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29 決着

29 決着


 その後の展開は慌ただしいものになった。

 戦いを終えてしばらくすると街の警邏隊が納屋になだれ込み、ワニ男を含む誘拐犯グループを次々と連行していった。


 そして、王宮から脱走中だったユンフォニアと人質になっていた少女もすぐさま保護され、警邏隊に連れられてその場を後にした。

 その場に残された承治は、とりあえずヴィオラに事情を聞く。


「ヴィオラさん。どうして僕とユンフォニアがここにいるって分かったんですか?」


「ここだけの話ですが、姫様の持つ短剣には共鳴水晶が取り付けられているんです。姫様はよく王宮を抜け出すので、こういった時のために動向を把握できるようにしています。もちろん、これは姫様にはナイショですよ」


 共鳴水晶とは、以前ヴィオラが使っていたテレビ電話のような機能を持つ水晶玉のことだ。恐らく探知機のような機能も果たすのだろう。


「ってことは、僕がユンフォニアと一緒にいたことは最初から分かっていたんですか」


「いいえ、私が姫様の脱走に気付いたときには、既に誘拐されていました。私はすぐにセレスタさんを呼んで、飛行用魔道具でここへ飛んで来たんです。間一髪でしたね」


 そう告げたヴィオラは、壁に空いた大穴に目を向ける。

 その視線に誘われて承治も大穴に目を向けると、恐る恐る部屋の中を覗き込むセレスタの姿が目に入った。

 確かに、〝空飛ぶモップ〟で飛んでくれば素早く現場へ辿りつける。これでヴィオラが単身で乗り込んできた理由がはっきりした。


 何にせよ、ヴィオラの言う通り間一髪だったのは事実だ。

 ヴィオラが来なければ、承治とユンフォニアは無事では済まされなかっただろう。その事実に責任を感じた承治は、ヴィオラに頭を下げる。


「すいませんヴィオラさん。僕のせいでこんなことになって……」


 その言葉に、ヴィオラは大きなため息をついて応えた。


「ええ、その通りです。誘拐されてからの会話は全て聞いていました。誘拐犯と交渉した所までは上出来でしたけど、姫様と二人で捕らわれた人を救い出そうというのは無謀もいいところです。現場に向かいながらヒヤヒヤしてましたよ」


「おっしゃる通りで……」


「まあでも、危機に瀕した人を助けたいという心意気には感心しました。姫様は、ああいうところで強情ですからね……それにしても、なぜジョージさんは姫様と一緒にいたんですか?」


 承治は事の次第を軽く説明する。

 それを聞いたヴィオラは苦笑いを見せた。


「なるほど。姫様に脅されて仕方なく同行していたわけですか。まあ、丁度いい保護者になってくれて助かりました」


「保護者だなんてそんな。僕がいながら二人で誘拐されちゃったんですよ。間抜けもいいとこです」


「その点は、確かに不用心だったと思います。まあ二人とも無事だったのなら、これ以上とやかく言うつもりはありません。それに誘拐されていた女の子も助けられたんです。結果オーライですよ」


 そう告げて微笑むヴィオラの姿に、承治はいささか救われた気がした。

 ヴィオラは「さて」と前置きし、言葉を続ける。


「それじゃあ、私達も王宮へ戻りましょう」


 ヴィオラに促され、承治は壁に空いた大穴から屋外に出て久しぶりに日光を浴びる。

 その場で待っていたセレスタは、何があったか分からないといった様子できょとんとしていたが、ヴィオラが「帰りましょう」と告げると素直に頷いた。


 セレスタとヴィオラは〝空飛ぶモップ〟に跨り、承治の支度を待つ。どうやら、三人乗りで帰るつもりらしい。

 承治は、その場になってヴィオラとセクハラの件で仲違していた事を思い出し、いささか遠慮を見せた。


「あの、僕が後ろに乗ると、またヴィオラさんの体触ることになっちゃうんで、僕は歩いて帰りますよ……」

 

 その言葉に、ヴィオラは少し気まずそうな表情を浮かべる。


「もう、変な気を遣わないでください。そんな風にジョージさんが意識してると、私も気になるじゃないですか……この前のことなら、お互いに忘れましょう。それなら、遠慮する必要はありませんよね?」


 どうやらヴィオラは機嫌を直してくれたらしい。

 承治は仲違の原因が自分にもあったことを自覚し、これを機に素直な気持ちを告げることにした。


「ヴィオラさんがそう言うなら……いや、僕はちゃんと謝るべきですね。先日はすいませんでした」


 そう告げた承治はヴィオラに向かって深々と頭を下げる。

 すると、ヴィオラはいささかバツの悪そうな表情を見せた。


「正直、私の方も少しムキになっていました。あんな態度をとって、ジョージさんの上司として失格ですね……申し訳ありませんでした」


 そんな風にして頭を下げ合った承治とヴィオラは、しばらくしてからクスクスと笑い合う。

 二人がこぼしたその笑みは、変なことにこだわって腹を立てていた自分自身に対する呆れと、和解できた安心感がもたらしたものだった。


 そんな二人の様子を目の当たりにしたセレスタは首を傾げる。


「ジョージ、のらないノ?」


「ごめんごめん、やっぱり僕も乗って帰ることにするよ」


 そう告げた承治は〝空飛ぶモップ〟の最後尾に跨り、遠慮がちにヴィオラの肩を掴む。本音を言えば体を抱き込んだ方が安定するが、先日の件もあるので承治なりに配慮したつもりだった。

 すると、ヴィオラはいささか恥ずかしそうに後ろを向いて承治に告げる。


「もう、ちゃんとくっつかないと危ないですよ」


「はあ、では遠慮なく……」


 承治は先日と同じくヴィオラのお腹に腕を回し、抱き込む体勢をとる。

 前回の飛行時は恐怖心で無意識にその体勢をとっていたが、いざ意識し始めると気恥しくなってくる。

 全身にヴィオラの体温が伝わり、目の前に流れるブロンド髪からは心地良い香りが漂う。そんな状況は男として嬉しく思う反面、ヴィオラに気を遣うせいか少し申し訳ない気分になった。

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