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6-9

 『聖女』イーリス。

 かつて魔物に脅かされていた世界を救った、7人の英雄の1人。

 彼女は生涯を世の為人の為に尽くし、聖人君子を絵に描いたような一生を送ったらしい。

 その生き様はまさに人が望む『聖女』そのものであり、それから何百年経った今でも、彼女の偉業は色褪せる事無く各国で讃えられている。

 ……回復の力を与えられ、ただただ善意で怪我人を回復していただけの一佳に、『聖女』の役目を押し付け、生きる事を強制させるくらいに。

 イーリス(聖女)の名は、大きな力を持っている。




 話疲れたのか、或いはこれまでの疲労がどっと押し寄せてきたのか。

 イーリスの話を終えた一佳は、力尽きたかのように眠りについた。

 眼の下のクマ。刻まれた眉間の皺。記憶の頃よりもやせ細った頬。

 その小柄な体躯に、どれだけの重圧が課せられていたのだろうか。

 今この瞬間だけでも、穏やかに眠って欲しいものだと思う。


 それにしても、だ。


 『聖女』イーリス。

 彼女がその身を世界の為に捧げたのは真実らしい。

 その身を捧げ、魔を祓い、民を護り、世界に尽くした。

 今のアレ(・・)しか知らない俺にとっては、随分と信じられない話だが、そこを否定しても仕方が無い。伝承は、伝承だ。その話の真偽はともかく、伝わっている内容こそが事実なのだ。

 ……まぁそれはそれとして、人の妹に危害を加えようとしている時点で、どれだけ輝かしい栄光を持っていようとも全殺し確定だが。


「妹さんの言っている事は事実です。私のような田舎者でも、『聖女』が成しえた奇跡の数々を知っているくらいですから」


 俺の影が隆起したかと思うと、傍にミリアが現れた。……何故か、俺の会社の女性従業員用の制服姿で。


「私も実際にアレを目にするまでは、聖人君子で品行方正で、本当に英雄として非の打ちどころの無い人間だと思っていたんですけどね……」

「あー、待った。その前に……ああ、いや、何でもねぇ。すまん」


 ツッコもうか迷いに迷った末に止めた。聞いたところで何かしらの意味がある訳でもない。違和感は半端ないが、そこは別に重要な事じゃ無いからだ。











■ 妹が大切で何が悪い ■











 大切な妹の貴重な睡眠時間を邪魔するのも悪いと思い。

 一佳に毛布を掛けて、部屋を出る。イーリスの正体についての考察は別室でも行える内容。そんな事をあの部屋で行い、一佳の安眠の邪魔をするほど、俺は愚かじゃない。


「聞いている内容と実物が違うってのは、それなりにある事なんですけどね。でも伝承になるくらいに、それも世界各国で同様の讃えられ方をしているのに、実物が真逆と言えるくらいに正反対と言うのは不思議ですね」

「不思議か? 隠し通しただけだろう」

「生涯死ぬまで隠し通したってことですか? ありえなくは無いですけど……」


 廊下を歩きながら、ミリアと議論を重ねる。

 題材はイーリスに付いて。

 伝承から大きく変貌した彼女の真実と真意について、考察と議論を続ける。


「そもそも死んだってのが間違いだろう。アイツは管理者なんだ。死んだように見せかけて、姿を晦ましていた可能性もある」

「聖女イーリスの最期は、土地に巣くった穢れを、身を挺して祓った事によるとされています。その功績を讃える為、その最期に祓われた土地にイーリス聖教国が建てられました。その全てが、彼女の策だったという事でしょうか」

「可能性の話だ。恐らく、多分。確証なんてない。ただ、それだとアレ(・・)の今の姿と、伝承の辻褄が合う。それだけだ」

「うーん……」


 納得のいかない表情。まぁ俺の常識に当てはめれば、キリストとかブッダとかが、自作自演で今日まで伝わる話を創り上げたと、そう言っているに等しい内容だ。そりゃあ納得も行かないだろう。別に神様なんて信じる程、信心深くは無い俺ですら、言葉にし難い違和感を抱くくらいなんだから。

 だがまぁ、考えても仕方が無い。そういうもんだと割り切る方が早い。それだけだ。


 ――――教えてもらうわ。この世界の全てを

「……もしかしたら、アイツの正体は、あの光景にヒントがあるのかもしれないな」

「今、同じことを思いました。あの光景って、試練前に魔王が見せた、過去の映像ですよね」


 過去の映像。シュヴァルグランが見せた真実とやら。伝承で聞くよりも人間臭く、そして年齢相応の少女としての一面も見せた、イーリスと言う名の少女の記憶。

 私もキョウヘイさん越しに見ていました。そう言って、思い返す様にミリアは目を瞑った。


「伝承の最期では、彼女は身を挺して穢れを祓ったとされています。ですが、それはあの光景とは辻褄が合いません」

「ああ。死んじゃいないからな。死にそうな怪我は幾つも負っていたけど、ちゃんと生きていた」


 大怪我からの、シグレとの二人旅。そしてシュヴァルグランに会い、変貌を遂げる。その大まかな流れの中に、聖女の死は無かった。


「そう、生きていました。……そしてその姿は、今も変わらない。伝承通りなら、何百年と経っているのに」

「……」

「ところでなんですけど、聖女はイチカさんに、依代って言ってましたよね?」

「ああ、そう言っていた」

「依代っていうのは、呪術界隈だと、わりかし馴染み深い言葉なんです。呪いを転移させたり、或いは魂を憑依させたり。色々な場面で使用される言葉です」

「……やっぱり、良い響きな気はしねぇな」

「はい。良い意味で使用されることは無いです」


 そりゃまた困ったもんだ。呆れ返りたくなるのを堪えるが、漏れ出る溜息は一段と大きく響いた。


「で、ここからは私の、今しがた思いついた憶測なんですけど」

「なんだ?」

「もしかしたら、今のあの聖女自体が依代だったりするかもしれません」

「……それは、本体が別にいるってことか?」


 魂の憑依。先ほどの説明で、ミリアはそう言った。つまり、別口に身体があるとういうことになる。


「その可能性もあります。ただ、魂を憑依させて身体は捨て去った可能性もあります」

「捨て去った?」

「はい。物は必ず老います。ですから老衰を迎える前に、魂だけを別の身体に移動させて、第二の人生を送っているのかもしれません」


 老いていく身体を捨てて、別の才能のある身体に意識を移し、自分の意のままの様に操る。……まるで寄生虫だ。


「勿論、だとしてもあの身体を何百年も維持しているのは説明が付きませんけどね」

「冷凍保存みたいに、ずっと眠っていたとか?」

「或いはそういう禁呪を使ったとか、ですかね。まぁそこら辺は想像と言うか妄想と言うか、その類になっちゃいますね」


 確証は無い訳ですから。そう言って、ミリアも盛大に溜息を吐き出した。疲労を存分に色濃く乗せた溜息だった。

 ……それにしても憑依か。確かに、それならより理由が強まる。要は今の身体よりも、より都合の良い身体に寄生先を変えようってわけだ。……反吐が出る。


「……やっぱり、直接アイツを殺さない限り、一佳に平穏が訪れる事は無さそうだな」

「うーん、気持ちは分からなくも無いですが……」


 ミリアの言い淀み。何を言いたいかは分かるさ。不可能に近い、そう言う事だろう。

 何たって相手は、俺やターニャ、ラヴィア、黒騎士を相手取り、尚も余裕を見せる程だ。アリアやネムも加え、全員が万全の状態で挑んだとしても、果たして勝てるものだろうか……いや、そもそも戦いになるかすらも分からない。


「そう考えると、アイツはきっと何かしらの裏技を使って、戦闘の場に出てくるんだろうな」

「……まぁ……そう、ですよねぇ」


 でなければ、わざわざ依代対象の一佳を強制参加させる意味がない。きっと、どころじゃない。絶対出てくるに違いない。


「全く……考えれば考える程憂鬱だ」


 力量差に加え、此方は武器を砕かれた状態。最高級品である竜種の籠手ですら、あの様。

 ならば。文字通りの徒手空拳で、果たして俺はアレに勝てるのか……


「単純な魔力の打ち合いでは勝てないですね。総量も、一回の排出量も、レベルが違い過ぎます」

「チッ、嫌になるよ。絶望的過ぎてな」


 だけど、どうにかしなければならない。その為の具体的な方法が見つからなくとも、絶対に。


「……ミリア、手を貸してくれ」

「お安い御用ですよ。元よりそのつもりですから」


 コツンと。互いの拳を叩き合わせる。

 軽めの衝撃は、それなりにミリアが力を加えてくれたからだろう。

 その意図を、誤る事無く俺は理解する。




 あと一か月。その間に、どうにかする。

 ああ、そうとも。どうにかしなくちゃいけないんだ。











「キョウヘイ、手伝ってくれ。武器を盗んでくる」

「いきなりだな、おい」


 とりあえず武器の問題をどうしようか。最低でも今まで使用していたのと同等、欲を言えばそれ以上のが欲しいが、あと一か月で見つかるだろうか。

 そんな事を考えながらラヴィアのところへ戻る。彼女なら何かしら特殊な武具を持っているかもしれない。確証は無い、希望に縋るような行動だった。

 だが部屋にはラヴィアはおらず、代わりにアリアがいた。……しかもその開口一番は、彼女らしからぬとんでもない事だった。


「盗む? どこから?」

「アルマ王国からだな。確かあの国には、『剣聖』の所有していた武具が厳重保管されている。……正直な話、アレの同等クラスを相手にするのなら、この大剣では力不足だ」


 そう言って、アリアは大剣を抜いた。今まで数々の危機を救ってくれた大剣。見慣れた、アリアによく似合う、それ。

 だが今のそれには、一本の亀裂が入っている。


「抜きはした。だが振るった訳じゃない。あくまでも対峙しただけ。……それだけで、この罅だ」


 真正面から、アリアはイーリスの威圧に立ち向かった。

 ただのそれだけ。それだけで、大剣に罅が入る。

 ……つくづく実感する。どれほどまでにアレが規格外であるかを。……本当に、嫌になる。


「かつての英雄の武具だ。年月は経過しているが、急造品を見繕うよりはマシだろう」

「……まぁ、そうだな。それしかないか」


 かつて世界を救った7人の英雄とやら。俺はその伝承を深くは知らないが、響き的には所謂伝説級の力を秘めた武器を所持していそうである。アレ(イーリス)が本当に7人の英雄の1人だと言うのならば、一緒に旅をしたであろう英雄の武器を使う方が、そこらの急造品を使用するよりはマシであろう。アリアの言葉の通りだ。


「で、盗むと」

「そうだ。流石に馬鹿正直に伝えても、許可が下りることは無いだろう」

「まぁ……そうだな」


 加えて俺たちは、一佳の件で確実にイーリス聖教国に目の敵にされている。多分どこの国に行っても、進んで協力してくれることはあるまい。何たって、一佳の件で速攻で各国に入国制限の情報が回るくらいの国を敵にしたのだから。


「カタリナ辺りが手を回しているだろうしな」

「ああ。それに……イーリスの名は絶対だ。まさか敵対する様な存在とは、誰も思うまい。……私だって、まだ信じられ無いんだから」


 キリストが実は悪辣な人間です。そう言われて、一般市民は誰が信じられようか。……いきなり言われて、信じられるはずが無い。アリアの想いは、そう言う事だ。


「盗む案には賛成だ。……俺も、どこからか調達しなきゃいけないからな」

「そうか、キョウヘイもだったな。だが手甲は……難しいな」

「伝承では、誰も使っていないのか?」

「伝承通りなら、残念ながらその通りだ。『聖女』が杖、『剣聖』が大剣、『狂戦士』が弓、『大賢者』が魔導書、『獅子王』がハルバード、『鬼神』が倭刀、『天魔騎士』が槍だな」

「……そうか。なら、別口で入手するか」


 アテがある訳じゃない。だが、使い慣れない武具を、たったの一か月で使いこなせるほど、俺は才能に溢れた人間じゃない。どうせ武具に引っ張り回されるだけだ。なら、性能が落ちようとも、まだ己の徒手空拳で対峙した方が良い。無い物強請りをしたって仕方が無いんだ。


「とりあえずは、その大剣を盗むか。どうやって行く?」

「それならば、ラヴィアに頼んだ。道は彼女が用意してくれる」

「? ……ああ、そうか。あの道具を使ってという事か」


 なんでラヴィアの部屋にアリアが居たのか。それに合点がいく。要は彼女は先んじて、武具の入手のために動いていたという事だ。


「彼女は彼女でやることがあるという事で、道具だけくれるそうだ。キョウヘイが来てくれるなら心強い」

「お安い御用だよ」


 心強い、なんて。そんなのは俺の台詞だ。

 何処までも自分勝手な俺の行動に、アリアはずっと一緒に付いてきてくれた。禁足地で出会った最初の頃から、ずっと。アリアがいなければ、とうの昔にくたばっていたかもしれない。

 そんな恩人が、大切な人が。助けを求めていると言うのなら。喜んで手を貸す。それだけの話だ。


『……むぅ』


 脳内でミリアが不満そうに言葉を漏らした。呼応するように、彼女に制御を任せている魔力が、少しばかりさざ波立つ。

 小さくない嫉妬心。その意味を、恐らくはしっかりと理解する。……理解するが、今更大切なものの順番は変わらない。

 1に一佳。それに変わらないくらいに、アリア。それはもう、不変なのだから。


「おまたせ、アリア~……あらぁ、ダーリンも?」

「あぁ、ちょっと行って来る」

「えー、せっかくデートしようと思ったのにぃ」


 ふくれっ面を見せるラヴィア。だがそれは決して本心によるものでは無く、揶揄う様なものであることは瞭然だ。そんな見え見えの態度に引っかかるほど経験が浅いわけじゃない。


「悪いな。だけど、俺は今何よりもあの女をぶちのめしたいんだ。その為に出来ることを、率先してやっていきたい」

「うーん、確かにアレをぶちのめすのは賛成。私が見下すのは構わないけどぉ、見下されるのは気にくわないのよねぇ」


 先ほどと同じふざけたような口調だが、そこには真実が込められている。絶対的強者としてのプライド。それを先日の一撃で傷つけられた。その傷は、アイツをぶちのめさない限り治ることは無い。


「まぁ2人なら大丈夫だと思うけどぉ、早く帰ってきてねぇ?」

「ああ。すまんが、留守の間頼む」

「誰に言っていると思っているのよぉ」


 そう言って、ラヴィアはウィンクをした。蠱惑的で、挑発的な仕草。返す言葉に、詳細は要らない。絶対的な信頼があった。


「じゃあ、行って来る。任せた」

「ええ、いってらっしゃい。任されたわ」











 瓶を割って、広がった水。それは瞬く間に空中に広がり、俺たちを飲みこめるだけの大きさになった。

 そこに、入る。

 恐れも何も無い。

 やらなければならないことをする、それだけだ。


「……城内か?」

「恐らくはな」


 そうして。出たのは、石造りの建物の中。豪奢では無いが、武骨且つ堅牢で広大な造りは、そこらの建物を凌駕する。確実に王族、或いはそれに準じる者の住まいと分かる造りだ。


「流石に詳細な指定は出来ないな。だが、城内に出たならまだマシだな」


 あの道具の効能を、俺も理解をしているわけでは無い。だが流石に、知らない場所に狙って出られる程、便利なものでは無いらしい。……当然か。もしそうだったなら、奇襲も暗殺もし放題だ。あってたまるかって話だ。


「てことは、ここからしらみつぶしに探す感じだな」


 探し人のスキルも、此処では使えない。知らないものを探せるほど、有用なものじゃないのだ。せめて姿形が分かれば話は別だろうが、それを今言っても仕方が無い。


「一先ず、中心部に向かおう。誰かしらは居るだろうから、脅して吐かせるしかない」

「まぁ、そうだな。……ああ、そうしよう」


 今更手段を選ぶなんて、そんな悠長に事を構えてはいられない。今は一刻でも早く、目的の物を入手して、帰る。それだけだ。

 負ければ、死ぬ。ならば負けないように全力を尽くすしかない。

 そのほかの方法なんか、考えたところで意味は――――っ!?


「……アリア」

「……ああ」


 気が付いたのは、多分ほぼ同時。

 風の様に吹き付けてくる魔力か。

 よくよく見れば気が付く赤い液体の痕か。

 僅かに聞こえる悲鳴か。

 何処からか漂う、嗅ぎなれてしまった死臭か。

 ……何にせよ、


「先客のようだな」


 どうする? その言葉を介するまでも無く、俺たちは同時に走り出した。知らない通路を、しかし導かれるように、迷うことなく。魔力を始めとする痕跡を追えば、何も難しい事じゃない。

 庭園を、廊下を、階段を。

 少しずつ増えていく痕跡と、転がる死体たち。濃くなる魔力。

 それを追うように。全速力で、走る。走り抜ける。


「チィ、タイミングが悪いなぁ!」

「先に盗られたかもしれん!」

「まだ魔力はあるよな! ギリギリ間に合うかどうかってところか!?」


 タイミングが悪いとは、今まさにこの状況の事。

 先に盗られたとは、伝承の大剣とやら。

 間に合うかどうかは、進む先にいる魔力の主次第。

 このタイミングで、この襲撃。相手の正体は不明だが……目的は大剣にあることは想像に難くない。と言うか、それ以外の理由がない。

 ……もっと言えば、相手の正体は不明としたが、高確率でイーリスの手の者、ないし関係者だろう。イーリスによって選定させた戦士が、武器を求めて襲撃したか。或いは、俺たちの手に渡る前に処分をする気か。


「先行する!」


 先に、豪奢な扉が見える。今までとは違う造り。そしてその先から感じる特段大きく感じる魔力。

 ほぼ確実に、相手はこの先にいる。この惨劇の主が、いる。

 ならばこそ、行く。俺が先行し、あの扉をぶっ壊す。


『ぶっ放しちゃってください!』


 ミリアの熱の籠った声に押されるように。そして淀みなく回る魔力を存分に使って。

 拳に乗せたソレを、ぶっ放す。




「っ!?」




 瞬間、飛び散る鮮血。

 俺のではない。

 俺の視線の先。火を纏った人型から、血が噴き出ている。

 今まさに、斬られたのだろう。それは力なく膝を着くと、そのまま崩れ落ちた。




「終いや」




 そして、その先。

 崩れ落ちた人型の先。

 小柄な少女が、刀を振るった。

 びしゃりと。赤い液体が床に直線を引いた。




「でぇ……遅いやないか」




 そいつは。真っすぐに俺を見ていた。まるで分かっていたかのように、動揺も、焦りも、何も無く。




「……またかよ」




 対して。

 俺も、存外に動揺は無かった。焦りも無かった。ただ、魔力はざわついた。ミリアが緊張をしているのが分かった。だがそれだけだ。

 もしかしたら、直感で分かっていたのかもしれない。幾度となく浴びたソレを、俺はもう理解よりも先に覚えていたのかもしれない。

 ……いや、そんなことはどうでもいいか。理由は、どうでも、いい。




「二度目、か。いや、キョウヘイは――――」

「ああ、三度めだな」




 アリアの言葉に、抑揚無く返す。

 一度目は、ダンジョン。

 二度目は、イーリス聖教国。

 そして、三度目。三度目は、このアルマ王国で。




「久しぶりやな」

「二度と会いたくはなかったがな」




 軽口。だが、本心を込めて。

 治った筈の傷が、疼く。斬られ、貫かれてた傷が、疼く。そして右腕が鋭い痛みを思い出す。ミリアが覚えている痛みを感じる。

 そいつは、真っすぐに。俺に視線を絡ませた。そして口角を吊り上げる。それはそれは嬉しそうに、吊り上げた。吊り上げやがった。




「ほな、やろか」

21/7/7 誤字脱字修正

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