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プロローグ

初の異世界ファンタジー物になります。

更新速度は速いとは言えませんが、皆様に楽しんでいけるよう頑張ります。

 きっかけは友達に誘われたから。

 たったそれだけだった。

 ある夏の日の事だった。


「ゲームの世界に入る事が出来るゲームがあるらしいよ」


 友達のかんなはそう言って、あるゲームの事を教えてくれた。

 どうやら異世界を旅するゲームらしい。それも画面を通してではなく、自分が異世界の住人としてゲーム内に入り込めるらしい。しかも始める前にステータスを割り振って、能力値や外見を好きなようにカスタマイズも出来るらしい。

 ……『らしい』ばかりなのは、そのゲームには正式名称も説明書も無く、都市伝説のように噂が広まっているだけだからだ。だからかんなも噂をそのまま話してくれただけで、その真偽は分かっていないみたいだった。


「一佳も陽菜もやろうよ、面白そうじゃん」


 高校一年生の夏休み。部活動は休み中もあったけど、ゲームをするくらいの時間はある。


「夜中の12時にこのアドレスに空メール送ればいいらしいよ。パソコンでもスマホでもどっちでもオッケーみたい」


 かんなはそう言ってアドレスを教えてくれた。アルファベットである以外の統一性が無い、捨てアドレスのような滅茶苦茶なアドレスだった。


「今夜とかどう?」


 本当のことを言うと、私は全然話を信じていなかった。成功したら面白そうだし、失敗してもネタになる程度にしか捉えていなかった。全然深刻に捉えていなかったから、私――橘一佳――は二つ返事で了承してしまったのだ。


「私はオッケーだよ。じゃあ今夜12時ね」











 妹がいなくなった。

 ある夏の日の事だった。




 まるで神隠しみたいだった。

 それが話を聞いて、そして妹の部屋を見た俺の感想だった。

 何せ妹はスマホも財布も鍵も洋服も何もかもを置いていなくなったのだ。

 警察にも相談したが、有力な目撃情報は一切無かった。

 同時期に妹の友人もいなくなったこともあって、学校では大騒ぎなったらしかった。

 何ならニュースにもなった。

 だけど、一切状況は進展しなかった。

 ひと月経とうとも、二月経とうとも。

 何も変わらなかった。

 父親も俺も会社を休職扱いにしてもらって探し回った。

 だけど何の進展も無かった。

 何の進展も無いまま半年が経過しようとしていた。


「もしかしたら一佳ちゃんは、ゲームの世界に入ったのかもしれません」


 冬の月。風の冷たい夕方に、妹の友人が訪ねて来てそう言った。

 その子は陽菜と言い、妹が親しくしていた子の一人だった。


「友人のかんなちゃんから――その、一緒に居なくなってしまった子なんですけど、あるゲームの話を聞いたんです」


 そのゲームには正式名称が無かった。

 そのゲームには説明書も無かった。

 あるのは噂。都市伝説のような出どころのはっきりしない妄言。

 曰く、ゲームの中に入り込めるらしい。

 曰く、そこは楽園らしい。

 曰く、人生をやり直せるらしい。

 曰く、某秘密結社が関わっているらしい。

 曰く、金持ちの遊び場らしい。

 ……そんな御託はどうでも良かった。普段なら聞き流している内容だった。 

 だが俺は藁にも縋る想いだった。妹が関わっている可能性があるのなら、どんな情報でも欲した。


「私は12時前に寝ちゃったからプレイしていなかったけど、その話を聞いた翌日から2人は行方不明になったんです」


 妹はゲーム好きで、もしかしたらそのゲームをプレイしたのかもしれない。

 普段ならば鼻で笑うような奇天烈な考えも、その時ばかりは信じることが出来た。信じてしまった。




 妹がいなくなって半年。

 ある冬の月。

 俺――橘恭兵――はそのゲームをプレイする事を決めた。

 凍える程に寒い真夜中の事だった。











「……何だこれ? 割り振り? ステータス? 役職? スキル? は?」


 開始一分。まだ何も始まっていない状況で、いきなり俺は躓いた。

 噂のアドレスに空メールを送る。返信メールに記載されているURLから件のゲームを開始する。それが俺が陽菜ちゃんから聞いていた情報だった。それ以上の情報は彼女も知らなかったし、調べても出てこなかった。

 だけど今。俺の目の前のパソコンには注意書きが記されている。それは俺の予想を大きく覆す内容だった。


「ゲームの世界に入る前に下記の内容を確認してください、ねぇ……」


 並べられた注意点は三つ。

 一つ目。開始前にステータス、役職、スキルを設定する。

 二つ目。開始したら戻れない。元の世界に戻る方法はゲーム内で見つける事。

 三つ目。クレームは一切受け付けない。

 要約すると、初期設定に失敗しても知りません、クレームは一切受け付けません。という事である。中々の暴論だ。


「ステータスは……分かんないな」


 自慢にならないが俺はゲームをしない。妹の一佳はよくやっていたが、俺はどうにも上手く操作できないのだ。対戦ゲームならカモにされてお終いだし、シューティングゲームだったらロクに弾を避けられずに終わる。つまりは下手糞である。複雑な操作を要求しない某育成冒険ゲームならストーリーを進めることくらいできるが……それだけだ。

 だから目の前に画面に。ステータスとして表示されたその情報を。俺は今一理解できていなかった。


「……現実と一緒で良いか」


 そして一分もしない内に俺は諦めた。ステータスの項目の下に、現実と同じで良いかと書かれたボタンがあったので、それをクリックする。


「顔は……これもだな」


 顔の造り。これも現実と同じにする。一佳が見間違えたら困るので、寧ろこれは現実と同じじゃなきゃ困る。体型や身長や体重も同じだ。


「クラス……ねぇ」


 ずらっと並んだクラス一覧。流石にこれは現実と同じとはいかなかった。ゲームらしく剣士や騎士と言ったクラスの他に魔法使いや魔物使いも選べるらしい。


「魔法……いや……」


 一佳を探すのが目標なのだから、魔法使いを選んだ方が良いのではないか。人探しの魔法とか使えばいいのではないか。……そう思ったが、魔法なんて訳の分からないものを上手く扱える自信は無かった。未知の取り扱いよりは既知を取り扱った方が良いと思えた。

 何よりも魔法使いの部分だけで随分と分かれている。魔法使い、魔法剣士、魔法騎士、魔法重騎士、呪術師、呪物使い、呪言師、蘇生師、贄師、巫女、僧侶、修道士、シスター、僧侶、自然魔法使い、人工魔法使い、精霊使い、魔物使い、錬金術師……etc.etc.

 何が自分に適しているかなど、さっぱり分からない。何が自分の目的に尤も適しているかも分からない。

 ならどうするか。


「……武闘家、か」


 キックボクシングを嗜んでいる。選んだ理由はただのそれだけ。自分の一番使い慣れている物を武器とするのが一番安心する。一佳を探すのであれば、人伝に聞いて回った方が良さそうだ。


「スキルは……」


 どうやらスキルは最初から用意してるものを選ぶものでは無く、自ら入力する物らしい。それが本人唯一が持ち得る固有のスキルとなるらしい。

 なら、これは一つしかない。


「『尋ね人を見つけるスキル』、と」


 本当は一佳と書きたかったが、それでは同名の別人に作用する可能性がある。ならば、自分が探している人に作用をさせる。広義に捉えられるようにしなくては、いざ始まった際に取り返しがつかなくなるからだ。


「……なんだ、まだ入力できるのか」


 次のページに移行しようとすると、『まだ割り振れます』と表示が出てきた。割り振れる、という事は固有スキルのポイントがまだ余っている事になる。だが最初のページには固有スキルは一つのみと書いてあった覚えがある。

 バグだろうか? 念ためにと撮った写真を確認してみる。


「……成程。『現実と一緒』を選んだ場合は使用していなかった分のポイントが固有スキルに加算されるわけか」


 俺はステータスもキャラデザインも全て現実と同じにしている。そうなるとその分のポイントをスキルに回すことが出来るらしい。


「……なら『現実世界に戻るスキル』、と」


 帰還する方法が確立していないのなら、ここで作ればいい。

 ……だが、


「ダメか」


 実行不可のスキルです、と表示される。どうやらスキルとやらも万能ではないらしい。


「じゃあ……」


 俺は手当たり次第に使えそうなスキルを入力していった。

 『不眠不休で活動』……OK

 『金策』……OK

 『疲労回復』……NG

 『体力回復』……NG

 『情報収集』……NG

 『尋ね人の下へ移動』……NG

 『空を飛ぶ』……NG

 『一度行った場所への移動』……NG

 『尋ね人の安否の確認』……NG

 『尋ね人がこちらに来るようにする』……NG

 『尋ね人が無事でいられるようにする』……NG


「……思ったより自由度が低いな。所詮は噂か」


 怒涛のNGラッシュに思わず溜息を吐き出した。結局ほとんどがNGだ。どれもこれも実行不可と来た。

 俺はこれ以上の入力を諦めると、次のページへの移動ボタンをクリックする。まだ割り振れます、と出てきたが構わずクリックする。すると適当に割り振ります、と表示された。親切なんだか不親切なんだかよく分からないが、もうそこらへんは好きにしてくれと言うヤツだ。

 で、次は、『服装』。 


「現実と同じでいいだろ」


 最早面倒だった。冷静になって考えてみれば、ゲームの世界に入るなんて戯けた妄言にもほどがある。

 続いてパーティーを組みますか、とか。最初に目覚めるのは何処にしますか、とか。成長速度はどうしますか、とか。出てきた項目すべてを『お任せ』にした。


「はい、これでお終いね」


 そうやって大体30分くらいだろうか。

 漸く画面に、お疲れ様でした、の文字が現れた。どうやら終わったらしかった。

 だが終わったところで何かが変わったわけでは無い。

 いつもの自分の部屋に、いつもの夜の景色。

 ……やっぱり噂は噂だ。都合の良い話なんてあるはずが無いのだ。

 くだらない時間を過ごした。無駄に費やした。

 あまりの馬鹿らしさに、それもこんな噂程度に真剣になった自分が可笑しくて。

 俺はスーツ姿のままベッドに倒れ込んだ。着替える事すら億劫だった。

 抱えている案件が片付いたら退職届を出そう。これ以上会社に迷惑は掛けられない。

 そんな事を考えながら意識を手放す。

 ――――それが俺の覚えている、この世界での最後の記憶だった。











 目を覚ます。朝起きるのは苦ではない。とは言え冬の朝は暗いから、意識の覚醒にも時間が掛かる。平たく言えば眠いのだ。

 暗い空を見上げながら、暫しぼうっとする。体感時間で言えば午前6:00。もうあと15分くらいで目覚ましが鳴るだろう。その前にシャワー浴びて、歯を磨いて、朝のニュースを見て……


「……いや、待て、おい」


 思わず口に出して思考を制止する。

 暗い空(・・・)を見上げながら?

 いや、俺は部屋で寝ていた筈だ。


「うわっ」


 漸く覚醒した意識を殴りつける様に。突風が吹きつける。思わず顔を覆い……目を開いた俺は自分を取り巻く状況に理解が追い付かなかった。

 ここは古城だろうか。石畳の床。朽ち果てた塔。崩れた壁。転がる骸骨。砕けた武器と防具。倒れ伏した4人の男女。そして――――


「……マジかよ、おい」


 視界に広がる広大な森。そしてその先に薄っすらと見える草原。

 その上空を。お伽噺の世界の如くドラゴンのようなものが飛んでいる。

 昨日まで見えた住宅街も、舗装された道路も、車も何もない。

 頬を引っ張っても、叩いても、痛いだけで何も変わらない。

 俺が知る世界とは全く異なる世界。

 それが目の前には広がっていた。

 ……だから、俺は、


 ――――お早うございます、キョウヘイ・タチバナ。それでは佳い冒険を。


 頭の中に唐突に響いた言葉に何も返せず。

 ただ茫然と目の前の光景を眺めることしかできなかった。


ここまでお目を通して頂きありがとうございます。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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