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6-12

色々と詰め込みまくって、漸く6章本編終了。

次の話で、別の誰かを描写して、6章はお終い。

次の7章で最終の章となる予定です。

 イーリスの言葉。世界を救う。即ち、最終審判への参加の要請。

 要請の判断としては当然だろう。シグレとライオット。2人の実力を思えば、勧誘は何もおかしくはない。

 なんなら、こいつらを呼ばずに誰を呼ぶのかという話だ。


「行かんわ」


 だがどういうことか。

 シグレはつまらなそうに鼻を鳴らすと、イーリスの言葉を切って捨てた。


「そそらん」


 イーリスの顔が、笑顔を象ったまま固まった。まさか断られるとは思っていなかったのだろう。だが正直な感想を言えば、俺だってこの場限りで言えばイーリスと同じ気持ちだ。


「シグレ。君にしては随分と珍しい。てっきり承諾をすると思ったが」

「そそらん。そう言うとるやろ。何度も言わすなや」


 誰がつまらん奴と組むか。溜息すら吐き出して、シグレは否定の言葉を重ねる。


「……では、断ると」

「せや」

「世界が滅亡しても、構わないと」

「たかだか一人に左右される程度の世界なんか、滅亡してしまった方がええやろ」


 随分な言葉だが、多分本心からの言葉なのだろう。本心から、滅んでしまっても構わないと思っているのだろう。

 シグレにとって世界なんて、きっとその程度なのだ。


「しかし――――」

「しつこいなぁ。前も言うたやろ。気分が乗ったら、って。乗らんのやから諦めろや」

「キョウヘイ・タチバナとの戦いの場を設けたとしても?」

「阿呆か。戦いは与えられるもんとちゃうやろ」


 しゃりしゃりしゃり。会話をしながらシグレは日本刀で、その切っ先で地面をなぞっている。……言葉の刺々しさと言い、イラついているのが分かる仕草だ。


「意外ですね。随分と執着しているようでしたが」

「しつこいわ」

「それでは、先に別の誰かに取られても良いと」

「……」

「そう言う事で、良いのですか?」

「……はぁ」


 盛大な溜息。

 そして隠しきれない苛立ち。

 シグレはゆったりとした仕草で刀を構え、


「何度も言わす――――あぁ、そやなぁ」


 妙案を思いついたかのように。一転して、笑顔を浮かべる。……それはそれは楽しそうな笑顔を。




「キョウヘイ達と一緒に、アンタのくだらない計画を潰す方が楽しそうやな」











■ 妹が大切で何が悪い ■











 事の顛末を話せば。

 イーリスの介入は、呆気ないほどに解決を迎えた。

 ……本当に、呆気なく。




「決めたわ。アンタを殺す」


 シグレは切っ先を真っすぐにイーリスへと向けた。ブレる事の無い殺意と敵意を乗せた言葉。


「その方が、楽しいからなぁ」


 己の快と不快だけがコイツの行動指針だ。それだけに、単純な言葉だが信憑性はある。

 そしてそれはイーリスも知っている事なのだろう。すまし顔も作り笑顔も、その全てを捨て去った無表情で、彼女はシグレに再確認をした。


「では、死を選ぶと」


 明確な宣言。俺たち側に付く事の、その意味を直接的な表現で問う。


「死ぬのはアンタやろ」


 だがシグレは、相変わらずの減らず口で、逆に吹っ掛ける。思い上がるなよとでも言いたげな、絶対的強者からの蔑みの言葉。


「シグレがそっちなら、僕は彼女に付くかな」


 2人の会話に、ライオットが口を挟む。


「君が正攻法で手に入らないのなら、力で屈服させるまで。その方が流儀としても好都合だし。……それに、」


 ギロリと。視線が俺に向けられる。


「そこのそれは、僕がこの手で殺さないと気が済まない」


 完全にとばっちりだろ、と。そう言いたい。何で俺がテメェらの事情に巻き込まれなきゃいけないんだ。勝手にテメェとシグレで決着つける案件だろうが。

 次から次へと面倒事が重なってきていることに、作為的なものを感じる。いや、当然か。今のこの状況って全部シグレが作ったんだよな。アイツ元凶だよな。

 俺の視線に気が付いたのか、シグレはニヤリと笑った。それから、投げキッスのような仕草をする。状況を考慮しろよ、マジで馬鹿だろコイツ。


「止めた、今殺す」

「……喧嘩を吹っ掛けるなら、せめてその身体じゃなくて、もっと最盛期のマシな身体に憑りついてからにしてくれ」


 馬鹿が着火したせいでライオットが沸点を迎える。瞬間湯沸かし器かよコイツ。

 だがこのまま戦うのはよろしくない。中身はライオットでも、身体はティルのものだ。あの子とは短い間とは言え、一緒に行動をしていたんだ。その身体をぶん殴るのには躊躇いを覚えてしまう。それに、ルドガーには借りがある。

 だからティルの身体から出て行ってもらう様に、言葉を選んで返答する。あくまでも、俺の意図がバレない様に。そのせいで、多少今後がキツくなろうともだ。


「……確かにな。少し、見直したよ。その言葉には一理ある。癪だが、言う通りだ」


 意外にも。ライオットは後先考えずに飛び掛かって来る程阿呆では無かったらしい。

 俺の言葉に頷くと、手に持った大剣を地面に突き刺し、イーリスへと向き直る。


「新しい身体を寄越せよ、イーリス。この身体では幼過ぎる。生前と同等の身体だ」

「無茶を言いますね。しかも私に頼むのですか。生前の事をお忘れですか?」

「生前? あぁ、そう言う設定(・・)で通すつもりか。だが、僕が君の正体に気が付いていないとでも?」

「あらあら……どうやら、野暮な問いかけのようでしたね」


 その言葉を聞くと、満足そうにライオットは頷き――――その身体が、膝から崩れ落ちて地面に倒れ伏す。


「ティル!」

「安心せぇや、剣に意識が帰っただけや」

「ええ。この身体には、もう用がありませんから」


 焦るルドガー、呆れるシグレ、肯定するイーリス。

 イーリスは大剣をふわりと浮かせた。そして丁重に、割れ物を扱うかのように、創り出した光の輪の中に仕舞い込む。


「これで『剣聖』も我が手中に。『鬼神』が手に入らなかったのは残念ですが……まぁ、良いでしょう」


 芝居が掛かった口調と仕草で。イーリスは宣言するかのように、その言葉を室内に響き渡らせる。それがただの呟きでは無い、俺たちに向けた意図であることは明白だ。


「それでは、またお会いしましょう」


 来るのが唐突なら、去るのも唐突。

 再び外行きの笑顔を張り付けて。

 イーリスは去った。

 ……それが、この日のイーリスの顛末。

 後に残されたのは、未だに状況を掴み損ねた面々と、


「てことで、よろしゅうな。キョウヘイ」


 屈託の無い笑顔のシグレと、


「……私も含め、君は変な女に引っかかり過ぎじゃないか」


 呆れ顔のアリアと、


「……はぁ」


 溜息しか零せない、俺。











「――――つまり、妹を助け出したら、初代聖女様に命を狙われるようになったと」

「まとめりゃそうなる」


 場所は変わって、トリーシャ家のお屋敷。

 死体だらけの城にいつまでもいるわけには行かず。俺たちはクシーのお兄さんであるイサミさんの魔法で、一先ず場所をトリーシャ家へと移した。あんな場所に居座っていては、自分たちが大量虐殺の犯人だと言っているもだからだ。

 尤も、兵士の皆殺しは、移動の際にシグレの手によって隠滅されたが。

 火事による、証拠の焼却。

 火は便利だ。どんな証拠も瞬く間に消し去る。ましてやその炎はシグレが奪った『炎帝』の炎という事もあり、簡単に消せるものじゃない。外は大雨なのだが、城を飲み込んだ炎の勢いは一向に弱まる気配は無く、城から離れたこの場所でも猛る炎が見えた。この分だと、中の死体は勿論、争いの後もきれいさっぱりに焼け落ちるだろう。


「中々に奇天烈な状況ですね。正直なところ、あの光景を目にしていなかったら、信じられない話です」

「ええ、お兄様の言う通りです。私も、ちょっと……」

「……だが、本当の事なんだな」


 トリーシャ家に移動後は、一先ずティルを安静にさせ、それから状況の整理をしている。尤も、整理と言っても、基本は俺とアリアが事の経緯を話すだけだが。何せこの状況は、俺たちの行動の結果によって起こっている事なのだから。


「妹を助けただけなのに、随分な目に遭っているんだな」


 一佳を助け出したら、イーリス聖教国の面々に襲われ、しかも何故か初代聖女様にまで命を狙われるようになった。それが俺が皆に話した、大まかなマトメだ。尚、話の中にはシュヴァルグラン云々は含めていない。魔族関係を話に含んだら、絶対説明が面倒になるからだ。


「被害の中にはコイツの被害による濡れ衣もあるがな」

「やぁん♡ 褒めんといてや♡」

「褒めてないだろう、イカレ女」

「なんや、死にたいんか、半端モン」


 話自体は、存外すんなりと皆に受け入れられた。嘘は言っていないし、実際のところ実物を皆は見ている。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。


「良いだろう、この場で決着をつけるか」

「奇遇やな、同じ意見や」


 ……俺を挟んで殺意をぶつけ合うアリアとシグレ。視界の両端で今にも剣を抜きそうなので、アリアの首に腕を回して引っ張る。勝手に殺し合いを始めんなお前ら。


「イーリスを殺したら、存分にお前を殺してやるよ、シグレ」

「ええな、流石キョウヘイや。楽しみにしとるで」


 ……口調は楽しげだが、眼は一切笑ってない。コイツが行動を共にするのはいい意味で誤算だが、その後を考えると喜んでばかりもいられない。出来ればイーリスあたりと相打ちしてほしいものだ。こういった望みはきっと叶わないだろうけど。


「……そのイカレ女は、本当に信用できるのかよ」

「実力はな。人間性は信用してねぇ」

「酷いなぁ、あんなに愛し合ったやないか」

「殺し合ったの間違いだろう」

「接吻までしたのに?」

「テメェが奪ったんだろうが」


 あぁ、もう。会話だけで疲れる。ただでさえ疲労困憊だってのに。しかも俺の中で、ミリアが敵意を隠そうともしないから、魔力が荒立ってしょうがない。


「……こっちはこんな感じだ。俺と、アリアと、シグレと、あとは別の場所にいる仲間たちと、あのうさん臭い初代聖女様をぶっ潰すところだ。アルム王国に来たのは……『剣聖』が使っていた武器を拝借する為だな」


 シグレの言葉に反応しても仕方がないので、こちらの状況の説明は一旦これでまとめとする。実際、伝えなければならないことは伝えている。


「結果は置いておき、国宝を盗むつもりだったって事か」

「失敬な。ちゃんと返すつもりだったさ。ただ、無断で拝借するってだけ」

「それは言葉遊びだろ」


 うん、確かにそこはルドガーの言う通りだ。意図についてはどうあろうとも、得られたであろう結果を思えば彼の言葉は否定できるもんじゃない。アルム王国の面々から見れば、俺のやろうとしていた事は大犯罪なんだ。


「そうだな……そこはこれ以上申し開きのしようがない。確かに、思慮を欠いた言葉だった」

「ええやろ、別に。あんなのが国宝と奉られている事実の方がキモイわ」

「おい止めろシグレ」


 コイツはすぐに場を引っ掻き回すな、本当に。マジでもう止めてくれ。

 もう片方の腕を、アリアの時と同じように、シグレの首に回して引っ張る。意外なことにされるがままに無抵抗だ。これで俺の右腕はアリアを、左腕はシグレを押さえつけている状況だ。傍から見りゃさぞ珍妙だろう。


「俺らの事は以上だけど、ルドガーたちは何であそこに?」


 無理矢理話を変える。皆が皆、何とも言えない表情で見てくるが、他にどうしろというのだ。


「あぁ……まぁ、なんだ……俺たちは、お前らの件で呼ばれたんだよ」

「俺らの件?」

「ああ。ギルドでの推薦の件で、俺らがお前らと何かしらの関わりがあると見られていたんだ。それで国王様に呼ばれた。尤も、俺たちがキョウヘイたちを推薦していた事情については、国王様たちは知っていたから、簡易的な形だけの確認をされただけだったがな」

「私たちも同じです。多分ですけど呼び出したのは、私たちがキョウヘイさんたちを推薦した事で、イーリス聖教国の皆様から逆恨みされないようにするための措置も含まれていたかと」

「そうだったのか」

「あぁ。……だけどそれも、そこのイカレ女が全部ぶち壊しやがった」


 ギロリと。殺意を隠そうともせず、ルドガーはシグレへとぶつけた。


「皆を殺して、弟に変なもん持たせやがってっ!」

「おぉ、怖い怖い。けどそれは邪魔する方がアカンやろ。頭を伏せて降参しとったら、こっちだって手を汚さんわ」

「テメェ……っ!」

「あと、あのガキの事は過保護が過ぎるで。アレはアレで、力を求めとったんやから」


 首根っこを押さえられた状況で、よくここまで人の神経を逆撫でできるもんだ。しかも多分素でやっている。俺はコイツほど自分勝手に、そして自由気ままに生きているやつを知らない。


「ルドガー、すまないが抑えてくれ。……コイツをぶちのめすのは、俺の役割だ」

「珍しく言うやないか、ええ言葉や」

「一佳もそうだが、ミリアの件でもテメェには借りがある。安心してろ、必ず殺してやる」


 ミリア。先ほどからささくれ立っている彼女への言葉。シグレだけでなく、彼女にも向けた言葉。

 そうとも。コイツにはあのダンジョンの頃から因縁がある。あの場での出来事は、しっかり何倍にもして返さなきゃ気が済まない。

 魔力が荒立つ。ミリアの感情によるものではない。俺自身の感情で、荒立っている。


「ええな、それ」


 心地よいとでも言いたげに。シグレは穏やかに言葉を紡いだ。狂人の思考なんざ分かりたくも無いが、その言葉に嘘はきっと無いのだろう。コイツは本当に、俺の言葉を肯定的に受け入れているのだ。

 ……何だか阿呆らしくなってくる。暖簾に腕押し。コイツには幾ら言葉をぶつけようと、殆ど響くことは無いのだろう。こっちが一方的に色々とすり減らすだけ。ここまで割に合わない関係性があるだろうか。


「なんや、もう終わりか?」


 阿呆らしくなって、シグレを締め付けていた腕を放す。名残惜しそうに、不満げに彼女は問うてきたが、それに返す気力も起きなくて、追い払う様にぞんざいに手を振る。


「ケチやなぁ」

「阿呆らしくなっただけだ」

「マリッジブルーってやつやな」

「いつそう言う関係になったんだよ」


 あぁもう本当に疲れる。何を言っても効きやしない。無敵かコイツ。


「そう言う訳って言うか……コイツは先に俺がぶちのめさないと気が済まない。すまんが、優先させてくれ」

「……お前も色々と大変なんだな」

「あぁ……本当にすまないな」


 一転して憐れむ様なルドガーの表情と言葉。ルドガーだって色々と言いたいことがあるだろうに、それを飲み込んでこっちの状況を慮ってくれるんだ。本当に良い奴だよ。











 シグレの馬鹿は置いておいて、簡単に近況を語り合う。

 ルドガーは冒険者としてギルドに登録をし、ティルや侍女であるミルさんを始めとする部下と共に、魔物の討伐を定期的に行っているらしい。家督を継ぐにあたり、最低限自衛出来る腕は持っておかないといけないとかなんとか。ノーヴさんも運転手として、ルドガーに付いて回っているらしい。

 クシーは相変わらず魔物の研究をしているそうだ。危険地帯に赴くことも少なくないが、ケントの街で契約したゴーレムと一緒に行動をしているから、大概の魔物は返り討ちに出来るとか。ちなみにゴーレムの名前はキリアで四六時中一緒にいるらしい。そして彼女のその奔放さに、お兄さんのイサミさんは頭を痛めているとかなんとか。

 レオナさんは傭兵としての経歴を買われ、あの後別れてすぐに、トリーシャ家に仕える事になったらしい。雇い主はイサミさんだが、仕事は専らクシーの護衛。と言っても俺たちとの関係性は互いに知らず、互いにあくまでも経歴と待遇だけを見ての契約だったとか。偶然とは恐ろしいもんだ。

 ……因みにだが、シグレはあの後、一週間ほど回復に努めた後、また適当に面白そうなやつを斬るべく旅をしていたらしい。アルム王国に寄ったのはただの偶然で、寄ったついでに奉られているライオットの剣を叩き切ろうと思っただけだとか。その日その時の気分で適当に行動をし過ぎだコイツは。




「じゃあ、行くわ」


 ある程度の近況を把握したところで、俺は席を立ち上がった。


「イーリス聖教国のせいで、俺たちは犯罪者らしいし……迷惑はかけられない」


 聖女を攫ったことにより、俺たちは第一級の犯罪者として指名手配されている。

 キョウヘイ・タチバナ

 アリア・フォアラント

 『雷爪』ターニャ

 『鬼神』シグレ

 そして名称不明の、小柄な子供。多分、ネムのこと。

 俺たちはともかく、まさかターニャまで犯罪者として手配する辺りに、イーリス聖教国の本気度が伺える。だとすれば……このまま居座っても、ルドガーたちに迷惑をかけるだけだ。


「妥当だな。仕方あるまい」


 アリアも賛成をしてくれる。彼女からすれば武器を見つけると言う目的を達成できていないのだが……まぁ今回ばかりは仕方あるまい。代わりの物をラヴィアに頼んで見つけてもらう他ないだろう。


「楽しみやなぁ」


 ……シグレに関しては言うことは無い。もう好きにしてくれって気分だ。


「じゃ、そう言う事だ。迷惑をかけた」

「いやいや、迷惑だなんてそんな事はないですよ!」


 咄嗟に否定してくれるクシー。俺たちに関わったばかりに色々と危険目に遭っていると言うのに、良い子だよ。


「御武運を祈ります」


 イサミさんは言葉少な気に、しかし応援をしてくれた。彼からすれば、俺たちとは大したゆかりも無いのに……良い人だ。


「また会おう」


 レオナさんは気さくに笑みをこぼしてくれた。次にまた会えることを信じて疑わない笑み。その約束は……どこかで叶えたいものだ。


「……死ぬなよ」


 ハイタッチを一回。それで、ルドガーとは充分。死にはしないさと。言葉にせずとも、掌に込める。


 別れの挨拶は、以上でお終い。


 短すぎるかもしれない。だが長くなっても、無用に言葉と時間を重ねるだけだ。重ねれば重ねる程、決意が鈍るかもしれない。

 なら、短い方がいいさ。


「アリア」

「ああ」


 パリン、と。小瓶を空中で割る。黒い水が広がる。


「じゃあな、元気で」


 振り返りはしない。

 手だけを振って、水の中へ。




 ……それが今日という長い一日の終わりだった。




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