3-1
3章突入。
イイ感じで進んでいます。今後もこのペースを維持できるよう頑張ります。
※20/2/25 誤字脱字修正
※20/3/07 誤字脱字修正
魔族の討伐とダンジョン攻略の実績が認められ、ギルドのランクはAに上がった。
同じ理由にて、アルマ王国とフェルム王国、それぞれの指定ギルドから、推薦状をもらった。
一佳に会うためには、あと3つの国の指定ギルドから推薦を貰えばいい。
最初は無理矢理にイーリス聖教国に侵入し、一佳に会うことも考えていたが、これならどうにか正攻法にて会いに行けそうだ。
と、言う訳で。
次に俺がすべきは、どこの指定ギルドから推薦を貰うか。
指定ギルドってのは、7つある大国それぞれに存在しているから、あと5つの指定ギルドから3つ推薦を貰えばいい。
と言っても、イーリス聖教国の指定ギルドに関しては、今回の条件を発令した国のお膝元にある事と、推薦を貰えるような魔族関連のクエストも無さそうな為、望みは薄だ。
そうなると、残りはユウ国か、レオニア同盟国か、カスタフ共和国、ザルツウッド国。この4国のいずれかから推薦を貰うことになる。
単純な距離で言えば、今いるフェルム王国から近いのは、その隣国にあるザルツウッド国。但しそこへは海を渡り、島へ行く必要がある。しかも古代都市と称されるくらいに、鎖国的な国らしい。……つまりは言ったところで、推薦を貰えるようなクエストを受注できる可能性は低い。
となると。結局は残りの3国から推薦を貰うよう動くしか無いのだが……
「お初にお目にかかります。アリア・フォアラント様と、キョウヘイ・タチバナ様、ですね」
フェルム王国の首都クロックス。ギルドのすぐ目の前の大通り。
俺の目の前には、土下座をして懇願する、1人の男性。
「主を助けて下さい。どうか、お願いします!」
■ 妹が大切で何が悪い ■
彼はアンドレアス・ナージャックと言うらしい。
褐色の肌にスキンヘッド。高身長も相まって、見様によっては威圧的に見える。質の良さそうな執事服も、傷と汚れのせいで、どこかで一戦やらかしてきたのかと思ってしまうほどだ。
だが彼の事情は、そんな冗談で済むような事ではない。
数日前に、彼の雇い主であるアンナ・アルボルクと言う女性が人攫いに連れていかれた。
護衛も全滅し、残るは彼一人。どうにか雇い主を助けるべく、国や傭兵も当たったが、相手がここらでは有名な人攫いグループらしく、良い返事は貰えていない。
そんな中で、ギルドから俺とアリアが近くにいる事を聞き、藁にも縋る思いで頼みに来た。というのが、彼の頼みごとの要約である。
「その人攫いの話なら、私が軍に居た頃からよく聞いた。デジャス盗賊団。悪辣で有名だな」
場所は変わって。路上から、近くのカフェへ。
一通りの話を聞いて。アリアは重々しく言葉を吐いた。その顔にはいつもの飄々とした様子は見られない。苦虫を噛み潰したような、険しい顔。
「確か禁足地に拠点を構えていたな。すると、襲われたのは此処から東の方か」
「は、はい! そうです!」
「……それは、傭兵程度ならば敬遠もするだろう」
当然の話だが、俺はフェルム王国の地理なんて知りやしない。情勢も分からない。だがアリアの顔を様子を見れば、今回の話がどれだけ厄介かは分かる。
「並の相手じゃ返り討ちに遭うだけってことか?」
「返り討ちに遭うだけならまだいいだろう。その前に禁足地のモンスターに襲われて、姿すら拝めずに倒されるのが関の山さ」
例えば。竜に襲われたり。アンデッドの群れに襲われたり。初日の事を思い出して、思わず眉を顰めてしまう。
「尤も、奴らに会えたところで生半可な実力じゃ倒す事は叶わない。特に首領のデジャスは、相当な実力者だ。私が軍に所属する前から、奴の悪名はよく耳にした」
「悪辣で老獪。しかも拠点は禁足地か。難敵だな」
「……それでも。どうにか、助けてはいただけないでしょうか」
憔悴しきった表情で、アンドレアスさんは再び頭をテーブルに擦り付けた。彼からすれば、俺たちは主人を助ける最後の希望のなのだろう。
心情だけで言うのならば、手を貸してあげたいのは山々だ。だが、高い実力を持つ相手に危険地帯での戦闘の可能性。一佳に会うためには、ここで余計な問題を背負い込んではいられない。……何より、利己的な考えになるが、彼を助けることで一佳に会うための何か得になる訳でもない。
では、断るか?
……残念ながら、そんな簡単に断れる話でもない。俺たちは有名になり過ぎた。こうやって、知りもしない人に助けを求められるくらいには、だ。
ここで断れば、少なからず悪評が生まれる。力があるのに、助けてくれなかった。主を見殺しにされた。俺たちの事実と、彼の事実は違う。
謂れのない悪名で火あぶりにされた英雄。
根も葉もない噂で大損害を被った銀行。
古今東西、話の1つで事がひっくり返った例は往々にしてあるのだ。
それに、
「ここから東の禁足地って事は、俺がアリアに助けられたところか?」
「そうだ。フェルム王国第三禁足地、『屍人の森』。懐かしいな」
「バレットドラゴン、だったか。竜もいるんだよな。……軍も迂闊には手出しできないか」
「竜種が出るのは、第二禁足地の『竜の巣』がすぐ近くにあるせい。竜種の出現率も考えれば、フェルム王国の中でも一級の危険地帯だよ」
その危険地帯に、自分の意思でアリアは入っていた。アリアが何の目的をもって禁足地に入り込んだかは知らない。だが俺に協力してくれてからは、彼女は本来の目的を曲げている状態の筈だ。……いつまでも彼女の事情を抜きにして、頼り続ける訳にも行かない。
「……彼の頼みを叶え、無事に皆が戻って来れる可能性はどれくらいだ」
「五分五分、だな」
「本当の数字は?」
五分五分。そんなのは出来るか出来ないかの、ただの二択の話だ。
本当の率を、遂行できる数字を俺は知りたい。
「……最終目的をどれにするかだ。アンナ殿と彼を生きて無事に返すなら1割は切るな。それも、私たちが到着するまでに、彼女が何も手出しをされず、何処にも売り飛ばされていなければ、という前提条件付きだ」
アンドレアスさんがいなければ俺たちはアンナさんの顔が分からない。非戦闘員を連れて行動しなければならない難易度は、ミリアで充分に学んでいるが、今回は前回以上の長さになる。しかもミリアと違い、彼は冒険慣れもしていないだろう。……俺たち二人だけでは、数字はアリアの言う通りになる。
しかも加えて、仮にアリアの目的の達成も一度に行うとするならば……数値はもっと下がるに違いない。
「――――時に、キョウヘイ。私には君の発言が、彼の頼みを受けようとしている様に聞こえるのだが」
「本当ですか!?」
「まだ決めたわけじゃない。色々と……事前に知っておきたい事とか、条件がある」
身を乗り出してくるアンドレアスさんを鎮めて、元に戻させる。
まだ受けると決めたわけじゃない。その前に、彼抜きで確認が必要だ。
「アンドレアスさん。明日、また此処で話そう。アリア。この後、相談をさせてくれ」
「構わないが……良いのか?」
妹の事は。
視線でアリアが訴えてくる。
勿論良いわけじゃない。なればこその、条件付き。
俺の意を汲んでくれたのだろう。それ以上は何も言わず、アリアは頷いてくれた。
■
「で、どうする?」
時間は経過し。場所は移り。
時刻はPM5:00過ぎ。同都市の宿屋。
椅子に座ったアリアが、先ほどの件の続きを促す。
「受けるつもりではいる」
「何故?」
「有名になり過ぎた。断る事で、変な噂は流されたくない」
なるほど。殊の外素直にアリアは頷いた。彼女もたかが噂の一つとて、その影響を馬鹿に出来ない事を知ってはいるのだろう。
だがその表情には意外そうな色が見えた。
「理知的な判断だ。けど、少し慎重すぎないか?」
「そんなに思われるほどに、俺は考えなしか」
「妹の事が絡むと周りを見失いやすくなる傾向はあるな」
ニヤニヤ。揶揄う様にアリアは笑みを浮かべた。
「キョウヘイの判断にケチをつけるわけじゃないさ。ただ、意外なだけ」
「……そんなに見えていないか?」
「見えていないな。普段は理知的な分、顕著だ」
だから意外なんだ。アリアは深く座り直して、言葉を続けた。
「あと3っつ推薦を貰う。ゴールが明確な今、君は目的達成のために、次の国へ急ぐと考えていた」
「……確かにそうかもしれない。けどアンドレアスさんは、人を雇えるような家に仕えている。後の障害になる可能性は、取り除きたい」
「……そこに関しては同意だ。アルボック家の名は聞いた事は無いが、彼の様子を見るに、相当に求心力が高いのだろう」
ただ仕えているだけなら、そこまではしない。あの必死の形相。余程主人が大切なのだろう。……その想いを否定するつもりは無いが、変な方向へ注力されても困る。
「……しかし、個人的には勧められないな。あの禁足地は、さっきも言ったが一級の危険地帯。盗賊団だけじゃなく、無限に沸くアンデッドや、竜種とも戦わなきゃいけない」
「……」
「まだ理由があるんだろう?」
言外に、これくらいの理由では納得しない、と。そう言われる。別の理由がある事を、アリアは勘付いている。
「まぁ、あるにはあるな」
「やっぱり。一体なんだ?」
楽しそうにアリアは笑っている。面倒事を背負いこむことが好きなのか、はたまた別の理由か。その屈託のない笑みは、どう切り出そうか迷って悩んでいる俺とは対照的だ。
……悩み。そう、俺は悩んでいる。理由を告げていいのかを悩んでいる。悩んでも、何も変わらないのに、だ。
「……まぁ、理由と言うか……その、なんだ」
「ん?」
「俺を、あの禁足地で助けてくれただろう。……あの時、アリアには別の目的があって、禁足地に入ったんだよな」
「……」
「あの日からずっと、助けてくれている。だけど、俺は何も返せていない」
「……なるほど。私の本来の目的を達成させよう、と。そう言う事か」
相変わらずの頭の回転の速さだ。俺が全てを言う前に、察してくれた。
トントン、トントン、トントントン。
アリアが自身の米神を叩く。叩いて、気持ちを落ち着かせるように、長々と息を吐き出した。
「……ありがたい。けど、今は……」
「アリア?」
「……すまない。気持ちだけ受け取るよ」
この時の。この時のアリアの表情を、きっと俺は一生忘れないだろう。
精一杯の笑みだった。アリアが浮かべていたのは、不安にさせまいと振る舞うような、そんな精一杯の笑みだった。先ほどまでとは全く種類の異なる、大凡これまで見てきた彼女の笑みの中でも、全く異質の笑みだった。
それから彼女は頭を振ると、その笑みを消した。後に浮かべていたのは、いつもの勝気な表情。だがそれが無理矢理に作られたものであることは瞭然だ。
「時が来たら、必ず話す。必ず、絶対に。……だから。その……それまで、待ってほしい」
「……長くは待てないぞ。俺の第一優先は、妹だ」
恩知らずともとられるかもしれないが、俺の第一優先は、あくまでも一佳だ。アイツを無事に元の世界に戻す事。それがこの世界に来て、命を張り続けている理由だ。
アリアは俺の返答に笑みを浮かべた。安心した、とでも言いたげな笑みだった。
「君の事は分かっているさ。そう言ってくれなきゃ困る。……私の個人的な事情で、君の足を引っ張りたくは無い」
「……言っておくが、助けてくれた恩を蔑ろにするほど、俺は恩知らずなつもりは無いからな。個人的な事情だからと言って、引き下がると思うな」
アリアの真意は測りかねるが、今この場でどうしても聞かなきゃいけない事ではない。
彼女が言うつもりになるまで待つ。今は未だ、それでもいい。
「じゃあ、夕飯でも食べに行くか?」
「そうだな。……1時間後くらいで良いか?」
「ああ。じゃあ、1時間後に」
言って、部屋を出る。
振り返りはしない。
何となくだが、振り返ってはいけないような。
そんな気がした。
■
部屋に戻り、ベッドに横になる。
とりあえずの行動はこれで確定だ。
余計な回り道にはなるが、悪い判断ではないと思う。
「けど……」
……意外だったのは、アリアが取り乱した事。
まさかあの場面で彼女が取り乱すとは、予想だにしていなかった。
言ってしまえば。協力する、と。そう言っただけだ。
だがそれで取り乱すほど……それほどまでに、本来の彼女の目的とは根が深い問題なのだろうか。
だがそれにしたって、あの取り乱し方はおかしい。尤も向こうが自分からは語らない以上、此方は不審な点を拾い上げて想像するしか無いのだが……
「分からねぇ……」
憶測で事を語っても仕方が無い。必要なのは確たる情報。信憑性のある、筋道の立った理由。それを抜きにして、あれこれ考えても仕方が無い。
身を起こして、思考を切り替える。分からない事を悩んでも仕方が無い。それよりも現状の整理や確認に時間を費やすべきだ。
例えば、今回の目的地とか。今までとは違い、今回に関しては俺も知っている場所だ。
「……そう言えば」
始まりのあの日。
シュウも、チカも、マナミも死んだ中、1人だけ俺以外に生きている人物がいる。
リオン。
忠告を残し、いち早く脱出したアイツは、今どこで何をしているのか。
「……生きていれば会えるさ」
交わした会話は、それこそ片手で数えられる程度。それでも、同じ時期に同じ世界から来たというのは、特別感がある。
言うなれば同期。新入社員として一緒に入社した仲間。そういったものだ。……まぁ、大抵は働く内に疎遠になったり、いがみ合ったりする事もある訳だが。……いや、今は別に、それはどうでも良い事だ。
ゴロリと。体勢を変えて、窓から闇に染まりつつある空を見上げる。
何処の世界で見ても変わらぬ、星空が見えた。




