3-10
終わりは呆気なかった。
本当に、呆気なかった。
「……死んだか」
チカの首は、予想していたよりも脆かった。抵抗が無かったせいか、驚くほど呆気なく折れた。
首だけを折ったためか、チカは一見すると眠ってるようにしか見えない。その顔に苦悶の表情は無かった。死んだことにも気づかずに逝ったのだろうか。……そんな事は、考えても仕方が無い事だ。
「ああ、殺した」
アリアの優しい問いかけに、事実で回答をする。偽る必要は無い。これは俺が選択して、俺が決めた結果だ。言葉だけでも、その事実を誤魔化したくは無かった。
そうか、と。アリアは頷くと、止めていた足を動かす。先に戻るのだろう。彼女の優しさが、気遣いが、実に心に痛い。
「……じゃあな」
呟いてから思う。じゃあな、じゃねぇよ。今更後悔なんて抱くな、阿呆が。
■ 妹が大切で何が悪い ■
結論、と言うか。
この救出作戦を一つの物語として捉えるなら。
山場と言えるのはチカの襲撃が最後だったのだろう。
あの後は特に目立った困難に直面する事も無く。
まぁ、つまり。何が言いたいかと言うと。
「……脱出、だな」
ラッツの安堵と疑問とその他色んな感情がない交ぜになった言葉。
その言葉に従って前を向けば、確かに木々の隙間から光が見える。
この重く苦しい森の重圧からの解放を指し示すような光景。
先を行くラッツが振り返り、俺たちに手招きをした。
「大丈夫だ、来い」
外に出る。森の外へ。途端に重圧が消え去り、高く昇った日が緊張を解きほぐす。
たった一歩。森の外に出ただけ。
にも関わらず、その差は言葉に出来ない程に歴然だ。
「……ははっ、まさか生きて帰れる日が来るとはな」
「良かった、本当に良かった……」
感無量と言った様子のレオナさんとアンドレアスさん。2人ともその場に座り込むと、安堵の息を吐き出した。
「襲撃が少なかったですね。……屍人は本能に従う低ランクの魔物とは聞いていましたが、長らく生きている種は知性は有しているのでしょうか」
「かもしれない。まぁ、意図は不明だが、余計な戦闘にならなかったのは僥倖だ」
一方でアンナさんとアリアは、真面目に此処までの道中を振り返って議論をしていた。屍人による襲撃の少なさ。彼女たちの言う通り、襲撃は殆ど無かった。チカの支配も無くなったことだし、もっと帰り道は襲撃を受けると思っていたのだ。
そんな予想に反して、屍人は出ても1体か2体程度。
野宿をしていても、襲撃はそれくらいの数が2回。
初日の苛烈さに比べれば、随分と可愛いものだ。
「……逞しいもんだな。貴族のお嬢様ってのは、もっと繊細だと思っていたよ」
「あの人が特殊なんだろう。まぁ、今回はそれで良かった」
ラッツは顔を顰めながら俺に耳打ちしてきた。アリアと議論をしているアンナさんの事について。ラッツの言う通り、本当にお嬢様なのかと疑いたくなる肝の座りよう。彼女は冷静に現実を受け止め、出来ることに従事している。もっと怯えるものかと思ったが……まぁ、余計な手間にならなかったから結果オーライだ。
「そいつの様子は?」
「安定はしている。峠は越えたみたいだ」
ネムは俺が背負っている。彼女はあれから一度も目を覚ましていない。だが容態は落ち着いているのか、首筋に掛かる吐息は規則的だ。道中でかけた回復薬が、少なからず作用してくれているのだろう。まだ安心するには早いが……そもそも彼女は魔族だ。耐久力、自己回復力、体力、その全てが人間のそれを大幅に上回っている。同じ傷を負った人間よりも、生き残る確率は大きいだろう。
「ハァ……ったく。2度とお前らとは組まねーし、禁足地にも行かねー」
「ははっ、嫌われたもんだな」
「凡人と有名人の違いを大きく見せつけられた。大金に眼が眩んじゃいけねーな。俺は自分の身の丈に合った生活を選ぶさ」
あぁ、嫌だ嫌だ。しかめっ面をラッツは見せると、大きく溜息を吐いた。どうやらよっぽど今回の依頼がお気に召さなかったらしい。俺としては彼がいなければ、今回の依頼は達成できていたか微妙なこともあり、そんな事は言ってほしくないが……まぁ、仕方があるまい。
「これからどうするんだ?」
「近くの街で、一日休息を取ろう。それから馬車を調達して、クロックスに戻るか」
「ああ、それがいい……そうしよう……」
「ここから近くだとどこだ?」
「それなりに大きいところならカルベだが、他にも小さい村が点在していたはずだ。こっから1時間くらい歩けば、着けると思う」
「じゃあ、まずはそこだな。案内頼めるか?」
「ああ……行こう」
疲れ切った顔でラッツは同意を示した。まだ禁足地を抜けただけで、完全に安全な場所へ出たわけでは無いのだ。多少身体に鞭を打ってでも、こっから遠のく方が絶対に良い。
欲を言えば馬車の一つくらい通って欲しいものだが……
「無い物強請りだな」
にべもないラッツの言葉。期待する方が間違っているという意味だ。
……まぁ、ケントに移動する際も、何度も魔物の襲撃を受けた。常識のある人間であれば、わざわざ好き好んで禁足地周辺を通ろうとはしないだろう。降るはずも無い幸運を望むのではなく、自身の足を頼りにしろと言う話である。
「……む」
「どうした?」
「湿気が濃くなった。風も強い。一雨来そうだな」
「マジか」
風が強くなったのは分かるが、湿度の変化は分からない。空を見上げても雨が来そうな天候には見えないが……そこは素人の考えよりも、専門家の意見だ。ラッツが降ると言うのなら、降る可能性は高いのだろう。
今この場で雨ざらしになるのは良くない。こっちは怪我人と軽装が2人。雨に打たれて風邪の一つでも引いて、それを切欠に重症化されれば、無事に脱出した意味がない。
「飛行石に人数制限がなけりゃな……」
残念そうにラッツが言葉を吐く。
飛行石。
ピンク色で、透き通るような透明度を誇る宝石。
その正体はマジックアイテムで、街が発する魔力を記憶させることで、その街へ飛ぶことが出来る。
但し飛ぶには制限がある。飛行石自体が貯蓄出来る魔力量によって、同行できる人数が変わるのだ。
「3名分が2つ。どうあがいても1名残るんだよなぁ」
「最悪、アンナさんたちとラッツで先に戻ってくれ。俺は1人でも良い」
「おいおい、お前なぁ……」
「今更そんな考えを皆が許すと思うか?」
ポン。背後から肩に手を置かれる。
振り返れば、呆れた顔のレオナさん。
「昨夜も話したが、アンタたちには感謝しか無い。なのに命の恩人を見捨てて安全圏に帰ろうなんて、そんな気は毛頭も無いよ」
「ま、そう言うこった。次にまた変な事を言ったら、夕飯はお前持ちな」
……義理堅いことこの上ない。普通なら、すぐにでも安全を確保したいだろうに。
照れ隠しに、やや強めに息を吐き出す。
全く以って、仲間には恵まれてばかりだ。
■
「テメェら! 命が惜しけりゃ金目のものは置いていきな!」
「……なんだありゃ」
「賊だろ。わざわざ真正面から声を掛けてくる辺り、馬鹿か阿呆か……」
「ごちゃくそうるせぇぞ! 死にてぇのか!」
「……相手にするのも面倒だ」
「なんだ、テメ――――ひっ」
「賊とみて逃がすつもりは無い。が、連行する道具も無くてな……すまんな、焦げてくれ」
「……今度は魔物か」
「ブラックオークか。単体なのが救いだな」
「上位種だぞ。良く落ち着き払っていられるな、お前ら」
「単体なら面倒じゃないからな。レオナさん、ネムを頼む」
「え、あ、い、いいけど……」
「キョウヘイ、上位種の中には魔水晶を宿しているのがいる。上手く剥ぎ取れれば金にはなるぞ」
「そうか」
「……お前ら、余裕か」
「テメェら! 命が惜しけりゃ金目のものは置いていきな!」
「……また賊か」
「だが今度は馬持ちだな。あれは欲しい」
「足になるな。助かる」
「お、おい! お前ら何を呑気に――――ひぃっ!」
「あ、や、止めっ! あぎゃっ!」
「……これじゃどっちが賊か分からねぇな」
「……ここ、は?」
「お、ネム。起きたか。ちょっと待ってろ」
「キョウ、ヘイ……? ……?」
「目を覚ましたか、恩人! ああ、良かった!」
「……?」
「とりあえず寝てろ。今は大丈夫だ」
「……喜びに浸りたいところだが、また襲撃だ」
「何度目だよ! 今度は何だ!?」
「あれは……ゴーレムか?」
「しめた、掘り出し物があるかもしれないな」
「核を潰せばいいんだったか。面倒だな」
「……お前ら、逞しいよ」
「……見えた、街だ」
「まさか禁足地を出た後の方が襲撃を受けるとはな。フェルム様も酷い試練を課してくれる」
「大したことが無いのが殆どで助かったがな。とりあえず、一息付けそうだな」
「2日ぶりだってのに、何だか懐かしく見えるぜ……」
「ラッツ。気を抜くな」
「いや、そうは言ってもなぁ……」
「キョウヘイの言う通りです。また、来ましたよ」
「む。本当だ。今日は出血大サービスか」
「誰のサービスだよ。……しかもまたゴーレムか」
「私が行こう。キョウヘイだと分別つけずに粉々にしてしまうからな」
「すまん」
「いやいや、心配するところおかしいからな、お前ら」
■
村に着き。宿にて1人1部屋をとる。この時期は殆ど客がいないのか、7名にも関わらず部屋は簡単に取れた。
荷物を下ろし、簡単に夕飯を取りつつ、明日の動きを共有する。と言っても、明日の昼頃に馬車に乗ってクロックスへ出発するという大まかな予定だけだ。それまでは何をしていても良いけど、遅刻はしないようにしておけよ。以上。後は自由行動。
自由行動と言っても、この村は小さいから、あまり見るものは無い。加えて疲労困憊。とすれば、皆が取る行動など決まっているようなものだ。
寝る。
早々に解散すると、皆それぞれの部屋へと引き上げる。言葉にはしないが、思いは共通だろう。かく言う俺もそうだ。正直かなり眠い。
「っ、はぁ……」
伸びと欠伸をかましつつ、ベッドに倒れ込む。やはり寝るならベッドに限る。周囲を警戒しながらの野宿では、全く休んだ気がしない。
確かに昨夜の野宿では、交代制で見張りをしていた。レオナさんも込みで、4人での見張り。休む時間が無かったわけじゃない。
だけどやっぱり、休めたかと言えば、違うのだ。
「……どうにかしないとな」
罅割れ、傷ついた籠手を見る。ラヴィアの攻撃で、最高度を誇るはずの籠手はダメージを負った。今のままでも有象無象が相手なら問題は無いだろうが、魔族との戦闘する場合は心許ない。賊や魔物から剥いだもので修理が出来ればいいが……それは流石に期待薄だろう。能力もそうだが、金銭的にも足りない事が容易に想像できる。
難儀なことだ。全く以って。
まぁ世の中上手くいく事の方が少ないのだ。此処で嘆いても仕方あるまい。
――――コンコンコン
「んあ?」
「入るぞ」
うつらうつらとしていると、誰かがドアをノックした。誰だろうか、と思った瞬間には、相手は返事も待たずに部屋に入ってきた。
……この遠慮の無さは1人しかいまい。
見なくたって相手は分かる。
「おう、お疲れ。アリア」
「息災だったな。お疲れ、キョウヘイ」
ニカッ、と。相も変わらぬ安心を覚える笑顔。彼女も疲れているだろうに、そんな素振りは一切見えない。
「どうした?」
「訊きたいことが幾つかあってな」
ベッドの片側を空けつつ問う。アリアは隣に座ると、大きく息を吐き出した。
訊きたい事、か。このタイミング。誰も訪れる事無く、そして話を聞かれる恐れも低い状況。
訊かれるとすれば……
「ネムの事か?」
「それもある」
それも、と来たか。ならネムの事よりも重要なことがあるのだろう。
……此処までの事を思えば、ネム以上に優先させる内容と言えば想像は難しくない。
「チカの事か?」
「それもあるな」
「じゃあ、別れた後の行動か?」
「あぁ、それも訊きたいな」
チカの事、そして別れた後よりも優先する内容。
だとすれば、
「いや、すまない。どう切り出すか迷ってしまってな」
「構わないが……」
「単刀直入に訊きたい」
「キョウヘイは、別の世界から来たな」
……驚きは無い。だが、断定に近い口調で問われるとは思っていなかった。
稀人なる存在が魔物側に知られている以上、こちらでも周知されているのは想像に難くない。仮に一部しか存在を知らないとしても、部隊長まで担ったアリアならば、知っている可能性は高いだろう。
加えて、これまでの行動。禁足地と言う常識を知らず、世界の地理も分かっておらず、その癖奇天烈な言動と行動が多い。そしてイチカとの関係性。疑問に思うのは当然だ。
まぁ……いずれは話す内容だ。それが俺より先に、彼女から問われただけの事。
「そうだ」
だから。一切合切を偽らず。
俺はアリアの言葉を肯定した。
「俺は別の世界から来た。……こんな事を言っても信じられないと思っていたんだけどな」
「信じるさ。キョウヘイの言葉なら、尚更な」
破格の信頼だ。痛いくらいに。逆の立場だとしたら、俺は果たして同じ言葉をアリアに告げられるだろうか。
「軍に所属していた時にな、噂には聞いていたんだ。別の世界から呼ばれる人がいると」
「呼ばれる?」
「ああ。方法はいくつかあるが、最も確実なのは、召喚の儀を用いて呼ぶことだな」
「召喚、ねぇ」
「その反応からすると、キョウヘイは違うようだな」
俺の場合は、望んで来た。だが方法が特殊だ。正直に話しても理解は難しいだろう。……なにせ正直なところ、俺自身理解はしていない。
だからかいつまんで説明する。
妹が行方不明になった事。もしかしたら別の世界に行った可能性がある事。眉唾物な方法を用いて来た事。それが屍人の森の古城だった事。
「災難だな」
「全くだ」
始まりのあの日。一手間違えていれば死んでいただろう。リオンを追おうとしたから、古城に留まらなかったから、逃げた先にアリアがいたから。
俺は、生きている。
「懐かしいな。あの時は何も知らない様子だったからな。世間から逸脱した、世捨て人の末裔かと思っていたぞ」
「あぁ……まぁ、思うよな」
「ギルドも知らない、禁足地も知らない、地理も知らない。その癖、高度な戦闘技術と、人としての基礎知識は備えていて、時折分からない語句を口にする。まさかとは思っていたが、昨日の彼女との会話で確信を持ったよ」
彼女。チカの事だ。何か不審に思われるような会話をした覚えは無いが、アリアには確信を持つ語句がったらしい。
「別の世界から来たのならば、妹を見つけたら帰るのか?」
「そのつもりだ」
「そうか……だから、長くは待てない、か」
「?」
「いや、こっちの話だ」
一瞬、本当に一瞬だが、アリアの表情に翳りが差した。だが瞬きの内に、それは消える。
「帰る方法は知っているのか」
「いや、知らない。そこは、妹と会ってから考えるつもりだった」
「だった?」
「ああ。帰る方法を知ってそうな奴には会えた」
「……それは、あのネムと言う子か?」
「ああ」
正確には彼女では無く、彼女の主であるラヴィアだが、そこは大差ない。どうせネムが死んでしまったら、情報を得られる可能性は低くなるのだ。
だから。俺はチカではなくネムを選んだ。
「まぁ何にせよ、先ずはギルドからの推薦をちゃんともらう事だけどな。イチカに会うにしても、まだロードマップは途中だ」
「そこはアンナ殿に推薦状を書いてもらえば、少しは楽になるさ。それも込みで依頼を受けたのだろう」
「ああ、まぁな」
伸びをしつつ、後ろに倒れる。と言っても、ベッドがそこまで大きくないので、後頭部が壁に当たってしまう。小さな村の宿屋だ。そこは致し方あるまい。
「……キョウヘイなら、できるさ」
「ん?」
「妹と会って、元の世界に戻れるさ」
「……当り前だ。絶対に成し遂げるさ」
あやすように。アリアの手が俺の額へと伸びる。彼女は柔らかな微笑みを浮かべていた。だがその通りに受け取るには、少し翳りを感じる。
また、何か隠しているな。
直感的にそう思い、口を開きかけ、
――――コンコンコン
■
アリアの手が止まる。俺の口も止まる。
音の出どころはドアから。つまりは、外。
一瞬顔を見合わせる。見合わせ、開きかけたままの口を再稼働させる。
「どうぞ」
失礼します。その言葉と共に、丁寧に扉を開けられる。
視線の先にいたのは、
「アンナさん? アンドレアスさんまで?」
「遅くに失礼します。お話をしたいことがありまして、お時間を頂けないでしょうか?」
随分と畏まられた言葉。わざわざこの時間に?
アリアと顔を見合わせる。彼女も見当はつかないらしく、眉根を寄せている。
「いいですよ。好きなところに腰かけて下さい」
「ありがとうございます」
そう言って。
あろうことかアンナさんはアンドレアスさん共々床に膝をつくと、頭を垂れた。
「まずは感謝を。助けて頂き、ありがとうございます。五体満足の無事な状態で戻ることが出来たのは、あなた方のおかげです」
「……まぁ、それは依頼ですし。それより、頭をお上げください」
「そして謝らせてください」
「何……を?」
「あなた方を欺いていた事です」
欺く。不穏な言葉だ。今の一言で、俺とアリアの警戒心は跳ね上がったと言っていい。
……だが何故わざわざそれを口にする?
俺は少なくとも、欺かれた覚えは無いが……
「重ねて、あなた方を試したことも、謝らせてください」
「試した?」
「はい。……私は、アンナ・アルボルクと言う名ではありません」
アンナさん、ではない? どういうことだ? 偽物だとでも言うのか? だがアンドレアスさんは、確かに彼女をアンナさんと認めていた筈。
「そして彼も、アンドレアス・ナージャックと言う名前ではありません」
「……2人揃って、偽名だと。そう言う事か」
「はい」
偽名。そう言う事か。アリアの言葉で漸くつながる。……だが、何故偽名を?
「私の本名は、ヴァネッサ・ランバート。そしてこちらは、部下のヨシュア・ウォン。命を受け、調査の為この地に来ました」
「調査? 魔物のか?」
「いえ、あなた方のです」
反応は俊敏にして迅速だった。怖気立った、と言ってもいい。意思に反して、身体は実に忠実に本能に従って動いてくれた。
「アリア、ストップ」
「同じ言葉をそっくり返そうか。キョウヘイ、君も大概だぞ」
俺たちは。2人揃って、互いが互いに動きをけん制していた。それぞれが眼前に腕を出して、跳びかからない様にしている。きっと跳び出してアンナさん――――じゃなくて、ヴァネッサさんたちをぶちのめすと思ったのだろう。それは全く以ってその通りであり、しかしてその行動に移さなかったのは、相棒の動きに気を配る冷静さがあったからだ。
ふぅ。はぁ。
なるべく自然体で装って息を吐き出す。似た者同士と言うべきか、俺とアリアの息はぴったりだった。
「……で、調査ってのは何だ?」
「あなた方の実力と動向です。魔族の討伐にダンジョン探索。それも短期間の間に。実に輝かしい実績です」
「御託は結構だ。命、ということは国からの派遣か?」
「その通りです」
「……理解がし難いな。わざわざ国が、か?」
一個人の調査を、国が行う? そんなのはよほどの危険人物とみなさなければされまい。
と言うか、そもそも。
「調査だって言うなら、別に身分を明かす必要は無かったんじゃないか?」
「……」
「行動の辻褄があっていない。本当の目的は何だ?」
調査が本当の目的なら、別に嘘を吐いたままでいい。明かすにしても、このタイミングで明かす必要は無いわけだ。
矛盾。タイミングも、内容も、繋がっているようでチグハグだ。疑わしさが濃くなるばかりである。
「……仰る通りです。ですが、これは表向きの理由です」
「調査が、表向き?」
「はい。……回りくどくて申し訳ございません」
「……結論から話してくれ。その方が良い」
一から全てを聞いていては、長くなりそうだ。いや、説明の為には前置きや背景から話したいのかもしれないが……今は、そこはどうでもいい。
本当の目的。即ち、結論。
俺が知りたいのは、そこだ。
「申し訳ございません。それでは、改めて。私たちの目的は、お2人、特にキョウヘイ・タチバナ殿の調査にあります」
「俺、か」
「はい」
ギルド登録前の動向が無かったことによる調査だろうか。
そう思い、口を開きかけ。
その次のヴァネッサの言葉に、俺は発言するべき内容を見失った。
「イチカ・タチバナ。私の主からの依頼になります」




