4-EX
その頃のあの人は的話。
まさかの隔週。
我ながらこれは酷い……
※20/9/1 誤字脱字修正
とりま私の能力を使って、イーリス聖教国から脱出して1週間が経過した。
今現在、私――宮下小雪――はレオニア同盟国にて静養している。
普段は戦闘の一つで、後を引くほどの傷を負う事は無い。けど、橘たちは結構強い相手だったらしく、外傷は治れど今も身体の調子は悪い。
本来なら回復薬だったり、回復魔法を使うと早いんだけど、あれってなんか気持ち悪いんだよね。元から薬とか嫌いだったし、その名残かもしれない。要は自然回復にて、傷や疲労を癒しているところ。
『はよ行こうや』
「行かないよ、まだ傷治ってないでしょ」
今すぐにでも橘に会いに行きたがるシグレを宥めつつ、温泉でゆっくりと身体を伸ばす。
今いる温泉は、じもっぴーしか知らないような温泉だから、あまり人がいない。特に女湯となると真昼間はほぼいないに等しく、贅沢にも貸し切り状態だ。
『疼くんよ。お願いや』
「やだ、疲れんじゃん」
……シグレは橘と戦ったあたりから、ずっとこんな調子だ。結構面倒くさい。今まで自由にさせすぎたか、それとも横やりを入れたのがマズかったのか……多分後者だと思う。手のかかる子だよ……
「シグレだけの身体じゃないんだよ? 暫くはおやすみだよ」
ハッキリ言って、めっちゃ疲れた。シグレは私まだまだ全然イケますけど?みたいな発言をしてくるけど、私は無理。横やり入れた時なんか、体中痛すぎて死ぬかと思ったほどだし。絶対これ以上動くの無理だし。
シグレは私の言葉が気に入らないのか、低く唸った。でもダーメ。唸ってもダメなものはダメだし、そう簡単に意見を翻すつもりも無い。シグレにも言ったけど、この身体は私の物。多少の勝手は別に構わないけど、私が主人なんだから、私が嫌な事を無理矢理させるつもりは無い。
「どーせマーキングしてるんでしょ? 逃げられる心配は無いじゃん」
マーキング。シグレが付けた呪い。相手がどこにいるか大凡の位置を把握できる、だったっけ。私は発動してないから感覚分からないけど、それがあるなら橘を逃がす事は無い筈。
『他のに喰われるのが嫌や』
「そんな簡単に負けるような奴なの、橘って」
『……』
シグレは押し黙る。そうだよね、そんな簡単に負けて死んじゃうような奴に、シグレが執着するはずが無いよね。
シグレはただただ単純に、楽しみを後回しにしたくないだけだよね。
「万全の状態でやったら? 橘も重傷負ってるじゃん」
確かシグレが剣で刺してたし。魔法とか使って速攻で回復しているかもしれないけど……現実から来ている人が、そんな戦闘狂的な考え方するとは思えない。疲れたら、その分だけ休みたくなると思う。シグレじゃあるまいし。
シグレは暫く黙ると、盛大に溜息を吐いた。そして渋々と言いたげな感じで口を開いた。
『分かったわ。アンタに従う』
超不承不承って感じだけど、とりあえず理解はしてくれたみたいで良かった。同居人みたいなもんだから、へそを曲げられすぎても面倒だけど、言うべきところは言っとかないとね。
「てかさ、橘だけに執着する必要ってあるの?」
ふと。そう言えばシグレって他にも戦いたいと言っていた相手がいた事を思い出す。
確か……
「ええっと、誰だっけ。何か、全部凍らせるやつとか」
『氷眼、やな。あれはただの引き篭もりや。気持ち乗らへん』
「燃やすやつは?」
『炎帝か。アイツはもう全盛期過ぎとる。優先度は低いなぁ』
「あと……あ、そうそう。この前逃したやつ!」
『影法師やな。もう充分や。根性無しは好かん』
ああ、そう……要は皆お気に召さないってわけね。
シグレはこんな感じで有名な人に片っ端から喧嘩売っている。この前も鳥と一体化する人とか、水を器用に扱う人とかに喧嘩を売って殺している。影法師さんみたいに逃げられた人は、寧ろラッキーなんじゃないかな。生きていれば勝ちみたいなもんだし。
ま、その意味で言えば橘はアンラッキーだよね。2回も生き延びて、且つまだシグレに狙われているんだもん。みっともなく命乞いの一つでもすれば、こうはならなかっただろうけどさ。
「今他にはいるの?」
『後は特に聞かへんなぁ……あ、いや、この前魔族がおもろい事言うてたか』
「んー? 何か言ってたっけ?」
シグレに身体を貸している時に、いつも彼女の動向を注視しているわけじゃない。基本は好きにやらせていて、気が向いた時に映画とか見る感覚で共有するから、知らない事だって沢山ある。
『この前魔族を倒した時な、奇妙なネクロマンサーの事を話していたんや』
「へぇ? ネクロマンサーって……あれっしょ、死体操るやつ」
『せや。確かこっちにおる言うてた。場所までは分からへんが……』
「もののついでに探してみたら? 橘が全快するまでの暇つぶしにさ」
橘には聖女さんもいる事だし、回復はそんな時間かかんないと思う。そんな相手に手負いの状態で喧嘩を売られに行かれては、私からすればサイアク。ぶっちゃけ負けそうだった相手なんだしさ。
てことで標的が変わるのは大賛成。ま、シグレなら大概の相手は瞬殺するだろうしね。
『ほなら行こか。もうええやろ』
「まだ回復中だっての」
……やる気出し過ぎなのは大問題だけどねー。
■
『ところでアンタが逃げおおせたアレはどうやったんや』
温泉を上がって一休み。アイスを頬張っていたら、シグレが質問してきた。
逃げおおせた……まぁ、橘たちから逃げた時の事かな。それ以外で私の能力を見せた事無いし。
「あれ? あれはね……うーん」
『? 言えないんか?』
言えない訳じゃない。別に問題ない。ただ……説明がめんどいってか……
「……結構ランダム性に富むんだよねー、私の能力」
『?』
「何が出るか分からないの。逃げられたのは、そう言う能力」
21枚のカードから5枚を引き、引いた種類によって効果が決まる。要はトランプのポーカーみたいな感じ。但し実際のトランプよりも数は少ないし、引き直しはナシの一発勝負。まぁ数は少ないから、滅多に役無しになる事は無いんだけどね。
ワンペアからロイヤルストレートフラッシュまで。スリーカードは重圧をかける、ストレートで戦闘の仕切り直し、そしてフォーカードで離脱、みたいな感じで役割が分かれているんだ。
ただ、まぁ、私の能力はこの世界では特殊な部類に入る。炎を出したり凍らせたりする、所謂自然魔法?ってやつとは違う。かといって光魔法だとか闇魔法とも違う。条件付きの……人工魔法?
ま、そんなわけで、
「安定してないし、頼りにも出来ないんだよね」
実際、橘の時は引きが良かったからまだしも、ワンペアやブタが連続したら目も当てられない。ブタは効果なしだし、ワンペアは小さな火の球が出るだけ。……と言うか、橘に至ってはスリーカードの効き目が薄かった。あんなのは橘が初めてだけど、人によっては耐性とかあるかもしれない。実際のトランプのカード枚数と同じにすれば、リスクが増える分だけ効果も上がるだろうけど……それはおいおい考えればいいかな。
『また横やり入れられたら敵わんのやがな』
「滅多にはやんないから大丈夫」
戦闘は基本シグレに任せているし。こりゃヤバみって時しかこっちは手を出すつもりは無いし。そもそも戦闘殆どできないし。
橘の時だって、傍から見ててこれヤバいって思ったから割って入ったわけだしさ。
「あと2~3日は休もうよ。そしたらいいよ」
『休み過ぎやろ』
「過労死するって」
シグレは動きすぎ。もっと人はゆっくりになるべきだと思うよ。ホントマジで。
残ったアイスを堪能しつつ、宿への道を歩く。此処は温泉くらいしかなくて、おしゃれで可愛いものなんか全然ないけど、わりかし私は気に入っている。前の私だったら、1日で飽きたと思っちゃうだろうけど、今の私はありだと思ってる。のんびりするのも悪くないってね。
『そうや……魔族斃したのが他にもおったなぁ』
「ん? 誰かいたっけ?」
『つい最近なぁ。1人、確か闇魔法やったかな』
「へぇ」
まったく聞き覚えは無いけど、シグレが言うのなら間違いは無いんだろう。それにしても、闇魔法の使い手ねー。なんだかなー。
『どうしたんや?』
「んー、別に何でもないよ」
ちょっと昔を思い出しただけ。闇魔法に飲まれた人のこと。
あんな危険なものに手を出しちゃう考えが理解できないけど……まぁいっか。そこら辺は人それぞれだし。私は扱うつもり全く無いってだけだし。
「ま、回復したらね」
今は休む。シグレが何を言おうと、絶対に。
少し不機嫌そうにシグレが呻き声を漏らしたけど、そんなの知ったこっちゃない。今日はもう寝る。お昼寝サイコーってね。
「ちょっとアンタ!」
「ん?」
宿屋に着くと同時に、女将さんが声を掛けてくる。
ここには通い詰めているから結構この人とは顔見知りになってる。
話すのが大好きで、結構長話しちゃうタイプの人だ。
「すごいニュースよ! これ!」
そう言って見せてきたのは、新聞。
こういうのあんまり好きじゃないんだけどなぁ。
ま、受け取ったものはしょうがないので、目を通す。
「『イーリス聖教国が壊滅』。あらあらあら」
でかでかと見出しに書いてある。まぁ知っている事だ。だってやっているのはシグレだし。
「怖いわねぇ。でも魔族じゃないらしいわよ。酷い世の中よね」
ああ恐ろしい恐ろしい。1人でそう言って身体を震わす女将さん。その言葉を聞き流しながら、視線を記事に走らせる。
「『聖女が行方不明』、ねぇ。ふーん」
「聖女がいなくてどうするのって話よねぇ」
「『鬼神シグレの犯行によるもの』。……はい?」
「怖いわ、もう。コユキちゃんも、気を付けてね」
女将さんはそう言うと、裏へと引っ込んだ。いやいや待って待って。え、聖女が行方不明なのって、シグレの責任になってんの?
『元から汚れている面やからな。今更汚してもかまわへんっちゅうことやな』
「えー……」
『ま、相手方も一枚岩じゃなさそうやけどな』
ニヤニヤ。嬉しそうに口を開くシグレ。何が面白いのか分からない。無用な面倒事を押し付けられたものだよ、これ。
『先、よぉ見てみぃ』
「先」
『せや』
……言われた通り、先の記事に目を通す。なになに、また以下の人物たちについても一連の事情に関わり合いがあると見ている。キョウヘイ・タチバナ。……橘?
『私に全部おっ被せるつもりやったかもしれないが、失敗したようやな』
「え、あ、そう言う事?」
『断定では無いようやが、疑われている時点でクロ扱いみたいなもんや。……ふぅん、こらおもろくなってきたなぁ』
つまり、事の関与に橘も疑われていると。うわー、かわいそ。アイツからすれば、巻き込まれただけだろうに。
その後の記事も、基本はこの事ばっかりだ。教皇が死んだとか、偽装された聖女の死体だとか、崩壊した聖教国の威厳だとか。襲撃は1週間前の話だってのに、随分と遅い発表だこと。
『これで世界はより混乱するなぁ。大変な事や』
よく言うよ、シグレ自身が招いているくせに。
ま、良いけどね。別に誰が死のうと生きようと、私はそんなに興味ないし。私自身が楽しければそれでいいし。
新聞をカウンターに置いて、変わらない歩調で部屋へ戻る。どうでもいいのだ、本当に。もう、本当に。どうでも。
「とりあえず寝るね」
『アンタのその動じなさ、好きやで』
「私もアンタの性格大好きだよ」
適当に返してベッドにダイブ。眠いのは事実。そのまま寝返りを打って、木目の天井を映す。
さーてーと、と。
「んじゃ、寝るね。お休み、シグレ」
『ほなお休み』
うつらうつらしていた意識は、簡単に眠りの鎖に捉えられた。
抵抗する気も無く、流れのままに目を瞑り、そのまま意識を落とす。
別に何も……余計な罪を着させられたことも、知り合いが疑われている事も、なんか面倒くさそうなことになっている事も、大して深刻に思っちゃいない。感じてもいないよ。
だってどうでもいいんだもん。本当に。
聖女が行方不明だとか、橘が疑われているとか、まーた罪が増えたとか。
そんな事より、今日の夕ご飯の方が、よっぽど深刻だよ。私はね。
「あ、そうだ。万が一の時は任せたよ。お休み、シグレ」
■
「別に、余計な気を起こさなきゃ、どうでも良かったんだけどなぁ」
首を刎ねる。目の前の男の首を、シグレが刎ねる。
それをシグレの中から、ソファーに寝転がって見ている。
「賞金稼ぎかな? あーあ、ばーか」
3人かな。人の寝込みを襲ってきていたみたいだけど、返り討ちにあってみんな死んでる。
『つまらんなぁ』
「仕方ないっしょ」
『……まだ休むか?』
「休めないでしょ、あーあ」
シグレの意地の悪い問いかけに、むくれつつ返す。分かっているくせに。はぁ……この場所、かなりお気に入りだったんだけどなぁ。
「力量差くらい把握しろっての」
『無理や。雑魚が出来るわけないやろ』
まぁそうかもね。頭が弱いから、こうやって無駄に喧嘩を売ってきたわけだし。
賞金稼ぎが、私の寝込みを襲った。
言葉にすれば、ただのそれだけ。
それが私が寝ている内に起きて、代わりにシグレが対応してくれたって話。
『あの女将も一枚かんどるやろなぁ』
「……かもね、もう」
宿での寝込みを襲われたって事は、まず間違いなく女将さんが関わっている。結構仲良くなってたと思ってたから……正直ショック。
まぁ、私というかシグレの首には多額の賞金が掛かっている。宝くじの一等程度じゃ全然足りないくらい。そりゃあ一獲千金を狙って狙うよね。まぁ、逆を言えばそれだけの危険人物って扱いなんだから、力の差くらい分かってよって話なんだけどね。
『ほな、どうする』
「……任せるよ。体力は、まぁ、とりあえずはいいでしょ」
全快ってわけじゃないけど、シグレが身体を使う分には平気だ。シグレは身体の使い方を熟知しているから、これくらいなら問題なく動いてくれるっしょ……勿論、私的にはもっと休みたいけどね。残念で仕方無いけどね。
「後はお好きにどーぞ」
『ほなな』
嬉しそうに、それはそれは嬉しそうにシグレは笑った。久しぶりの運動が嬉しいんだろうか。
ま、此処にはもういられないし、仕方ないか。
とりあえず面倒事MAXな橘の方面へ向かわなければいいかな。




