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2-EX

その頃の、あの人は、的な。

番外編。

そして一区切り。

 報告書


 対象人物:タチバナ・キョウヘイ

 年齢:17

 クラス:武闘家

 ランク:A

 出身地:不明

 パーティー:アリア・フォアラント

 登録目的:妹の情報を入手する為

 戦闘スタイル:自身の四肢のみを用いた、オールドスタイル。最近のトレンドとは逆行し、イーリス教や魔法、精霊等の合わせ技は無し。但し魔族を力任せに斃すほどに、規格外の力を持つ。

 直近の動向:

 冬の月の61日に、フェルム王国カルベのギルドに冒険者として登録する。Eランク。

 冬の月の63日に、フェルム王国ケントにて魔族と交戦、内1体を斃す。

 冬の月の64日に、アルマ王国マノに移動。治療を受ける。

 冬の月の67日に、昏睡状態から回復。

 冬の月の69日に、アルマ王国マノのギルドより、Cランクのクエスト『害獣の討伐』を受注、達成する。

 冬の月の70日に、アルマ王国マノのギルドより、Bランクのクエスト『ダンジョン探索』を受注する。

 冬の月の71日に、ダンジョンに向けて出発。当日内に、ダンジョンへ入る。

 冬の月の74日に、ベッグ家とトリーシャ家より、ギルドランクの昇格推薦がされる。

 冬の月の81日に、推薦及び実績を考慮し、ギルドランクがEランクからBランクへ昇格する。

 春の月の1日に、ダンジョンより排出、帰還する。魔石破壊の報告あり。

 春の月の4日に、実績を考慮し、ギルドランクがBランクからAランクへ昇格する。











 ターニャからお兄ちゃんが来ているかもしれないって話を聞いて。イーリス教の方にお兄ちゃんの事を調べて欲しいとお願いしたら、二つ返事で了承された。

 魔族を斃したって話は本当らしくて、ちょうど教会も調べようとしていたみたい。それからは毎日毎日、報告書をターニャが持ってきてくれるようになった。

 報告書には本人のプロフィール以外にも、直近の動向が記されているので、お兄ちゃんがどこで何をしているかを、ある程度追うことが出来る。

 そしてその報告書を読んで。私が思ったのは。

 どうやらお兄ちゃんは常識では不可能なレベルの無理をしているらしい、という事だった。


「無理し過ぎだよ……」


 決して身内贔屓的な感想じゃない。というか、この報告書を読んだら、誰が見ても私と同じ感想を抱くと思う。

 まず何がおかしいって、ギルド登録の2日後に魔族と交戦して勝利しているところ。交戦自体はお兄ちゃん自身の運の無さもあるかもしれないけど、魔族と戦って、結果勝っているのは、普通じゃありえない。魔族っていうのは、それだけ人間にとっては規格外の存在なんだ。私みたいに特効系のスキルがあるなら別だけど、魔物への特効系のスキルがつくのはシスターや修道士みたいな神職系のみ。武闘家じゃ、特効系スキルは無い筈。

 けど。お兄ちゃんは交戦して、勝っている。

 多分、よっぽど無理したんだと思う。……実際、交戦後から目覚めるまでで、4日も掛かっている。


「多分回復薬を使用しているんだろうけど、ほとんど休んでいない……」


 目覚めて4日後には、今度はダンジョン探索のクエストを、お兄ちゃんは受注している。日数だけを見れば、全然回復していないのに、だ。

 何でお兄ちゃんはこんなに無理をしているのか。

 ……それが分からない程、私は馬鹿じゃない。


「ギルド登録の目的が、妹の情報を入手する為、って……」


 ギルドの登録時には、任意で目的を伝える事が出来る。任意なので伝える必要性は無いけど、目的が明確だと、その目的に合わせたクエストがギルドから推薦されるようになるのだ。

 そしてお兄ちゃんの目的は、妹の情報を入手する事。

 私を探しに来たのは、間違いない。

 ……同姓同名の他人、という可能性は無い。

 だって、


「これ、やっぱりお兄ちゃんだもん」


 報告書には、魔法で模写した似顔絵が描いてある。これも、ギルドの登録時に描かれるもの。写真と見間違うくらい正確に描かれたそれは、私の記憶にあるお兄ちゃんとよく似ている。……私の記憶よりも若いけど。まぁ、年齢17って書いてあるし、外見を若くしているんだろう。

 兎も角、同姓同名の他人じゃない。

 幾ら半年以上会っていなくても、家族の顔が分からなくなる事なんてない。


「……無事、なんだよね」


 報告書の最後は、春の月の4日。今日は春の月の7日だから、3日前の情報が、今ここで私が把握できている最新の情報になる。ネットとかスマホみたいな便利なものがあれば話は別だけど、このゲームの世界でそれを望むのは無理だ。


「私が行ければいいのに……」


 言ってから、無理だ、って首を振る。今の私の立場じゃ、外出は出来ない。許可なんてされる筈がない。

 近頃は各地で魔物の動きが活発になってきていて、そう簡単には外出が出来なくなっていた。どうやら丁度魔物が活発になる周期らしく、おかげでイーリス聖教内は誰もがピりついている。今までは国内なら割と自由に――誰かしらの付き人はいたけれど――散策できたのに、それすら無理になった。

 聖女が襲われないようにする。その為の処置。

 ……ううん、違う。そんなのは建前。

 私をこの国に縛り付けるのが、本当の目的。

 だって今この国には、魔族に対抗できるのが、私を含めて4人しかいない。

 私と一緒に旅をしてきた、ターニャとカタリナ。そして、プレッソ教皇。

 前は他にもいたけど、皆立て続けに魔族に殺されたり、大怪我を負わされたりして、とてもではないけど魔族に対抗できないのだ。

 そんな中で私がいなくなったら、魔物側への最大戦力を失うことになる。だったら引き留めるのだって必死になるって話だ。


「戦闘なんてできないのに」


 私は聖女とされるだけあって、魔の属性持ちに特効で傷を負わせることが出来る。幾ら強固な相手でも、防御力を無視できる。さらに、魔の属性持ちに傷を負わせられることも無い。

 スキル『神域』。

 特殊スキルの一つで、魔の属性持ちは私に触れることが出来ない。触れようとすれば、その身が破壊される。加えて、私の攻撃を防ぐことも出来ない。魔物側からすれば、これほど理不尽なスキルは無い。

 さらに私は、『天照』のスキルも所持している。

 これも特殊スキルの一つで、私が触れることで傷を癒し、呪いを解き、そして加護と言う名をシールドを張って、魔の属性持ちからのダメージを軽減させることが出来る。武器に触れれば、一時的にだけど特効能力を付与させることもできる。サポート能力としては、間違いなく優秀だと思う。

 ……そりゃあ……イーリス聖教国でなくても、私の存在を手放さないだろう。


「……お兄ちゃん」


 今、聖教国内では私以外に、話題になっている人物が2人いる。

 1人は、アリア・フォアラント。お兄ちゃんと一緒に行動をしているらしい女性剣士。

 そしてもう1人が、キョウヘイ・タチバナ。即ち、お兄ちゃんだ。

 2人とも魔族を単独で斃している事でそれなりに話題にはなっていたけど、先日のダンジョン攻略で、一躍有名になった。

 ヴァネッサが教皇の命を受けて、2人の情報を集めに、アルマ王国に行っているほどだ。


『イチカの言う事が正しいなら、尽力するわ』


 出発の前日に、ヴァネッサは一つの約束をしてくれた。

 それはヴァネッサの眼から見て、お兄ちゃんが本当に頼れる人物なら、ここに連れて来てくれること。

 今のこの国から脱出してお兄ちゃんに会いに行くのは、現実的な策じゃない。というか無理。戦闘行為に優れているターニャやカタリナと違って、私は魔の属性持ち以外には平々凡々もいいところ。一番のお荷物で一番に監視されている私が、イーリス教の皆から逃げ切れる可能性は……無い。

 そんな私がお兄ちゃんに会えるとすれば、自分から会いに行くよりも、お兄ちゃんに来てもらうのが一番可能性が高くて現実的だ。……可能性の話をすれば、だけど。


 ――――コンコン

「イーチカ!」

「きゃっ!」


 ……またターニャが返事を待たずに入って来る。そして私が反応するよりも先に抱き着いてきた。


「あ、また報告書読んでる。……やっぱり、気になるの?」


 そりゃ気になるに決まっている。だって、お兄ちゃんだ。家族だ。大切な人だ。……本当なら、こんな世界に来るべきじゃない人だ。


「……脱出、すごく難しいと思う。監視の目がすごい厳しくなっている」


 小声でターニャが現状を伝えてくれる。

 イーリス聖教国からの脱出。

 誰が聞いているかも分からないから、この話はターニャにしか私はしていない。


「やっぱり、立て続けに大司教様たちが亡くなられたからかな」

「うん。確実にそう。……アイツら、おかしいよ。イチカさえいれば何とかなると思っている」


 低く唸る様に、ターニャは言葉を零した。ターニャは獣人と人間のハーフだから、すごく耳が良い。忍び寄っても、足音や呼吸音ですぐにバレる。そんな彼女だから、人のうわさ話を秘かに聞く事なんて、難しい話じゃ無い。


「ここに何時迄もはいられないよ。きっと使い捨てにされるだけ」

「そう、かもね……」

「……いっその事、魔族が攻めてくれれば――――」

「ターニャ」

「……ゴメン」


 ターニャの口を閉じさせる。それ以上は言っちゃいけない。確かに私たちが自由に動くためにはその通りかもしれないけど、それでも全く無関係の人たちが犠牲になるのは、望んでいい事じゃない。

 お兄ちゃんには会いたい。けど、他の人の命を犠牲にするわけにはいかない。

 傍から聞けば無茶で、わがままで、甘い考えかもしれないけど。私はどうにかして、そんな方法を探したい。











 会話の内容は、脱出から、取り留めのない話題に変わる。

 昨日の夕食。

 今日の天気。

 特訓内容。

 筋肉痛。

 街の話題。

 最近食べた美味しいもの。


「……最近、カタリナが集中的に訓練を付けている人がいる。ウルファって名前の小さな黒髪の女の子と、ユストゥスって名前のスキンヘッドの大きな男の人。気を付けた方がいいかも」


 ある程度会話したところで、ターニャは声を潜め始めた。

 内容は、私の全く知らない人たちについて。


「どういうこと?」

「信仰心が強すぎる。実力はあるんだけど……特に、ウルファってのはヤバいよ」

「ヤバいって?」

「目。……目がヤバい。話している限りは普通なんだけど、全然目に感情が無い。死んでるんじゃなくて、無い」

「……」

「仮にあの子がゴーレムだって言われても、私は信じるよ。……ゴーレムの方が良いくらい」


 ターニャは1人で魔族を相手取ることが出来るくらいに強い。そんな彼女が、ヤバいって言っている、ウルファって女の子。そして信仰心って言葉。

 私は神様には都合の良いときにお願いをする程度の信仰心しか持っていない。だからそんなに信仰心が篤いわけじゃない。それは私の身近の人たちでも同じだったと思う。

 けどこの世界では。聖女って言うのはすごく強い存在で。皆が心棒するほどのもので。

 中にはもういないイーリス様の為に、自分の命を投げ出せる人がいる。

 ウルファって子も、そんな彼らと同じような女の子なんだろう。……感情が無いって言葉は気になるけど。


「一度カタリナに頼まれて手合わせしたけど、すごく動きが読みづらい子だった。小っちゃいから力はそんなに無いんだけど、その分スピード重視の手数勝負で、結構押してくるの。でも勢い任せじゃなくて、変なところで動きを止めてくるし……本当にやり辛い」


 ターニャが言うのだから、きっとそうなんだろう。多分私じゃ勝てない。残念だけど、すぐに組み伏せられると思う。この世界では、年齢と強さは比例しない。私より小っちゃくても、大の大人を倒せる人はいるのだ。


「戦力だけで見るなら頼りになるだろうけど……多分、脱出の際には障害になるよ」

「……味方に出来れば、頼もしい、って事かな」

「……その考えは嫌いじゃないけど、止めといた方が良いよ」


 ターニャの言う通りだ。そもそも、此処での味方の意味は、脱出の時の味方だ。それならまだ知らぬウルファって子よりも、カタリナやヴァネッサに先に言うのが筋って話。

 とは言え、この部屋に滅多に来ない2人に、脱出の話をしにはいけない。スキルのおかげで、この部屋の中でなら魔法での盗聴の心配は無いけど、外ではそうはいかないからだ。











 ターニャは日課の訓練があるから部屋を出て行った。

 彼女を見送り、部屋の前で守ってくれる護衛の人に会釈をして。

 そして一人きりの部屋に戻る。……戻って、すぐに神域のスキルを発動する。

 これで私が何をしているかを、魔法で感知されることは無い。……この事は誰にも言っていないけど、神域のスキルは魔法や呪術、精霊術等すらも実は防ぐ。皆には防壁の魔術って言っているけど、実はスキルの特性なのだ。

 それから棚を開けて、地図を取り出す。見取り図。私がいる城の見取り図。使い魔のトカゲを介して調べた、脱出用の図だ。

 ターニャを、カタリナを、ヴァネッサを信じていないわけじゃない。けど、お兄ちゃんに会いたいのは私の我儘。わざわざ皆を危険な目には合わせられない。

 私は私で、お兄ちゃんに会うために、ここを脱出する方法を探す。

 ……もちろん出たら出たらで、魔族とか『鬼神』とか、脅威は沢山ある訳だけど。それを怖がって出ないなんて、そんなことは出来ない。




 絶対にお兄ちゃんに会う。

 会って、お兄ちゃんだけでも、この世界から脱出させなきゃいけないんだ。

※暦の設定について


1年360日。

内訳は、春夏秋冬が1~90日を繰り返している。

現実世界と日数の経過はほぼ同じ。


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