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28 闘い

28 闘い


 承治とユンフォニアの魔法によって吹き飛ばされた手下の一人は、ボス格のワニ男と少女に向かって飛んでいく。


 しまった。このままでは少女にも危害が及ぶ。

 そんな承治の危惧も後の祭りだ。


 だが、次の瞬間不可解なことが起こった。


『シルト!』


 ワニ男がそう叫んだ刹那、空中にガラスのような壁が出現する。

 そして、吹き飛ばされた手下は突如現れた不思議な壁に激突し、ワニ男の正面に転げ落ちた。

 その様子を見たユンフォニアは、驚愕の表情を浮かべて口を開く。


「なっ! 魔法だと!」


「魔法が貴族様の専売特許だと思っていたなら大間違いだぜ」


 そう告げるワニ男の左手には、いつの間にか小奇麗な短剣が握られていた。

 承治はその剣の正体を察する。


「まさか、魔道具か!」


「ご明答よ。この程度のモンなら闇市場にいくらでも転がってるんだぜ。ちと高くつくがな」


 この事態は、承治とユンフォニアにとって完全な誤算だった。

 承治とユンフォニアは、敵が魔法を使ってくる可能性は無いと読んでこの場に突入した。

 しかし、その読みは完全に裏目に出た。


 ワニ男はバリアのような魔法を行使していた。恐らく、他の攻撃魔法も心得ているだろう。

 承治とユンフォニアは事前の打ち合わせで、なるべく事を穏便に済まそうと殺傷力の低い風魔法のみで挑むと決めていた。

 しかし、こうなった以上は生半可な魔法では対抗できない。


 場が膠着状態に陥ると、先に吹き飛ばされた何人かの手下がよろよろと起き上がり始める。

 それを見たワニ男は、形勢逆転を確信して余裕の表情で口を開いた。


「さて、俺にチンケな魔法が利かないことはわかっただろ。俺も貴重なウラシムを浪費するのは惜しい。この娘を殺されたくなければ、尻尾を巻いて逃げるか降参しな」


 そう告げたワニ男は、短剣を少女の喉元に突き付ける。


 どうする。どうすればいい。

 承治は必死に頭を回転させ、次の選択肢を考える。

 

 あの少女を見捨てて逃げるべきなのか。本当にそれでいいのか。

 承治は、恐怖に怯える少女の表情を見て判断に迷う。


 そうこうしているうちに、三人の手下が態勢を立て直し、承治とユンフォニアに迫る。

 そして、ワニ男は短剣を承治とユンフォニアに向けた。


「逃げねぇのか。なら仕方ねぇ。こうなりゃ、とっておきの魔法で葬ってやろう」


 まずい。

 承治はユンフォニアに向かってとっさに叫ぶ。


「ユフィ! 防御魔法みたいなものは使えないの!?」


「そんなものは使えん!」


 なら逃げるしかないじゃないか。

 承治はユンフォニアの体を無理やり抱え上げ、踵を返す。

 だが、その判断は既に手遅れだった。


「逃がすかよ!」


 そう告げたワニ男が呪文を口にしようとしたその瞬間、激しい爆音と共に部屋の壁が弾け飛ぶ。

 木片と粉塵が舞い散る中で、その場にいる全員が不意の出来事に驚き、壁にできた大穴に視線を向ける。


 そして、粉塵が消えていくと共に、大穴から一人の女性が姿を現した。


「そこまでです。誘拐犯の皆さんは武器を捨てて投降しなさい」


 そう告げて現れたのは、エルフ族特有の長い耳にグラマーな体系を持つ美女――ヴィオラに他ならなかった。


 なぜヴィオラがここに。

 だが、今はそんなことを考えてる場合ではない。


 承治は正面を向き直してヴィオラに向かって叫ぶ。


「ヴィオラさん! そこのワニ男は魔法を使えます!」


「ええ、存じてます」


 そう告げたヴィオラは、ワニ男へ向かって堂々と歩みを進める。

 対するワニ男はいささか狼狽を見せたが、すぐに冷静さを取り戻して短剣を人質の少女に突き付けた。


「おっと、どこの誰だか知らねぇが、そこまでだ。この娘を殺されたくなけりゃそれ以上俺に近づくな」


 ヴィオラは歩みを止めずに応じる。


「彼女を殺せば、あなたの身を守る盾はなくなります。なら、簡単には殺せませんよね?」


「てめぇ、舐めてんのか!」


 ワニ男は少女に突き付けた短剣に力を込める。

 だが、ヴィオラの指摘は的を射ていたらしく、ワニ男は身構えたまま少女に危害を加える様子はなかった。


 そうこうしているうちにヴィオラはワニ男の正面に迫り、一歩前に出れば手が届きそうな距離まで迫る。

 ヴィオラは一切臆することなく、ワニ男と対峙した。


「さあ、武器を渡しなさい」


「そんなに欲しけりゃくれてやるぜ!」


 その刹那、ワニ男は薙ぐような動作でヴィオラに向けて短剣を振う。

 だが、その空間にヴィオラは存在しなかった。


 傍目から見ていた承治はその光景に目を見張る。

 ヴィオラは一瞬のうちにしゃがみ込んで斬撃を回避すると、そのまま回し蹴りのような動作でワニ男の持つ短剣を蹴り飛ばしたのだ。

 吹き飛んだ短剣は壁に突き刺さり、ワニ男は丸腰になる。

 

「ちきしょう!」


 焦ったワニ男は人質の少女をヴィオラに向けて突き飛ばし、鋭い爪の生えた手で突きを繰り出す。

 だが、そんな小技もヴィオラには通じなかった。


 突き飛ばされた少女を受けとめたヴィオラは、ペアダンスのような動作で少女と共にターンし、裏拳でワニ男の手を払う。

 勢いのついたワニ男はそのままヴィオラにのしかかるように迫ったが、腹に正拳突きを受け、最後はハイキックで顎を粉砕された。


 強い。まさに圧倒的だ。

 ヴィオラの戦う姿を見るのは二度目になる承治だったが、今回ばかりは感服させられた。舞い踊るようなその動きには一片の隙もなく、まさに華麗と称して相違ない立ち回りだ。


 そして、そんな戦いを見せつけられたワニ男の手下達も、完全に戦意を喪失しているようだった。

 それもそうだろう。あんなものを見せられては、たとえ武器を持っていようとヴィオラに立ち向かう気にはなれまい。


 手下達は武器を捨て、両手を上げて降参の意思を示す。

 その様子を見た承治とユンフォニアは、安心のせいか一気に力が抜けてその場にへたり込んだ。

 ユンフォニアは震える声でヴィオラに告げる。


「噂には聞いていたが、大したものだヴィオラ……しかし、何故そちがここに?」


「ご説明は後です。とりあえず、彼らを拘束しましょう」


 その言葉に促され、承治は降参した手下達を手近な縄で縛りあげていった。

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