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6 初仕事

6 初仕事


「ここが私の執務室です」


 水場で体を洗い流し、心身共にリフレッシュした承治は執務室と呼ばれる部屋に案内された。

 手広なその部屋は、本棚に囲まれた大きなデスクを中心に、ソファーや丸テーブルといった調度品が揃えられている。

 一見すると小奇麗な社長室のようだが、そこかしこに飾られている花や、テーブルに置かれたティーセットがどこか可愛らしさを演出していた。


 また、建屋内を移動して分かったことだが、この世界に電気や上水道といったものはないらしい。廊下ですれ違った兵士達も剣や槍で武装しており、銃器は持っていなかった。

 それらを踏まえると、この世界の科学レベルは地球換算でおおよそ中世後期相当といったところだろうか。


 とりあえず現状認識を優先させたかった承治は、ヴィオラに質問をする。


「ええと、ヴィオラさんの仕事を手伝うのは構わないんですが、僕はこの国のこととか、この場所のこととか、ヴィオラさんのことを何も知りません。それをまず教えてもらえると助かるんですけど……」


 その言葉に、承治を手近なソファーへ案内したヴィオラは対面に座って応える。


「ここは、カスタリア王が統べるカスタリア王国の王宮です。多種族国家であるカスタリアは、人類種を中心にエルフ、獣人の二大種族が公領を形成し、カスタリア王の下に仕えています。私は、そのエルフ族を代表して王を補佐する首席宰相の地位を拝命しています」


「首席宰相というのは、具体的に何をしているんですか?」


「そうですね……法務、外交、財政、公共事業といった軍事以外の内政を主に担当しています」


「ずいぶんと手広くやってますね。王様はあんまり政治に口を出さないんですか?」


 その言葉に、ヴィオラはいささか表情を暗くする。


「実は、現国王であるカスタリア王三世は病に伏せっていまして、王妃も既に亡くなられています。その上、次期女王となられる第一王女ユンフォニア殿下もまだお若いため、現在は宰相である私が内政を一任されています」


 その言葉に、承治は酩酊中に出会った少女ユンフォニア姫のことを思い浮かべる。


「なるほど……まあ、王族が政治を行える状態にないのは懸案事項だとしても、とりあえず国政で困っていることは特にないんですよね」


 承治は、牢獄で老婆とヴィオラが語っていた話を思い出していた。

 この国の伝承によると、転生者は国の窮地を救う存在らしい。しかしながら、現在この国は救世主を望むような窮地に陥っていないようだ。


 ヴィオラは承治の言葉に首肯し、話を続ける。


「そうですね。二大公領や近隣諸国との関係は良好で、長らく戦争も起きていません。この国は平和そのものです。強いて言えば、いささか財政状況に問題はありますが……」


「財政ですか」


 元事務屋である承治はその言葉に反応する。


「はい。昨今、直轄領内の各都市を管理する市政官が要求する公共事業の費用が嵩み、国庫を圧迫しています。カスタリア王は極力徴税額を増やしたくないとお望みなのですが、このまま行くと国庫が枯渇する恐れがあります。それが、私の抱える目下の問題です」


 承治は国政に関わったことはないが、転生前は小さな会社の総務と財務を手広く担当していた。

 企業や国というものは、有体に言えば人間の作りだした〝組織〟だ。

 国を会社に例えれば、法律は社内規則であり、外交は取引、徴税は収益、そして公共事業は投資だ。国と会社は規模の大小が異なるだけで、その運営方法が大差ないことを承治は心得ていた。


 だからこそ、承治はこの場で己の役目を見い出せるような気がした。


「ヴィオラさん。もしよければ、今の財政状況を詳しく教えてもらえませんか? もしかしたら、助言ができるかもしれません」


 その言葉に、ヴィオラはエルフ特有の長い耳をピョコリと動かし、いささか驚いたような表情を見せる。


「ジョージさんは国政に関わった経験がおありなんですか?」


「いえ、たかだか百人程度の組織運営に関わっていただけです。そんなに大層なものじゃないですよ」


 そんな謙遜にも関わらず、ヴィオラはパっと表情を明るくする。


「是非、私に助言をお願いします! 正直、私もたまたま宰相に選ばれただけで、お金の管理や政治には疎いんです……たとえ規模は小さくとも、組織運営の経験がある方が傍にいてくれると非常に助かります!」


 そう告げたヴィオラは前のめりになって承治に迫る。

 すると、豊満な二つの球体によって形成された大きな谷間と、見惚れるほどに美しい顔が眼前に迫った。

 

 すごい特盛り! しかも美人!

 などと余計なことを考えた承治は視線を逸らしてヴィオラに応じる。


「まあ、できる限りのことはやってみます……」


 その言葉に対し、ヴィオラは承治の手を取り力強く握手をする。

 成り行きとは言え、承治はそんな風にして他人に頼られるのも悪い気はしなかった。

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