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6-4

終わりに向けて少しずつ整理をしているところですが、読み返してみると放りっぱなしの設定が多い……

後々どこかで上手いこと拾えれば良いっしょ、なんて感じの自分の無計画さが如実に表れていますね……


※21/4/24 誤字脱字修正

 昔、死んだ知人が生き返って、会いに来ると言う物語を読んだ事がある。

 と言っても、感動するようなストーリーではない。

 死者による手招き。

 1人で逝くことを拒み、友人である主人公を連れて行こうとする。

 そんな、ホラー的な物語。



 死ぬと言われて。

 はいそうですか、と。

 そう簡単に受け入れられる程、俺は理解が早い人間じゃない。

 コイツは何を言っているのだろうか。それが真っ先に出てきた疑問だったし、そもそもの話、死者が死の警告とかどういう了見だ。

 とは言え、世の中には死者の警告による奇跡体験で、一命を取り留めたと言う話もある。なんてのを前にテレビで見た。

 ならばこそ。ミリアの言葉を、あり得ないなんて頭ごなしに否定するのは、決して褒められる手段では無いだろう。


「俺は死ぬのか」

「はい」

「どうやって?」

「生命力を吸われて」


 生命力、ねぇ。また随分と大雑把な言葉だ。

 癌って事か?

 それとも体内に腫瘍が出来ているとか?

 或いは脳の血管が切れているとか?

 ……いや、生命力を吸われてってことだから、ストレスで自殺とか?


「もう少し具体的に言ってくれ。原因が絞れない」

「そうですね……えーと……魔石に吸われて、死にます」


 ませき? なんじゃそら。人の名前か? どっかの会社か?

 絶対に俺は阿呆な顔をしている。言葉の意味不明さに理解が及ばず、誰がどう見てもコイツ分かってないって顔をしている。間違いない。

 だがこっちの身になって考えてくれ。人の今後の人生に関わることで宣告をされたかと思えば、その詳細は聞いた事も無い様な意味不明な言葉で語られるのだ。状況の奇怪さも相まって、頭の中は大混乱だよ。本当に。


「あー、一つ一ついいか? まず、ませき、って何だよ」

「何と言われましても……え、っとぉ……もしかしてですけど、その……キョウヘイさんは、思い出したってわけじゃ無いって事ですか?」

「何のことを言っているか分からんが、さっぱりだ」


 発言から察するに、俺は過去にその言葉と関わった事があるらしい。全く覚えは無いけど。

 ミリアは首を捻りながら、あーでもないこーでもないとぶつぶつ言葉を零している。時折聞こえる独り言には、ダンジョンだの魔王だのとゲーム的な単語が含まれていた。……大丈夫か、コイツ。

 死者が蘇っている事が驚きなのに、そんな電波的な事を言われ始めたら、俺としては何よりも恐怖心が勝って仕方が無い。ミリアとは10歳近く年齢は離れているが、そういう問題じゃない。恐怖の前に年齢は関係ない。

 いっそ逃げてしまおうか。幸いに玄関は俺の背中側。速攻で玄関に向かって、鍵を開けて出てしまえば……ダメだ、何故か逃げ切れる自信が湧かねぇ。追い付かれる未来がありありと想像できてしまっていた。


「えーと、じゃあ……キョウヘイさん!」

「……おう」

「私の手を握ってください!」


 いやだよ。そう言いたくなるのを堪えて、差し出された手を見る。

 小さな手だ。妹の方が大きさはあるんじゃないだろうか。力を込めて握ってしまえば、潰れてしまいそうに思える程に小さな手。……今は何故か、得体のしれないモノに見えなくも無い、手。

 握ったら死ぬんじゃねーだろうな。そう思ったが、何をビビっている、と自分に言い聞かせる。握手で死ぬって、それこそファンタジーだ。ビビり過ぎだろ。

 意を決す、という程大げさでは無いけど、小さく深呼吸をして丹田に力を入れる。

 ビビってんじゃねーよ。

 たかが握手だろ。 











■ 妹が大切で何が悪い ■











 手を重ねる。

 それは別に、特別な行為ではない。

 時に家族と、時に恋人と。時に友人と、時に知り合いと。時に上司と、先輩や後輩と、得意先と。

 日常的に、誰もに手を重ねる機会はある。


 だが。


 手を重ねた瞬間に、情報が流れ込むとか。

 もっと言えば知らないはずの記憶が蘇るとか。

 その記憶がどうしてか忘れていたものであるとか。

 ……そんな体験をしたことがある人は、きっと少数だろう。


「っ!?」

「キョウヘイさん!?」


 膝を着く。

 辛うじて、その行為だけは理解できた。

 続いて、頭部に衝撃。

 それが自分が倒れ込んだことによるものであるとは、一拍遅れても気が付けなかった。

 ……ミリアの必死な声と、今にも泣きそうな顔。それが何故か逆方向に見えた事で、漸く頭が理解してくれた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「……ああ」

「嘘です! 絶対大丈夫じゃないですよね!?」


 じゃあ訊くな、と。そう言いたいところだったが、言葉にする事も煩わしいくらいに頭が重い。口を開くと言う行為すらも億劫だ。

 知らない記憶。それに脳内を蹂躙される。知らない情報を得るのとは違う。これまでの俺の記憶を否定する様な、全く新しい情報が記憶に蘇り、更新し、そして拒絶をする。

 その気持ちの悪さは、今までの人生には決して無かった、言葉にし難い不快感だ。


「ぐっ、う、うぅ……」


 食い縛った歯から唸り声が零れた。きっと今の俺の姿は、とてもでは無いが人に見せられるようなものではあるまい。

 ……そんな事を考えられるなんて、意外と冷静じゃないか。第三者的な目線で、まるで他人事のように己を評する思考。そこに気がつくと、今度は不快感よりも先に何故か怒りが込み上げてきた。

 冷静に他人事のように思考するくらいなら、少しでも俺の状況を緩和しろや。とは言え苦しんでいるのは俺、思考しているのも俺、悪態を吐くのも俺。全部が俺自身だと言うのに何ともまぁ奇妙なもんだ。……いかん、思考がおかしくなっている。


「平気に……決まってんだろ、こんくらいっ」


 頭を上げて、思いっきり壁に打ち付ける。あ、違う、床か。まぁどっちでもいい。

 ごんっ、と。中々に良い音が聞こえた。混乱への荒療治。冷静になるのが難しければ、外部からの刺激で一旦リセットすればいい。尤も、今までにリセットできたことは無いが。


「あ、あの……キョウヘイ、さん?」

「……なんだ?」

「その、大丈夫……ですか?」

「……大丈夫だよ。もう、な」


 心配そうに俺を伺うミリアに、俺はぶっきらぼうに言葉を返す。正直なところまだ混乱の具合は酷いが、心配をされても解決はしない。

 歯を食いしばり、おもっくそ渋面を作りながら身を起こす。酷い頭痛――今しがた打ち付けた事に対してでは無く、記憶の混乱に対して――は継続しているが、先ほどよりかは幾分かマシになった。痛みの度合いがでは無い。気分が、だ。


「思い出したよ。とりあえずはな」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。……まだ混乱はしているけどな」


 二つの記憶に脳を蹂躙される。それは簡単に受け入れられるものじゃない。けど、拒絶をしても始まらない。

 痛みと混乱に耐えつつ、椅子に座り直す。そして先程冷蔵庫から出したお茶を口する。冷たい液体が口を、喉を、食道を通り過ぎて胃に到達する。じんわりと広がる冷たさに気分が幾分かの静まりをを見せた。

 同時に、ボコボコとナニカが沸きたつ音を耳が捉える。

 ああ、そう言えばお湯を沸かしていたっけか。

 音から察するに、結構前から沸いていたようだが、全く気が付かなかった。


「悪い、火を止めてくれるか?」

「へ? 火?」

「……」


 お前まで混乱していてどうする。そう言いたくなるのを堪えて、自分で火を止めることにする。追加の飲み物も欲しいしな。

 火を止め、元栓を締める。マグカップに粉末を入れ、上から沸いたお湯を注げば、ミリアの分は完成。それから冷蔵庫を開け、俺自身の分の……あぁ? お茶も水もねーじゃん。酒と……野菜ジュースだけかよ。しかも一本だけ。

 まぁ、いいか。その野菜ジュースを取り出し、席に着き直す。後で飲み物は近くの24時間スーパーで買ってこよう。


「はい、ミルクティー」

「あ、ありがとうございます!」


 渡して、椅子に座る。崩れる様に座る。そして思わず溜息。


「……で、だ。こりゃ現実って事か?」


 頭は痛むが、混乱は大分落ち着いた。ならば次に行うべきは、現状の把握。

 二つの記憶。その真偽性や、辻褄、事実を確認する。


「二つの記憶があるんだよ。会社に勤めている俺と、なんか化け物と戦ったり冒険している俺。どっちも正しく感じるし、夢とも嘘とも思えねぇ」


 言葉にするとその馬鹿さ加減に阿呆らしくなってくるが、事実は事実だ。俺はイカレているつもりは一切無い。

 うるさい課長。発言が二転三転するクソ野郎。小言に耐えつつ平日の会社務めを終えた俺。

 シュヴァルグラン。大層な名前の魔王様。それに言われるがままに黒い穴に飛び込んだ俺。

 そのどちらもが、俺にとっては間違いのない記憶だ。だが、


「これがあのクソッたれ魔王様が言っていた、試練ってやつなのか?」


 葬式を上げたミリアが生きている。そしてこっちの常識を知らない素振り。

 ミリアを起点に考えると須すると、恐らくだがこっちの世界の記憶の方が偽りなのだろう。……そうすると中々に頭のイカレた状況を受け入れなきゃいけないし、何より妹の行方不明が事実になるのだが、何と言うか、妙にそっちの方がしっくりくる。言葉にすると説明し難いのだが、嫌なのに受け入れてしまっている自分がいるのだ。

 だから、多分。今いるここが、シュヴァルグランの言うところの試練の可能性は高い。


「断定はできません。ですが、その一部分であることは間違いないと思います」

「一部分? ……いや、まぁ、それはそうだな」


 歯切れの悪いミリアの言葉に引っ掛かりを覚えるが、彼女の言う通りで断定なんてできるはずが無い。何せアイツから詳細は明示されていないのだから。

 しかしまぁ……ぶら下げられたニンジン(帰る方法)を前に飛びついたは良いが、そんな事も忘れてのうのうと過ごしているとは、失態も良いところだ。


「ただ、このままいるとキョウヘイさんが死ぬ事だけは確実です」

「魔石に吸われて、か」

「はい」

「じゃあ元の世界に戻ったってわけじゃないんだな? まだ試練とやらの真っ最中って事でいいんだよな?」


 つーか、そうじゃなきゃ困る。目的も果たせず(妹を連れ帰らず)に帰ってしまう事への意味は無い。


「ま、お前がこの世界に存在していたり、一佳がいる時点でそうだろうけどな」

「キョウヘイさんのご察しの通りです。この世界は魔石が映し出している、キョウヘイさんの夢みたいなものですから」

「夢ねぇ……」


 夢にしてはケッタイなものだ。それなら、もっと俺に都合の良い世界でも良かろうに。


「あくまでも、夢みたいなもの、です。魔石がキョウヘイさんの記憶を基に、現実と変わらない世界を創造しているだけですから」

「ケッタイなこった。何でわざわざそんな事を?」

「魔石は魔力や生命力を糧に成長しますから。キョウヘイさんが寝続ければ寝続ける程、より強大に魔石は変貌を遂げます」

「嫌なもんだな、そりゃ」


 そう言えばシグレは、魔石は人を食うと言っていた記憶がある。つまりは今の俺は、魔石に寄生されているってことかよ。気持ち悪ぃ。


「魔石に喰われる前に、さっさと目覚めて出て来い。ってのがシュヴァルグランの試練ってことか。このまま食われて死んだら、試練の意味が無いしな」

「恐らくはそうでしょう。状況を見るに十中八九間違いは無いかと」

「ハッ、悪趣味な野郎だ」


 しかもご丁寧に記憶まで封じやがって。ミリアがいなきゃ詰んでたぞ。どんだけ理不尽だよ、クソが。……ん?


「――――」


 ミリアが何かを言っている。だがその詳細を俺は聞き取れない。聞こえてはいるが、音として認識するだけ。その意味を脳が理解しようとしていない。何故なら、今の俺は突然に降って沸いた疑問で、頭の中を一瞬で埋め尽くされてしまっていたから。


『負けないで下さい』


 声が蘇る。

 真っ白な世界。

 消える間際の、笑顔と、最期の言葉。


『これから、ずっと、いつまでも』


「なぁ、ミリア」

「はい、何でしょうか?」


 キョトンとした様子で。

 ミリアは可愛らしく首を傾げた。

 その姿に。一瞬口にするべきか迷いはあった。あったにはあったが、迷いに反応する前に、出しかけた言葉は自然と排出された。排出されてしまった。


「お前は、なんだ(・・・)?」











 ミリアは死んだ。

 それは間違いない。

 ダンジョンで。シグレの手で。

 ミリアは死んだ。




「ミリア、お前は死んだ。ダンジョンで、確かに、間違いなく。あの後に葬儀もした」


 改めてミリアに目線を合わす。彼女の亜麻色の瞳に視線を絡ませる。


「ここが魔石が見せる夢の世界だってのは理解した。都合が良すぎず、悪すぎることもない、俺が疑問に思わない程度の世界を見せ続けているってことなんだよな」


 この言葉は事実だろう。嘘を言う必要性が無い。


「死んだはずのお前が出てくるって事は、魔石とは関係ないんだろう。この世界ですら、俺はお前に葬儀に参列している。だから、お前が生きているってのは違和感の塊なんだからな」


 ミリア・パルムは死んだ。それはどっちの記憶であれ間違いのない事実。偽る事は出来ない。

 では、何故。

 ミリアは生きて、俺の前にいる?


「だから、教えてくれ。ミリア。お前は、何だ?」


 何。それは他人任せで抽象的な質問。人にものを訊ねるのならば、もっと具体的に言葉にするべきだ。

 だけど、俺は分からない。何をどう具体的にすれば欲しい答えを入手できるのか、そもそもどんな答えが欲しいのか。それが分からない。

 だからどうしても、何、なんていう言葉を使わざるを得ない。


「……」


 ミリアは口を一文字に結ぶと、微動だにせずに固まる。だが俺の視線から背ける事はない。真っすぐに目を合わせている。俺の言葉に迷いを見せる様子は無い。本人もある程度は想定していた質問だったのだろう。ただ、言うべき言葉には迷いがある。そんな感じだ。


「幽霊、じゃないよな」


 幽霊なら、何で触れるのかって話だ。俺はミリアとさっき握手を交わしている。……いや、そう決めつけるのは間違いか。幽霊が触れないなんてのは、俺が勝手に思っている事だ。


「……いえ、分類的には、そうです」

「幽霊……なのか」

「分類するなら、です」


 煮え切らない答えだ、もっと相応しい言葉があるってことか?


「より正確に述べるなら別だと」

「はい」

「じゃあ、何て考えればいい?」


 問答をするつもりは無い。情報は正確な方が良い。それだけだ。


「……キョウヘイさんは、私の術を覚えていますか?」

「術? 呪術ってやつか?」

「はい。もう少し正確に言えば、『影鬼』は覚えていますか」

「覚えているさ」


 当然だ。ミリアが命を懸けて行使した術。シグレを倒すために行使した術。二度も俺を助けてくれた、術。忘れるわけが無い。


「黒い人型を創る術だろう。助けられたんだ、忘れるわけが無い」

「その影鬼が私です」

「あ?」

「だから、私です」


 なんだそりゃ。影鬼が、ミリアだって?


「ダンジョンで行使した影鬼。アレは私の命と、キョウヘイさんの血が混ざってできた影鬼です」

「……ああ。そう、だったな。俺の血も混ぜたな」


 混ぜた後にすぐにシグレに襲われたせいで、本当に極少量しか混ぜられなかったがな。でもミリアの言う通り、混ざっていると言えば混ざってはいる。


「私が行使した術は、シグレへの自爆特攻を成した時点で、その成否に関わらず消える運命でした」

「爆発に全力を賭したからか」

「はい。……ですが、奇跡的に私の一部はキョウヘイさんに取り込まれました」

「俺に?」

「はい。あの、地面を割った時です」


 地面を割った時……ああ、呪いの集合体をおびき寄せるべく、最後の一押しで殴ったときか。

 確かにあの時は力の使い方が分からないなりに、魔力やら気力やら何やらを全部つぎ込んだ。全部つぎ込んで、地面に拳を突き刺した。


「あの時、消えて無くなるはずだった私……いえ、私の魔力は、キョウヘイさんの魔力と合体し、そのまま取り込まれました」

「……なるほど」

「ミリア・パルムというオリジナルは死にました。ですが魔力となって、私はキョウヘイさんの一部としてこれまで一緒にいました」

「……もしかしてだけど、イーリス聖教国での助太刀も、お前の能力ってことか?」

「はい。と言ってもあの時はキョウヘイさん自身の魔力が暴走気味だったおかげで、偶発的に表面化できただけです。あの段階では、私だけの意思では影鬼を行使できませんでしたから」


 とするとシグレの撃退は、本当に偶発的な要因が重なって得た奇跡的な結果だったわけだ。……薄氷の上を歩く様なもんか、今更ながらに背筋が震える。


「……ん? ちょっと質問だ。今、行使できないって言ったよな。影鬼はミリアの能力だから、好きなタイミングで行使出来るんじゃないのか」

「答えはNOです。私の魔力はキョウヘイさんの魔力と混ざり合っている状況です。影鬼の行使に必要な大多数は、キョウヘイさんが手綱を握っている状況です」

「じゃあ……俺の意思で出せるのか?」

「そう言う訳でも無いです。影鬼はキョウヘイさんの魔力で動いていますが、トリガーはキョウヘイさんにはありません。私の意思が必要になるんです」

「エネルギーは俺だが、行使にはミリアの意思が必要って事か」

「そうなんです」


 車と同じって事か。エネルギーはガソリンとか電気。だが動かすには人間の操作が必要。どちらか一方の勝手では動かないってわけだ。


「話を戻しますね。えーと、魔力が混ざるという事は、私自身が何れは薄れて無くなるという事でもあります。ですが事前に混ぜ合わしていた事で、ある程度の親和性を得ていた事と、キョウヘイさんの魔力が特殊だったことで、奇跡的に共存することが出来ていたんです」

「そりゃ……あー……奇跡的っちゃ奇跡的なんか? 悪いが、ちょっと混乱をしている」

「ですから、分類的には幽霊と見てくれて構いません。キョウヘイさんに憑りついているようなもんです」

「それはそれで……あー、いや、まぁ、いいか」


 ミリアがそう言うのならそれでいい。理解は必要だが、細部を今は問うても仕方が無い。これはもっと専門的な者に訊きながら理解していくべき案件だ。ラヴィアとか、ネムとか。


「そういう特殊な事情のおかげで、私はキョウヘイさんと一緒に此処にいます。流石に夢の中にまで介在するのは、骨が折れましたけどね」

「何にせよ、またミリアに助けられたってわけか」

「あ、いえいえ! まだですよ! まだ助けられたわけじゃないです! 脱出が成功したわけじゃないですから!」


 そりゃそうだ。完全にうっかりしていたが、俺のゴールは此処ではない。まだ違和感に気が付けただけだ。


「脱出の方法は分かるのか?」

「いえ、そこまでは……。ただ、キョウヘイさんが目覚めることが鍵にはなるかと」

「あぁ、俺は寝ている状態なんだよな。起きれば良いのか」


 それなら簡単だ、と。そう続けようとして。


「……どうやって、目を覚ませばいいんだ?」


 首を捻る。目が覚めるのは何時だって自然にか、外的要因だ。目覚ましとか、電話とか、悪夢とか。

 でもここに、それは無い。そんなのは存在しない。

 夢だと自覚したのなら、眼は覚めるか? だが、幾ら意識しても光景は変わらない。


「どう、しましょう?」


 ミリアも首を捻る。互いに首を捻り合う。

 当たり前のように、疑問に思わず行ってきた行為。

 その今更の難しさに、俺は具体的な案を、何一つとして思い浮かびあげることが出来なかった。




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