4-1
新章開始。
長かったけど、漸くここまでたどり着きました。
※20/7/19 誤字脱字修正
※22/9/11 誤字脱字修正
さて、どこから説明したものか。
いきなりでなんだが、急に色々な事が起こり過ぎて、何から話せばいいのか分からない。
こういう時は結論から話すべきだが、今この結論を聞いたら、何故その結論に至ったかに疑問を抱くだろう。少なくとも、俺は疑問を抱く。絶対に。
ただ……説明をする時間が無いのも、また事実だ。と言うか余裕がない。
なので、やはり結論……と言うか、今の現状だけ。
俺は今、空から落ちている。
■ 妹が大切で何が悪い ■
ヴァネッサたちが正体を明かした翌日。俺たちは前日に決めた通りに、クロックスへと向かった。
クロックスへは何の問題も無く到着した。ギルドに報告をし、無事依頼は完了。ラッツには後日褒賞金が支払われ、レオナさんはギルドにて保護される。
2人とはそれで別れた。結構あっさりしたものだが、冒険者や傭兵ってのはドライなものらしい。とは言っても、ラッツは「何か困った事があれば言えよ」と言ってくれたし、レオナさんは「必ず恩を返す」と強く手を握って宣言してくれた。決して今回限りの仲では終わらないと思う。
さて。
そんな事で。イーリス聖教国に行くのは、ヴァネッサとヨシュア、アリア、ネム、そして俺の5人になった。
正直ネムが来るのは予想外だったが、人手は多い方が良い。それにラヴィアとの関係もある。魔界に帰られるよりも一緒にいてくれた方が、俺にとっては好都合だ。……ネムが魔族であることは誰にも言っていないので、バレた事による影響を思えば、そう好都合とも言えないか。まぁ、バレなきゃいいだけの話だ。
「飛行石で飛びます」
ヴァネッサの出した飛行石。それでイーリス聖教国まで飛ぶ。
まだ一佳の脱出策は穴だらけのままだが、とりあえず俺と一佳を会談させるらしい。
表向きは、新進気鋭の冒険者たちへの、聖女による祝福。
あとは聖教国内で宿を取り、策を練ろう。
……本当にそんなので大丈夫かと心配になるが、とりあえずは言われた通りに動く。わざわざ近道を用意してくれるのだ。乗らないわけには行かない。
これでイーリス聖教国に到着する。
その筈だったんだ。
「う、おお、おおおおおおおおおお!?」
それが何故。俺は今落ちている? 空から落ちている?
叫びつつ身を反転。着地――――に備えるには、あまりにも高すぎる。このまま落ちれば……死ぬ。墜落死。それは絶対だ。
「チィィィ!」
「キョウヘイ!」
声の方へ振り向けば……アリア? 彼女も落ちている。いや、アリアだけじゃない。
ネム。彼女も落ちている。いや、違う。彼女は急降下している。
ネムは背中からあの黒い翼を生やしていた。生やして、急降下しつつ、俺たちに向かって手を伸ばす。
「2人とも! 掴まってください!」
助かった。そう言えばアイツ、飛べたっけ。
最初に近いところにいたアリアを、そして次に俺をネムは回収した。
これでどうにか墜落は免れ……
「……勢い止まらないな」
「加速をつけ過ぎましたっ!」
「まぁ2人抱えているしな」
冷静にアリアは判断した。彼女の言う通り、ネムは勢いをつけて俺たちを救出しに来た。それだけのスピードを出さなければ、間に合わなかったのだろう。
さらに今は、2人分の重さが加わっている。
勢いを止め、さらには上昇するなんて。そんなのは幾らネムでも不可能なのだろう。
「ぐ、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「無理して浮こうとするな、滑空しろ!」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
ネムが苦しそうに唸り声をあげる。彼女も精一杯なのだろう。そこに頑張れなどとは口が裂けても言えない。
真下に落ちていたのが、今はやや斜めに変わっている。このまま滑空を続け……るにはもう距離が無い。このままだと地面に落ちる。それもあと何秒、という瀬戸際だ。
「衝撃で緩和する! こっちは気にするな!」
咄嗟に指示をすると、俺はあの良く分からない力を練り上げるのに集中する。何度か使用していただけあって、どうにか滑空中に練り上げられた。拳に纏わせたそれを進行方向の地面へ、墜落数コンマ前に繰り出す。
これで緩和できるかは分からない。が、やらなければ死ぬだけだ。
「ぐっ!」
「うっ!」
「んっ!」
衝撃で僅かに浮いた。
が、それだけ。
数コンマ時間が伸びただけで、地面に叩きつけられると言う未来は変えられなかった。
……ただ、まぁ、
「っ……痛ぇ」
痛みを感じることが出来るなら、生きているという事だ。そして生きていれば、まだ次がある。死ぬと言う最悪の未来は回避できたらしい。
呼吸を整え、何とか身を起こす。
「……何とか無事なようだな」
俺と同じく、息も絶え絶えな状態のアリア。
「……」
うつ伏せになったまま言葉こそ発さないが、手を振って無事を伝えるネム。
とりあえず俺たち3人の中では死人は出なかったらしい。それは喜ばしい事だ。
痛む体に鞭を打ち、ネムが起き上がるのに手を貸す。
「本調子なら、なんてことありませんでした」
「そうか」
彼女の言う通り、本調子であればもしかしたら俺たちは怪我もなく着地できたのかもしれない。あの禁足地から生還したのは昨日の事だ。そりゃあまだ疲労が回復できたとは言い難いだろう。
助かった、ありがとう。お礼を言うと、意外そうな表情をネムは浮かべた。
「私には何も無しか、キョウヘイ?」
「アリアがこの程度でくたばってたまるか」
「信頼は嬉しいが、女性にかける言葉じゃないな。傷つくぞ」
「……すまん」
ネムを起こし、アリアの元へ向かう。謝りつつ手を差し伸べた。確かに彼女の言う通り、幾ら気の許せる仲間とは言え、配慮の無い言葉だった。
アリアの手を掴んで、ネムと同様に起き上がらせる。とは言えアリアも俺と同じく、自力で起き上がれる程度には無事だ。ほんの少しの力を加えただけで、彼女は容易く立ち上がった。
そうして。互いに空を見上げて溜息を吐く。
――――さて、どうしたものか。
土地勘は無い。場所も分からない。そして濃密な敵意。
さぁ、困った事になった。
■
今の状態だと売られた喧嘩を買うことは面倒でしかないが、此方の了承も無しに襲ってくるのなら致し方が無い。
魔獣やら魔物やらを片っ端からぶちのめすと、流石にそれ以上は襲ってくる事無く引っ込んだ。とりあえずはこれで大丈夫だろう。というか此方には魔人軍のネムがいるというのに、何故かかって来るのか。
「知性が無いからです」
……ああ、そう。同じ種族と言うのに随分と殺伐としているようだが……まぁいいや。人類だって別に一致団結を出来ているわけじゃないし。
死体の上に座るのは嫌なので、適当な石の上に座る。開幕早々だというのに、危険は相変わらず時も状況も考えずに畳み掛けてくれる。少しは休ませてほしいものだ。
「――――さて、どうしようか」
何はともあれ、まずは行動の方向性を決めなければならない。訳も分からず放り出されはしたが、世界は俺たちの順応を待ってはくれやしない。こちらから早々に行動しなければ、後手に回り続けていつかは動けなくなるだろう。
「時間が無いな……まずは場所の確認。ヴァネッサたちの安否。拠点の作成。とりあえず、今すぐ行う事はこのどれかに絞ろう」
「ヴァネッサたちの安否、か……ネム、落ちてる最中に、俺たち以外は見えたか?」
「いえ、2人だけです」
「じゃあヴァネッサたちは後回しにしよう」
すっぱりと。ヴァネッサとヨシュアは後回しにする。別に生存を諦めているわけじゃない。ただ、彼女たちは無事だろうな、と。そんな確信に似た想いがある。空から落ちていたのが、俺たちだけということに、作為的なものを感じているのだ。
それは直感だ。そう、直感でしかない。だがどうしても、その直感を俺は否定することが出来なかった。
仮に作為的でなく、彼女たちも同様に高所から落とされているのであれば。酷かもしれないが、彼女たちが助かる見込みはゼロに近い。死んだと考えた方が良いだろう。
「場所の確認且つ、休める場所を探す、だな。此処にいても休めない」
「同感だ。此処は随分と敵意が濃い。禁足地と言われても驚かないぞ」
疲労を色濃く乗せた言葉をアリアは吐いた。今は襲ってこないだけで、魔物たちは遠巻きに俺たちを見ている。弱ったり油断を見せる等すれば、一斉に襲い掛かってくる腹積もりなのだろう。これだけの魔物が生息しているとなると、アリアの言う通り禁足地の可能性は高い。
さてはて。どうしたものか。
道は無い。見渡す限り、人工物も見えない。草原と森。見渡しは良いが、身を休むには適さない。
「ネム、何か街とか見えたか?」
「いえ……」
着地の事だけを考えていた俺とアリアと違い、ネムなら何か見えていないか。そんな淡い期待は簡単に砕かれる。まぁ、彼女も俺たちを救おうと必死だったのだ。そこまでを求めるのは酷な話だし、なんなら俺たちが周囲を把握するべきだった。
「闇雲に進むしかないか」
「……いえ、そうでもありません」
意外なことに、ネムは否定の言葉を口にした。何か彼女には策があるのだろうか。
「少し待っていてください」
そう言うと、ネムは翼を生やした。黒い、あの翼。だが初めて見た時と違い、瘴気ではない。いや、さっき助けられた時も、あれは瘴気では無かったな。翼も生やせるし、瘴気も出せる、ということだろうか?
「上から見ます」
ネムはそう言うと、飛び上がった。背から翼を生やし、空を飛ぶ。大した能力である。
「彼女は何者だ?」
アリアは俺の耳元で、ネムには聞こえない様に疑問を口にした。
……そう言えばアリアには、まだネムの正体を言っていない。だがここで馬鹿正直に伝えても、良い方向に転ばないのは間違いない。何せ魔族と人間だ。
「さぁ、な。とりあえずは味方らしい」
答えになっていない答え。だが、まるっきり嘘と言う訳でもない。何せ俺はネムと、一度は殺し合いにまで至っている。純然な味方と言うわけでは無いし、かと言って敵とも言い難いのだ。
ふぅむ。上空を睨み付けるアリア。もしかしたら彼女は、ある程度ネムの正体を察しているのかもしれない。鷹の様に眇められたその眼には、冷たい光が宿っていた。
■
ここから真っすぐ進んだ先に街があるようです。そう言ってネムが指し示した方向は森。どうやらこの森の先に街があるらしい。
「森もそこまで広大と言う訳ではありません。陽が沈み切るまでには到着するかと」
正確な時間帯は不明だが、クロックスを出たのがちょうど昼時。ネムは陽が沈む前と言ったが、既に陽は傾きつつある。幾ら何でも、彼女の言う通りになるのはかなり無理があるのではないだろうか。
「本当か?」
そこはアリアも同意見らしく、眉根を寄せていた。上空から見えたのは僅かな間だったが、森はそんなに小さかった記憶は無い。
「はい。飛べば、問題ありません」
ああ、そう言う事か。納得いった。森の中をわざわざ進むのではなく、ネムにその上を飛んでもらえばいいのだ。
……だが、
「体力は大丈夫か?」
「はい。キョウヘイがいれば大丈夫です」
「?」
答えになっていない。首を傾げると、ネムは手招きをした。
「少し屈んで下さい」
「? ……っ!?」
はむっ。
言われたとおりに、少し屈む。屈むと、ネムは俺の首に手を回して抱き着いてきた。……抱き着いて、唇を重ねられた?
「これで、大丈夫です」
「? ……?」
訳が分からなかった。本当に。いきなりの事に、恥ずかしい話だが全く思考が追い付かなかった。
キス……そう、キスだ。俺はキスをさせられた? それも結構長い時間。いや、別にキスをしたことが無い訳じゃない。違う、そこじゃない。何でこの場面でキスをされた?
俺の混乱を他所に、ネムは再び翼を生やした。心なしか先ほどまでの疲労は薄れているように見える。何か意味があったのだろうか。
「……キョウヘイ」
「んおっ、あ、何だ!?」
「訊きたいことがある」
冷徹な声だった。口調は柔らかだったが、声に感情は含まれていなかった。顔も笑顔を象っていたが、眼は全く笑っていなかった。
つかつかつか。俺のすぐ目の前にまでアリアは来ると、もう一度にっこりと笑い直した。笑い直しはしたが、やはり全く眼は笑っていなかった。
「手が早いじゃないか」
「……すまないが、俺もまだ混乱している」
「別にキョウヘイが誰とキスしようと構わないしそこを責めているわけじゃないし責めるつもりも無いがただ手が早いと思っただけで他に他意は無いから言い訳はしなくても結構だ」
「あ、はい」
「……何だ?」
「いえ……何も無いです」
何故に敬語か。僅かに残った冷静な部分が疑問を抱く。違う、そこじゃない。
ふん、と。不機嫌そうにアリアは鼻を鳴らす。何故不機嫌そうなのか。そこを考える余裕は、今の俺には無い。寧ろ不機嫌だと悟れた自分の洞察力を褒めたいくらいだ。
「行きましょう」
そう言って、ネムは俺とアリアに手を伸ばした。この状況を引き起こした当人は冷静そのものである。何なら俺たちの状況に眉根を寄せて疑問符を思い浮かべそうなくらいだ。
「……ああ、そうだな。行くさ、行くとも」
アリアがネムの手を握る。俺も同じように、空いている方の彼女の手を握る。混乱は未だ継続しているが、状況は俺を待ってやくれはしない。
「飛ぶ事に集中します。落ちない様、気を付けて下さい」
だから何でお前は冷静そのものなんだよ。
理不尽な状況に溜息を吐きたくなる。
何となく。唇と彼女の手を握る自身の右手が熱かった。
■
陽が落ちる。山の向こうへ。もう夜の帳は世界を覆いつつある。
「ついたか」
ネムの予想通り。俺たちは陽が落ち切る前に、その街へ着いた。
「……随分とデカい門だな」
街に全容は見えない。どデカい門が視界を遮っているからだ。クロックスやデニオスと同じく首都クラスの街らしく、他の街や村と比べても群を抜いた堅牢さが見て取れた。
「……イーリス聖教国だな」
「マジか?」
アリアの呟きに、思わず俺は感情そのままを返した。まさか本当に? だがここで嘘を吐く意味は無いだろう。
「実際に訪れた事は無いがな。だがイーリス様の祝福が作用されている。聖気に満ちている」
……俺には全く感じないが、そういうものらしい。聖気って何だと思ったが、そこは疑問を抱くだけ野暮であろう。そういうものだ、と。納得する事にした。
「まぁ、とりあえず入るか」
外で突っ立ってても意味は無い。まずは中に入ろう。
検問の列に並ぶ。目的は? まるで入国検査のような質問を受ける。とりあえず前の人と同じように洗礼を受けに来た、と答えると、納得したかのように頷かれて道を開けられた。
――――バチッ
「……は?」
道は開けられた。開けられたが、何も無い筈の虚空に弾かれた。反発するかのように、強い力を以て押し返された。
訳が分からず目を丸くしていると、兵士が剣呑な様子で俺に剣を向けた。
「……お前、魔のものか?」
はぁ? 訳が分からず、とりあえずもう一度踏み入れてみる。今度は弾かれるのに備えて、強めに。だが意味は為さず、寧ろ強めに弾かれた。
「結界に弾かれるとは……貴様、魔の者だな!」
いやいや、違う違う。これは間違いなく致命的な誤解を受けている。俺は何処からどう見ても普通の人間だ。魔の者なんかじゃない。
――――バチッ
「むっ」
――――バチッ
「あうっ!?」
……俺だけじゃなく、アリアとネムも弾かれた。いや、兵士の言う通りならネムが弾かれるのは分かるが……何故アリアも?
「クソッ! 隊長に知らせろ! 魔の者の襲撃だ!」
いや、違う違う! だが俺らの弁解はもう意味を為さない。結界を弾かれる=魔の者。完全にその図式が出来上がり、警戒心が跳ね上がっている。剣を抜いて向けられている以上、敵対は避けられない。
「……ええい、クソッ! すまん!」
だがだからと言って、ここで素直に引き下がっては意味は無い。漸く目的地に着いたのだ。拒絶を受け入れる道理など、あろうはずがない。
俺は兵士の攻撃を避けると、そのまま走って中に入ろうとする。弾かれる事は分かっている。だがこっちだって、入らなきゃいけない事情があるのだ。その為の対話が不可能な以上……残されている手は、無理くり、しかあるまい。
「ぬぅっ!」
一瞬の停滞、そして反発。あ、弾かれる。直感的にそう判断すると、俺は咄嗟に右拳を振り抜いた。
――――ピシッ
おまけ
レオナのプロフィール
名前:レオナ・マイヤー
年齢:21
種族:人間
性別:女
出身:フェルム王国
クラス:剣士
好きなもの:ハッピーエンドの物語
嫌いなもの:過度に恋愛描写が過ぎる物語




