3-EX
その頃のあの人は。
そして3章は一区切り。
※20/10/11 誤字脱字修正
見上げた空には満天の星。
この世界は人工の灯りが少なく、とりわけここらはゼロだからか。
最初の頃は、この星空に感動みたいなのを覚えていた。
まぁ今では。ああ、もう夜か、って程度に落ち着いているんだけど。
そんな事を思いながら、ゆっくりと身体を起こした。
「……首の骨、だけね」
そっと首に手を回し、調子を確認する。皮膚を突き破り出てきた骨は、しっかり元に戻して接合済み。
特殊スキル『自動回復』。そして、ネクロマンサーとしての『死者蘇生』の術。
この2つを併用すれば、致命傷を負っても私は復活できる。
……ううん、致命傷じゃない。心臓を潰されても、首の骨を折られても、頭を潰され――――た経験は無いから分からないけど、要は死んでも生き返られる。
今だってほら。折れた首は修復した。傷ついた神経も元通り。他に怪我はない。凝り固まった身体をほぐしつつ、他に支障が無いかを見ていくが、本当に首だけみたいだ。
「あの剣士の炎で焼き殺されるかと思ったけど、杞憂で終わったみたいね。良かった良かった」
仮に焼き殺されていたら、再生なんて無理だった。いや、もしかしたら出来るかもしれないけど、ぶっつけ本番で、まだ試した事の無い難易度鬼MAXな術の行使は勘弁願いたいものである。
まぁ、ラッキーである。うん、ラッキー。
「……そんなわけ、無いじゃない」
腸が煮えくり返るような、って言葉は、多分今の私の感情を指すと思う。
無事でいられたことは一先ず良しとしよう。でも、私をこんな目に遭わせた3人は絶対に許さない……いや、許さないとかそう言う話じゃ無い。
「殺してやる」
一方的に喧嘩を売ってきたクソガキ。
人の術を無効化したクソ女。
そして人が下手に出てやれば勘違いして殺しにかかりやがったクソ野郎。
「絶対に殺してやるわ」
殺して、奴隷にして、飽きるまで殺し続けてやる。
難しい事じゃない。だって私には奴隷がたくさんいる。
幾ら3人が強くったって、数には勝てない。ましてやこっちは、死兵だ。
「殺してやるわ、キョウヘイ君」
3人の中でも、特に彼。キョウヘイ君。
人の骨を折ってくれたのだ。百億倍くらいにして返さなきゃ気が済まない。
どうやって殺そうか。どんだけ苦しめて殺してやろうか。
それを考えるだけで、私は心のわくわくが止められない。
「腸を引きずり出して、眼を潰して、指先から斬り刻んで……それを何度も回復して、繰り返して」
ああ、楽しみだ。しかも彼は、顔だけで言えば結構好みの部類。頭の回転もよさそうだし、今まであった人の中では断トツだ。それを自分の手で、何の気兼ねも無くぐちゃぐちゃに出来ると思うと、それだけでトリップしそう。
彼はどんな顔をするだろうか。良い悲鳴を上げてくれるだろうか。
「フフッ、楽しみだなぁ」
満天の星空を見上げながら、私――――斉藤千歌は思う。
この世界に来て、本当に良かった、って。
心から、そう思う。
■
私が此処に来る前ってのは、正直思い出したくも無い。
一言で言えば人生どん底。最悪。
毎日毎日、頭の中で「死ね」を連呼していたんじゃないかな。
周りの連中は低俗な屑ばっかり。
生きている価値も無いゴミ。
それでもゴミはゴミらしく、立場を弁えて大人しくしていれば、まだ我慢は出来た。
なのにゴミ共は、皆等しくチームプレイだの仲間意識だの、障りの良い言葉を並べて人の足を全力で引っ張ろうとしてくる。
お姉ちゃんなんだから。優秀なんだから。頭が良いんだから。
そんな言葉で人を縛り付けようとしてくる。
或いは適当な嘘で、自分の都合の良い様にしようとする。
言う方も言う方だが、騙される方も騙される方だ。
真実を折り曲げてまで、そんなに自分にとって居心地のいい現実の方が良いのか。
人生が思い通りにならな過ぎて、本当に何もかもが嫌だった。
だからいつも思っていた。
みんな死ねばいいのに、って。
――――ゲームの世界に入る事が出来るゲームがあるらしいよ
そんなうわさ話を聞いたのは、スマホアプリのゲーム内フレンドからだったと思う。
実際にやってみたらクラス欄が少なかったり、スキルの数が限定的だったりで、かなり自由度が低そうだからガッカリしたけど……目覚めてびっくり。本当にゲームの世界に入れたのだから、人生って何があるか分からない。
……まぁそのあとすぐに、一回死ぬ羽目になるとは思わなかったけど。
「あの時はヤバかったよね、マナミ」
今の私の傍らには、あの時死んだ仲間がいる。
マナミ。
本名は知らない。
私がネクロマンサーとして、復活させた子だ。……まぁ、復活したのは残念ながら身体だけなんだけど。
こればっかりは私も術を行使したての、扱いが分かっていない時期での蘇生だから仕方が無い。残っていた身体をかき集め、それを基に身体を再生させる。ただ、魂はもう成仏しちゃったのか、出来上がったマナミは物言わぬ死体だった。おかげで暇な時のおしゃべりも出来ない。
シュウはもう身体が無かったし、もう一人の陰気な子供は行方知れず。キョウヘイ君も立ち去った後だから、私の知るあの時の仲間は今や彼女だけだ。
後は、この地に現実から来た別の奴隷が5人と、アンデッドがたくさん。
「ミッチー、服」
「はい」
ミッチー。本名は知らない。仲間たちからミッチーって呼ばれていたみたいだから、ミッチーって呼んでいる。私の奴隷の1人。この子は私が来た時より後になって来た、現実世界の子。彼女はマナミと違って上手く術を行使して奴隷化したので、普通に会話もできる。
当たり前だけど、現実世界から来る子たちは有用なスキルを持っているし、クラスのバリエーションも豊富だ。その中でもミッチーは、デビルサマナーというレアクラスな上、レアスキル持ちで、しかも気が利くという私の一番のお気に入り。マナミとミッチーは、余程の事が無い限りは一緒に行動しているのだ。
「ああ、失敗したなぁ」
失敗したというのは、私の今の実力を知りたくて、1人でアイツらに喧嘩を売った事。あのクソガキを倒せたから調子に乗ったってのもあったけど、私の能力もあって此処ではあまり強い人と戦闘する機会が無い。せっかくの数少ない機会を、逃したくは無かった。
けどまさかあんな簡単に迎撃されるとは思っていなかった。負けるなんて微塵も思っていなかったから、正直今もまだショックがでかい。
「ま、楽しみが増えたのが収穫ね」
前向きに捉えるなら、そうだ。でも言葉にして、幾ら明るく振る舞っても、腸が煮えくり返るような思いは消せない。
殺す。殺して奴隷にして、後悔なんて生温いほどに酷い目に遭わせてやる。
さっきまでは単純に暴力に訴える考えていたけど、それだけでは済まさない。身体を改造させて、女の子にしてあげよう。それで毎日毎日子供を産ませてあげるのだ。そしてその子供に犯させるのはどうだろう。うん、その方が屈辱も味わせられていい。採用採用。
「ネネ、見てた」
「見ました」
「どれくらい?」
「強いです」
「それは分かっているわよ。数値にして」
ネネも私が奴隷化した子だ。この子はクラスはただの魔法使いだけど、レアスキルの『鑑定』を持っている。この子のおかげで、他人の実力やスキルを見ることが出来るのだ。……ただ、頭の出来が残念なのが欠点だけど。
「御主人様を100とすると、男女双方共に500です」
「単純に5倍の実力差ってわけね」
「はい、ちなみにあの子供は450です」
「あれが?」
あのクソガキの方が私よりも高い? 結構簡単に迎撃できたと思ったけど……まぁ、戦闘って分からないところがある。状況や運で実力差がひっくり返る事がある。それは今までの実験で良く分かった事だ。
「こっちの面々って、どんな感じだっけ?」
「御主人様を100とすると、グレンとヒョウガが250、ミッチーが120、マナミが100、私とマリが20です」
ネネの数値は実際の数字じゃない。スキルとパラメーターから、自動的に彼女が判別した強さを、分かりやすい様に数値化しただけ。実際には、色々な要素が入る。
例えば私は100だけど、アンデッド共を行使すれば、あのクソガキみたいに私より強いヤツらを倒せる。マナミやミッチーだって、それぞれが精霊や悪魔の召喚をできれば、数値上は格上のグレンやヒョウガを撃退できる。
だから、まぁ。悲観するような差じゃない。色んな策を練れば良いだけだ。
「グレンとヒョウガは何しているの?」
「2人とも待機しています」
「……そう。ま、余計に動くよりはマシか」
グレンとヒョウガ。魔法剣士とウォーリアー。2人とも素の戦闘力は高いけど、逆を言えばそれだけ。スキルも平凡だし、せいぜいが壁役程度にしかならない。
「マリは?」
「分かりません」
マリ。確か獣使い。でもアンデッド化した彼女には獣が寄り付かず、今のところ戦闘面ではダントツで使えない子だ。……いや、戦闘面だけじゃない。この子の場合は術が失敗したのか、命令通りに動いてくれないのだ。
例えば「リンゴを取ってきて」と命令すると、何故かリンゴを隣町まで買いに行くような感じ。私の思い通りに動かすには、命令を事細かに言わないといけない。
おかげで彼女には待機以外はほとんど命令を下していない。今も多分、どっかで待機しているんでしょう。
「ミッチー。みんなに伝えて。活きのいい冒険者を連れてくるように」
「はい」
「雑魚は良いから。もう所持しているので充分。私は新しいペットを作るから、よろしくね」
「畏まりました」
さぁ、ここから忙しくなる。やることは沢山だ。
真正面から戦って勝てなければ、別の手を考えるだけ。今の実力で敵わないなら、差を埋める術を用意すればいい。
時間はたっぷりある。幾らでも。
「大丈夫だよ。死んでたら、生き返らせてあげる」
絶対に逃がさない。
三人とも。絶対に。
何処の国へ行こうと、隠れようと、消息を断とうと、或いは死んだとしても。
絶対に、逃がさない。
■
ちなみに、だけど。
私はネクロマンサーとして死体を操ることが出来るけど、無条件で操れるわけじゃない。操るためには、それ相応の手順を幾つか踏まないといけない。
大きく分けると、身体の契約と、魂の契約。
身体の契約は簡単。死体に私の術をかけるだけ。それだけで、死体は死んだと言う事実を否定して、動くことが出来る。
だけど、そこから生前の意思や人格を起動させ、生前と同様に動けるようにするには、各個人の魂と契約を結ばないといけない。
とどのつまり、ただの死兵として動かすだけなら、身体の契約だけでいい。けど、ミッチーやネネみたいに、スキルや術を使用できるようにするには、魂とまで契約をしないといけない。
でも普通は、魂ってのは死んだ先から成仏しちゃう。だから、契約直前まで生かしておかないといけないんだけど、そうなるとこっちの契約を拒否して成仏する道を選んでしまうのもいる。お前の言う通りに誰がしてやるか、みたいな感じだ。当人からすれば殺した元凶に奴隷になれって言われているのと同じだから、気持ちは分からなくも無い。
ただこれだと本当に面倒。ただの死兵は、ホント使えない。有象無象。いないよりはマシだけど、その程度だと契約に行使した労力や、魔力に全く見合ってくれない。と言うかその程度ならそこらの死体を使うほうがよっぽど容易で安上がりだ。
じゃあ、どうやって魂の契約をしようか。
これは結構悩んだんだけど、割とすぐに解決方法は見つかった。
何てことは無い。
アンデッドに襲わせて、殺して、選択肢を与えずに契約の流れに持ち込む。ただのそれだけだ。
強引で力づくのように思えるけど、希望を持って来たばっかりの初心者にとって、ロクに何も出来ずに殺されたっていうのは、かなり悔いが残る死にざま。けどそこに、もう一回生き返るチャンスが垂らされたら、人は簡単に飛びつく。
別に契約の先は言う必要無いし、問われたところで嘘を吐いたところでバレやしない。
尤も、相手も生き返る希望で頭がいっぱいなのか、大した質問はしてこない。
単純で簡単。今のところ成功率は100%。
ミッチーやネネたちは、そうやって奴隷化した。
ま、アンデッド化した今では、腹の中で何を考えているか知らないけど、今更彼女たちから契約の破棄は出来ない。破棄する権利は私にある。それに破棄したところで、そもそもの話死体に還るだけだしね。アンデッドとは言え、生き返ったんだから感謝してほしいものだよ。
「本当に、最高の世界よ」
みんな馬鹿で愚図で阿呆な奴らばかりなんだから。
せめて私の役に立てっていう話だ。
寧ろ使役されることを喜んでもらいたいくらい。
もし仮に。
神様が元の世界に戻してやるって。
そう言ってきても、私は絶対に帰らない。
……いや、帰らないって言うのはおかしいかな。
この術を以て、奴隷と一緒に帰ることが出来るなら。
私は帰る事を選ぶだろう。
そして帰ったら……あの愚図共を皆奴隷にしてあげよう。
私にはそれが出来るだけの力が、今はあるんだ。




