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4-6

毎週月曜13:00に更新をする目標を立てていましたが、先週は間に合いませんでした。

計画性って大切ですね。


※20/06/30 誤字脱字修正

 ターニャに掛かった呪いは断ち切った。

 傷は重傷と言えるレベルだけど、呪いさえなければ、回復は難しい話じゃ無い。

 あとはこの次元の狭間みたいな空間からの脱出。

 と言っても、最初に考えていた逆手順からの脱出は、すぐに諦める。複雑に絡み合った紐を解いていくのと同じような作業になる。こんな非常事態にそれじゃあ時間が掛かり過ぎるから、空間に無理矢理穴を空けて、私たち2人が通れる方法に切り替えた。要は、まぁ、力業ってヤツ。

 当然無理を通すわけだから、魔力の大半を持っていかれてしまった。心身共にものすごく疲れちゃったけど……脱出できたのだから結果オーライ。


「イチカ、ちょっと我慢してね!」


 ターニャはそう言って、私を担ぎ上げて走る。人を抱えて走るのはかなりきつい筈だけど、ターニャは気にせずに全力で廊下を走り抜ける。

 向かう先は、カタリナがいるであろう訓練所。

 訓練所には兵士たちが常駐している。

 仮にカタリナがいなくても、そこに行けば誰かしらは必ずいる筈なんだ。











■ 妹が大切で何が悪い ■











 少し話は逸れるけど、私たちがいるこのイーリス聖教国には、結界が張ってある。

 『聖女の護り』。

 大層な名前だけど、つまりは魔の属性持ちを拒絶する結界。

 それは私が来るずっと前から、恐らくは初代聖女様の時代から張られていて、魔の属性持ちであれば、絶対に侵入が出来ない強度を誇っているのだ。


 その結界が、壊された。


 陽が落ちようとする時間帯だった。結界を維持するのは聖女の役目だから、常時私の魔力は結界に吸収されている。それはつまり、結界に何かしらの害が及べばすぐにフィードバックされるって事。だから壊れたのは――――ううん、違う。壊されたのは、すぐわかった。

 壊された場所も分かった。正門前。でも分かったのはそこまで。遠見の魔法を使えば犯人が誰か分かるんだけど、壊された反動で魔法が使えなかったから、誰がしでかしたのかなんて分からない。魔法どころか指先一つ動かす事すら億劫なくらいだった。

 漸く遠見の魔法を使用したころには、正門でのいざこざは終わった後だった。結界は私の魔力を吸って自動修復を始めていたけど、それでも完全に修復されるまでには丸1日は掛かると思う。

 つまりは、その間は。

 魔の属性持ちも簡単に入って来れちゃうって事になる。

 当然そうさせないためには、結界以外の手で防衛をしなきゃいけない訳で……


 で、話はここで戻るんだけど。


 そう言った諸々の事情を考えると、果たして今のこの緊急事態に、わざわざ訓練所に居残るような人は居るのだろうか?って疑問が出ると思う。

 ……まぁ、いると思ったから、私たちは訓練所まで来たわけなんだけど。


「……いないね」

「そうだね」


 訓練所には誰一人としていない。……いるはずが無い。

 カタリナは勿論、彼女が訓練を付けている兵士たちも居ない。

 皆が総出で防衛に当たっているんだろう。

 冷静になって考えてみれば、そりゃそうだよね……


「他に戦力なりそうな人がいるのは……」


 ターニャが難しい顔をしながら、記憶を穿り返している。

 でも、穿り返したところで出ないと思う。だってターニャやカタリナが、イーリス聖教国の最大戦力だもん。シグレに対抗するなら、カタリナは絶対条件になる。


「ターニャ、教皇様に会いに行こう。事の次第を伝えないと」


 私の言葉を聞いて、ターニャは露骨に顔を顰めた。


「え? ……あの教皇様に会うの?」

「嫌だ、なんて言っていられないでしょ」


 ターニャは教皇様を毛嫌いしている。教皇様の命令で、私が軟禁状態にあるからだ。……私も正直に言えばあの人は苦手だけど、好きか嫌いかで事を先延ばしにするのは間違っている。

 相対が出来ないのなら、せめて現状を最大権力者に伝えないと。

 渋々と言いたげな表情をターニャは作ったけど、彼女もそれしか手が無い事を分かっているんだろう。それ以上は何も言わず、私を抱え直して走り出す。


「教皇様は何処にいると思う?」

「多分会議室。連日会議しているみたいだし。教皇様じゃなくても、誰かはいると思う」

「ちぇっ、行き辛いんだよなぁもう!」


 いつも教皇様たちが会議に使っている部屋は、3階部分にある。訓練所は裏庭だから、また室内に入って、階段を上って行かなきゃいけない。

 と、


「ちょっと掴まってね!」

「え、わ、ひゃぁ!?」


 言うが早いが、私を抱えたままターニャは跳んだ。そして壁を蹴り、一気に三階分を駆け上る。

 人間離れした身体能力。

 獣人と人間のハーフだからこその離れ業。

 そしてそのまま窓を蹴破り、建物内に入る。


「ショートカット成功! このまま会議室行くよ!」


 実行する前に言って欲しいけど、今はそこを咎めてもしょうがない。すでに犠牲は出ている。早く伝えないと、防げる事態も防げなくなる。関係の無い人にも被害が及んでしまう。

 それに、お兄ちゃんにも……

 だから、今は先ずは、早く事を教皇様に伝えないと――――!











 結論から言っちゃうと、私たちはまだ事の重大性を分かっていなかったんだと思う。

 確かに結界は壊れた。これで魔の属性持ちは入って来れちゃう。けど、それを感知できるのは、別に私だけってわけじゃない。

 ターニャやカタリナ、ヴァネッサだって分かる。

 なんなら、一般の兵士たちでも気が付ける。

 だったら、当然、教皇様だってそうだ。

 ……もっと早くに、頭を働かせるべきだった。

 あれだけ私を軟禁し、手元に置いておきたがった教皇様が、結界が壊れると言う異常事態にも関わらず、何のアクションも私に対して起こしていなかった時点で。

 教皇様の身に何かあったんだと。

 そう考えるべきだったんだ。




「……ウソでしょ、何よコレ」


 ターニャの言葉が、どこか遠くの事の様に聞こえる。

 物理的には近いんだけど、ノイズみたいな。

 上手く言えないけど、そんな感じ。


 ひどい赤色に会議室は染まっていた。


 一面全部が赤色ってわけじゃない。

 けど飛び散った赤色は、事の凄惨さを語るのには充分だ。

 もしかしたら全面赤色よりも凄惨なのかもしれない。

 こんなひどい光景は初めて見る。

 現実感が全く無い。

 全く無いまま、私は気が付いたら膝をついていた。


「――――!」


 人が死ぬのを見るのは、決して初めてじゃない。

 勿論、現実世界でおばあちゃんが死んじゃった時とか、そう言うのとは違くて。

 本当に、この世界で。回復が間に合わなくて、目の前で死んじゃった人を見た。

 だから。決して人の死に触れて、膝を着いたってわけじゃない。


「ヴァネ……サ……」


 良く知っている友人の顔が見えた。

 眼を見開き、何が起きたか分からないと言う顔で。赤い水の中に横たわる友人。

 何も映していない瞳。

 生者とは全く違う、瞳。


「イチカっ!」


 ターニャの声。それから、頬に衝撃。視界が回転する。

 殴られたんだ、きっと。

 ちょっと時間を置いて、分かった。

 泣きそうな顔のターニャが見える。けど、それを他人事のように感じてしまう。

 何と言うか、映画とかドラマを見ているみたいな感じ。

 フィルターって言うのかな。ああいうのが掛かっているみたいで、これが現実として見えない。……受け入れられない。


「う、ぇ……」


 ターニャは私を無理矢理に会議室から引っ張り出すと、扉を閉めて、そのまま膝をついた。

 結界が壊され、シグレに攫われ、教皇様やヴァネッサが死んだ……?

 出来の悪いマンガだよ、こんなの。ありえない。クソマンガって言われてもおかしくない。バッドエンドしか見えないじゃんか。

 ……夢に決まっている。こんなひどい事が現実なわけが無い。悪夢を見ているんだ、絶対。


「クソッ、あのイカレ女……っ!」


 ターニャが今までになく呪詛に満ちた声を出した。そして壁を殴りつける。一度じゃない。何度も何度も。殴り続ける……いや、叩きつけている。


「絶対あのイカレ女だ……アイツがやったんだ……っ!」


 ヴァネッサは、ターニャやカタリナ程戦闘能力に秀でているわけじゃない。でも無力ってわけでも無い。戦況を見極めるのが上手で、彼女の策に助けられたことは何度もあった。だから、そんな彼女が死んでいるなんて、信じられない事だ。

 ヴァネッサだけじゃない。教皇様だって、魔法を使って身体能力を底上げして、近接戦闘を行える。私よりもよっぽど戦闘ができるくらいだ。他にも兵士たちがいたし、要は、つまりは、なんていうか……黙って殺されちゃうはずが無いんだ。

 だけど、現実には……みんな死んでいる。

 だからターニャの言う通りで、こに惨状を創り出したのは、きっとシグレ。

 相対したから分かる。

 シグレは本当に異常だ。

 異常に、強いんだ。


「イチカ……行こう。此処には……留まっていられないよ」

「……でも、何処へ?」

「分かんない、けど……此処にいても、良くはならないよ……」


 ターニャは弱気な言葉を口にした。いつもの彼女なら、絶対こんな言葉は口にしない。何があっても諦めず、例え可能性が低くても、勝機を手繰り寄せるべく戦うのが彼女だ。

 そんな彼女が、弱気な言葉を吐く。

 それはどう足掻いても、この状態を良く出来ないって。そう、諦めて、心が折れてしまった証明……ううん、違う。


「だからさ、今は……」

「……出来ないよ」

「……何で?」

「逃げても、アイツは追って来るよ。此処で斃さなきゃ。余計な被害だって、きっと増えちゃう」

「でも、イチカ。アイツは、今は……」

「違うよ、ターニャ」


 ターニャの言葉を遮る。遮って、彼女の眼をしっかりと見つめる。


「ターニャ1人を置いては行かないよ。……私を逃がして、シグレにまた勝負を挑むつもりでしょ」


 ターニャは驚きに息を呑んだ。

 でもね。分かるよ、ターニャ。貴女の考えくらい。

 だって、悔しいのは一緒。悲しいのも一緒。アイツを許せないのも一緒。

 だから、分かるよ。私と同じ考えを、ターニャが抱いている事くらい。

 分かるんだよ。


「行かせないよ。……1人じゃ行かせない」

「けど……っ」

「私も行く」


 言葉を被せる。被せて、真っすぐにターニャを見る。

 そうだよ。行かせない。私も行く。行って、シグレをぶっ飛ばさなきゃ気が済まない。

 それだけは、譲れない。


「行こう。アイツを倒しに」

「イチカ……」

「2人なら勝てるよ。……そうでしょ?」


 今まで何度も戦闘は行ってきた。

 行ってきて、負けそうになったことも何度もあった。

 でもその度に、私とターニャは生き延びてきた。

 ゴブリンの群れも。

 巨大なゴーレムも。

 初めての魔族も。

 ヴァネッサやカタリナと仲間になる前から、私たちは2人で戦闘を重ねてきたんだ。

 だから、1人じゃ行かせない。

 私も行って、アイツをぶっ飛ばす。

 それは意見なんて挟ませない、決定事項だ。


「行くよ、ターニャ」

「……うん、そうだね」


 ターニャは少しだけ笑った。

 笑って、私の手を取る。

 そう。

 ヴァネッサの仇。

 絶対に、それは取る。

 私たちの手で取るんだ。




「さぁ、行こ――――っ!?」

「なんて魔力!? ホールの方だ! 行こう!」











 私たちがホールに着くと同時に、ホールの天井が壊れる。巨大な火柱。貫くように、上階から発生したそれが、3Fホールまで穴を空ける。

 炎はすぐに消えて。それから少し遅れて、巨大な黒い鳥が落ちてくる。……ううん、違う。人だ。多分、魔法で羽を作っているんだ。

 そして、追うようにして、もう一つ人影が。


「待ちぃや! こっからやろぉ!」


 ああ、最悪だ。分かる。声を聞かなくても、姿を見なくても。その気配だけで分かってしまう。

 シグレだ。シグレが、落ちてきたんだ。


「チィッ!」

「ネム、下がれ! アリアを任せた!」

「よぉやっと会えたんや! 楽しもうやないか!」


 男の人と……女の人が2人。合計で3人。でも女の人たちは下がった。男の人がシグレと相対している。徒手空拳。いや、違う。籠手みたいなのをつけている。でも確か、武器を持っている人は無手の人でも3倍くらいに実力が上がるとかって聞いた事がある。つまり、ただでさえ強いシグレが武器を持っていたら、それは常人じゃ絶対敵わないくらいの強さにになるって事で、


「うそ……やりあってる!?」


 ターニャの驚きは、そのまま私自身の驚きだった。

 だって、あの尋常じゃないくらいに強いシグレと、互角に戦える人がいる。そんなのは、想像もしていなかった事だ。

 今この世界で、シグレに並ぶほどに強いとされる人なんて、聞いた事は無い。それも徒手空拳。有名な人で言えば、『炎帝』とか『氷眼』とか『雷槍』とかがいるけど――――




 ……徒手空拳?

 『戦闘スタイル:自身の四肢のみを用いた、オールドスタイル』




 ……アリア?

 『パーティー:アリア・フォアラント』




 ……やっと、会えた?

 『まさかここに■■がおるとは思わんかった』




 疑問、というか。

 引っかかった言葉。考え。そういった物が、過去の情報と結びつき始める。点と点が結び合って、線となる。線となって、絵を描く。

 明確だった。絵が完成するのに、多分1秒と掛からなかったと思う。だって材料は揃っていたし、何なら私自身が集めていたから。

 だから。出来上がった回答に疑問を抱いたり、否定をするよりも早く。

 私は視線の先で戦っている、見覚えのある人を見て。

 私は口を開いた。……開いてしまった。




「お兄、ちゃん?」




 横でターニャが息を呑む。

 この瞬間、本当に一瞬だけだけど。

 世界が止まったような。

 そんな気がした。




「……一佳か?」




 シグレを一殴りで飛ばし、男の人は距離を空ける。

 そして私に向かって振り返って、




「隙あり、やなぁ」




 それよりも早くに。

 見えたのは、男の人の胴体を貫いた、鈍い輝きだった。


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