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※20/10/29 誤字脱字修正

 ラヴィアに案内されて、彼女の邸宅へ行く。

 行くと言っても、歩いて向かう訳じゃない。

 飛行石を使い、早い話が一瞬で移動を済ます。

 着いた先は今までの中でも一番に大仰な邸宅。流石は第七位といったところか。絢爛豪華で煌びやかな邸宅の様は、正直俺の貧相な言語能力では全てを説明が出来ない。本当に。


「さ、ダーリン、どうぞ座ってちょうだい。ネム。お茶よろしく♡」

「はい」


 これが普段の姿なのだろう。勝手知りたる我が家のように、テキパキと準備を進めるネム。元々彼女は給仕服を着用していたし、日常的にラヴィアの給仕的な事をしていた事は容易に想像できる。

 ……と言うか、それよりも、だ。


「キョウヘイ、説明はしてくれるんだろうなぁ?」

「お兄ちゃん、どういうことなのかな?」


 笑っているのに笑っていない、アリアと一佳。

 説明。どっからするかなぁ……











■ 妹が大切で何が悪い ■











「――――つまりは、彼女とは協力関係にあると」

「ああ、まとめるとな。そう言う事だ」


 ネムがお茶を用意しに、そしてラヴィアが着替えで席を外している間に。アリアが俺の説明を簡潔にまとめた。……と言っても、大した説明をしてはいない。

 ラヴィアとは禁足地で出会った。彼女から元の世界へ変える方法を教えてもらう。

 俺が話したのはこの2点だけ。これだけでほとんどが説明できる。……と言うか正直な話、他に説明のしようが無いのだ。


「それで、ネムはあの魔族の部下だと」

「ああ」

「……至れり尽くせりだな。協力関係だけでなく、戦力まで貸し与えてくれたと言う訳か」


 棘のある言い方。そして鋭い眼光。アリアが俺の説明に納得していないのは明らかだ。そしてそれが、本来であれば敵対するべきの魔族と組んでいる事に端を発しているのは間違いない。

 そもそもの話、アリアはネムに警戒を抱いていた。魔族であることを言葉にはしていないが、ある程度の察しはついていたのだろう。イーリス聖教国での一件で有耶無耶になっていたとはいえ、ネムについて話をはぐらかしていたのは俺だ。さっさと彼女の事について話をすれば良かったが……いや、今更考えても仕方がないか。


「あー、少し違うな。ラヴィアとの関係は大体そんな感じだが、ネムは全くの別件で行動が一緒だった」

「別件?」

「ああ。禁足地で殺した化け物覚えているか。俺の元知り合い」

「勿論だ」

「アイツを生け捕りにしたかったらしい。それがネムが一緒に行動していた目的だ」


 ネクロマンサー……この手で殺した、かつての同期。チカ。

 もう少し詳細に説明すると、やや複雑な関係になってしまうので、説明はそれだけにしておく。この箇所は細かく説明する必要も無い訳だし。


「ああ、そうだ。あと、俺に負けたのが悔しいらしくて再戦の機会をうかがわれている」

「負けていません。ほんの少し力が及ばなかっただけです」


 ちょうどいいタイミングでネムが戻ってきた。手にはお盆。ポットと人数分のティーカップ。


「私は必ず貴方を凌駕します。勝手に勝ち逃げなど許しません」

「……とまぁ、そういうわけだ。ネムは確かにラヴィアの部下だが、同行していたのは約束とは関係が無いんだ」


 思い返せば、俺も幸運な男だ。ネムの目的がどうあれ、一緒に行動をしていなければ、今こうやってラヴィアに会うことは出来ていなかった。……と言うかシグレに襲われた時点で、彼女の奮戦が無ければ全員殺されていた可能性だってある。

 そう言った意味では、俺はネムに大きな借りがあると言ってもいい。


「……まぁ、疑っても仕方が無いか」

「納得してもらえると助かる」

「私が納得をしたのはネムの事だけだ。アレは違う」


 アレ。敵意を隠そうとしない言葉に、ネムが感情を昂らせた。表面上は無表情を装っているが、繋がっている魔力が乱れている。こうして魔力の線を感知してみると目で見る以上に分かりやすいものだ。敬愛している者へは、例え顔見知りであっても敵意一つすら許さないという事か。


「信頼できるぞ。価値観の違いはあるだろうが、俺はそう思う」


 互いの敵意がぶつかり合う前に、先に緩和を試みる。今ここで何もせずに事の成り行きに任せていたら、絶対に取り返しのつかない事になるからだ。間違いなく。

 アリアは少し顔を強張らせた。納得は行かない、だが俺の言葉をそのまま否定していいのか。そこに迷いがあるのが見て取れる。


「……あの黒騎士にされたことを忘れたわけでもあるまい」

「ああ。まぁ、な。だが黒騎士1人の行いで全ては決めつけられないだろう。現に、人と魔族とで種族値買いはあっても、ネムは幾度となく助けてくれた」

「偶発的とはいえ命を救われました。その恩義を返しただけです」


 空気を読んでくれ。本当に、マジで。そこはYesと頷いとけばいいものを……

 まぁ……今の返答はまだマシな内容か。


「……聞いての通りだ。俺は、魔族とは協力は出来ないと言い切るのは早計だと思う」

「……協力については、理解する。キョウヘイの目的も知っているし、その為に手段を選んでいられないことも分かってはいる」

「助かる」

「だが相談は欲しかったな。そこまで話が進んでいるのは、予想外だ」

「すまない。ただ、俺もこんなに早く話が進むとは思っていなかった」


 ちらりと。視線をネムに向ける。彼女は俺と一瞬だけ視線を合わせたが、知らんぷりで視線を逸らした。……どうやら彼女の口から、特に説明をしようというつもりは無いらしい。


「今更だが、本当は順を追って説明をするつもりだったんだ。現に、一佳には少しばかり話をしている」

「う、うん。そりゃ聞きはしたよ。でも――――」

「分かってる。タイミングまでは言っていなかったよな。ただ正直な事を言えば、まだこっちには来る予定は無かったんだ」

「だが、彼女は用意が出来ていたみたいだぞ」

「ネムは遅かれ早かれ、こうなる事を予想していたんだろう。だからいつその時が来てもいいように準備をしていた。そうなんだろ?」

「その通りです。妹に会えた以上、次の目的はラヴィア様に会う事になる。その程度、容易に想像できますから」

「いつ、どこで、どうやって行くか。そこに関して、俺がネムとの意思の疎通を怠っていた。俺の失態だな」


 口ではそう言うが、俺は全面的に俺に非があるとは思わない。勿論、さっさと行動に移さなかった事は反省点だが、そもそもカタリナの裏切りのせいで、色々なモノが崩れたんだ。もうアイツに会うことは無いと思うが、もしもあったら一発お見舞いするくらいはさせてもらいたいもんだ。


「改めて、すまない。説明なしに魔界に連れてきてしまった」

「……まぁ、私はお兄さんの判断を咎めるつもりは無いよ」


 意外にもターニャから助け舟を出される。てっきり一佳を危険な場所に連れて来て云々で責められると思っていたが……


「あのままだとカタリナににやられていた可能性が高かったしね。私は、イチカさえ無事なら、それでいい」


 味方だと思っていた人物の裏切り。ターニャの言葉は重く、そして暗い。理論的ではない感覚的な話になるが、ターニャの態度は嫌な兆候だ。このまま放置していてはマズい様な気がする。


「私は、まぁ、聞いていたし……その、お兄ちゃんがあそこまで魔族と……仲が良いっていうか、親密って言うか、それは予想していなかったけど」

「?」

「……え、何その顔。ダーリンって呼ばれるって、相当だよ?」


 ダーリン。あぁ、ラヴィアが言っていた事か。


「え? ナニコレ、え? 通じてる?」

「通じているつもりだ。親密になり過ぎていないか、ってことだろ」

「え、あ、うん。そうだけど……」

「揶揄い半分だろ、あの態度は」


 自惚れを恐れずに言うのなら、ラヴィアは少なからず俺に好意を抱いてくれているのだと思う。だがその好意とは、後輩の面倒を見るとか、取引先の新人を見るのとかと同じようなものだろう。

 要は、自分が絶対的に上にいるという、揺ぎ無い事実に基づいた好意。

 極論を言ってしまえばペットを愛でるのと同じだ。

 禁足地で手を合わせた時点で、俺の実力は見切られている。実力差は明確。今更俺が何を企もうと対応できる自信があるからこその好意。揶揄う様な口調が多いのがその証明だ。


「だろ、ネム」

「当たり前です。貴方の実力は認めますが、ラヴィア様が好意を持つなど、自惚れも甚だしい」

「聞いての通りだ。一佳が案ずるようなことは無い」

「……そう、かなぁ」


 そもそもダーリンなど、夜のお店に行けば耳にタコができるほど聞く言葉だ。一佳の心配事が恋愛に絡む内容なら、ラヴィアとの間にそれは起きない。……禁足地で心が乱れたのは、それこそ不覚も良いところなのだ。


「大体ラヴィアとは3,4日前に初めて出会ったばかりだ。で、それから今に至るまで音沙汰無しだぞ?」

「え、そんな最近なの? うーん、でも恋する女の子って凄いし……あ……」

「あ、じゃない。自分で不安を煽るな」


 自分で口にしといて勝手に困惑する一佳。不安の自給自足とはこれ如何に。


「……まぁ、いいさ。最悪、叩き切る。それだけだ」


 アリアはアリアで変な方向で結論付けていた。何だよ叩き切るって。何でそんな臨戦態勢なのか。幾ら魔族とは相容れないとはいえ、ネムは受け入れたんだろ。極端すぎるだろうが……











「ダーリィン、お待たせ~……って、どうしたのぉ? 随分と空気が重いわねぇ」

「気のせいだ」

「ふぅん……まぁいいけどぉ……あ、妹さん? 本当に聖女だったのねぇ」

「え、あ、よろしくおねがいします?」


 ぶんぶんぶん。待つ事さらに5分。元気よく扉を開けて入って来たラヴィアは、部屋を包む空気に困惑を見せつつ、一目で一佳を俺の妹と見定めると、両手を取って勢いよく握手する。上下に激しくシェイクされるほどのボディランゲージ。

 されるがままの一佳だったが、解放されたところで何かに気づいたかの様に立ち上がった。


「え、あ、待って! さ、触って平気なんですか?」

「ん~? 大丈夫よぉ。どうしたのぉ?」

「あの、いや、その……」

「あ! もしかして聖女の力が働いちゃって、拒絶しちゃうかもとかって心配してくれたりぃ?」

「あ、はい、その通りです」


 ぱっと。ラヴィアは皆が見える様に両手を掲げた。そして開閉する。拒絶と言う割には、傍目で見る限りは、彼女の両手には何かしらの問題が生じているようには見えない。


「平気よぉ。だってぇ、『聖女』は魔の者には絶大な力を発揮するのでしょう?」

「そうですけど……」

「じゃあ、魔の者じゃなければ平気って事じゃない」


 ……何を言っているんだ? ラヴィアは魔族だから、魔の者になるんじゃないのか?

 理解できずに首をひねる。一佳も同様だ。アリアやターニャにも視線を向けるが、似たり寄ったりの表情を浮かべている。


「そもそもぉ、魔の者って定義がどうされるか分かるかしらぁ?」

「えっと……魔力の、違い」

「あらぁ? 知っていたのねぇ、その通りよぉ。じゃあ……私の魔力は、妹ちゃんから見て、どうかしらぁ?」


 ラヴィアは両手を合わせると、ゆっくりと離した。広がる空間には、魔力の塊のようなものが見て取れる。


「……魔族の、魔力です」

「そう見えちゃうのねぇ……じゃあ、これならぁ?」


 言うが早いが、再び両手を合わせて離す。……俺には全く違いが分からないが、


「……色が、薄れた?」


 一佳は驚きで口を半開きにしている。どうやらアイツには違いが分かるらしい。因みにアリアやターニャは困惑の表情を浮かべたまま。違いは分かっていないようなので、特別俺が鈍いと言う訳でもなさそうだ。


「正解。それじゃあ……これは?」

「少し濃くなってる」

「これは?」

「かなり薄くなった」

「じゃあ……これ!」

「え、全然違うのになった!」


 ……さっぱりわからん。俺には一佳とラヴィアの行動を全く理解出来ん。と言うか楽しんでいないか、ラヴィアのヤツ。


「すまない、もう少し分かる様に説明をしてくれ」

「え? あ、あら、そうね。えーと……まぁ、つまりは、結論から言っちゃうと、魔族って認識されなきゃ平気って事よぉ」


 随分大雑把な結論だ。が、とりあえず危険性は無いって事か?


「待ってよ。イチカのスキルは、そんな小手先でどうにか騙せるもんじゃないよ。魔の者は問答無用で弾くはず」

「んー……まぁ、その通りよぉ、獣人ちゃん。でもそれは、表面的な理解ねぇ」

「……どういうこと?」

「種族を振り分けているのは外見だけじゃないの。それは分かるかしらぁ?」


 外見以外に種族の違いを示す指標があると。そう言う事か?

 ……そう言えば、先ほどの襲撃前にネムは魔力について言っていた。

 魔力にも種類がある。俺の魔力は、魔族と比べて遜色ない。と。

 という事は、だ。


「魔力で、判別をしているってことか?」

「その通りよぉ♡」


 俺の言葉に、嬉しそうにラヴィアは笑顔を見せた。


「もう少し正確に言えば、種族ごとに魔力の方向性があるの。扱える魔法や、得意不得意の差が出るのは、そう言う理由があるからなの」

「方向性? そんな事があるの? 魔力って、そういうものなの?」

「……初耳だな。そんなことがあるというのか」


 ……理解が追い付かない。そもそも一佳が魔の者を拒絶している事すら初耳なのに、色々と情報が多すぎる。

 と言うか、ちょっと待ってくれ。魔力で種族が判別されるなら、魔族と似通っているらしい俺はどうして一佳に触れられたんだ? 条件崩れないか?


「魔力は大本は同じなの。だから種族が違っても受け渡しが出来る。ダーリンとネム、それに妹ちゃんと獣人ちゃんで繋げているでしょ。……というかぁ、何でネムが繋げているのかしっかり訊きたいんだけどぉ?」

「ラ、ラヴィア様、その……」

「すまん、先に質問を挟まさせてくれ。今の件で、先に明確にしたいことがある。魔力で種族が判別されるんだよな?」


 ちょうどいいところにラヴィアから話題をぶっこんでくれた。ネムが俺と魔力を繋げている事。つまりは、人間と魔族で繋げられている事。


「ネムからは、俺の魔力が魔族寄りだと聞いた。だが今までの話だと、魔族寄りの魔力は、一佳からは弾かれるんだよな?」

「ええ、そうね」

「じゃあ、何で俺は一佳に触れられるんだ?」


 試しに一佳の手を取る。俺より一回り以上小さく柔らかい手。

 いきなりの事に一佳の手は硬直をしたが、逆を言えばそれだけだ。


「見ての通りだ。……すまないが、今までの説明だと、ここがどうしても俺には説明がつかない」


 今は触れられる。だからいいだろう、と言うわけには行かない。後々に拒絶されることになってしまったら、まず送り返すなんて不可能だ。元の世界に戻った後の生活にだって関係してくるかもしれない。不安の種は、すぐにでも取り除くべきだ。

 俺の言葉にラヴィアは少しばかり悩むように目を細めた。細めて、首を傾け、人差し指を自身の胸に当てる。


「うーん、とね。ゴメンね、説明が回りくどかったわぁ。……妹ちゃん、確認ね。魔の者を拒絶するのは、貴女の魔法? それともスキル?」

「スキル、です」

「うんうん、だよねぇ。じゃあ、一つみんなに質問ね」



「スキルって、どうやってできると思う?」




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