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5-3

今話は1週間で更新できるかと思ったけど、そんな事は無かったです。

おかしい。何故だ。


 カタリナを待ってはいられない。

 襲ってきたやつらを一人残らず潰したところで、俺はそう自分の中で結論付けた。

 今の襲撃で+4人潰した。ターニャの言う通りなら、これでイカレ部隊の半分以上は潰したことになる。

 だがこの状況下で。半分以上斃せたからといって、呑気に待つことを選択できるほど、俺の精神は図太くない。


「戻って皆と合流して、もう出るぞ」

「英断ですね。それが良いでしょう」


 ネムと共に来た道を戻る。もう通った跡が付く事を気にする余裕は無い。草が折れようと、枝が散らばろうと、気にせず駆ける。

 そうして走る事15分。

 視界が開け――――


「ターニャ!」

「無様だな」


 眼にしたのは。

 地に伏すターニャ。

 彼女に剣を突き付ける赤髪の女。

 多数の兵士。

 囲まれたアリア。

 そして……


「何でよ、カタリナっ!」


 悲痛な声を迸らす。

 俺の、妹。











■ 妹が大切で何が悪い ■











「きゃぁっ!」

「っ、がっ!」


 咄嗟に動けたのは奇跡的だ。

 相手も俺の事は勘付いていたのだろう。余裕綽々と言ったあくどい笑みを浮かべて振り返ったあたりに、言葉にされなくとも考えは分かった。

 ただ、まぁ。そもそも俺が黙って呆けているわけが無いので。

 相手が俺に振り返ったその矢先。その時には俺は行動をほぼほぼ終えていた。

 どのくらいかと言うと、そのニヤケ面に握り拳をぶつける寸前くらいには、だ。

 勿論止めるつもりは無いので、とりあえず顔面を殴り抜く。一佳を拘束していたのは女性のようだが、だからと言って拳を止める程、俺は女性優位に事を考えはしない。


「お、お兄ちゃん!」


 で、何が奇跡的に動けたかって?

 そりゃあ、敵をぶっ飛ばした後に、無事に一佳を抱きかかえられた事だよ。


「隙だらけだ」


 俺が一佳を抱えた事で、抵抗可能と受け取ったのだろう。どよめいた敵陣の隙を突いて脱出すると、倒れ伏したターニャを抱えてアリアは傍に立った。


「酷い怪我ですが……死んではいません。聖女の能力を使わなくとも。回復薬で充分でしょう」

「クソッ、しくった……アイツめっ」


 ネムはターニャの傷を、一目見てそう判断した。言葉の通り彼女の傷は深そうだが、恨み言を口にできるだけ、まだ余力はあるとみていいだろう。

 それよりも、だ。


「……また貴様か、キョウヘイ・タチバナ」

「正門前ぶりか。確か……カタリナ、だよな」


 ターニャに剣を向けていた、つい先日に対峙したばかりの女。

 燃える様な色をした赤髪のロング。敵意と殺意で満ちた瞳。構えられた剣には既に炎が宿り、俺を焼き殺さんとせんほどに燃え盛っている。

 カタリナ。

 シグレと対峙する前に対峙した、確か総隊長とやらで、そして一佳たちの仲間の筈。


「先に訊くぞ。……アンタ、一佳の仲間じゃないのか?」

「仲間? あぁ、仲間さ。『聖女』のな」


 聖女、ねぇ。一佳と言わず聖女と強調した事。そして傷を負ったターニャ。どうも嫌な予想が当たってそうで、真偽を確かめるのが怖いところだが……


「止めてよ、カタリナ!」


 俺が口を開く前に、一佳が言葉をぶつける。悲痛な声。そりゃあ一佳にとっては、今目の前で展開されている光景なんて信じたくは無いだろう。


「私たち、仲間じゃないの? 何で剣を向けるの? おかしいよ!」

「……おかしいのはお前だろう」


 一佳の感情のままの言葉を、冷静にカタリナは返した。俺に対するのと同じくらい、憎悪に満ちた眼でだ。


「お前は聖女だろう。何故務めも果たさず此処にいる。何故隠れている」

「それは……」

「答えられないか? そうだろうな。裏切り者の、卑しいお前如きが答えられる筈もない」

「黙れよクソ野郎」


 むくりと。ターニャは両の足で立った。腹部から流れた血が両足を濡らしている。だが立って、負けじと言葉をぶつける。


「初心を忘れたのはどっちさ。薄々感じてたけど、アンタはあの国に身も心も売ったみたいだね。脳無しの兵隊」

「負け犬がほざく。口だけでは何も救えないぞ。身の程を知れ」

「救われた恩も、誓った約束も、何もかも忘れたみたいだね。脳無しに説法されるほど落ちたつもりは無いよ」

「私は最初から大義の為に戦うと言っただろう。都合よく記憶を書き換えるな。まぁ、責務を果たさずに逃げだす臆病者にはお似合いの従者だがな。尻尾を振って満足か?」

「ハッ、尻尾を振っているのはどっちさ。見せかけの役職で心は満たされたつもりってわけ?」

「犬が説法か。主の誤りも正せずに、自分が忠犬とでも錯誤しているのか? 鏡を見てみたらどうだ?」


 耳が腐るな、これは。酷い罵詈雑言。だがそのおかげで、大凡の状況は理解した。

 カタリナは裏切り者だった。それも多分、かなり前から。

 一佳をイーリス聖教国に縛り付け、死ぬか聖女としての力を失くすまでは、聖女としての責務を果たす様に働かせるつもりなのだろう。

 ……仲間内で裏切り者がいると言う、一番嫌な想像が当たった訳だ。


「さっさと聖女を解放しろ。こちらと無駄な争いはしたくない」

「嫌だよ……お願いだから戻ってよ……」

「戻るのはお前だ。責務を果たせ」

「はいはいストップストップ」


 放って置くといつまでも終わらないだろう。と言うか一佳の心情的に良くない。

 俺が一佳とターニャを抑えて前に出ると、カタリナの顔に一層の憎悪が宿った。


「出たか、諸悪の根源が。貴様が誑かさなければ、こうも面倒な事にはならなかったと言うのに」

「そうか。悪いな。だが妹の身を想いやらん程薄情ではいられないんだ」

「家族の情? そんなもので聖女を縛り付けないでもらおうか」

「ハッ、俺に負ける程度の人間が一丁前に口を挟むなよ」

「あ゛ぁ゛?」


 品の無い返答だ。どうやら俺に負けた事を強く根に持っているらしい。さっきまでの冷静さが見る影もない。


「あれは手加減をしたからだ。実力差も分からないか」

「優しく放り投げてやったのがそんなに気に行ったか。なら、もう一度高い高いしてやろうか?」

「ほざけ、殺す」

「すまない、お前如きに長くは付き合ってはいられないんだ」

「貴様ぁ!」


 沸点の低い上司には、沸点の低い部下がいると言う訳か。会話の最中だと言うのに、文字通り別の兵士が割って入って来た。

 それを、アリアが一太刀で首を刎ねる。

 ……ありがたいが、良いのか? それは言い逃れのしようがない、完全な敵対を示す行為なんだが。


「今更だろう?」


 俺に向かって、一切の邪気の無い笑顔を見せる。この先の事が予見できない程考えなしのわけが無いのに……俺は、まぁ、恵まれたもんだ。全く。











「聖女を離さないか……よかろう。なら、精々抵抗するがいい」


 言うが早いが、カタリナは大剣を振った。まるでそれが合図かのように、周囲に炎が走り、壁となるように俺たちを覆う。速さと言い精確さと言い、この瞬間に作り上げたと言うよりは、前々から準備されていたものであろうと想像できる。……裏切ることは元より、抵抗される事も承知の上での準備。


「嘘だよ……こんなの、嘘だよ……」


 まだ受け入れられないのだろう。一佳は顔を伏せて声を震わせている。だがその想いも空しく響くばかりだ。


「状況の整理は後にして脱出したいところだが……」

「そうは行かせない。奴ら、そう言いたげだな」

「抵抗も織り込み済みのようですね。行動は筒抜けだったって事ですか」


 炎の壁は鉄格子の様に、ドーム状にぐるりと俺たちを囲んだ。逃げ場はない。熱気に肌がジリジリと焼かれている。あの正門前で取り囲まれた時とは、全くと言っても良いほど威力も精密さも段違いだ。


「むぅ」


 ネムは掌から、人一人くらいは飲み込めそうな大きさの球体を発射した。恐らくは瘴気。だがその球体は、炎に当たると同時に弾ける。檻も当たった部分は弾け飛んだが、すぐに修復をしてしまった。

 2発、3発と繰り返すが、結果は同じ。

 自動修復機能もついているとは、厄介な檻だ。


「チィッ」


 アリアは大剣を振り降ろした。刀身に纏った炎が、檻に当たって弾ける。だがネムの時とは違って、檻が弾ける事は無い。弾けたのはアリアの炎だけ。

 もう一度刀身に炎を纏うが、すぐにアリアはかき消した。


「逃げられるとは思わない事だな」


 勝ち誇ったようなカタリナの言葉。ネムの攻撃が効かなかった事で、より状況が優位であることの確信を深めたのだろう。顔を見なくても、いやらしい笑みを浮かべているのは想像できた。

 檻の中には俺たちだけ。防御性能は先ほど見ての通り。熱気が肌を焼き、長時間此処にいることは難しい。加えてこちらには怪我人が1名。長引けば長引くほど逃げるのが難しくなるのは明白だ。


「……相性が悪いな。私では厳しいな」


 ギリリッ。歯ぎしりの音。余程納得がいかないのだろう。だがどうしようもなく、目の前の光景は現実だ。

 言葉の通り、アリアの炎はこの檻にとって相性が最悪だ。幾ら威力が強大であっても、炎で炎はかき消せない。より大きな炎となるだけだ。アリアの炎は檻にとっての餌にしかならず、この炎の檻を強固にするだけだ。徒に繰り返してもこちらの状況を悪くする。

 なら……俺だったら、どうする?

 拳に魔力を纏って殴ってみるか?

 ネムのですら弾かれたのに?


「修復機能付きなのは厄介ですね。あの修復速度だと、此方の魔力が減るだけです」


 俺の思考を見透かしたかのように、ネムが言葉を発した。言外に、やっても無駄、と伝えてくる。

 だが何かをしなければ、このまま焼かれて終わりだ。元の世界に帰れず、志半ばで死ぬ。そんなクソみたいな結末は御免被る。

 なら、


「なぁ、ネム」

「何でしょうか」

「俺の魔力も使って、檻が修復不可能なくらいの一撃を出せるか?」


 魔力の移し渡しが出来るなら、一つに集約する。ネムに俺の分も集約させれば、先ほどのより大きくて高威力の瘴気を出す事も出来るかもしれない。


「……出せなくは無いです。ただ、」

「問題があると」

「……問題と言うか……脱出する必要があるのか、と」


 ……は? 何を言っているんだ、一体。

 だがネムは俺の困惑を他所に、真っすぐに目を見返してきた。


「キョウヘイ・タチバナ。貴方は脱出して、どうするつもりですか?」

「脱出して、身の安全の確保だろ。こっちは満身創痍ばかりなんだ」

「そのような目先の事では無いです。最終的な目標は何ですか」


 最終的な目標……そんなの決まっている。一佳と一緒に、俺たちの世界へ戻る事だ。


「……一佳を連れて帰る事だ」

「そうですよね。そしてその為に、ラヴィア様に協力を仰いだ。違いますか?」

「いや、合っている」


 ふぅ。溜息が零れる。ネムが何を言いたいのかがまだ俺には分からない。回りくどいのは得意じゃない。出来れば早々に結論を言って欲しいのだが……


「つまり……あー、すまない。結論を言ってもらっても良いか?」

「簡単な事ですよ。何故無駄な事をしようとするのか。私が知りたいのはそれです」


 無駄な事? 何が?

 ……ダメだ。俺には全くネムの言いたいことが分からない。


「……ただこの状況を脱出するよりも、効率的な方法があるという事か?」

「個人的には。ただ、そうであるかを決めるのは、彼次第です」


 アリアが横から助け舟を出してくれる。だが……俺次第? 今は脱出するに越した事は無いと思うのだが…… 

 俺の困惑を他所に、ネムは懐から何かを取り出す。そして放り投げると、手刀で叩き割った。

 同時に、黒い液体の様なものが空中に広がりを見せる。それは確かに見覚えのある光景で――――


「……そう言う事か」


 此処まで来て、やっと俺はネムの言わんとしている事を理解した。


「ラヴィアの元へ行け。そういうことか」

「ええ。それが最も効率的かと」


 広がる水。魔石を砕いて溶かした、魔界への道。

 ネムの考えは明快だ。この先ラヴィアに会って、元の世界へ戻る方法を教えてもらう事になるのに、その手を一向に使おうとしない事への疑問。魔界への道は開くから、さっさと行けと。そう彼女は言っているのだ。


「……濃い魔力だな。何がどういうことか訊きたいが――――」

「そんな時間は無いね。……ま、脱出できるだけありがたいよ」


 アリアもターニャも、目前で広がる黒い穴に警戒心を抱いている。だが他に手が無い事にも気が付いているのだろう。このままあるかも分からない他の手を模索するか、未知の穴に飛び込むか。選択肢は無いも同然だ。

 ……それに、


「待て、貴様らぁ!」


 檻の向こう側で、カタリナが魔力を増幅させた。俺たちが脱出する事を悟ったのだろう。檻が急速に縮小を開始する。迷っている暇はない。


「お急ぎください」

「先に行くよ。さ、イチカも」

「う、うん」


 ネムが、そして一佳とターニャが飛び込む。


「説明を求めるぞ」

「ああ。あとで、必ず」


 アリアの手を取り、檻が縮小しきる前に穴に飛び込む。

 彼女の手を取った事に、意味は特にない。

 ただ強いて言うのなら。

 この詳細不明な穴に入るのに、知り合いの手を握って不安を緩和させたいと言う。

 ただ、そんな子供染みた理由。

 それだけだ。











 穴はそんなに長く続かなかった。

 と言うか、一瞬だった。

 飛び込んで、着地した。

 本当にそれだけ。


「うっ」

「わっ」


 とは言っても、衝撃に備えて硬直させきった身体は、簡単には反応できない。

 着地の瞬間。俺は身体を硬直させたまま、着地の僅かな衝撃を吸収しきれず、盛大にバランスを崩した。それはアリアも同じで、2人して無様にも転び倒れる。

 出迎えるは固い石畳。

 周囲を見る限り、どうやら屋内のようだが……


「無事に逃げられた、ってことでいいのかな」

「イチカ、違う。戦略的撤退だよ。あの馬鹿は絶対ぶちのめす」


 ターニャは血の出ている箇所を押さえつつ、両の足で立ち上がった。まだふらふらとしているが、怪我を負った身でそこまで吼えられるなら心配はあるまい。

 一佳はターニャの身を支えつつ、怪我を治している。魔力がターニャの腹部に集中しているのが見て取れた。改めて魔法とは便利なものである。


「で、これで着いたって事か?」

「はい。場所は、まぁ、ラヴィア様や私の邸宅とは離れていますが」

「離れている?」

「ええ。人間界への行き来は本来なら易々とは出来ませんから。バレないよう、行き来する拠点を幾つか定めているのです」


 魔界側で言うところの入り口、人間界側で言う出口は定められていると。それも複数。万が一にも潰されても、他の場所から行けたり戻れるように設定済と来た。

 そう言えばこの行き来するための水はラヴィアの発明品だとも聞いている。……もう一つ言えば、確か実力の無い者は生命力を吸われるとも。


「……大丈夫、か」


 両手は問題なく動く。指先一本一本まで痺れも何も無い。魔力の方も乱れは無い。寧ろ調子がいいくらいだ。


「あー、クソッ、絶対アイツ殺す」

「はい、これで怪我は治したよ。でも無茶はしないで」

「分かってるって」


 一佳とターニャも問題は無さそうだ。ターニャは元々怪我をしているから、問題無いと言う判断は早計かもしれないが、生命力を奪われた人間があそこまで感情を表にする事はできまい。


「……?」


 アリアは……自身の左腕をゆっくりと動かしていた。上下に、ただただゆっくりと動かす。だがその視線は左腕に注がれていて、他の何も眼に入っていない様子だ。

 何か問題でもあるのだろうか。

 声を掛けるべきか迷っていると、視界の端から何かを投げて寄越された。反射的に掴んだそれは……毛布? いや、スカーフ? それにしては随分と大きいが……


「これを身体に巻き付けて下さい。無いよりはマシでしょう」


 ああ、そういうことか。露わになる箇所を制限する事で、人間であることをバレる可能性を少しでも下げようって事か。だが裏を返せば、それはつまり魔族がいるような場所を通らざるを得ないという事でもある。

 一難去ってまた一難、なんて事に放ってほしくないが……こればかりはどうしようもあるまい。


「では、先に出て様子を伺います。問題無ければ呼びますので」


 言うが早く、ネムはささっと外に出て行った。ちらりと見えた扉の先は、この部屋と同じような石造り。地下道なのか、単純に窓が無い部屋と通路なのか。外の様子を伺うことが出来れば、その後の行動への判断材料にもできるが……何にせよ、今俺たちが居る場所は、いざとなった時の脱出が難しそうな造りであることは間違いない。


「ねぇ、お兄ちゃん。……信用、できるの?」


 おずおずと。ネムがいなくなったことで、不安そうに一佳は口を開いた。そりゃあ一佳からすれば、頭の整理もつかない内に見知らぬところに連れてこられたのだ。不安は抱いて然るべきだろう。


「するしかない、だな。あの場では他に方法も無かった。まぁ、状況に流された感じは否めないがな」

「そう、だよね……」


 あの場、つまりはカタリナの裏切り。信用していた人物の裏切りに、再び一佳は表情を曇らせた。これは暫くは、一佳の前でカタリナの話題は出さない方が良いだろう。


「てかさ、此処何処なの?」


 ターニャは渡された布を身に纏ったところで疑問を口にした。人とは違う、動物のような耳が、警戒しているのかピンと立っている。


「選択肢が無かったのは事実だけど、災難から災難だと洒落にならないって言うか……お兄さんは、知っているんでしょ?」

「知っていると言うか、事前に聞いていた、だな。詳細は分からん」

「それでもいいよ。教えてよ」

「魔界らしいぞ」


 隠すつもりは無いと言うか、隠すことに意味が無いので、正直に答える。……答えてから、もっと言いようがあったかもしれないと思ったが、もう出してしまった言葉は戻せない。

 流石に想定外なのか、ターニャは口を半開きにして固まった。次の言葉が出てこないのは容易に想像がつく。頭の中では色々な疑問が降って沸いては、消化しきれずに際限なく膨れ上がっている事だろう。何から聞くべきか分からなくなっているに違いない。


「先に行っておくが、俺もこっちの事は何も分からない。詳細についてはネムに訊いてくれ」

「――――は、ははっ……ちょっと、理解が追い付かないなぁ」

「うーん、やっぱりそうなんだね」

「魔界、か……」


 反応は三者三様だ。

 混乱の極みに達して頭を抱えるターニャ。

 事前に聞いてはいたからか、そこまで驚きを見せない一佳。

 そして――――混乱を全く見せず、どこか納得したかのような様子のアリア。

 前者2人は置いておいて、アリアの反応は予想外だ。大仰に驚く事は無いと思ったが、まさかそんな様相になるとは思ってもいなかった。受け入れるのとは違う。全てを察したかのような納得。或いは改めての答え合わせが済んだかのような、そんな表情。

 知っているのか。それか、予想していたのか。

 その意味を知りたくて、声を掛けようとし――――


 ――――コンコン

「あれ、合図かな?」


 ノックの音と、一佳の声に思考が逸れる。合図。多分、ネムの合図。

 一瞬だけ、皆それぞれと目を合わせる。当然、全員に警戒の色が見て取れた。


「俺が出る」


 言外に、下がっていろ。そう伝える。扉の向こうにいるのがネムである事は魔力を辿れば分かるのだが、念のためだ。

 ノブに手をかけ、押し開きの扉をゆっくりと開い――――たその隙間に手が割り込んだ!?


「キョウヘイ!」

「っ!?」


 そして人の驚愕をものともせず。

 無理矢理に開け放たれた扉の先から現れたのは――――


「感謝しなさい。己の幸運に。心の底から。崇めるように」


 ものすっごいドヤ顔のネムと、


「ふふっ、会いたかったわぁ♡」


 ……満面の笑みの、ラヴィア。



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