表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/96

87 対決2

87 対決2


 承治の掲げた手のひらの上には、複数の共鳴水晶が転がっていた。

 それぞれの全てに水晶の中には、誰かしら人物が映り込んでいる。


 そして、複数並ぶ水晶の中から最初に声を上げたのは、カスタリア王国第一王女ユンフォニア姫だった。


『話は全て聞かせてもらったぞレベック卿。よもや、貴公が私利私欲で他人を陥れようとは失望した。もはや、そちの言葉に耳を傾ける者はこの王宮におらんと思え』


 続いて、他の共鳴水晶からも当惑と驚きの声が放たれる。

 水晶に映る彼らは皆カスタリアの有力貴族達であり、中にはクラリアの外務担当も含まれていた。


 当然ながら、彼らはレベックの自白ともとれる発言を全て聞いていた。

 いや、正確に言えば、承治によって自ら罪を認めるよう誘導されたのだ。

 そして、レベックの陰謀が白日の下に晒されたことで、自動的に承治と長岡の潔白は証明された。

 これこそが、承治の目論んだ作戦の全容だ。


「詰めが甘かったなレベック。自分で自分の策をバラした気分はどうだ?」


 そんな承治の挑発じみた言葉に対し、レベックは悔しげに顔を歪める。

 だが、徐々に余裕を取り戻し始めたかと思うと、そのまま盛大な高笑いを始めた。


「いやぁ、してやられた。私としたことが、まさかこんな方法で策を暴かれるとは甚だ屈辱だ」


 口ではそう言っているが、レベックの態度はどこか余裕に満ちている。

 そして、すぐさまその理由を明かした。


「さて、めでたく疑いは晴れたようだが、私の目的はあくまでヴィオラの救済だ。計画は大幅に狂ったが、今ここで諸悪の根源である貴様を殺せば私の目的は概ね達せられるのだよ。まさか、この状況で逃げられるとは思うまいな」


 そう告げたレベックは、ゆっくりと歩みを進めて承治の下に近づいていく。

 

 もちろん、承治もこうなることは想定していた。

 事前の想定では、囮をしている長岡と合流してレベックを迎え撃つ予定だったが、どうやら長岡は衛兵の処理で手一杯のようだ。


 すると、見かねたファフがレベックに向けて突っ込んでいく。


「おっと、アンタの相手は私って言ったでしょ!」


『アンツィーウングストラスト!』


 その瞬間、急降下していたファフはいきなり姿勢を崩してレベックの前に勢いよく墜落する。

 レベックは、ファフの飛行能力を封じるため、重量魔法を行使したようだ。

 恐らく、レベックの構える剣その物が魔道具なのだろう。


「貴様が魔力を封印されたという話は演技かと思っていたが、どうやら本当に魔法が使えないようだな。何にせよ、退治するには都合がいい」


 そう告げたレベックは、魔法を行使したまま一歩踏み出し、起き上がろうとするファフに向けて剣を振るう。

 それは、冷静で容赦のない斬撃だった。


「危ない!」


 承治が叫んだその刹那、地面に跪くファフは首筋に迫る剣先を寸前のところでキャッチする。間一髪の荒技だ。

 だが、重力魔法による負荷のせいか、辛そうに体を震わせていた。


「ほう、タフな上に器用だな」


 そう告げたレベックは、不意に重力魔法を解除してファフに掴まれた剣を片手に持ち替える。

 そして、空いた手で素早く何かを投げつけるような動作をした。


「っ……ああぁぁッ!」


 その瞬間、悲鳴を上げたファフの肩口に小さな短剣が突き刺さっていた。

 ファフは追撃を避けるため急ぎ空に飛び立ち、レベックと距離を取る。だが、痛みのせいか飛行姿勢が安定していない。


「ファフさんッ!」


 肩から鮮血を滴らせるファフに向けて、ヴィオラはたまらず悲痛な声を上げる。


「ッ……大丈夫よこんくらい……それより、ヴィオラは、前に、出ないで……」


 そう告げたファフは、顔を苦痛に歪めたまま徐々に高度を落して城壁の下へと降下していく。

 その様子を見届けたレベックは、嘲るように鼻で笑った。


「首筋を狙ったつもりが、少し逸らされたな。まあしかし、あの様子ではもう戦力にならんだろう」


 そして、剣を構え直し、再び承治とヴィオラに対峙する。


「さて、これで邪魔者はいなくなったな……覚悟しろオーツキ。私は相手が丸腰だろうと容赦せんぞ」


 すると、承治の背後にいるヴィオラが身を乗り出して口を開いた。


「レベックッ! アナタはッ……!」


 ヴィオラは、ファフを傷つけられたことで怒りを露わにし、レベックの前に出ようとする。

 だが、その行動は承治によって遮られた。


 ヴィオラに視線を向けた承治は、異様に冷静な態度で口を開く。

 

「ヴィオラさん。とりあえず、これ持っててください。割れ物だからちゃんと握って」


 そう告げた承治は、おもむろに手に乗せていた複数の共鳴水晶をヴィオラに手渡し、そのまま包み込むようにヴィオラの手を握る。

 その唐突な行動は、とある目論見があってのことだ。


 だが、手を握ってしまったのは、単に承治がそうしたかっただけだ。

 白く美しいヴィオラの手は、相変わらずひんやりとして肌触りが心地いい。


 もしかしたら、ヴィオラと触れ合えるのはこれで最後になるかもしれない。

 これから先に取る行動のことを考えた承治は、時より己の〝死〟を連想する。

 それでも、ヴィオラの冷えた手を握っていると、何でもできそうな勇気が貰える気がした。


 そして、決意を終えた承治は、ヴィオラの耳元で静かに囁く。


「すいません。こんな方法しか思いつかなくて」


 そう告げた瞬間、承治はヴィオラの体を強く突き飛ばした。

 共鳴水晶を握るヴィオラは受け身が取れず、勢いよく塔の方向へ体を滑らせる。


 そして、強引にヴィオラと距離を取った承治は、踵を返してレベックへと向き直った。


「これで心おきなく戦えるだろ。魔法なんてセコいことせず剣でかかってこいよレベック」


 承治は、決意した。

 ヴィオラの為に、レベックと決着をつけようと。

 それがヴィオラの為ならばと、己の命を賭ける決意をした。


「ようやく死ぬ覚悟ができたか……よかろう、一瞬でケリをつけてやる」


「ジョージさんッ!!!」


 剣を構えたレベックが距離を詰める中、ヴィオラの叫び声が背中に届く。


 そんな中、承治はふと思う。

 ヴィオラさん、さっき突き飛ばした時にケガしなかったかな、と。


 決着の時が迫る中で、承治は最後までヴィオラの身を案じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ