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スキルについて、疑問を抱かなかったわけじゃない。
最初にスキルとやらを設定したのは、この世界に来る前の話だ。あの時は随分と自由度が低いと思っていた。何せ欲しい効果を持つスキルを設定出来なかったからだ。
その後に、リオンに促されてスキルを確認した。今までに道中で確認をした。ダンジョンで見た時にはスキルが成長する事を知った。その中でも人探しのスキルは、結構長い事お世話になっている。
だがそもそもの話、スキルとはいったい何なのか。
俺はそこについて、何一つ理解していない。
せいぜいが、便利な技程度の認識だ。
「スキルって言うのは、特定条件で発露する能力じゃないの?」
「残念ながら違うのよねぇ。そうねぇ……獣人ちゃんは、どんなスキルを持っているかしら」
「えっと……『異常耐性』とか、『魔法耐性』とか。あとは『不死特効』とか」
「なるほどねぇ。所謂後天的スキルってわけねぇ」
ラヴィアは紅茶を飲みながら、ゆっくりと息を吐き出した。ゆったりとした態度、余裕を湛えた微笑み。先ほどとは違う意味で、彼女のその全てに、この場にいる皆が釘付けになっている。
「いいわ。それじゃあ……授業に入ろうかしらぁ。特別授業よぉ♡」
■ 妹が大切で何が悪い ■
「スキルって言うのは、大別すると二つに分かれるわぁ。さっき獣人ちゃんが言った、耐性系や特効系のようなのは、後天的スキル。対して、ダーリンや妹ちゃんが持っているような、所謂レアスキルに分類されるもの。これは先天的スキルになる場合が多いわ」
「先天的スキルって、イチカの『天照』や『神域』の事?」
「そ♡ まぁ……必ずしもってわけじゃないけどねぇ。後天的に取得できるか否か、って感じよぉ」
「耐性系や特効系は、後天的になると。数をこなせば身に着けられるからか?」
「そういうことぉ♡」
言わんとする事は何となく理解する。繰り返せば技術は身につく。速く走る為の効率の良いフォーム。力感の抜けたジャブの打ち方。相手を説き伏せる話術。いずれも、人によって向き不向きはあれど、回数をこなすことでより洗練されていく。後天的スキルとやらは、そう言うものだと言いたいのだろう。
「ダーリンの『鉄拳』や、獣人ちゃんの『連撃』。こういうのは、魔力の加減によって形成されるから、細かく言うと耐性系とは別物。でも、後天的なものではあるわ」
「魔力の加減? どういうことだ?」
「本人の戦闘スタイルに合わせて、魔力が効率的に形成していくスキルって事。重いものを持ち上げるのと、それを振り回すのとでは、使う筋肉も魔力量も違うでしょう?」
「……各自のスタイルに合わせて、使用する魔力が変容していくと。魔力ってのはもう少し大雑把なイメージがあったが違うのか」
「魔力は皆が思っているより繊細よぉ。……ううん、繊細にコントロールが可能、かしらねぇ。勿論、コントロール可能であることを自覚しなければ、成長は何時まで経ってもしないわぁ」
魔力そのものを自覚したのは、そもそもつい先ほどの話だ。こう言ったらアレだが、今更俺が魔力を繊細にコントロール出来るとは思えない。と言うか魔法系の職種にしなかったら、俺でなくとも特に魔力について考えることは無かったと思う。その意味で言えば、この世界に入った時点でスキルと言う名目である程度身についた状態であったのは、所謂初心者向けの措置であったのかもしれない。
「待って、ラヴィアさん。でもそう言うのって、クラススキルに分類されるんじゃないの? 確かそうだよね、ターニャ」
「うん。私の『連撃』は魔法剣士のクラススキル、って説明だった」
「あらぁ。じゃあ、まずはそこを紐解かないとねぇ」
一佳の疑問に、ラヴィアは空中を指でなぞった。空中に浮かぶ、2つの円。恐らくは、俺たちにでも分かる様に可視化された魔力の塊だ。
「スキルって言うのはぁ、本来なら名前が付かないの。だってそうでしょう? 突き詰めていけば、当人たちしか持ち得ない、特徴でしかないんだから」
「使い手によって左右はされたな。……そういうことか」
「貴女は理解したみたいねぇ、その通りよぉ」
アリアは早々に理解したようだが、俺にはまだ分からない。それを察したのか、ラヴィアは2つの円を人型へと形を変えた。
「この2人は同じクラス。まぁ、剣士にしようかしらぁ。でも、同じクラスと言ってもぉ、当然全く同じと言うわけには行かないでしょう? 人によって、得意とする事も、成長する速さも、違って当然なんだからぁ」
言うが早いが、2つの人型は形を変えた。1つは両腕が太く、もう1つは両足が太くなる。
「今さっき言った『連撃』のスキル。これをこの2人が同じように発揮して、同じ構図や威力になると思う?」
「……ならない、ね」
「でしょう? 腕力に任せた『連撃』か、それとも脚力に任せた『連撃』かで、同じ連撃の名前でも、別物へと変わるわぁ。でも、それを一々細かく分類する?」
「しない……いや、できないか」
「そう。ダーリンの言う通りよぉ。扱い手によって変わるのに、それ一つ一つに特別な名前を付けやる事なんてできない。だけど同じ剣士が、似たような結果の技を出すなら、それはもう同じ扱いにしちゃうでしょう?」
ボクシングで基本とされるジャブも、人によって打ち方は違う。最短距離を真っすぐ最速というコンセプトは変わらなくとも、僅かな捻りが入ったり、インパクトの瞬間の力の伝え方が異なったりと、伸びが異なったりと、使用者によって変わる多種多様な技だ。だが一般人から見れば、どれも同じ結果に映る。効果のほど等知る由もあるまい。
「魔力は当人たちの動きに適合する形で流動する。でもそれをわざわざ一つ一つスキルに分類はしないでしょう? 大凡同じ結果になるなら、同じ名前で良いじゃない。……それがクラススキルなんて分類がされた根本よ」
「大方は理解した。そりゃあ……そうだよな。考えたことも無かった」
「理解出来ないものを理解出来るようにするために、名前を付けた。それがスキルの始まりねぇ。だから、効果は人によって別物だし、知られている内容と同じように作用するとは限らないの」
そう言ってラヴィアは、再び一佳の手を取った。そこに俺がイーリス聖教国で喰らったような拒絶反応は起きていない。
「妹ちゃんはスキルが私にも反応するかもって心配してくれたみたいだけどぉ、今の説明の通り、流布された効果と妹ちゃんのスキルとで効果は違うの。だから私が触っても平気♡」
「でも……別の魔族は拒絶したんです」
「なら、発動条件が違うのねぇ。例えばだけど、魔族だからじゃなくて、敵意とかそう言うのにも反応している可能性はあるわぁ。だって私やダーリンには反応しないでしょう?」
「そ、そうです……」
「さっきも言った通りだけど、種族は魔力によっても分類されるからぁ、魔力だけが妹ちゃんのスキルの判定条件では無いと思うわぁ。まぁ、そこは要検証ねぇ」
ラヴィアの言葉を反芻する。彼女の説明が正しいのであれば、あの画面で出てくる説明は、必ずしも正しいわけでは無いという事だ。思わぬ展開に、意図せず顔が渋面を作る。
……いや、違うか。思えば、『探知』のスキルには詳しい効果説明は無かった。探しやすくなるとか、そんな感じの一言メモだけだった。詳細な説明は、ギルドでスキル辞典を読んで理解をしたのだ。そしてそのスキル辞典ですら、効果は人によって違う旨が記載されていた。
それに、他のスキルも同じで、どれくらい能力が上がるとか、耐性が付くかとか、そんな表示や説明は無かったと記憶している。
「敵意じゃないと思うな。聖女になる前に野盗に襲われた時は、怪我してたもんね」
「うん。それにシグレの時も拒絶できなかった」
「あぁ……そうだよね、そうだったね」
「シグレ? ……ネム、シグレって、あのシグレ? 特級キチガイの」
「はい。そのシグレで間違いありません」
端正な顔を嫌そうにラヴィアは歪めた。特級キチガイ。差別用語も入った随分な言い方だが、酷いとは思わない。寧ろ納得してしまう。アレはそう言う部類だ。
「アレにはこっち側もやられているのよねぇ。第五位を殺したのもアイツみたいだしぃ。よく生きていたわね、みんな」
「運が良かった。色々とな」
「アレと対峙して運だけじゃ済まないわ。第五位は部下諸共全滅。突然襲ってきて所かまわず暴れ回ってくれたおかげで、こっちはてんやわんやだったんだから」
疲れを隠そうともせず、大きく溜息を吐き出すラヴィア。常に余裕を見せる彼女らしからぬ、疲労の濃い表情。ネムがどう声を掛けようかと、若干焦りを見せている。
「ちょっと話が逸れちゃったわね。スキルについてはこんな感じかしら。他に質問はあるかしら?」
「無いけど……別の意味で質問があるかな」
「何かしらぁ、獣人ちゃん」
「それよそれ。何で私が獣人の血が入ってってことを知っているのよ」
……言われて見れば、そうだ。ターニャが獣人とのハーフであることは、俺は一佳から聞いて知っている。だが彼女は平時は獣人族の特徴である耳や尾等は隠している。今だってそうだ。
ネムから聞いた可能性も無くは無いが、俺以外の面々とは初対面の筈。その状態で誰がターニャかまで分かるのか? いや、そもそも何で一佳が誰であるかを正確に言い当てられたんだ?
「あらぁ、そんなの簡単よぉ。私はそういうの分かっちゃうの。スキルでいうところのぉ、『真眼』ってことかしらぁ」
「『真眼』? それってスキルの区別をつけるだけじゃないの?」
「あらぁ? さっき説明したじゃない。スキルの効果は人によりけりって」
「あ、そっか……」
常識は簡単には変えられない。しまったと言いたげにターニャは渋面を作ったが、これまで培ってきた知識を考慮しないと言うのは、意識していても難しいものがあるだろう。寧ろこの状況で、よく理解しようと努められるものだ。
……ん? スキルでいうところの?
「なぁ、ラヴィア。その言い方だと、スキルって概念は魔族側には無いのか?」
今のラヴィアの言い方だと、そう聞こえる。それとも、魔族側にしかないスキルがあるのだろうか。あ、いや、でも、確かジャックがスキルの事を言っていたような……
「スキル自体は魔族側にもあるわよぉ。ただぁ、公には出来ないスキルなのよねぇ」
「公に?」
「そ♡ まぁそこは秘密ねぇ」
まぁ、そりゃそうか。自分に関する事なら、べらべらと話せないこともあろうよ。ましてや魔人軍の上位ともくれば尚更だ。
そうか、と。引き下がろうとしたところで、
「あ、勿論ダーリンが私と結婚してくれるなら別だけどね♡」
茶目っ気を多分に含んだ笑みと共に、随分な言葉をラヴィアは口にした。お得意の冗談。揶揄い。相変わらずタチが悪いことこの上ない。
はいはい。そう、受け流そうと口を開き、
「酷い冗談だな。魔族が人間と結婚か」
冷たい声だった。感情の無い声だった。淡々と言うには、あまりにも無機質が過ぎた声だった。
そしてその声には、卑下する様な、侮蔑する様な、そんなものが含まれているわけでもない。
あえて表すと言うのなら。諦観。
いや、それすらもきっと表現としては正しくは無いだろう。
それくらいに、表現の次元が異なる。
「……アリア?」
振り返った先で。
彼女はラヴィアを真っすぐに見ていた。
声と同様に無表情のまま。真っすぐに見ていた。
「あらぁ、冗談のつもりは無いわよぉ? 私の言葉は、0から1まで、AからZまで、ぜーんぶ本気」
ラヴィアは落ち着いた声色のまま、何も変わる事無くアリアに言葉を返した。ウィンクを交えた、余裕綽々の表情。そこにアリアの言葉に気分を害した様子は一切見られない。
「私はキョウヘイの事を好いているし、結婚も冗談では無いわぁ。そもそもぉ、彼から口説いてくれたわけだしぃ」
「お兄ちゃんから!?」
「そうよぉ、妹ちゃん。彼、すっっっっっっっごく情熱的だったんだからぁ」
「内容は間違っていない。が、勘弁してくれ。アレは――――」
「分かっているわ。でも、私を想っての発言だったのは間違いないでしょう?」
最後まで言わさず。彼女は蠱惑的に笑みを零した。子作りと言う、行為だけに重きを置いた発言への否定。その意図を彼女は正しく理解してくれている。
「もう一度言うけどぉ、私はキョウヘイの事を好いているわぁ。まぁ、出会いとか? そう言うのは巷で流行っているラブストーリーみたいなものではないわぁ。キョウヘイの事をたくさん知っているわけじゃないし……寧ろ知らない事の方が全然多いけどぉ、でもそれはこれから知って埋めていけば良いじゃない?」
「うーん……妹としては何とも言い難いと言うか……」
「あらぁ、そういうものよぉ、妹ちゃん♡」
恋、それから結婚。その視点や観点は人それぞれであって、ラヴィアの言葉に間違いは無い。幼少期から育まれるものが全てじゃない。タイミングなんてのは人それぞれなのだ。
「種族だって、獣人ちゃんみたく、人と獣人が育んだ愛もある。なら、魔族と人では愛が育めないなんてのは、それこそ思い込みも良いところねぇ」
最後の言葉は、一佳ではなくアリアへ。種族間の違いによる愛は、現実でいうところのアジア系と欧米系と南米系みたいな括りなのだろうか。外見的な特徴は俺たちの常識とは大きく異なっているが、言葉の正当性はラヴィアにある。
「『人と魔族は交われない。だから2人は天魔に堕ちた』。イルファニア叙事詩の言葉。知っているかしらぁ?」
「……ああ」
「私ねぇ、この言葉好きだけど嫌いなの。種族間の隔絶を乗り越えて結ばれた2人を認めつつ、でもまるで理解を捨てたようにも聞こえるじゃない。でも、それだけ常識って言うのは捨てがたいものなのよねぇ、きっと」
はぁ、と。強く溜息を彼女は吐いた。そして真っすぐにアリアを見つめる。
「ねぇ。貴女にとって、優先すべき事は何かしら?
「優先……そんなの……」
「即答できないの? じゃあ、ダーリン。貴方は何を優先しているかしら?」
「一佳」
「……即答じゃない、妬けるわぁ」
後ろで一佳が小さく俺の事を呟いた。振替らなくても分かる。きっと困った顔をしつつ俯いているのだろう。
だが俺の言葉は事実だ。俺がこの世界に来たのは一佳の為。仮に一佳が戻りたくないと言うのであれば、その事を一佳自身の口から言ってもらい、両親との別れさえちゃんと済ませるのならば、別にこの世界に戻らせることは吝かではないのだ。
「ダーリンはきっと、妹ちゃんの為なら誰が敵に回っても構わないって考えでしょう?」
「当たり前だろ」
「清々しいわねぇ。でもまぁ、そう言うところも惹かれたところなんだけどねぇ」
「……」
「貴女もそうでしょう?」
柔らかな微笑みをアリアへとラヴィアは向けた。
「ねぇ、魔族ちゃん?」
■
ラヴィアのその言葉を理解出来なかったのは、決して俺だけでは無いと思う。
ただ。魔族。その言葉を指すのが、ラヴィア自身やネムでは無い事。それだけは理解できた。それ以上の理解に追いつくことが出来なかった。
「……お見通しか」
その声は決して大きくは無かった。なんなら小さかった。だがこの部屋にいる全員が耳にするには充分だった。
「いつから……は、愚問か。種族が分かると言っていたな」
「ええ、そうよ。もう少し正確に言うと、魔族と人間のハーフ、かしらぁ」
「ははっ……ああ、その通りだ」
穏やかな口調だった。少なくとも怒りの色は無かった。アリアの顔には、口調に違わぬ落ち着きと、僅かな苦笑いが見て取れた。
魔族。その言葉が分からない程、俺は呆けているつもりは無い。
……振り返って見れば。思い当たる点が無かったわけじゃない。
異形化した左腕。イーリス聖教国の結界。
アリアは呪いと言っていたが、それが彼女自身の出自を指すのであれば、その意味も見えてくる。
「アリアさんが……魔族?」
「……なるほど。だからあの左腕かぁ」
一佳もターニャも事を察した。2人は解呪の為にアリアの事を見ている。判別の意味で言うなら、2人の方が理解は早いのだろう。
「……アレ? もしかしてだけどぉ、みんな気付いていなかったり?」
「そうですね。……加えるなら、私も初耳です」
少し焦りを見せるラヴィアと、澄ました顔のネム。流石に人のプライベートを暴いてしまった形になった事は、意図していない事柄だったらしい。
「……まぁ、気付かれなければ、言うつもりも無かったからな」
それはそうだろう。言う必要が無い事を、わざわざ公言することは無い。ましてやそれがマイナスの意味を持っていたり、本人が望んでいない事柄なら尚更だ。
アリアの顔は今も尚穏やかだ。だがそこには晴れ晴れとした色は無い。種別が露わになった事への様々な負の感情が見て取れた。彼女が望んだタイミングでの公言で無い事は明らかだ。
「え、えーとね。その……」
「気にはしなくていい……私のあの発言の意図を汲んだ上での言葉だって事は分かっている。そもそも、切欠は私の発言だからな」
アリアの言葉は、僅かだが震えていた。様々な葛藤があるのだろう。秘密にするくらいの事を暴かれたのだ。悪意が無いとはいえ、そう易々とは受け入れられまい。
「なぁ、ラヴィア」
「あ、えと、なにかしらぁ?」
「ラヴィアはその能力で、どこまで情報が読み取れるんだ?」
「情報? えーとね、まぁ、本名とか、種族とか、スキルとか、かしら」
「そうか……目的までは分からないのか?」
「んーとぉ、流石にそこまでは分からないわぁ」
前にジャックと相対した時は、アイツは俺の目的まで読み取った。もしかしたら魔族側の標準装備的なスキルかと思ったが、そうではないらしい。
「えーっとぉ……何か知りたいことがあるのかしらぁ?」
「ん? あぁ、まぁ、少しな。個人的な事だよ」
俺が元の世界に戻れるかは、この後の手順次第だ。だがラヴィアにこうやって会えた時点で、そう遠くは無いと考えている。
つまりは。俺がアリアに恩を返すのであれば。残された猶予はそんなには無いのだ。
だがきっと、アリアは言わない。今までもそうだが、クロックスの宿屋で会話した時も、彼女は何も明かさなかった。恐らくだが、このまま彼女の手を貸り続けて終わるのだろう。どうしてもそんな予測をしてしまうのだ。
そうならないために。もしもラヴィアがジャック同様に人の目的まで読み取れるのなら、早いところその真意を覗かせてもらおうと思ったが……まぁ、そうたやすくは行かないという事だろう。
「ラヴィア様。此処に至るまでに、やや面倒事を幾つか踏破してきました。恐れ入りますが、少しばかり休息の時間をとっては如何でしょうか」
「え、あ、そうね! 勿論、勿論!」
「助かります!」
芝居下手か。そう言いたくなるが……今の状況だとそれも仕方が無いか。
誘導が下手糞なネム。焦りっぱなしのラヴィア。乗っかろうとして挙動不審になる一佳。まぁ、無理もない。
「……ふぅ」
ちらりとアリアに視線を向ける。
彼女は先ほど変わらず、穏やかな表情のまま、しかして虚ろな瞳で視線を下に落としていた。




