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5-7

時間的余裕が欲しい今日この頃。

毎日投稿している人は、どれだけ時間の使い方が上手なんだ……


※ 20/12/13 誤字脱字修正

「死のうと思った理由は簡単さ。自分に魔族の血が流れているから」


「そしてその力を、年々抑えられなくなってきたから」


「いつかは制御できずに、周りに被害を与えてしまう。そう考えたら、早いうちにケリを付けようと思った」


「幸か不幸か、身内は亡くなっていてね」


「心残りが無かったわけじゃないが……まぁ……どうしても生きなければならないと思う程でも無いと。そう思ったんだ」


「私がね。あの禁足地に居たのは」


「まぁ……そう言う理由だよ」











■ 妹が大切で何が悪い ■











 こういう時、人は何を言えばいいのだろう。

 アリアの告白。生を諦めた人間の言葉。

 その内容にすぐに言葉を返すには、俺には経験も予測も何もかもが足りな過ぎた。


 死。


 言葉にすればたったの1文字。だがそれは、簡単に解決が見込める程、簡単な響きでも重さでも無い。


「流石に……予想外だったな、その告白は」

「ああ。私も言うつもりは無かった。文字通り死ぬまで、誰にも言う事無く胸の内に仕舞っておく予定だったんだ」


 予定、か。なら、それを崩したのは俺というわけだ。

 ラヴィアの言葉や、シグレとの対峙は直接的な要因ではない。俺がアリアの好意に甘え、色々な事を理由に深く問わなかったことが事の原因だ。


「ああ、そうそう。予定と言ったが……キョウヘイが気にするところは何も無い。結局言おうか言うまいか揺らいでいた私が悪いんだ」


 そしてアリアにはこういうところがある。甘い言葉。人に責任を求めず、自分だけが背負い込む。

 それは平時なら美徳とされるところだろう。彼女のような人間が100人もいれば、もっと世界は優しく回るに違いない。


 だが今の俺にとって。

 彼女の言葉は毒と同じだ。


 自分の不甲斐なさから目を逸らす、甘い毒。

 自分の至らなさをかき消すような、優しい毒。

 その言葉を甘受したところで、得られるものは何も無いと言うのに。

 意思に反して、気持ちが揺らぐ。


「……止めてくれ。アリアは何も悪くない」

「そうか? その言葉は嬉しいが、種族を偽っていたのは事実だ。よりにもよって忌むべき魔族と言う種族を隠していたんだ」

「魔族が忌むべき、なんてのがそもそも間違いなんだ。ネムやラヴィアみたいに、魔族でありながら友好的なのはいるだろう」

「だが黒騎士たちみたく、人を殺すものもいる。彼らの所業を忘れたわけじゃないだろう」


 ……それは、その通りだ。彼らがケントの街の住民を虐殺したのは事実だ。そしてジャックに至っては、そこに悪意を存分に混じらせた上での行為だった。

 友好的な者はいる。だが勿論、そう言う奴らだって、いる。


「同じ人間でも、シグレやチカみたいに悪意を持つ奴らはいる。種族で事を決めるのは間違いじゃないか」

「確かにそれもそうだ。だが、私や君の感情をこの世界は必要としない。あるのは事実だけだ。魔の者は、悪意を持って人に接するという事実がな」


 その言葉に感情は含まれていない。事実を事実として吐き出しただけの言葉。……事を諦めきった人間の言葉。

 だが。その言葉を覆すことは、この世界で生きる以上は不可能に近い所業だ。

 例え俺が声を大にしても……アリアの言う通り、全人間を納得させることは出来ないだろう。

 これまでの事実が、彼らの真実を潰しているのだから。


「例え君や、『聖女』が声を大にしても、覆す事は適うまい」

「味方は少ないってか」

「そうだな。数える程度、だろう。それが現実だ」


 言葉にすればするほど、アリアの生まれ落ちた環境に、反論の言葉を潰される。アリアの言う通りで、俺の意思や言葉を、この世界は必要としない。俺が何を言ったとしても、魔の者は悪意を持って関わるだろう。アリアがどれだけ人に尽くしても、望む結果が出る可能性は極めて低いだろう。

 無理矢理にでも、俺はその事実を、分からされてしまう。


「私はね、産まれの事は良くは知らないだ。ただ、母親は間違いなく人間で、私の事は人間として育ててくれた」


 言葉に詰まった俺に微笑んで。

 思いを馳せる様に。アリアは遠い眼を虚空に向けた。


「幼い頃は、自分の力なんて知らなかった。だから普通に生きて、普通に育って、普通に夢を持った。フェルム王国の創始者の様に、この国に人を護ると言う。そんな夢をな」


 左手を掲げる。天井に向けて。此処からは見えない太陽に透かす様に。


「魔族を敵視するようになったのは、やはり国を護るべく兵士になったころだからだな。多くの魔物を倒し、時に仲間を倒された。そう言う中で、育んできたと思う」


 左手に黒い靄が纏わりつく。彼女の手は瞬きの間にその靄に覆い隠された。


「私自身が魔族だと知ったのは……ある魔物の討伐任務だ。任務自体は成功した。この血のおかげでな」


 靄が弾け飛ぶ。現れたのは、真っ黒に染まった異形の腕。アリアの先ほどまでの腕とはまったく別種の、腕。


「死にそうなことは覚えている。それくらいの難敵だった。何が何でも死んでたまるかと、そう思ったのは覚えている。……その結果がこの腕だった」

「魔族としての血が、その腕を作ったってのか」

「恐らくは、ね。そう、多分。あるのはこの腕に変貌したっていう事実、ただそれだけだった」


 異形化した腕は、どう贔屓目に見ても人の腕とは言い難い。真っ黒の染まり、一切の色を拒絶し、指先は鋭利に研ぎ澄まされている。軽く振るうだけでも、この部屋を容易に引き裂けそうな。そんな禍々しさすら覚える、腕。


「任務自体は私以外の生き残りはいなくてな。この腕の事は誰にもばれることは無かった。だが何時またこの腕が顕現するかと考えると、呑気に軍に所属する訳にもいかなかった」

「だから軍を辞めたのか」

「そういうこと。軍には一身上の都合と言ったよ。引き留められはしたが、部下や仲間を全て失くしたという任務の結末は皆が知るところだったから、最終的には受理されたよ。親しい人間の死で、歩みを止める者は他にもいたからな」


 深く、重く、長い吐息。吐き出し切ると同時に、腕が元の腕へと戻った。


「最初に出会った時、探し物があると言ったな。あれも別に嘘じゃない。死ぬために禁足地には行ったが、一体でも多くの魔族を道連れにしようかくらいには考えていた。最期に良い人ぶりたいと言う自己満足さ」

「その言葉だと、俺に助けを申し出てくれたのは、その延長線上にあるみたいだな」

「みたい、じゃない。その通りさ。どうせ死ぬなら、困った子羊を助けようと言う、そんな気まぐれが働いた。それだけさ」


 尤も蓋を開けてみれば、子羊どころか猛牛だったがな。あの日に思いを馳せるかのように、初めてアリアは笑った。此処に来て初めて見る、心からの笑みだった。


「キョウヘイとの旅は悪くなかった。生きていても良いと、そう錯覚できた」

「錯覚じゃねぇよ」

「……君は、本当に欲しい言葉を欲しいタイミングでかけてくれるな」


 アリアは笑った。だけどそれは先ほどとは違う。今にも泣き出しそうな、そんな笑い顔。


「だがこの世界は私を必要としない。寧ろ弾き出すだろう。なら、私の我儘を押し付けるわけにもいくまい」

「そんなの知った事か。俺にアリアが必要だ」

「嬉しいな。けど、ゴールは目の前。私の手は本当に必要か?」


 俺のゴール。そんなのは決まっている。一佳と一緒に、元の世界に無事に戻る事。

 そしてその為の方法は、あとはラヴィアから聞き出すだけだ。実行する方法はまだ分からないが、アリアの言う通り、ゴール自体は手を伸ばせば触れられる範囲には辿り着いた。


「私に構うよりも、他にやることがる。違うか?」


 ……それは、その通りだ。俺には目的があって、その為に此処に来た。こんないつ死ぬかも分からない世界で、何時までも長々と時間を掛けてはいられない。

 アリアは立ち上がると、身体を解す様に伸びをした。そうして、またあの張り付けただけの笑顔を浮かべる


「もう、私には構うな」


 それだけを言って。

 彼女は俺に目を合わせる事無く、その場を――――











「ふざけんなよ」










 去ろうとしたその肩を掴む。驚きに震えるその小柄な肩。どこにあの大剣を振り回す力があるのかと疑問に思うくらい、小さく、弱々しさを覚える。


「舐め過ぎだ、馬鹿野郎」


 無理矢理にその身体を引き寄せる。思っている以上に抵抗なく、簡単にその身体は抱きしめられた。敵をなぎ倒してきたとは思えぬほどに、柔らかく、そして小柄と錯覚してしまいそうな、そんな身体。


「……止めてくれ」

「断る」

「頼む」

「惚れた相手を放っておけるほど物分かりは良くないんだ」


 一層、強く、抱きしめる。

 単純だと思うならそれでいい。安い演技だと笑いたくば笑え。

 例えそうであっても。今の俺の行動と言葉は、本心からのものに過ぎないのだ。


「アリアが必要だ」

「……」

「誰が何を言おうと、俺はお前を放っておきはしない」

「……無駄に終わるぞ。止めた方が――――」

「人の言葉で意見を軽々しく変えられる性分だと思うか?」


 答えに詰まったのか、胸元で黙り込む。結構だ。理論に理論で返すのが恒ではあるが、時には今の様に、理論では測れない物事もある。感情を想いのままにぶつけた時の方が良い事はある。

 我田引水。褒められた事では無くとも、他人の評価など今更だ。


「人を舐めるのも大概にしておけ。俺はお前が何を言おうと、見捨てはしない」

「……妹が、いるだろう。彼女の身が大切じゃないのか。私は、絶対に、邪魔に……なる」

「論点をすり替えるな。勝手に納得してんじゃねぇよ。あと、一佳が一番なのは当たり前だろう。一佳以外の事だ」

「……そのシスコンっぷりは、直した方が良いと思うがな」

「兄として生まれたんだ。妹を護るのは当然だろう」


 ははっ。胸元で零れる小さな笑い声。震えているように聞こえたのは、きっと気のせい。鼻声なのも気のせい。俺からはアリアの顔を伺い知ることは出来ない。だって彼女を後ろから抱きしめている形だから。……今は未だ、彼女の顔を見るつもりは無いから。


「一佳は無事に帰す。惚れた女を見捨てない。助けてくれた人たちに借りは返す。何も難しい事は無いだろ」

「……多いな。それに……自信が、過ぎるぞ」

「だから冷静に抑えてくれる奴が必要だ。誰が何を何と言おうとな」


 世界に優しさを求めることが間違いだ。世界はそのまま。為すがままに回り続ける。

 だからこそ、少しでも改善できるようにするには、当人たちが動くしかないのだ。

 アリアが死を望むなら、生きる目的を無理矢理にぶち込む。


「勝手にいなくなれると思うなよ。そんなことになったら、草の根を掻き分けてでも、探し出してやる」

「……強引だな」

「うるせぇ、元からこんな性格だよ」


 打算も、論理も、理屈も、何も無い。冷静さからかけ離れた、クソッたれも良いところの、感情のままの言葉の羅列。

 それでも。それで、アリアが留まってくれるのなら。

 俺は幾らでも吐き出し、ぶつけよう。思うがままに口にしよう。

 俺は、アリアにいなくなってほしくない。

 元をたどれば、ただのそれだけなのだから。


「物語の、悪役みたいなだな。女性にかける言葉としては如何なものかと思う」

「今更蝶や花を愛でるみたいに優しく扱えってか。悪いが女性の扱いには慣れていないんだ」

「慣れていないなら、それこそもっと気を配ったらどうだ」

「俺が気を配れるほど、立ち回りの良い人間だと思うか?」

「思わん」

「だったら今すぐは求めないでくれ。ただ、努力はする」


 ははっ。また、彼女は笑う。だが今度は震えていない。堪え切れずと言った様相の、笑い声。


「とんだプロポーズだな。ロマンチックさが足りない」

「なら改めて望むシチュエーションでしてやるさ」

「いや、いい。結果が分かり切っている。もうときめかないだろうさ」

「そうか。それは……すまんな。まぁ、俺のやる事なんだ。諦めてくれ」

「本当に強引だな。私で無ければ、きっと頬を強く張り倒していただろうよ」

「悪いが、経験済みだ。そう簡単に治らん」


 今までに付き合った回数は2回。いずれも、俺が原因で分かれた。少なくとも、彼女たちはそう言ったし、改善が実を結ばなかったのも事実だ。

 だからこそ言える。努力はする。だが、まぁ、人は簡単に変われない。


「女泣かせじゃないか」

「失望したか?」

「ははっ、君の言葉じゃないが、見くびるなよ。今更その程度で失墜するほど安く見ていない」

「それはありがたい。泣かれる事には慣れていないんだ」

「エスコートになれていないか、逆に自信があるのか。答えに困るな」

「どっちだっていいさ。俺はアリアが満足してくれればそれでいい」

「そうか……」


 会話に窮したか。互いに言葉が詰まる。だがこのまま無理矢理口を開けば、きっと互いに変な空気になるだろう。それは予感だったが確信めいたものがあった。

 だが、さてはて。勢い任せで言葉は出し尽くしてしまった。今更新しい言葉は出てこない。そしてこんな時に色々な事を言語化するには、俺は経験が足りな過ぎる。


「キョウヘイ?」


 強く抱きしめていたその腕から力を抜く。応じて、アリアの温もりが少し遠のく。

 ……それを名残惜しいと。そう思った自信を脳内で張っ倒す。今思うべきはそこじゃない。


「伝えたいことは伝えたし、いったん部屋に戻るわ。もうすぐ夕飯だろうしな」


 顔は見ない。見る必要は無い。今更顔色を伺うことに意味は無い。


「じゃあ、また夕飯の席でな」


 言って。返事を待たずに部屋の外へ出る。……いや、待たずと言うのはカッコつけ過ぎだな。正しくは、待てない、だ。


「……とんだ告白だな、おい」


 部屋の外に出て。扉を閉めたのを確認してから。

 俺はそのままその場に腰を下ろした。今更鏡で見なくても分かる。絶対に真っ赤だ。

 先ほどの己の所業に、口にした言葉に。

 今更に、俺は羞恥心を抱いているのだ。











 ある程度心拍数が戻り、大凡顔色も戻ったところで。俺はダイニングルームへ、そのままの足で向かう。アリアの事をラヴィアに言う為だ。

 今のままでは、不要に彼女はアリアに気を遣うだろう。そうなれば無駄にぎくしゃくする。一佳たちよりも先に、一先ず大丈夫である事だけは伝えなければならない。……実際には大丈夫でも何でもないが。


「お、いたいた」

「あら、ダーリン。どうしたの?」


 予想通り、彼女はダイニングルームに居た。彼女の性分は言う程分かっていないが、ホストは基本ゲストをもてなすからホストとなる。ホストであるラヴィアが夕飯を前にして、その場にいないはずが無い。


「アリアの事は心配するな。それだけを言いに来た」

「あらぁ? 手が早いのねぇ」

「はいはい」


 揶揄うような口調。とりあえず手を振って適当に流す。言いたいことは言った。どうやってやったかとか、何を言ったのかとか。深く突っ込まれれば絶対にどもってしまう自信があるので、その前に退散させてもらうが吉だ。


「あ、待って、ダーリン」

「何だ?」

「うーんと、ねぇ。稀人が帰る方法なんだけどぉ」


 来たか。戻りかけていた足を止めて、再度ラヴィアに向き直る。

 俺にとって、今何よりも必要な情報だ。


「あんまりいい話じゃ無いけど、やっぱり聞きたい?」

「いい話じゃ無い、か。……でも、聞かないと進めないよな」


 前置きからして、そう易々と取れる手段で無い事を察する。それも、かなり難易度が高そうだ。

 ラヴィアは悩む様に顔を歪めると、自身の身体から本を取り出して、俺に差し出してきた。


「細かい方法はこの中に載っているわぁ。ま、該当する箇所には栞を挟んでいるから、それを見て」

「すまん、助かるよ」

「うん、それはいいんだけど、その、ねぇ……」


 言い辛そうに首を捻る。相当に難易度が高いか、或いは好ましくない結果になるのか。

 暫く言い淀んでいたが、意を決したのか、重苦しい息の吐き出しと共に、ラヴィアは口を開いた。


「方法はね、結構面倒よぉ。しかも、それに見合った効果とは思えないの」

「面倒、か。何か希少価値の高い材料を持ってこいとかか」

「そんなんじゃないわぁ。ただ、そうねぇ……簡単にまとめると」



「生贄が必要なの。それも、対象と同じ世界の人が、ね」




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