承した。

 良かったです、なんて。人当たりの良い仮面を張り付けたまま、イーリスは安堵の言葉を吐く。芸達者な事だ。


「ネクロマンサーでもある、貴女の力を借りたいんです」


 やや遠回しな表現。つまりは死体の蘇生とかってことだろう。私の名前ではなく、クラス名に対して助力を請うのだから。

 先導するイーリスに黙ってついていき、案内されたのは……ああ、やっぱりというか、


「5体分の、蘇生って事?」


 案内された部屋には、5つの柩があった。それも中々に豪奢なやつだ。


「蘇生と言えば蘇生ですが、厳密には異なります」


 そう言って、イーリスは傍の柩を開けた。中には……大剣?


「この剣を満足に扱えるアンデッドを、調達してもらいたいのです」


 それは……どういうことなのだろうか?

 意図を計りかね、とりあえずツヴァイに命令をする。

 この剣を手に取ってみて、って。


「例えばだけど、これでいいの?」

「そう、ですねぇ……少し待ってもらえますか?」


 そう言って、イーリスは大剣を撫でた。

 ――――バチッ!


「痛っ!」


 弾かれる。ツヴァイと私の間に繋がっていた魔力の糸。それが切れる。つまりは、結んでいた筈の主従関係が切れる。

 いったいどういうことか。理解が及ばなくて、思わず思考を放棄してしまい、


「……悪くはない。だが、もう少し小柄な方が生前に合っているな」


 ……もう一度言うけど、いったいどういうことなのか。

 全く分からない。

 分からないけど、今の事実をそのまま言葉にするのなら。


「ツヴァイ、あなた……」

「この身体はツヴァイと言うのか? ふむ、アンデットとは思えないほどに上等ではあるな」


 私の主従関係をブチぎって、一個体としてツヴァイは存在を確立させた。

 或いは、私の支配から脱して、ツヴァイでは無い別の何かに変貌を遂げた。

 ……そうとしか、言いようがない。


「ライオット、調子は」

「悪くない。だが、さっき言った通りだ。もう幾分か小柄である方がいい」

「そうですか。チカ、他に貴方の配下で、彼と同等の力を持つアンデッドはいますか?」

「いるけど、小柄なタイプはいないよ。作らないとダメかな」

「そうか……ならば、あと頭一つ分小柄に出来ないか? 腕や足の長さも、同じ比率で縮小してもらいたい。但し筋力の密度はもう少し上げてもらいたいな」

「まぁ、出来なくはないけど……」

「助かる」


 ……なんか人が混乱している間に、勝手に話が進んでしまった。これって私が用意するってことだよね。ツヴァイとは別に新しい身体を。

 イーリスの方に目を向けると、何故か彼女は満足そうに頷いてきた。さっぱり意味が分からない。


「……もしかしてだけど、この調子であと4人分作れとか?」

「話が早くて助かります」


 嫌な予感がして訊いてみたら、まさかの大当たりだった。勿論、どういうことなのか一切分からないままだ。

 とりあえず今の私にわかるのは、イーリスは私が用意した死体に、別の魂を憑依させたいんだろうなってことだけ。

 それが何の目的によるもので、どこでどう使うのかは分からない……あ、いや、分からなければ訊けばいいだけか。


「ねぇ、イーリス」

「なんでしょうか」

「聞きたいことがあるの」


 そう言って、指を3本立てる。


「一つ目、彼らは何者? 二つ目、彼らの身体を用意して、何に使うつもりなの? 三つ目、もしかしてこれが私を呼んだ目的?」


 とりあえず頭に浮かんだ疑問を、そのまま口に出す。

 するとイーリスは、またあの嫋やかな笑みで頷いた。


「まず一つ目。彼らは昔の私の仲間です。二つ目。これは申し訳ございませんが、今はまだ明かせません。三つ目。半分は、その通りです」


 つまり、詳細を明かす気はないってことね。ふざけた返答。これで納得するのは、よほどの馬鹿かお人好しくらいだ。


「まだ言えない、ってことね」

「理解が早くて助かります」

「そんなので、助力を請えるとでも?」

「無理を言っているのは承知しています」


 いや、ほんと……あぁ、ふざけている。

 ……ふざけている、けど、


「……報酬」

「?」

「検索はしないから、報酬は確約しなさい」


 問い詰めるのも面倒なので、此方の用件を先に伝える事にする。そもそも私は仲間になると言った訳じゃないし。こいつらが何処で何をしようと、考えてみたらどうでも良いことだ。


「この戦争に、私は参加しない。観戦するだけ。私はアンデッドを用意するだけ。それと、戦争で出た死体は私がもらうから」


 戦争とやらに参加しない事。それと死体は私が貰う事。

 戦闘なんて、そんな面倒くさい事をするつもりはない。最初の考えの通り、私は高みの見物を決めるだけ。

 危険な事なんて、私に火の粉が降りかからない場所で、勝手にやってくれって話だ。




 そんな私の言葉を聞いて。

 イーリスは相変わらずの嫋やかな笑みのまま、頷いた。

 まるで私がそう言い出す事を知っていたかのような、ムカつく笑みだった。




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