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33 魔王ファフニエル

33 魔王ファフニエル


「ファフニエル様、周辺国に対する宣戦布告の手続きは一通り終わりました……」


 チエロ〝帝国〟の王宮にて、荘厳そうごんな玉座に腰を下ろすファフニエルは、貴族と思しきドワーフの報告を受けて満足げに頷く。


「ご苦労ご苦労。これで周辺国は全て私の敵ね。何をされても文句は言えないでしょ」


 不敵な笑みを浮かべてそう告げたのは、先日転生を果たした少女に他ならない。

 自らを魔王と称し、今や新政チエロ帝国となったこの国の初代皇帝としてその場に君臨している彼女こそが、ファフニエルの正体だ。

 

 どこぞの魔術師に召喚された彼女がチエロの国王を退け、今の地位を得るのはかくも容易なことだった。

 自身を召還した魔術師に道案内をさせ、己の強大な力に身を任せて王宮にずけずけと上がり込み、昼寝をしていた国王を脅すだけで簡単に玉座を奪うことができた。

 その道中で衛兵や魔術師による抵抗もあったが、転生オプションによる強力な力と魔力を兼ね備える彼女の前には無力も同然だった。


 そのファフニエルを前にし、報告を終えたドワーフの男は怯えながら口を開く。


「恐れながら申し上げます。いかにファフニエル様が強大な力をお持ちだとしても、周辺国全てを相手取って戦うのは国力的に見ても不可能かと思いますが……」


 そう告げたドワーフの男は、かつてチエロ王国で首相を務める貴族の一人だった。今はファフニエルの部下のように振る舞っているが、彼にしてみればファフニエルと対話の余地を残すことが、祖国のためにできる唯一の抵抗だと考えていた。


 そんな彼の指摘に対し、ファフニエルは顎に手をついて余裕の表情で応える。


「問題ないわ。前にも言ったと思うけど、私の目的は戦争することじゃなくて、この世界の平和的統一よ。当然、次の手は考えてあるわ」


「しかし、このまま国外との交易が停止した状態が続けば我が国は干上がってしまいます……」


「そこまで言うなら、そろそろ行ってこようかしら」


 そう告げたファフニエルはひょいと玉座から立ち上がり、跪くドワーフの横を通り過ぎる。


「ファフニエル様、どちらへ?」


 その言葉に、ファフニエルは何かを思い出したかのように振り向く。


「あ、地図とか無い? 隣の国の場所が分かるやつ」


「は、ただいまお持ちします」


 ファフニエルの言葉に従い、ドワーフの男はいそいそと部屋を後にして大陸地図を探しに行った。



 * * *



「何よこの地図。余計なことばっかり描いてあって地形が全然わからないじゃない」


 ばたばたと風に靡く地図に目を落すファフニエルは、人生で初めて空を飛ぶという経験をしていた。

 周囲は大空に覆われ、目下には雄大な森林や草原、田畑といった緑豊かな光景が広がっている。ところどころに村落も見えた。


 ファフニエルは、己の体に翼が生えているなら飛行くらいできるだろうと安易に考えていたが、その考えは正解だった。

 特に難しいことはなく、コツを掴めばすぐに大空へ飛び立つことができた。更に風魔法を応用すれば加速することも可能だ。


 チエロ王都を飛び立ったファフニエルは、地図を頼りに目的地を探す。

 すると、視線の先に城壁に囲まれた大きな街が見えてきた。


「あれがクラリア王都ね」


 そう呟いたファフニエルは、高度を落して王宮と思しき建物の上空に到達する。

 すると、衛兵の何人かが空を飛ぶファフニエルの存在に気付き、騒ぎ立て始めた。

 

 もう少し注目された方がいいかな。

 そう考えたファフニエルは、声を張り上げて目下の衛兵達に告げる。


「私はチエロ帝国初代皇帝、魔王ファフニエルよ! 貴国の王と交渉がしたい!」


 そんな呼びかけに対し、衛兵達は様々な反応を見せる。


「あれが噂のファフニエルだと? 獣人の小娘じゃないか」


「見たこともない種族だ」


「何でもいい、とにかく近衛兵を呼べ!」


 ファフニエルが状況を見守っていると、王宮の監視塔やバルコニーに人が集まり始める。その多くは武装した兵士だったが、貴族らしい人間もちらほら見受けられた。

 ファフニエルは再び声を張り上げる。


「もう一度言うわ! 私はチエロ帝国の代表として貴国の王と交渉がしたい! 王を連れて来なさい!」


 すると、監視塔に立つ屈強な兵士の一人が返事を返した。


「無礼者め! 外交交渉がしたいなら正門から入ってこい! もっとも、貴様のような小娘など誰も相手にせんだろうがな!」


 その言葉に呼応し、集まった兵士達はどっと笑いをこぼす。

 だが、そんな反応もファフニエルにとっては想定内だった。


「なら、私と交渉がしたくなる良いモノを見せてあげるわ!」


 そう告げたファフニエルは不敵な笑みを浮かべ、天に両手をかざす。

 そして、鋭い声で呪文を唱えた。


『グロースエクスプロジオン!』


 すると、ファフニエルの手から放たれた眩い光が天めがけて昇っていく。

 光の柱は上空に浮かぶ雲を貫き、そして次の瞬間、眩い閃光がクラリア王都を覆い尽くした。


 一瞬の閃光の後、空中に現れたのは一つの街を覆い尽くしてしまいそうなほどの巨大な爆炎だ。

 続いて耳をつんざく爆音と突風が地上に降り注ぐ。それは地上の人々に被害を及ぼす程度ではなかったが、恐怖と混乱を巻き起こすには十分だった。


 爆炎が消え去ると、街の上空を覆っていた雲は円形にくり抜かれ、その空間から青空が見えた。

 監視塔やバルコニーに集まった兵士達は誰もが驚愕の表情で天を仰ぎ、先ほどまでの笑いを維持できる者はいなかった。


 その光景に満足したファフニエルは再び叫ぶ。


「私の力が理解できたでしょ! 貴様らが交渉に応じなければ、次はこの魔法を地上に向けて放つ! さっさと国王を連れて来なさい!」


 そう告げるファフニエルに抵抗しようとする者は、誰一人いなかった。

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