38 切り札
38 切り札
ファフニエルがクラリア王宮上空で暴れまわる中、承治はあることを思い出した。
この騒ぎが起きる前、図書館でファフニエルの対策会議を開いた際に、オババ様はこう言っていた。
――古代魔法には相手の魔力行使を封印する術もあったハズじゃが、ここには古典魔術書を読める者もおらんし。
古典魔術書。一級言語能力を持つ僕になら、読めるかもしれない。
正確に言えば、会議の際に承治はそう発言しようとした。だが、ファフニエル来襲騒ぎで一時的に忘れていたのだ。
承治はすぐさま傍らに立つオババ様に向けて口を開く。
「オババ様、相手の魔力行使を封印することができる古典魔術書は、ここの図書館にあるんですよね!?」
承治の剣幕に驚いたオババ様は、ファフニエルの動向を脇目で見ながら当惑した様子で応える。
「あ、ああ。確かあったはずじゃ。しかし、読める者がおらんでは……」
「僕になら、その魔術書が読めるかもしれないんです。今まで黙ってましたが、ここの図書館にある古書で読めなかった蔵書はありませんでした」
「なんじゃと! なぜそれを早く言わん! しかし、古典魔法が果たしてファフニエルに利くかどうかは、試してみんと分からんぞ」
そんなオババ様と承治の会話を聞いたヴィオラは、いささか冷静さを取り戻して会話に加わる。
「どの道、今の私達にできることは他になさそうですね……すぐに準備をしましょう。古典魔法の発動に必要な条件や射程も考える必要があります」
すると、続いてユンフォニアも会話に加わる。
「余にも何かできることはないか! もはや、なりふり構っている場合ではない。できることは何でもやろう!」
その言葉にセレスタも同調する。
「ワタシも協力するヨ!」
各々が協力の意思を示したところで、承治は場をまとめるかのように言葉を放つ。
「とりあえず簡単な作戦会議をしましょう。まずは、それぞれの役割を決めるんだ」
そして、小さな円陣を作った一同は承治の呼びかけに応じて即席の作戦会議を手早く始めた。
* * *
「あーあ、なんだかザコの相手するのも飽きてきたわね」
カスタリア王宮の上空で矢と魔法攻撃の回避を続けるファフニエルは、いささか戯れじみた戦いに退屈を感じ始めていた。
とりあえず鬱陶しい弓矢の届かない高さまで上昇したファフニエルは、防御魔法のシールドを疑似的な椅子にして空中で腰かける。
そして、足をブラブラさせながら今後の方針を思案した。
「さて、これからどうやってあいつらを屈服させようかしら。人を殺さないように戦うのって結構大変ねぇ」
今まで好き勝手に暴れていたように見えるファフニエルであるが、反撃時には死傷者が出ないよう一応配慮していた。
転生に際して強大な力を得て世界征服を目論むファフニエルも、実のところ人殺しをするまでの勇気は持てていなかった。
そんなファフニエルは、カスタリアを無血降伏させるための手段を考え続ける。
「これだけ盛り上がっちゃうと、上空で爆炎魔法を放つくらいじゃ諦めてくれないわよねぇ。やっぱり、お姫様を人質に取るのがいいかしら」
そう考えたファフニエルが王宮のバルコニーに目を向けると、国王代行を名乗っていた第一王女ユンフォニアの姿は見えなくなっていた。
「げっ、もしかして、お城の中に逃げちゃった? まあ、あんな騒ぎになれば逃げて当然か……」
仕方なく王宮城内への突入を覚悟したファフニエルは、再び空中に躍り出て高度を下げる。
すると、突如としてバルコニーに五人一組の一団が姿を現した。
その中には、第一王女ユンフォニアの姿もある。
「あ、ラッキー。中に入る手間が省けたじゃない」
すると、バルコニーに繰り出した一団は何やら組織立った行動を始める。
その顔ぶれは、幼き姫君ユンフォニアを始め、執事風の男、美女のエルフ、獣人の少女、魔法使い風の老婆といったメンバーで構成されている。
個性豊かな五人が揃うその姿は、まるで特撮モノの戦隊ヒーローのようだ。
「へえ、まだ何か策が残ってたのかしら。せっかくだから、最後にその策に付き合ってあげるわ」
そんな独り言を呟いたファフニエルは、ぐんと高度を下げてバルコニーに迫っていった。